より安全で良質な同種骨を供給するための社会基盤整備

文献情報

文献番号
201229011A
報告書区分
総括
研究課題名
より安全で良質な同種骨を供給するための社会基盤整備
課題番号
H22-免疫-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
糸満 盛憲(北里大学 医学部 )
研究分担者(所属機関)
  • 水田 博志(熊本大学 医学部)
  • 長谷川 幸治(名古屋大学 医学部)
  • 高橋 和久(千葉大学 医学部)
  • 占部 憲(北里大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,294,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先進医療の現状と問題点を明らかにし、全国的なボーンバンクネットワークを構築することで、安全で良質な同種骨を安定供給するための社会基盤を整備するに当っての問題点を明らかにし、その解決策を提示する。
研究方法
1)認定骨バンクにおける感染発生に関する調査:過去10年間に採取・処理・保存された非生体ドナー同種骨移植が行われた症例の調査から、感染発生とその原因について検討する。
2)同種骨の採取・処理・保存に要する費用の算出:北里大学病院骨バンク(KUBB)の実績をもとに、①同種骨採取に要する費用、②処理・保存に要するバンクの費用、③バンクの人件費から同種骨1g当たりに要する費用を算出する。
3)ボーンバンクネットワーク構築に向けたシミュレーション:全国的なネットワーク構築に向けて、2つの認定骨バンクを拠点として骨採取チーム編成可能な東西2つの大学整形外科学教室との間で、ネットワーク構築に向けたシミュレーションを行い問題点を検討する。
4)同種大腿骨頭管理におけるバーコードシステムの有用性と問題点:切除大腿骨頭を利用する骨バンクネットワーク東海で導入しているバーコードシステムによる成果と問題点を検討した。5)骨バンクセミナーと骨採取ワークショップの開催による啓発活動:ボーンバンクネットワーク構築に向けて平成24年10月28日に「骨バンクセミナー2012」を開催し、同時に模擬骨を用いた同種骨採取のワークショップを開催する。
結果と考察
1)認定骨バンクにおいて同種骨移植が行われた症例は106例で、術後に感染の発生が確認されたのは9例(8.4%)であった。移植前にレシピエントに認められた感染の再燃が主な原因であり、供給前のバンクにおける検査でもいずれの骨からも細菌は発見されていない。1977-2010年に2つの認定バンクから全国64施設に2,928回供給され、年々増加している。認定バンクでは先進医療により骨採取・処理・保存に要する費用を患者に請求できるが、他施設に供給された骨については請求できないためバンクの負担になっている。医療保険に収載する際には算定できるシステムにするべきである。
2)①ドナー発生時の年間の採取費用は1g当たり60円であった。②施設設備費を含めた年間の処理保存費用は1g当たり1,954円、③1g当たりの人件費は2,407円であり、これらを合計すると、1gの同種骨を作成するまでに要する費用は4,421円であった。移植に供される骨の量は症例によって異なるため、保険収載する際には移植骨量によって点数をランク付けするべきである。
3)西日本においては東海骨バンクと熊本大学整形外科、東日本ではKUBBと千葉大学整形外科でネットワーク構築のためのシミュレーションを始めた。西日本で1例の骨採取が行われ、シミュレーションに従って拠点バンクに搬送されたが、東日本ではまだ出動の実績はない。その結果、①骨採取チーム編成が日常診療にもたらす影響、②出動範囲の設定、③機器整備、出動に対する人件費、検査費用などの金銭的な負担など、解決されるべき多くの問題が明らかになった。骨採取チームの活動は全くのボランティアであるため、少なくとも必要な費用については行政と拠点バンクからの支援が必要となる。
4)バーコードシステムは安価で簡便であり、①個人情報保護、②提供・供給登録の簡便さ、③在庫管理、④トレーサビリティーの容易さなど、ネットワーク構築の際に有用な方法と思われた。ネットワーク構築にあたって採用されるべきシステムであると思われた。
5)平成24年10月28日に開催した「骨バンクセミナー2012」は70名が参加し、骨モデルを使った骨採取・保存のワークショップも好評であった。今後も継続的の開催し、同種骨の有用性、拠点バンクから供給される非生体骨の安全性を周知するとともに、骨採取チーム編成を啓発していきたい。
結論
