新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究

文献情報

文献番号
201225021A
報告書区分
総括
研究課題名
新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究
課題番号
H22-新興-指定-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
庵原 俊昭(国立病院機構三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 谷口 孝喜(藤田保健衛生大学医学部ウイルス 寄生虫学講座)
  • 中山 哲夫(北里生命科学研究所)
  • 中野 貴司(川崎医科大学 小児科学)
  • 大石 和徳(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 小西 宏(日本対がん協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
16,470,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン、ロタウイルス(RV)ワクチンは、いずれも複数の血清型・遺伝子型がある感染症に対するワクチンであり、有効性の評価には、疫学的、微生物学的な検討が必要である。我々は、平成19年度から小児侵襲性インフルエンザ菌(Hi)感染症、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)、ロタウイルス(RV)感染症の実態を明確にするために、基礎・臨床研究者が共同して研究を行ってきた。また、HPVワクチンの効果は接種後10年以上経過しないと評価できないため、10年後に適切に評価する方法について検討を行った。更にワクチンの安全性を評価するためのin vivo, in vitroモデルの作成を目的とした。
研究方法
 10道県における侵襲性Hi感染症、IPD、侵襲性B群連鎖球菌(GBS)感染症の全例を登録した。分離されたHi、肺炎球菌(SP)、GBSは国立感染症研究所に送付し、血清型と薬剤感受性を検討した(アクテイブサーベイランス)。
 RV胃腸炎のアクテイブサーベイランスは、胃腸炎で津市の小児医療機関を受診し、RV迅速診断検査が陽性であった症例数を検討した。同時に津市、岡山市、いすみ市(千葉県)のRVの血清型について検討した。HPVのレジストレーション制度の構築に関しては、全国のワクチン台帳の整備状況について検討した。
 ワクチン同時接種の安全性を評価するために、小児末梢血単核球(PBMC)を各種ワクチンで刺激し、培養上清中のサイトカインプロファイルを検討した。
結果と考察
 小児5歳未満人口10万人当たりの侵襲性細菌感染症の罹患率は、2012年ではHib髄膜炎0.6、Hib非髄膜炎0.9、SP髄膜炎0.8、SP非髄膜炎10.6、GBS髄膜炎1.5、GBS非髄膜炎1.2であり、2008年から2010年までの3年間の平均罹患率と比較すると、Hib髄膜炎は92%、Hib非髄膜炎は82%、SP髄膜炎は71%、SP非髄膜炎は52%に著明に減少していたが、ワクチンが開発されていないGBS感染症では減少を認めなかった。
 起因菌の検討では、Hibワクチン接種後に侵襲性Hi感染症を発症した症例は9例で、Hibが分離されたのは1例だけであり、残りの8例は非莢膜型Hiであった。IPD児の起因菌の検討でも、PCV7接種者からの分離菌の多くはPCV7でカバーされない血清型であった。以上の結果から、Hibワクチン、PCV7の有効性を評価するためには、起因菌の血清型を含めた侵襲性Hi感染症とIPDのアクテイブサーベイランスの継続が必要であることが示された。なお、IPDでは急速に起因菌の血清型のreplacementが進んでおり、PCV7よりも幅広く血清型がカバーできるPCVの導入が必要と思われた。
 RV胃腸炎の検討では、5歳未満人口1000人当たりの外来受診者数は134.8/1000人・年であり、外来受診率の面からもRV胃腸炎は疾病負担が重い感染症であることが示された。RVの血清型の検討では、調査する県により主として流行する血清型は異なっていたが、いずれも現行のRV1(ロタリックス)およびRV5(ロタテック)でカバーできる血清型であった。
 HPVワクチンの効果を評価するためには、ワクチン台帳と頸がん検診記録を連携させた登録制度を構築し、10年以上の長期間の観察が必要である。今年度は全国市区町村のワクチン台帳の整備状況を調査し、94%の自治体でワクチン台帳が整備されていることを確認した。
 ワクチンは安全性が重要視されている。小児末梢血単核球を用いた各種ワクチン刺激によるサイトカインプロファイルの検討では、ワクチンの種類により産生される炎症性サイトカインプロファイルが異なっていた。以上の結果から、ワクチンの安全性を求める保護者に対しては、炎症性サイトカインの産生が少ない組み合わせによる接種も可能であることが示された(オーダーメードワクチン接種)。
