肝硬変に対する細胞治療法の臨床的確立とそのメカニズムの解明

文献情報

文献番号
201227031A
報告書区分
総括
研究課題名
肝硬変に対する細胞治療法の臨床的確立とそのメカニズムの解明
課題番号
H24-肝炎-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
坂井田 功(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 柳瀬 幹雄(独立行政法人国立国際医療研究センター 消化器内科学)
  • 上野 義之(山形大学 医学部)
  • 宮島 篤(東京大学 分子細胞生物学研究所)
  • 竹原 徹郎(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 仁科 博史(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 小川 佳宏(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 稲垣 豊(東海大学 医学部)
  • 大河内 仁志(独立行政法人国立国際医療研究センター 細胞組織再生医学研究部)
  • 寺井 崇二(山口大学 大学院医学系研究科)
  • 酒井 佳夫(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
  • 梅村 武司(信州大学 医学部)
  • 高見 太郎(山口大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
申請者らは「自己骨髄細胞投与療法(ABMi療法)」を世界に先駆けて開発し、その臨床的安全性・有効性を報告、技術移転を行った山形大学及び韓国延世大学でも同様の安全性・有効性が改めて確認、報告されてきた。また国立国際医療研究センターでは、HIV合併C型肝硬変症に対するABMi療法を「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針(以下、ヒト幹指針)」の承認後に開始している。このようにABMi療法は臨床的に安全性が確認され有効性が証明されつつあるが、保険適応されるにはより質の高いエビデンスが必要である。そこで「C型肝炎ウイルスに起因する肝硬変患者に対するABMi療法のランダム化比較試験(以下、本試験)」を計画し、2011年12月6日にヒト幹指針の承認を得、現在先進医療Bへの申請を行っている。承認が得られ次第、本試験を山口大学で先行開始し、他施設(国立国際医療研究センター、山形大学等)でもヒト幹指針・先進医療Bへの申請・承認後に実施する。
また基礎研究では、肝線維化・脂肪肝炎(NASH)モデルマウスの解析から骨髄または脂肪組織由来細胞の抗線維化メカニズムやNASH病態を解明しABMi療法の治療効果を検討することで、B型肝炎ウイルスや非アルコール性脂肪肝炎に起因する肝硬変症への適応拡大を目指す。さらに間葉系だけでなくマクロファージ系細胞の肝硬変に対する治療効果がマウス基礎研究から示唆され、培養マクロファージ系細胞投与による新規肝臓再生修復療法の開発のための検討を行う。
研究方法
臨床研究では、本試験を実施の体制整備を行う。またABMi療法の骨髄細胞に含まれる肝炎ウイルスの定量と治療後の肝炎ウイルス動態を解析し、ABMi療法の抗ウイルス作用を検証する。
基礎研究では、マウスGFP/CCl4モデルのMMP9発現細胞を同定しMMP9発現メカニズムを解明するため、MMP9プロモーター下に標識蛋白LacZ/DeRedを発現する遺伝子改変マウスの作出を行う。肝線維化マウスモデル(TAA誘導p53 KOマウスモデル)における骨髄細胞投与による肝線維化改善の検討し、骨髄細胞投与後のHGF動態評価と肝線維化機序の相関を解析する。さらに、脂肪組織由来細胞投与による肝線維化・肝機能改善メカニズムの解析を行う。
 マウスGFP/CCl4モデル解析より骨髄細胞中の肝硬変治療効果を示す細胞として、間葉系細胞とともにマクロファージの可能性が示唆された。しかし、ヒト骨髄細胞培養により間葉系細胞は分離できるがマクロファージの分離は困難なため、マウスのクッパー細胞を灌流法により採取しIL-4やIFNγなどのサイトカインで刺激し、性状を解析する。また、どのような性質を持ったマクロファージが線維化の改善効果が高いかを骨髄由来マクロファージを用いて解析する。
 ABMi療法のNASHに起因する肝硬変症への適応拡大を検討のために、「高脂肪食負荷メラノコルチン4型受容体欠損マウスモデル系」において、NASHに特徴的と考えられるCLS様構造を形成するマクロファージを見出しており、マイクロダイセクション法あるいはソーティングなどによりこのマクロファージを単離し解析する。さらに、質量顕微鏡によるマウス再生肝のリン脂質の挙動等の解析を行う。
結果と考察
山口大学から本試験を先進医療Bへ申請し厚生労働省で審査中であり、承認後に先行実施する。国立国際医療研究センターでは当該施設の倫理委員会の承認を受け厚生労働省でヒト幹指針審査中、山形大学では学内倫理委員会の整備や幹細胞研究申請準備に着手した。また骨髄細胞HBV/HCV定量測定系におけるヘパリナーゼ前処理の有用性が示唆された。
造血幹細胞由来細胞でもMMPを産生し肝線維化改善に寄与することを確認し、MMP9発現解析のためのMMP9-LacZ/DeRed Tgマウスのホモ化を完了した。また肝非実質細胞由来CTGFが肝線維化に関与することを肝細胞特異的CTGF欠損マウスで確認するなど、様々な肝線維化モデル系を解析評価した。さらに、骨髄マクロファージ系細胞の肝線維化改善作用評価のため、マウス骨髄M1/M2マクロファージ誘導法を確立した。一方、細胞ソースとして脂肪由来間葉系細胞を評価し、マウスNASHモデル系で血清アルブミン値の改善や門脈投与の有用性が示唆された。マウスNASHモデル早期段階で肝Crown-like structureを認め、NASH病態形成にマクロファージ機能異常が関与する可能性が示唆され、Hoppoシグナルの肝発癌への関与も確認された。
結論
臨床研究実施の準備が着々と進み、現行の内科的な治療法では改善が見込めない肝硬変症患者を救命するためのABMi療法の開発に寄与すると考えられる。また、基礎研究により、肝線維化抑制効果のメカニズム解明に資する解析結果が蓄積されつつある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201227031Z