我が国で運営されている200以上の施設内骨バンクは安全性に問題がある。より安全で良質な同種骨を安定供給するためには、非生体ドナーから採取する骨を増やすことで、増加する需要に対応する必要がある。それを実現するために早急に現存する2つの認定骨バンクを拠点とするボーンバンクネットワークを構築して稼働させる必要がある。今後は、早急にボーンバンクネットワークを稼働させ、マニュアルを整備する研究に着手するべきである。
先進医療では同種骨の採取・処理・保存に要する費用は患者に請求することができるが、他施設に供給された骨に対する費用は請求できないため、バンクの大きな負担になっている。これを診療報酬に反映させる際には、他施設に供給された骨に要する費用をバンクに還元するシステムを考える必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201229011B
報告書区分
総合
研究課題名
より安全で良質な同種骨を供給するための社会基盤整備
課題番号
H22-免疫-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
糸満 盛憲(北里大学 医学部 )
研究分担者(所属機関)
  • 水田 博志(熊本大学 医学部)
  • 長谷川 幸治(名古屋大学 医学部)
  • 高橋 和久(千葉大学 医学部)
  • 占部 憲(北里大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
施設内骨バンクは安全性の面で問題がある。2つの日本組織移植学会認定骨バンクを東西の拠点として、非生体ドナー骨を採取するチームを全国に配したネットワークを構築し、より安全で良質な同種骨組織を供給するための社会基盤を整備することである。
研究方法
1)骨バンクの現状調査:日整会が行った同種骨移植に関する調査結果を詳細に分析し現状を明らかにする。
2)細菌学的問題及び医療保険上の取り扱いに関する調査:日整会認定研修病院を対象に、細菌検査の有無、移植手術後の感染発生の有無等を調査し、また切除大腿骨頭移植の診療報酬請求の有無について調査する。
3)先進医療による同種骨移植の現状と問題点:北里大学病院骨バンク( KUBB)と東海骨バンクにおける先進医療の現状、他施設への同種骨供給の状況を調査する。北里大学病院骨バンクの活動実績をもとに、同種骨1g当たりの採取・処理・保存に要する費用を算出する。
4)ボーンバンクネットワーク構築に向けたシミュレーション:東西2つの認定骨バンクを拠点として、採取チームを全国に配するネットワークの構築に向けて西日本(東海骨バンクと熊本大学整形外科間)と東日本(KUBBと千葉大学整形外科の間)でシミュレーションを行い問題点を明らかにする。
5)ボーンバンクネットワーク構築に向けた施設調査:全国大学医学部整形外科を対象に、ネットワークへの参加の可否等についてアンケート調査を実施し、実情を明らかにする。
6)ボーンバンクおけるバーコードシステムの有用性の検討:骨バンクネットワーク東海で採用しているバーコードシステムの有用性と問題点を明らかにする。
7)「ボーンバンクセミナー2012」の開催:啓発活動の一環として「骨バンクセミナー2012」を開催する。
結果と考察
1)同種骨移植数は15年間で約3倍に増加し、移植対象は脊椎疾患から人工関節手術に替わっていた。HBs抗原、HCV抗体、TPHAの検査は98%と高率になされていたが、HIV、HTL-1、パルボウイルスB19 などの抗体検査は低率であった。施設内倫理委員会の審査が終了している施設は48%に過ぎない。200以上の施設内骨バンク日本組織移植学会の認定も受けていないため安全性、QA、QCの面で大きな問題である。
2)施設内骨バンクで骨組織の細菌検査を行っているのは61%に過ぎない。同種骨移植後に感染を生じたことのある施設が10.9%もあるが、追跡調査を行っている施設41%に過ぎない。日本組織移植学会の認定を受けていないにもかかわらず、76.6%の施設で同種骨移植術の診療報酬請求が行われていた。患者の健康の維持と安全性の確保の観点から大きな問題である。
3)2010年までにKUBB・東海両骨バンクで行われた先進医療は331例で、同期間に他施設に供給された骨の総数は597骨であった。同種骨移植後9例(8.4%)に感染が発生したが、移植骨が原因ではなかった。採取・処理・保存に要した費用から算出した同種骨1g当たりの作成費用は4,421円であった。認定骨バンクでは先進医療によって骨の費用を患者に請求できるが、他施設に供給された骨の費用は請求できないため、バンクの経済的な負担は大きい。医療保険に収載する際には算定できるシステムを考える必要がある。