結論
 平成22年12月から始まった促進事業により、HibワクチンとPCV7の接種率が上昇し、侵襲性Hib感染症およびIPDは著明に減少した。しかし、ワクチン接種後に侵襲性感染症を発症した児を認め、今後もアクテイブサーベイランスの継続が必要である。
 RV胃腸炎は疾病負担が重い感染症であり、RVワクチンの定期接種化が望まれる感染症である。また、HPVワクチンの効果を評価するために、今からワクチン台帳と頸がん検診を連携させた登録制度の構築が必要であることを提言した。
 ワクチンの同時接種に関しては、接種を希望する保護者の気持ちに添った、炎症性サイトカイン産生プロファイルに応じたテーラーメードワクチン接種も考慮すべきと思われた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225021B
報告書区分
総合
研究課題名
新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究
課題番号
H22-新興-指定-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
庵原 俊昭(国立病院機構三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 谷口 孝喜(藤田保健衛生大学医学部ウイルス 寄生虫学講座)
  • 中山 哲夫(北里生命科学研究所)
  • 中野 貴司(川崎医科大学 小児科学)
  • 大石 和徳(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 小西 宏(日本対がん協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン、ロタウイルス(RV)ワクチンは、いずれも複数の血清型・遺伝子型がある感染症に対するワクチンであり、有効性の評価には、基礎・臨床研究者の共同研究によるアクテイブサーベイランスが必要である。また、HPVワクチンの効果は接種後10年以上経過しないと評価できないため、10年後に適切に評価する方法について検討した。更にワクチンの安全性を評価するためのin vivo, in vitroモデルの作成を目的とした。
研究方法
 10道県における侵襲性インフルエンザ菌(Hi)感染症、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)、侵襲性B群連鎖球菌(GBS)感染症の全例を登録した。分離されたHi、肺炎球菌(SP)、GBSは国立感染症研究所に送付し、血清型と薬剤感受性を検討した。
 RV胃腸炎のアクテイブサーベイランスは、胃腸炎で津市の小児医療機関を受診し、RV迅速診断検査が陽性であった症例数を集積した。同時に津市、岡山市、いすみ市(千葉県)のRVの血清型について検討した。HPVのレジストレーション制度の構築に関しては、全国のワクチン台帳の整備状況について検討した。
 ワクチン筋肉注射、同時接種の安全性を評価するために、各種ワクチンをマウスに接種して組織像を検討するとともに、小児末梢血単核球(PBMC)を各種ワクチンで刺激し、培養上清中のサイトカインプロファイルを検討した。
結果と考察
 5歳未満人口10万人当たりの侵襲性細菌感染症の罹患率は、2008年から2010年までの平均と比較すると、2011年ではHib髄膜炎は57%、Hib非髄膜炎は41%、SP髄膜炎は25%、SP非髄膜炎は20%減少し、2012年になると、Hib髄膜炎は92%、Hib非髄膜炎は82%、SP髄膜炎は71%、SP非髄膜炎は52%に著明に減少したが、ワクチンが開発されていないGBS感染症では減少を認めなかった。
 起因菌の検討では、侵襲性Hi感染症に占めるHibの割合は、ワクチン導入前は96%であったが、促進事業開始後は91%に減少した。また、IPDに占めるワクチン血清型も、76%から58%に減少し、2012年に限ると28%と著明に減少した。以上の結果から、血清型のreplacementはHiに比べてSPでは急速に進んでおり、PCV7よりも幅広く血清型がカバーできるPCVの導入が必要と思われた。
 RV胃腸炎の検討では、5歳未満人口1000人当たりの外来受診者数は134.8/1000人・年と、外来受診率の面からも疾病負担が重い感染症であることが示された。RVの血清型の検討では、調査する年および県により主として流行する血清型は異なっていたが、主として流行していたのはG3P[8]とG1P[8]であり、いずれも現行のRV1(ロタリックス)およびRV5(ロタテック)でカバーできる血清型であった。
 HPVワクチンの効果を評価するためには、ワクチン台帳と頸がん検診記録を連携させた登録制度を構築し、10年以上の長期間の観察が必要である。平成24年度は全国市区町村のワクチン台帳の整備状況を調査し、94%の自治体で整備されていることを確認した。また、昨年度から始めた内灘町の登録制度のモデル事業は順調に進んでいることも確認した。
