非ヘルペス性急性辺縁系脳炎の前駆期-先行感染症期の病態解明による障害防止研究

文献情報

文献番号
201224114A
報告書区分
総括
研究課題名
非ヘルペス性急性辺縁系脳炎の前駆期-先行感染症期の病態解明による障害防止研究
課題番号
H24-神経・筋-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 幸利(独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森 寿(富山大学大学院医学薬学研究部、分子神経科学)
  • 西田 拓司(国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々の研究で、成人発病の非ヘルペス性急性辺縁系脳炎(NHALE)は年間220人が罹患していて、記憶障害は63.2%に残り、1万人程度がNHALEによる記憶障害などの後遺障害を患っている可能性がある。これらの障害を防ぐために、発病の数年前の前駆期、発病直前の先行症状期に着目し、その病態を明らかにすることで、早期診断治療、発病予防につなげたい。
研究方法
1.NHALE症例の前駆期保存検体を用いた前駆期自己免疫状況の検討:集積したNHALE症例400例に於いて、前駆期保存検体の有無、成人例献血(保存検体)の有無を調査し、協力が得られる症例の血清で血液脳関門攻撃因子(MMP-9)、サイトカイン(BioPlex)、細胞傷害性T細胞因子(granzyme B)、自己抗体(NR2B, NR1, GluRdelta2, LGI1, Caspr2, ADAM22, ADAM23, NMDAR複合体)等を測定する。
2.精神・神経症状のある若年成人の検体を用いた前駆期自己免疫状況の検討:血清(髄液)でMMP-9、サイトカイン、granzyme B、自己抗体(前述)等を測定する。
3. NHALE患者既往歴の検討:前駆期にみられる精神神経症状などの中枢神経症状を詳しく検討し、NHALE発病時の辺縁系症状などと比較検討する。
4. NHALE先行感染症期における一般・免疫マーカーの経時的変化の検討:先行感染症期のリンパ球アポトーシス指標としてのWBC,LDH、等の一般検査値、MMP-9、サイトカイン、granzyme B、自己抗体(前述)等を、経時的に測定する。
5.免疫調節遺伝子(Foxp3, CTLA-4, PDCD-1, T-bet)の発現を検討(ELISA, Real-Time PCR)
6.免疫調節遺伝子(Foxp3, CTLA-4, PDCD-1, T-bet)のSNPを検討
7.神経細胞に対する抗NMDAR抗体の作用の検討:培養ラット胎児神経細胞に抗NMDAR抗体陽性NHALE患者髄液あるいは患者髄液IgG分画を加え、培養上清のLDH濃度、培養細胞の総cAMP-Responsive-Element-Binding protein (tCREB)濃度およびリン酸化CREB(pCREB)濃度を測定し、同時測定対照との比を求めて評価した。
8. 抗体スクリーニングシステムの検討:Euroimmune社製のAutoimmune Encephalitis Mosaic1のキットを検討。
結果と考察
【既往歴】NHALE患者217名の検討では、精神障害関連既往症が21名(10%)に、自己免疫性疾患関連が9名(4%)に、婦人科関連疾患が8名(4%)にみられた。精神障害関連既往症の内訳は、気分障害8名、依存症8名、発達障害5名であった。
【精神・神経症状のある非脳炎患者の自己抗体】思春期から成人期にうつなどの精神症状を呈した症例19例の髄液で検討した。抗NR2B-NT2抗体は半数の症例で疾病対照の平均+2SDを超えていた。抗NR1-NT抗体は3/4例で疾病対照の平均+2SDを超えていた。
【先行症状】NHALE207例中162例(78%)に先行症状を認め、162例中23例(14%)で感染病原体が確定された。先行症状がありながら病原体の確定ができなかった139例について検討すると、発熱(81%)>頭痛(53%)>悪心嘔吐(24%)>上気道炎症状(18%)>下痢(3%)の順で、上気道炎などの中枢神経系以外の局所感染症状は比較的少なかった。脳炎症状出現前に髄液検査された18例中18例で無菌性髄膜炎の診断がされていた。
【抗体スクリーニングシステム】キットを用いて抗NMDAR抗体、抗AMPAR抗体、抗GABABR抗体、抗LGI1抗体、抗CASPR2抗体のスクリーニングを、NHALE6例、卵巣奇形種合併脳炎2例、抗VGKC抗体陽性脳炎2例等で行ったが、感度、特異度の点で課題を認めた。
【抗NMDA型GluR抗体のシナプスNMDARに対する作用】NHALE髄液を加えた系の7DIVのpCREB濃度比は、10DIVのNHALE髄液によるpCREB濃度比に比べて有意に高値であった。7DIVでのNHALE髄液によるpCREB濃度比は、NHALE髄液IgGを加えた系のpCREB濃度比に比べて有意に高値であった。NHALE髄液IgGを加えた系では、7DIVでのpCREB比が平均1.47(>1.00)であり、CREBリン酸化は障害されることなく軽度亢進していた。
結論
これらの知見は、NHALE患者に抗NMDAR抗体がかなり以前(前駆期)から存在し、軽度の精神神経症状を呈しうるとすると理解しやすい。NHALE発病期の病態は抗NMDAR抗体のみでは説明できず、複数の因子が関与している。

公開日・更新日

公開日
2013-04-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224114Z