地域流行型真菌症の疫学調査、診断治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201225040A
報告書区分
総括
研究課題名
地域流行型真菌症の疫学調査、診断治療法の開発に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 義継(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
  • 渋谷 和俊(東邦大学医学部 病院病理学講座)
  • 杉田 隆(明治薬科大学 微生物学教室)
  • 泉川 公一(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 感染免疫学)
  • 高倉 俊二(京都大学大学院医学研究科 臨床病態検査学)
  • 大野 秀明(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 金子 幸弘(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 石野 敬子(昭和大学 薬物治療学講座 薬学部感染制御薬学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,171,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域流行型真菌症とは、特定地域に生息する真菌による感染症の総称である。わが国では、渡航者の感染例が多いが、渡航機会の増加を背景に、その総数は増加傾向にある。また、明らかな渡航歴のない感染例も報告されるようになってきた。
近年、米国CDCから、コクシジオイデス症より致死率が高い地域流行型真菌症として、Cryptococcus gattiiの注意喚起がなされ、北米西海岸からの拡大が危惧されている。わが国においても平成22年に初めて、北米で流行するC. gattiiと同一の遺伝子型VGIIaの株が、渡航歴のない重症中枢神経系クリプトコックス症患者から分離された。既に高病原性C. gattiiが、わが国に定着している可能性が示唆され、①疫学調査、②簡易診断法の構築、および③診療指針の策定が急務となった。
疫学調査、簡易診断系構築および診療指針の策定は、直接的に公衆衛生学的に有益であり、感染症法等により把握すべき疾患か否かの判断根拠として行政施策に活用できる。
また、病原性や遺伝子学的解析による病原体の基礎的研究は、新たな治療法や診断法の開発に必要であり、クリプトコックス症などとの鑑別が必要となる酵母様真菌による感染症、特にカンジダ症の疫学調査も重要である。
このようなわが国で問題となり得る地域流行型真菌症に対応するため、クリプトコックス症をはじめとする真菌症の臨床・疫学調査および診断治療の開発に必要な基礎的研究を行う。
研究方法
 わが国の患者から分離されたCryptocossus gattii について、ゲノム解析(全ゲノムおよび比較ゲノム)および血清学的解析を行った。C. gattiiとC. neoformansを経気道的に感染させたマウスを用いて、毒力規定因子や宿主応答の解析を行った。また、実際のクリプトコックス症における生体側因子の解明のため、疾患感受性遺伝子に関する検討を行った。in vitroの解析として、樹状細胞を用いたC. gattiiに対する免疫応答に関する検討および薬剤耐性に関する検討を行った。クリプトコックス症と鑑別を要する酵母様真菌症に関する疫学調査を行った。
結果と考察
全ゲノムを用いた分子疫学的解析結果から、わが国でのC. gattii株は、必ずしも北米流行株とは一致せず、相当以前から、わが国に土着している可能性も考えられた。比較ゲノム解析では、C. gattiiとT. asahiiに類似性が見いだされ、簡易診断法への応用が検討された。日本株および北米流行株の因子血清を用いた定量的反応性および莢膜多糖の構造が類似していたことから、両菌株は血清化学的に同等であると考えられた。
生体側因子に関する検討において、疾患感受性遺伝子の候補であるMBLには、今回SNPsを認めなかったが、今後症例を増やして検討する余地がある。
本邦で分離された高病原性のC. gattii株の病原性解析では、高病原性株に特徴的な病理学所見が得られ、高病原性株ではマウスの生存率も顕著に低下することが判明した。高病原性2株は、他のクリプトコックス属と比較し、全身臓器への易播種性があるものと考えられた。また、C. gattiiの免疫応答にCD4の有無は関係しないことが明らかとなった。
in vitroでの宿主応答に関する結果から、C. gattiiは、免疫細胞(抗原提示細胞)による認識が弱く、免疫応答を惹起しにくい可能性が示唆された。アゾール系抗真菌薬の一つであるフルコナゾールに感受性株であるVGIIa型と低感受性株であるVGIIc型とを比較した結果、1アミノ酸の置換(N249D)を見出した。今後、アミノ産置換とアゾール系抗真菌薬低感受性との因果関係について検討する必要がある。
周術期の抗菌薬・抗真菌薬予防投与の進歩により、肝移植後1ヵ月以内の深在性真菌症は発症が抑制されていることが判明した。一方で院内酵母様真菌血症症例の解析により、免疫抑制や抗真菌薬投与歴と非カンジダ真菌血症の関連も示唆された。このことから、クリプトコックス症との鑑別が必要な酵母様真菌による感染症に関し、肝移植や免疫抑制等に関連した真菌血症の疫学を示された。
結論
わが国に特有のC. gattiiの存在が示唆され、国内でも感染しうることを考慮すべきと考えられた。特に、極めて病原性の強いC. gattii株のわが国への定着が懸念され、今後の公衆衛生学的対策の必要性が認められた。また、新規診断法・治療法の開発に寄与する基礎的な研究の継続も必要である。さらに、来年度以降は、環境調査を含めた地域流行型真菌症の疫学調査についても検討している。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225040Z