 ワクチンは安全性が重視されている。組織像の検討では、皮下注でも筋注でも同じ組織像が認められ、筋拘縮症の組織像と異なっていた。欧米では不活化ワクチンは局所の副反応が少ない筋注で接種されており、本邦でも安全性の面から不活化ワクチン筋注も一つの選択肢と思われた。また、PBMCを用いたワクチン刺激によるサイトカインプロファイルの検討では、ワクチンの種類により産生される炎症性サイトカインプロファイルが異なっていた。ワクチンの安全性を求める保護者に対しては、炎症性サイトカインの産生が少ない組み合わせによる接種も可能であることが示された。
結論
 平成22年12月から始まった促進事業により、HibワクチンとPCV7の接種率が上昇し、侵襲性Hib感染症およびIPDは著明に減少した。しかし、ワクチンでカバーされない血清型へのreplacementが進んでおり、今後もアクテイブサーベイランスの継続が必要である。
 RV胃腸炎は疾病負担が重い感染症であり、RVワクチンの定期接種化が望まれる感染症である。HPVワクチンの効果を評価するために、今からワクチン台帳と頸がん検診を連携させた登録制度の構築が必要であることを提言した。また、安全性の面から不活化ワクチン筋注は一つの選択肢であり、ワクチンの同時接種に関しては、接種を希望する保護者の意向に添った接種方法も考慮すべきである。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
2010年12月から始まった子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業(促進事業)により、インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の接種率が高まり、Hib髄膜炎が92%、肺炎球菌髄膜炎が71%減少した。ロタウイルス(RV)胃腸炎患者の外来疫学調査から、RV胃腸炎は本邦でも疾病負担が重い疾患であることを示した。また、ワクチン筋注接種の安全性を示し、同時接種するワクチンの組み合わせにより、炎症性サイトカインの産生に差があることを示唆した。
臨床的観点からの成果
HibワクチンおよびPCVは極めて効果が高いワクチンであるが、すべてのインフルエンザ菌、肺炎球菌をカバーできない欠点がある。インフルエンザ菌、肺炎球菌ともにワクチンでカバーできない血清型のreplacementが始まりつつあった。HPVワクチンの効果は接種10年後以降でないと評価が困難である。10年後の評価に向け、ワクチン台帳と子宮頸がん検診と連携させた登録制度を提唱し、モデル事業を開始している。
ガイドライン等の開発
平成24年12月21日の厚生科学審議会で、小児における侵襲性インフルエンザ菌感染症および侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)のアクテイブサーベイランスの成果を報告した。この結果を受け、現在行っている10道県のアクテイブサーベイランスの継続と、侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPDの全数報告制度が平成25年度から開始された。また、ロタウイルス感染症の入院サーベイランスについても検討された。
その他行政的観点からの成果
侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPDのアクテイブサーベイランスの結果から、促進事業が高く評価され、平成25年度からのHibワクチン、PCVの定期接種化につながった。また、RV胃腸炎のアクテイブサーベイランスの必要性が認識され、定点での胃腸炎サーベイランスに加え、RV胃腸炎入院サーベイランスの開始に向けた準備が厚生労働省で行われている。安全性の面から不活化ワクチン筋注への道を開きつつある。
その他のインパクト
侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPDのアクテイブサーベイランスの成績は、すべての全国紙で取り上げられ、ワクチン接種率の向上に貢献するとともに、定期接種化につながった。また、筋注および同時接種の安全性の検討は、小児科医の間にあった筋注有害論を払拭しつつあり、保護者の希望に沿ったワクチン接種スケジュールの作成へと向かっている(オーダーメイドワクチン接種)。

発表件数

原著論文(和文)
14件
ワクチン、小児重症細菌感染症に関する論文
原著論文(英文等)
4件
ワクチン、小児重症細菌感染症に関する論文
その他論文(和文)
70件
ワクチン、小児重症細菌感染症に関する論文
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
109件
ワクチン、小児重症細菌感染症に関する論文
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-23
更新日
2016-06-08

収支報告書

文献番号
201225021Z