プロウイルスゲノム破壊による革新的HTLV-1関連疾患発症遅延法の開発

文献情報

文献番号
201225043A
報告書区分
総括
研究課題名
プロウイルスゲノム破壊による革新的HTLV-1関連疾患発症遅延法の開発
課題番号
H23-新興-一般-028
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
駒野 淳(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 誠治(熊本大学 エイズ学研究センター )
  • 星野 忠次(千葉大学 大学院薬学研究院 )
  • 竹腰 正隆(東海大学 医学部)
  • 武田 哲(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 田中 淳(群馬大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,428,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1感染症対策には感染者におけるHTLV-1関連疾患の発症遅延法の開発が必要である。治療より発症防止の方が感染者の身体的負担は小さいうえ、社会経済的観点からもメリットがある。ウイルスゲノムを不可逆的に不活化する方法があれば確実に発症遅延が達成できると期待できる。我々はZinc Finger Nuclease(ZFN)技術を応用してウイルスを不可逆的に不活化する方法を開発する。
研究方法
治療分子機能評価に関しては、LTR機能を測定する評価系、プロウイルス除去能の評価系、HTLV-1感染細胞の細胞増殖阻害評価系にてZFNの生物活性を検証した。また、免疫不全マウスにZFNを導入したATL細胞株EDをxenograftingし、腫瘍細胞の生着と増殖を測定することによりZFNの持つATL治療活性をin vivoで評価した。治療分子送達法の開発においては、HTLV-1感染標的であるCD4陽性細胞に特異的分子送達するベクター構築に向けて、ベクター被覆に供する健常人由来のCD4反応性抗体FabクローンHO538-213を抗体工学的にscFvに改変し、抗原反応特異性とエピトープの同定を行なった。
結果と考察
治療分子ZFNがHTLV-1 LTRの機能を特異的に阻害し、LTRに物理的損傷と部位特異的に変異を導入する事を明らかにした。さらに治療分子発現によりHTLV-1で不死化したヒトT細胞とATL由来の細胞株の細胞増殖を阻害できる事を明らかにした。以上の知見はZFNがHTLV-1感染細胞を除去する活性とHTLV-1関連悪性疾患の治療分子としての活性を併せ持つ事を示唆する。治療分子ZFNが認識配列で挟まれたDNA領域を除去する活性とも明らかにした。これらは治療分子がウイルスを体内から取り除く活性を持つ事を示している。HTLV-1のプロウイルスを除去できる活性を持つ治療分子は世界で初めてである。マウスモデルにおいてATL細胞の造腫瘍性を治療分子ZFNが抑制することを明らかにした。これは生体内におけるZFNのATLに対する治療効果を明らかにするものである。健常人由来CD4反応性モノクローナル抗体HO538-213をscFv化し、その抗原反応性が維持されている事、エピトープがMHC-CD4相互作用に影響しないD1ドメインのC末端部分である事を同定した。これは生体への投与における抗体の安全性を強く示唆し、将来の治療分子送達法への応用を支持する知見である。
結論
治療分子の活性が認められ、分子送達法にかかる技術開発も順調に進行している。ZFN技術は既に臨床応用で一定の成果を挙げており、安全性に関するハードルが低く、迅速な実用化が期待できる。プロウイルス除去やLTR不可逆的破壊が可能であることが証明されたらHTLV-1感染者へ次世代医療の提供を前提とした新たな厚生研究の方向性を示す事ができる。また、根治療法の実用化を念頭においたHTLV-1病理学的基礎研究の方向性の提示にも貢献できる。本研究によって長期間にわたる医療機関への受診や薬剤の長期投与を感染者に要求せずに発症を食い止める「感染者にやさしい発症予防法」の確立が期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-06-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225043Z