4)シミュレーションの結果、西日本では1例の骨採取出動があり、熊本大学に一時保管された後東海骨バンクに搬送されて無事完結したが、東日本ではまだ出動の実績がない。その結果、①骨採取チームに対する教育、②通常業務を行いながらの対応であるため、採取チームの編成は多数の医師が勤務する大学などに限られる、出動可能な地域は限られる、③採取器材の購入、出動の際の交通費・人件費、検査費用、拠点バンクへの搬送に要する費用など経済的負担などの問題が明らかになった。
5)24時間対応可能な骨採取チーム編成が施設は19.3%に過ぎず、自施設なら採取チーム編成可能な施設は73.7%、検査費用の負担可能な施設は7.5%であった。
6)匿名連結可能なバーコードシステムは安価で簡便であり、技術面での改良を加えることで全国規模のボーンバンクネットワーク構築の際に有用なシステムと思われた。
7)骨バンクセミナーは24演題の発表に活発な討論が行われた。また骨モデルを使った採取・保存のワークショップで手技を経験し、多くの参加者が骨採取にも関与する意志を有していることが明らかになり有意義なセミナーであった。
結論
より安全で良質な同種骨を安定供給するためには、現存する2つの認定骨バンクを拠点とするボーンバンクネットワークを構築して稼働させ、同種骨の採取を増やす必要がある。今後は、早急にボーンバンクネットワークを稼働させ、共通のマニュアルを整備する研究に着手するべきである。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201229011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
同種骨移植は整形外科手術の標準的手技として広く利用されているため、移植同種骨着床に関する基礎的、臨床的研究は多数あり、学術的にはあまり問題はない。非生体ドナー骨に利用が進んでいない我が国において運営されている施設内骨バンクの安全性の問題を指摘した。東西2つの日本組織移植学会認定骨バンクを拠点とするボーンバンクネットワーク構築の取組みは「より安全で良質な同種骨を供給するために」、今後早急に進めるべき課題である。
臨床的観点からの成果
人口の高齢化に伴って増加する人工関節、脊椎手術などにおいて同種骨の需要が高まる中、全国で200以上の施設内骨バンクが運営されているが、感染症伝播や倫理的観点など多くの問題が多い。東西の認定骨バンクで採取・処理・保存された非生体ドナー由来同種骨の安全性は高く、大きな骨欠損の修復材料として全国の施設に供給されて広く利用されており、骨バンクセミナー2012でその有用性が多数報告された。
ガイドライン等の開発
今後早急に取り組むべき課題である。東西の拠点バンクとなるべき2つの骨バンクは日本組織移植学会の倫理規定とガイドラインに則って運営されているが、移植用同種骨の安全性確保の観点から、施設内骨バンクにおいてもこれらを遵守することを義務付ける必要がある。すべての組織を網羅した組織移植学会のガイドラインは、骨・靭帯などの運動器組織に特有の問題を含めたガイドライン、標準的なマニュアルとして作成する必要がある。
その他行政的観点からの成果
安全で良質な同種骨を供給するために、認定骨バンクを拠点とする「全国規模のボーンバンクネットワークの稼働と共通のマニュアルの整備」の必要性が明確になった。認定骨バンクでは先進医療によって同種骨の費用は患者に直接請求できるが、他施設に供給された骨については請求することができずバンクの運営を圧迫している。先進医療を診療報酬に移行する際には、他施設に供給された骨についても算定できるシステムが要求される。またバンクの安定的な運営のためにも行政として早急に取り組むべき課題として提言した。
その他のインパクト
全国的なボーンバンクネットワーク構築に向けて、東西2つの拠点バンクと大学整形外科に組織した骨採取チームとの間でシミュレーションを行い、支援を要する人的、経済的など多くの問題が明らかになった。ネットワークの情報システムとしてバーコードシステムの有用性が明らかになった。骨バンクセミナー2013では70名の参加者があり、両バンクから供給された同種骨の有用性が多数報告され、模擬骨を用いた骨採取ワークショップも好評であった。継続して開催しボーンバンクネットワーク構築に向けた啓発活動として定着させたい。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-14
更新日
-

収支報告書

文献番号
201229011Z