霊長類ゲノム情報を利用した抗エイズウイルス自然免疫因子の探索およびその新規エイズ治療法への応用

文献情報

文献番号
201226007A
報告書区分
総括
研究課題名
霊長類ゲノム情報を利用した抗エイズウイルス自然免疫因子の探索およびその新規エイズ治療法への応用
課題番号
H22-エイズ-若手-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
武内 寛明(東京医科歯科大学・医歯学総合研究科 ウイルス制御学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,725,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在までにヒトゲノム情報に立脚したHIV感染制御宿主因子探索法として、RNA干渉法によるゲノムワイドスクリーニング法による研究成果が幾つか報告されているが、本来のHIV感染標的細胞を用いたものではなく、そのため自然感染におけるHIV感染伝播での役割については不明な点が多い。本研究では、HIV感染標的細胞であるTリンパ球を用いて機能遺伝子発現抑制Tリンパ球ライブラリーを構築し、これらライブラリーと正常Tリンパ球との間でのHIV感染効率を比較検討し、HIV感染制御抑制因子群を同定し、それらの機能解析を行うことによって、新たなエイズ治療法の基盤確立を目指した。
研究方法
(1)HIV-1感染細胞内におけるウイルスDNA合成量の解析:機能遺伝子発現抑制T細胞株にHIV-1 (NL4-3株)を感染させ、24時間後の感染細胞内で、逆転写反応を経て合成されたウイルスDNA量について、polおよびenvの各領域におけるリアルタイムPCR法にて測定した。
(2)Fate-of-capsidアッセイによる感染細胞内のウイルスコア安定性の解析:ヒトT細胞株にHIV-1を感染させ、8時間後の感染細胞をDounce Homogenizerにて細胞破砕後に細胞質分画を得た。この細胞質分画を、20%-60%シュクロースに重層した後、細胞質成分の比重分離を超遠心法にて行った。比重分離後、上部から3分画に分けて回収し、各分画に含まれているウイルスキャプシド(CA)タンパク量をWetern blotting法(WB法)およびELISA法を用いて検出した。
(3)HIV感染細胞内におけるウイルスmRNA合成量の解析:HEK293細胞にpNL4-3を導入することで、HIV感染環境を擬似的に構築し、宿主転写因子を利用したウイルスmRNA合成量を、i) unspliced form、ii)single-spliced form、iii) double-spliced formの3種各々に検出するリアルタイムPCR法にて経時的に測定した。
(4)HIV感染細胞内におけるウイルスタンパク量の解析:HEK293細胞にpNL4-3を導入し、ウイルスタンパク量の経時的変化をWB法および化学発光検出法にて測定した。
結果と考察
今年度は、AMPK-RPKが、逆転写反応過程に影響を与える作用機序について解析を進めた。現在までに、感染細胞内における逆転写反応が行われる場は、CAコア内であることが分かっており、コアの安定性が逆転写反応効率と強く相関していることが明らかとなっている。そこで、AMPK-RPKが、逆転写反応が行われている際のコアの安定性に影響を及ぼしているかどうかを検討するため、従来のFate-of-capsid法を改良し、T細胞内におけるCAコアの安定性について解析を行った。その結果、ヒトT細胞内において、AMPK-RPK発現レベルが低下した結果、CAコアの安定性が変化していることが明らかとなった。また、AMPK-RPKのHIV感染後期過程における影響を解析するために、HEK293細胞にpNL4-3 DNAを導入した後に合成されるウイルスタンパク量にAMPK-RPKが影響をおよぼすか否かを検討した結果、AMPK-RPKの細胞内発現量が低下するに従いウイルスタンパク合成量も低下することが明らかとなった。以上の結果より、細胞内AMPK-RPK発現量が低下することで、HIV-1感染細胞内におけるCAコアの安定性に影響を与えることで逆転写反応効率を低下させるだけでなく、HIV mRNA合成効率にも影響をおよぼすことが明らかとなった。
 顕著なHIV感染制御効果を示した因子群の1つであるAMPK-RPKについて詳細な解析を進めたところ、HIV感染前期過程においてはHIV逆転写反応の場であるHIVキャプシドコアの安定性に影響をおよぼすことで逆転写反応効率を著しく低下し、HIV感染後期過程においてはHIV転写効率に影響をおよぼすことで、HIV産生効率が低下していることが明らかとなった。このことは、1つの細胞内因子が、異なる作用機序でもってHIV感染過程に影響をおよぼしていることを示している。
結論
ゲノムワイドスクリーニング法によるHIV感染制御因子群の探索を目的とした本研究において、新たなHIV感染制御因子として、AMPK-RPKを同定した。この細胞内因子は、複数のHIV感染過程に影響をおよぼすことで、HIV感染増殖伝播効率に影響をおよぼすHIV感染必須因子であるという結果を得た。AMPK-RPKは酵素活性を持つ細胞内因子であることから、この特異的酵素阻害剤が新規エイズ治療法の開発に結びつく重要な成果であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201226007B
報告書区分
総合
研究課題名
霊長類ゲノム情報を利用した抗エイズウイルス自然免疫因子の探索およびその新規エイズ治療法への応用
課題番号
H22-エイズ-若手-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
武内 寛明(東京医科歯科大学・医歯学総合研究科 ウイルス制御学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在までにヒトゲノム情報に立脚したHIV感染制御宿主因子探索法として、RNA干渉法によるゲノムワイドスクリーニング法による研究成果が幾つか報告されているが、本来のHIV感染標的細胞を用いたものではなく、そのため自然感染におけるHIV感染伝播での役割については不明な点が多い。本研究では、HIV感染標的細胞であるTリンパ球を用いて機能遺伝子発現抑制Tリンパ球ライブラリーを構築し、これらライブラリーと正常Tリンパ球との間でのHIV感染効率を比較検討し、HIV感染制御抑制因子群とSIV感染制御因子群とを同定し、それらの機能解析を行うことによって、新たなエイズ治療法の基盤確立を目指し研究を開始した。
研究方法
宿主機能遺伝子発現抑制T細胞ライブラリーの作製
宿主遺伝子(約1万8千遺伝子)を標的としたshort hairpin RNA (shRNA)ライブラリーを発現するカセットを組み込んだレンチウイルスベクターを用いてT細胞ゲノムへshRNA発現カセットを組み込むことにより、機能遺伝子発現抑制shRNA T細胞ライブラリーを作製した。

