健康危機管理のための抗毒素の開発・備蓄システムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800104A
報告書区分
総括
研究課題名
健康危機管理のための抗毒素の開発・備蓄システムの開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所細菌・血液製剤部)
  • 高橋元秀(同部)
  • 島崎修次(杏林大学医学部救急医学教室)
  • 鳥羽通久((財)日本蛇族学術研究センター)
  • 金城喜榮(沖縄県衛生環境研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内で報告されている抗毒素治療の効果が期待できる発生事例について、疫学調査を行うとともに海外の情報を収集し、抗毒素確保のための具体的なシステムを構築する。本来それら抗毒素は製薬企業などにより承認許可を取得した上で輸入されることが望ましいものであるが、我が国ではきわめて稀にしか発生しないため、企業における開発は期待できない。国内で新規及び緊急的に製造可能なものについては、試験製造を行い、海外から輸入可能なものについては入手経路を明確化して緊急体制を整える。確保できた製剤の品質管理は、現在生物学的製剤 で行われている方法に準し、また新しい分子生物学的、物理化学的手法を導入した品質管理法を確立して安全性と有効性の品質保証技術を検討する。品質保証が確認された製剤は、国内数箇所の拠点で管理、保管し、緊急時に対処、可能な組織、システムを確立する。これらシステムの 構築により、きわめて稀ではあるが重篤な症状を引き起こす毒素性疾患による事故の健康被害が救済され、また今後新たに起こり得る事例に対しても今回のシステムは規範として期待できる。さらに、現行ウマ血清を材料としている抗毒素製剤は副反応の発生が報告されており、遺伝子工学の手法等を利用したヒト型モノクローナル抗体等の改良型治療用抗毒素の開発に取り組む。これらは、国際的に開発が切望されているものであり、製剤化による国際的な貢献度は高く評価されることが期待される。           
研究方法
症状が重篤であるにも関わらず、我が国では極めて稀にしか発生しないことから企業における開発が進まず、その供給体制が整備されていない毒蛇の咬傷等に対する抗毒素が少なからず存在している。それらの抗毒素について、緊急時の健康危機管理の観点から、その開発及び試験製造を行うとともに、高度救命救急センター等とも協力しつつ備蓄システムの開発を行う。
(1)必要とされる抗毒素等の確保計画の作成に関する研究
我が国において必要とされる抗毒素に関する情報収集を行い、必要とされる抗毒素の種類及びそのプライオリティーを明らかにするとともに、その入手方法、必要とされる量及び備蓄場所について検討を行う。得られた検討結果をもとに、抗毒素等の確保計画を作成する。平成10年度においては、当面緊急に必要とされる抗毒素の確保計画を作成する。
(2)抗毒素の試験製造に関する研究
諸外国から輸入できない、または、我が国独自で開発する必要がある抗毒素の試験製造を行う。平成10年度においては、我が国でしか生息していないヤマカガシの抗毒素血清の開発を目的にウマの免疫を行う。
(3)抗毒素等の開発・備蓄システムの開発に関する研究
我が国で必要な抗毒素で、且つ諸外国から輸入可能な抗毒素を輸入し、我が国における有効性や安全性を確認しつつその開発を行う。開発した抗毒素を備蓄するための保管指針を作成するとともに、緊急時の抗毒素による治療指針を作成する。また、タンビマムシ等の外来種で我が国の同種のものと間違う恐れのあるものについて、その見分け方の指針を作成し、医療機関への普及を図る。さらに、開発した抗毒素について、緊急時に対応するための備蓄システムを開発するとともに、それらを安全に且つ効果的に備 蓄するため、抗毒素等の力価、品質等の維持技術を検討する。
結果と考察
(1)海外においては様々な蛇毒、昆虫毒及び海洋生物の治療用抗毒素製剤が市販されている。海外で製造している抗毒素の薬務行政と品質管理について、10年度輸入した3製造所と11年度輸入を計画しているオーストラリアの状況を調査した。各国とも抗毒素は50年以上前に製造が開始されており、製造認可、製造方法ともに古典的なものである。また、きわめて特殊な製剤で供給量も少ないため、企業として改良するための経済的、基礎研究活動を導入することが市場原理上困難をきたしていた。薬事行政上の取り扱いで新規製剤の認可においては、 オーファンドラッグとして取り扱われる条件はそろっており、原血清の精製、乾燥製剤化などの一部変更時には優遇される措置が取られていた。
