重症の腸管出血性大腸菌感染症の病原性因子及び診療の標準化に関する研究

文献情報

文献番号
201225062A
報告書区分
総括
研究課題名
重症の腸管出血性大腸菌感染症の病原性因子及び診療の標準化に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 井口 純(宮崎大学 IR推進機構)
  • 八尋 錦之助(千葉大学・病原分子制御学)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 林 哲也(宮崎大学 フロンティア科学実験総合センター)
  • 桑原 知己(香川大学)
  • 綿引 正則(富山県衛生研究所)
  • 勢戸 和子(大阪府公衆衛生研究所)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター)
  • 五十嵐 隆(国立成育医療研究センター )
  • 齋藤 昭彦(新潟大学大学院)
  • 伊藤 秀一(国立成育医療研究センター 腎臓・リウマチ・膠原病科)
  • 幡谷 浩史(東京都立小児総合医療センター 腎臓内科)
  • 水口 雅(東京大学大学院医学系研究科 発達医科学・小児神経学)
  • 森島 恒雄(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
32,865,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌 (Enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC)の病原性は、腸管細胞付着と志賀毒素産生との2つで説明される。国内においてEHEC感染症は、血清群O157に属する菌株を原因とする症例が多数を占める。EHEC O157は2つの志賀毒素遺伝子stx1, stx2のいずれか、あるいは両方を有し、細胞接着能力はLEE領域と呼ばれるIII型タンパク質分泌機構に依存している。しかしながら、異なる血清型に属する多様なEHECが存在することが知られていることに加え細胞付着に関する病原因子にも多様性があることが知られている。
 細胞付着因子および血清群の多様性の視点から、いわゆる「O157」感染症とは異なる非典型的なEHEC感染症に関する基盤情報の蓄積と整理が必要である。我が国においてEHEC感染症は年間3000-4000例発生している。重篤な合併症(HUS、脳症)を発症し、さらに死亡例も毎年報告されている。診断に加えて、治療法の体系的な評価と、提言の必要性がある。
 本研究の目的は、(1)エビデンスに基づく診療ガイドラインとして必要な条件を満たしたHUS診断・治療ガイドラインを作成すること、(2)非典型的なEHEC感染症に対応可能な検査系を確立することである。
研究方法
(1) 日本小児腎臓病学会、日本腎臓病学会、日本小児神経学会、日本小児感染症学会、日本感染症学会などの学会に所属する臨床家・研究者・臨床治験の専門家からなる14名のガイドライン作成班を組織した。ガイドラインの全体像を作成し、執筆の分担を決定した。エビデンスレベル(質)や推奨について分類、決定や構造化抄録の作成などについて、班員全員がガイドライン作成に関する基本方針を共有した。作成されたHUS診断治療ガイドライン(案)を全体で討議し、加えて6度の作成班内の検討委員会において見直し,修正を実施した。HUS診断・治療ガイドライン(案)に対する班員全員からの同意を得た。
(2)腸管出血性大腸菌分離株に関して、血清群別、stx遺伝子型別、eae, saa, subA, aggR 遺伝子の有無を既存の方法で検討した。O抗原合成遺伝子群特異的PCR法の開発、ゲノム解析、患者血清中の抗大腸菌抗体価の測定、動物モデルの検討、SubAB毒素の機能解析に関する方法の詳細は報告書に記載した。
結果と考察
(1)エビデンスに基づく診療ガイドラインとして必要な条件を満たしたHUS診断・治療ガイドライン(案)をわが国で初めて作成した。重症化例において、原因診断に至っていない症例がどの程度あるのか未知な部分がある。特に臨床現場で利用しやすい検査ツールの開発が望まれる。HUSサーベイランスの実施可能性や、そのために必要なツール、軽症型のEHEC感染症の実態把握につなげる活動を検討する。
 業態者検便由来EHECの性状解析から、多様な大腸菌が志賀毒素遺伝子を保有していることが示された。大多数の臨床分離EHECが持つ細胞接着因子を保有しない株が多数存在した。これらのEHECが出血性腸炎の原因となる可能性は低いと考えられるが、さらなる検討が必要である。特にEHECの病原性の評価法の検討が必須であり、比較ゲノム学的解析、動物モデルの改善等を進める。
調理従事者らの業態者検便由来志賀毒素産生大腸菌の病原因子のプロファイリングからは、出血性腸炎を伴う重症化例から分離される菌株と同等と考えられる菌株も多数存在した。調理従事者等を原因とする事例発生のリスクが存在する。業態者検便由来志賀毒素産生大腸菌は、志賀毒素遺伝子の有無のPCR法によるスクリーニングを行なうことで分離してきた。下痢症における核酸増幅検査法の積極的な利用により、特に軽症の下痢症における原因診断率が高まる可能性がある。臨床の現場における急性下痢疾患の検査診断・治療の実際を吟味し、必要な検査体制について検証する必要がある。
結論
エビデンスに基づく診療ガイドラインとして必要な条件を満たしたHUS診断・治療ガイドライン(案)をわが国で初めて作成された。今後、本案を日本小児科学会、日本小児腎臓病学会、日本腎臓学会などの会員に公表し、会員からの意見を収集する。その後、各学会の承認を得た後、それぞれの学会ホームページ等に公表することを検討する。血清型別や病原因子プロファイルから多様なEHECが存在することが確認され、無症状保菌者から分離されるEHECを含めた情報の基盤が形成されつつある。現場で役に立つ検査ツールの開発につなげる必要がある。ゲノム情報の基盤形成、メタゲノム解析の応用、病原性評価系を進めた。ゲノムデータを蓄積し、メタゲノム解析の評価、動物モデルの検証をさらに進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225062Z