水疱性口内炎ウイルスを用いたアレナウイルス感染中和抗体開発に関する基盤研究

文献情報

文献番号
201225068A
報告書区分
総括
研究課題名
水疱性口内炎ウイルスを用いたアレナウイルス感染中和抗体開発に関する基盤研究
課題番号
H24-新興-若手-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
谷 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレナウイルスを起因とするウイルス性出血熱は、発熱、出血、多臓器不全などを誘発し、致死率の高い重篤な疾患として知られている。しかしながら現在まで、これらのウイルス感染症に対して治療薬をはじめ有効なワクチンや抗ウイルス剤の開発は進んでいない。ウイルス感染症に対する効果的な治療薬としては、複製阻害剤の他、ウイルスの細胞侵入を阻害できる侵入阻害剤がある。その中でもウイルスのエンベロープ蛋白質に対する中和抗体薬は、特に出血熱ウイルス感染症のような急性期に劇症化する疾患の場合、ウイルスの生体内への感染そのものを阻止することができ、非常に効果的である。本研究では、ラッサウイルスや各種南米アレナウイルスの感染を阻害できるような中和抗体の作製を試みる。現在、こうしたアレナウイルス種のエンベロープ蛋白質に対する抗体作製の取り組みは、世界的にもほとんど報告されておらず、感染を阻害できるような中和抗体が得られなくとも、エンベロープ蛋白質(GP)を検出できる抗体が作製できれば、アレナウイルス感染症対策に関する基礎研究の有用なツールとして活用できるだけでなく、抗原検出のための迅速診断法への開発にも応用することが期待できる。
研究方法
この作製にあたり、本来のウイルスを抗原として用いることは本邦ではバイオセーフティー上、不可能なため、代替モデルとしてアレナウイルスエンベロープ蛋白質を外套したシュードタイプVSVを用いる。このウイルスを抗原として用いることで、精製蛋白質よりも天然型のウイルスに近い構造を保持したエンベロープ蛋白質に対する抗体を作出することができると考えられる。本年度は、ラッサウイルス、フニンウイルス、チャパレウイルスおよびルジョウイルスのGPを外套したシュードタイプVSVを大量調整し、GPの発現およびウイルス粒子への取り込みを確認した後、シュードタイプVSVおよびプラスミドDNAをマウスへ免疫し、その血清に対してラッサウイルスGPシュードタイプVSVの感染阻害活性を調べた。

結果と考察
ラッサウイルスおよび各種南米アレナウイルスGPを外套したシュードタイプウイルスを大量作製し、ウイルスの濃縮・精製を行い、GPの取り込み量および作製細胞内の発現を確認した。その結果、南米アレナウイルスGPおよびコントロールとして作製したVSVGを一過性に外套したVSVGシュードタイプウイルスはGPを効率良く大量に取り込んでいるのに対し、ラッサウイルスGPを外套したシュードタイプウイルスにおけるGPの取り込み量は少ないことがわかった。ラッサウイルスのGPは細胞内での発現量も少なく安定性が低いことが予想された。精製したラッサウイルスGP外套シュードタイプウイルスをBALB/cマウス三群に、それぞれ精製ウイルス、プラスミドDNA、精製ウイルスとプラスミドDNAを併用したパターンで免疫し、それぞれの血清中におけるシュードタイプウイルスの感染中和活性を、ウイルスの感染性を指標に測定した。その結果、コントロールとしてVSVGを外套したシュードタイプウイルスを免疫したマウスの血清において、VSVGのシュードタイプウイルスにおける感染は中和されたのに対し、ラッサウイルスGP外套シュードタイプウイルスの場合、どのパターンでの免疫でも血清における中和活性は認められなかった。今回、GPをタグを付加した発現プラスミドにクローニングすることによって、これまで細胞での発現量やシュードタイプウイルスへの取り込み量をウイルスごとに比較することが可能となった。比較した結果、他の南米アレナウイルス種に比べてラッサウイルスはGPの細胞内での発現量自体が少ないことが明らかとなった。これは、GPの安定性が低いために分解等の影響を受けて発現量が少なくなるのか、性状的に少ないのかは現時点では不明であるが、免疫原として用いるにあたり発現量、取り込み量が高いほうが好ましく今後、改善する必要があると考えられる。
結論
本研究では、ラッサウイルスGPが他のアレナウイルス種に比べて細胞への発現およびシュードタイプウイルスへの取り込み量が少ないことが明らかとなった。これまでにもラッサウイルスGPに対する抗体の作製に関しては成功例が少なく、GPそのものの性状が起因の一つであると考えられた。今後、これらのことをふまえつつ、他のアレナウイルス種のGPに対する感染中和抗体の作製も併せて取り組む予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-06-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225068Z