(2)当面に必要とされる抗毒素としては、その重篤性、予想される事故の発生頻度を考慮し、ヤマカガシ抗毒素、乾燥コブラ抗毒素、台湾ハブ抗毒素、タンビまむし抗毒素、海ヘビ抗毒素、ハブクラゲ抗毒素、オコゼ抗毒素、セアカゴケグモ抗毒素の対応が必要である。平成10年度はヤマカガシ抗毒素の製造計画を協議し、蛇の捕獲、採毒は蛇族学術研究所、動物の免疫は化学及血清療法研究所で行うこととした。
なお、海外からの輸入抗毒素は、以下の製剤について手続を継続中である。
1.タイ国赤十字  タイコブラ抗毒素 20本
2.台湾      台湾ハブ毒素   20本
3.中国上海研究所 中国まむし抗毒素 40本
(3)沖縄県においては、国内で抗毒素が製造されていない毒性生物による事故が発生しているため、緊急的な対応策を検討し、数種の抗毒素を輸入し、患者発生が心配される地域病院に備蓄している。また、沖縄県では国内製造したハブ抗毒素が治療用に用いられ効果を挙げている。
(4)ヤマカガシ抗毒素の試験製造は、過去においてウサギ及び山羊を免疫用動物として行われた経緯がある。抗原用の蛇毒はハブ、まむしのように1匹の個体から繰り返し採毒するのとは異なり、毒腺を切除する方法のため多くの蛇を捕獲する必要がある。免疫動物としてヤギとウマが候補に上がっているが、その決定は11年度の採毒状況により決定する。国内製造の抗毒素はすべてウマ製剤であるため、可能であればウマの免疫を計画したいが、11年度に行う採毒作業の状況により免疫抗原量が少量で可能と思われるヤギを用いる可能性もある。
(5)国内でのまむし咬傷の情報や治療法については、過去の事例報告は救急救命センターに集約が可能である。また全国に組織化されている救命センターは、海外から輸入した抗毒素製剤や国内製造したヤマカガシ抗毒素の備蓄保管場所として適切な機能を有した組織であると思われる。
(6)本年度、海外から購入した抗毒素または国内で製造する抗毒素は、製薬企業等によって、正式な承認許可を得ることが期待しにくいものであり、国民の健康被害救済のために国家で購入・備蓄する事が必要である。海外からの輸入に際して、今回我々は医師の個人輸入という事務手続きで対応した。様々な規則、申請書類の提出を求められ、さらに備蓄保管する抗毒素を緊急時に使用する場合は、輸入した個人の使用という規制枠が生じた。輸入に関する規制、ウマ血清類の検疫に関しては、国が用意するべき抗毒素が特例事項で処理できるようなシステムの構築が必要である。さらに、班終了後、継続的に保管管理するには限度があり、例えば、現在実施されているガスえそウマ抗毒素、乾燥ボツリヌスウマ抗毒素のように国家買い上げによる供給体制を行うなど、国が責任を持ってその安定供給につとめる必要がある。
結論
海外で製造販売している抗毒素のうち当面に必要とされる製剤を決定して、輸入手続を開始した。本年度は、タイコブラ抗毒素20本(タイ国赤十字社製)、台湾ハブ毒素20本(台湾生物製品所製造)、中国まむし抗毒素40本(中国上海研究所製)の製剤である。
重篤性、予想される事故の発生頻度を考慮し、国内で対応が必要な抗毒素としてはマカガシ抗毒素の製造計画を協議し、蛇の捕獲、採毒は蛇族学術研究所、免疫動物はウマを第1候補として化学及血清療法研究所の協力を得ることとして、現行基準に照らし合わせた品質管理試験は国立感染症研究所で行うこととした。また、海洋生物の抗毒素製剤については、特に事故事例が多く報告されている沖縄県の現状を調査後に11年度に購入抗毒素を決定・手続を行うこととした。 国内でのまむし咬傷の情報や治療法については、過去の事例報告は救急救命センターに集約が可能であり、全国に組織化されているため、輸入した抗毒素製剤や国内製造したヤマカガシ抗毒素の備蓄保管場所として考える。なお、緊急使用のためのマニュアルは不可欠であり、来年度中に協議・作成することとした

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