HIVおよびSIV感染制御宿主因子群の探索
作製したヒトT細胞株ライブラリーを用いて、HIVおよびSIV感染耐性T細胞株を選択した。具体的には、HIV-1 NL4-3株およびSIVmac239株感染感受性T細胞株であるMT-4/CCR5細胞ライブラリーに、HIVを感染させた。感染12日後にHIV感染耐性細胞を限界希釈し、更に2週間培養することで、HIV感染耐性T細胞ライブラリーを得た。その後、これら細胞株が保持しているshRNA配列を解析し、shRNA配列が標的としている宿主機能遺伝子を同定した。

HIV-1感染効率の解析
T細胞株に、HIV-1IIIB env-pseudotyped HIV-1 (IIIBenv/luciferase-reporter HIV-1)またはVSVG-pseudotyped HIV-1 (VSVG/ luciferase-reporter HIV-1)を感染させ、24時間後のluciferase活性を測定した。

HIV-1感染細胞内におけるウイルスDNAおよびmRNA合成量の解析
逆転写反応を経て合成されたウイルスDNA量について、polおよびenvの各領域におけるリアルタイムPCR法にて測定し、ウイルスmRNA合成量については、i) unspliced form、ii)single-spliced form、iii) double-spliced formの3種各々に検出するリアルタイムPCR法にて経時的に測定した。

Fate-of-capsidアッセイによる感染細胞内のウイルスコア安定性の解析
 ヒトT細胞株にHIV-1を感染させ、8時間後の感染細胞をDounce Homogenizerにて細胞破砕後に細胞質分画を得た。この細胞質分画を、20%-60%シュクロースに重層した後、細胞質成分の比重分離を超遠心法にて行った。比重分離後、上部から3分画に分けて回収し、各分画に含まれているウイルスCAタンパク量をWetern blotting法およびELISA法を用いて検出した。
結果と考察
3年間の本研究により得られた研究結果およびその成果として、(1)独自の機能遺伝子発現抑制T細胞ライブラリーの樹立、(2)HIV感染増殖伝播環境下においてHIV感染制御候補因子群を多数得る事が出来たこと、(3)HIV感染制御候補因子群の中で複数種のHIV感染制御因子を同定したことなどが挙げられる。特に、3年目で同定したAMPK-RPKのような1つのヒト細胞内因子が、複数のHIV感染過程に作用することでHIV感染制御効果を示す事は、現段階で未だ報告されていないことから、HIV感染過程の理解をより深めることが可能になるだけでなく、AMPK-RPK特異的機能阻害剤が、新たな抗HIV薬になりうる可能性が高い。
結論
 ゲノムワイドスクリーニング法によるHIV感染制御因子群の探索を目的とした本研究において、世界に先駆けて機能遺伝子発現制御Tリンパ球ライブラリーを樹立し、新たなHIV感染制御候補因子群を多数見出し、それらに基づくHIV感染制御因子データベースを構築する事が出来た。その中から機能阻害剤の標的として有効と考えられるAMPK-RPKおよびABPをHIV感染制御因子として同定した。AMPK-RPKは、複数のHIV感染過程に影響をおよぼすことで、HIV感染増殖伝播効率に影響をおよぼし、ABPはHIV特異的吸着・侵入過程に影響をおよぼすHIV感染必須因子であるという結果を得た。これらの特異的機能阻害剤は、現在開発中であり、新規エイズ治療法の開発に結びつく重要な成果であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201226007C

収支報告書

文献番号
201226007Z