顧みられない寄生虫病の効果的監視法の確立と感染機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201225036A
報告書区分
総括
研究課題名
顧みられない寄生虫病の効果的監視法の確立と感染機構の解明に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
野崎 智義(国立感染症研究所 寄生動物部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 恒二(国立国際医療研究センター 戸山病院)
  • 濱野 真二郎(長崎大学 熱帯医学研究所)
  • 井上 幸次(鳥取大学 医学部)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 中野 由美子(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 津久井 久美子(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 永宗 喜三郎(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 平井 誠(群馬大学 大学院医学系研究科)
  • 丸山 治彦(宮崎大学 医学部)
  • 北 潔(東京大学 大学院医学研究科)
  • 河津 信一郎(帯広畜産大学 分子寄生虫学)
  • 山崎 浩(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
38,612,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
顧みられない寄生虫症の発生・まん延を防止するには、起因生物の生物学的特質・感染機構の理解、検査・診断・監視体制の確立、予防・治療法の開発が不可欠である。同時に、新興寄生虫症の出現に即座に対応出来るように、寄生虫症研究基盤の底上げと次世代の研究者育成が必要である。本研究では、国内で問題となる代表的な顧みられない原虫・蠕虫症に対して、分子疫学的手法・検査・診断法・監視システムを確立することを目的とする。更に、研究者育成と基礎研究レベルの底上げを目指して、国内の代表的な原虫・寄生虫症の専門家を結集し、予防・治療法の確立に繋がる原虫・蠕虫症の感染・病理・病原・薬剤耐性機構に関する基盤的研究を行う。
研究方法
以下の具体的な研究を実施した。腸管原虫症・アカントアメーバ症の継続的な発生動向調査、分離株の型別を行った。ジアルジア症・住血吸虫症、顎口虫・条虫・アニサキス症等の免疫診断法・キットの確立し、キットの有効性に関して検証するとともに、感染動向調査へ応用した。赤痢アメーバと三日熱マラリア原虫の薬剤耐性モニタリング法を確立する。赤痢アメーバ・アカントアメーバ等の病原・分化機構を統合的に解明した。マラリア原虫・赤痢アメーバにおける薬剤耐性機構を解明する。新種腸管アメーバの病原機構・病態形成を解明した。トキソプラズマの感染における宿主調節因子注入機構を解明した。マラリア原虫等の高速な変異体作成を可能とする遺伝学手法を確立した。ブタ回虫等の幼虫特異的タンパク質の病態形成における機能解明を行った。エキノコックス呼吸鎖の解明した。
結果と考察
当初の計画通り、対象とするそれぞれの原虫・蠕虫症に関して、多面的なサーベイランス・調査・研究を行い、顧みられない寄生虫症対策に資する多くの成果を挙げた。特に以下の点について顕著な進展を見た。感染実態調査に関しては、アメーバ角膜炎の実態調査が順調に進められ、分離株のTタイピングの情報が蓄積し、国内の分子疫学の基盤が徐々に整いつつある。更に、HIV感染者における腸管原虫症の感染実態調査や幼虫移行症等の蠕虫症の実態調査などを順調に行い、着実に感染実態状況が把握されつつある。最終年度も感染実態の現況の確実な把握に努めると同時に、分子疫学手法による感染源の多様性の調査を行うことにより、国内で問題となる顧みられない寄生虫症の実態の把握に資すると研究成果を生み続けられる予想される。
 診断法の確立に関しては、ジアルジア嚢子の簡便なイムノクロマトキットが完成し、生鮮・凍結・固定試料にも対応しうる高い汎用性が見込まれる。更に、マンソン狐虫・回虫などによる幼虫移行症、肺吸虫・アニサキス等食生活に依存した蠕虫症、更に人獣共通感染症である住血吸虫症の動物における感染実態調査に威力を発揮する診断法の開発を達成し、これら蠕虫症の診断法の発展に関して、有意義な進展を示した。
 基盤的研究においても、いくつか特筆すべき成果が挙げられた。赤痢アメーバの新規リソソーム酵素輸送体ファミリー(Cysteine protease binding protein family)の発見と機能解析である(Cell. Microbiol., 2012)。このCPBFタンパク質群は本原虫に選択的に存在するため、病原体特異的な薬剤やワクチンの合理的な標的であるということができる。更に、呼吸鎖の構造解析に基づく創薬に関しても大きな発展があった。蠕虫類に共通な嫌気的呼吸鎖であるNADH-フマル酸還元系の複合体IIの立体構造上の特徴が明らかになった。しかもエキノコックスの複合体IIは宿主哺乳類や回虫とは異なった性質を持ち、前年度までの結果から各サブユニットにおける相違がアミノ酸レベルで明らかになっており、これを標的とした新規薬剤開発の可能性が一層高くなった。更に、フルトラニル誘導体群を用いて検討した結果、選択性がフルトラニルに比して格段に向上した誘導体を見出され、今後の同様なアプローチによりエキノコックス複合体IIの特異的阻害剤を見出せる可能性が高くなった。更に、平井らによるマラリア原虫の第2世代高度変異体の作成により、更にフォワードジェネティクスに画期的なシンポをもたらした。原虫全般の薬剤耐性機構や病原機構の理解に重要な役割を果たすことが期待される。
結論
本研究班は2年度にも十分な成果を納めた。本邦で問題となりうる原虫・寄生虫症の発生・まん延を防止するために不可欠な、検査・診断法の確立、治療法の開発等に貢献した。更に、上記に不可欠な基盤的な病原機構等の理解に資する成果を収めた。以上、幅広い原虫・蠕虫による顧みられない寄生虫症対策に資する多面的な研究が確実に展開されており、原虫・寄生虫症の発生動向の正確な把握とそれに基づいた感染症対策に大いに資する総合的な成果を収めている。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201225036Z