未熟終止コドンの抑制による筋ジストロフィー薬物治療の臨床応用基盤の確立

文献情報

文献番号
201224104A
報告書区分
総括
研究課題名
未熟終止コドンの抑制による筋ジストロフィー薬物治療の臨床応用基盤の確立
課題番号
H22-神経・筋-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松田 良一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,317,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ナンセンス変異はDNAの塩基が1つ置換し,アミノ酸コードが終止コドンに変化するため機能的なタンパク質が作られなくなる点突然変異である。リードスルー治療は,ナンセンス変異を薬物により抑制して翻訳を進行させ,機能的な全長タンパク質の発現を回復させることで症状の改善を志向するものである。患者本人の遺伝子を活かして正常機能タンパク質の発現を回復させるため,遺伝情報の変更や遺伝物質の導入が無く,目的タンパク質の発現自体が正常に制御されることで,その治療効果は大きく且つ副作用は少ないと考えられている。本療法は,遺伝子治療や核酸医薬によらず,ナンセンス変異症例の包括的治療が可能な,独創的かつ斬新な概念に基づくものであり,本邦のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者数において19%を占めるナンセンス変異症例の有効かつ迅速な選択肢である。DMDは未だ有効な治療法が確立していない重篤な遺伝性筋疾患であり,一刻も早い臨床応用の実現が喫緊の課題となっている。ナンセンス変異型遺伝性筋疾患のリードスルー治療の薬開発コンセプトの実現性を確保するために,可能な限り多くのリードスルー薬物候補を特定し,モデル動物や患者様由来細胞を用いた薬効薬理試験を実施することが本研究課題の目的である。
研究方法
 リードスルー薬効評価系として構築したβ-ガラクトシダーゼとルシフェラーゼの二重レポーター遺伝子導入マウス(READマウス)を用い,これまでに特定した薬物候補の誘導体と既に上市されている薬剤のリードスルー誘起物質としての薬効検証を行った。DMD疾患モデルとしてmdxマウスを用い,生化学的・免疫組織化学的な薬効評価と運動機能回復試験を行った。また患者様由来筋細胞を用いてそのジストロフィン発現回復を評価した。実験については所属大学の動物実験委員会や倫理委員会の承認を得て適正に実施した。
結果と考察
 その結果,1.ネガマイシンの誘導体合成研究から,リードスルー促進活性を示すTCP-112やTCP-126の創製に成功した。2.マクロライド系抗菌剤等の既承認薬に複数の薬物候補を特定した。mdxマウスに4週間連日皮下・経口投与することにより,ジストロフィンの発現回復やクレアチンキナーゼ活性の低下,筋組織の大小不同や結合組織の減少等の筋変性の軽減を確認した。③アルベカシンについて,治療の科学的証拠を得るため医師主導治験「アルベカシン1用量とプラセボの無作為化二重盲検比較試験」を平成25年度に始める準備をした。
結論
 確立した安全性をもつ既承認薬からのリードスルー誘起薬物候補の特定は,用途変更することで迅速な実用化が見込まれる。また,リードスルー誘起物質は,ナンセンス変異の種類およびその周辺配列に対する特異性が異なる。したがって,より多くの治療薬候補物質を特定し,個々の患者様に最適な治療戦略を選択かつ併用できるようにすることが求められている。それ故,出来る限り薬物候補を増やし,その臨床応用基盤を固めることを目指している。また,既承認薬から特定したアルベカシン以外の治療薬候補の相乗(増強)効果や減毒効果を狙った併用療法の可能性を検討することで,アルベカシンのリードスルー治療薬としての承認可能性を追求すると共に,先行するアルベカシンと同様の手法で開発を進めることで,可及的速やかに臨床応用の実現と治療法の向上が得られると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224104B
報告書区分
総合
研究課題名
未熟終止コドンの抑制による筋ジストロフィー薬物治療の臨床応用基盤の確立
課題番号
H22-神経・筋-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松田 良一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ナンセンス変異はDNAに1塩基置換が生じ,アミノ酸コードが終止コドンに変化して機能的タンパク質が作られなくなる点突然変異である。この変異は全ての遺伝子にランダムに起こりうるため,重篤かつ生命に関わる多くの遺伝性疾患を引き起こす。リードスルー療法は,薬物によりナンセンス変異を抑制し,翻訳を進行させて機能的タンパク質分子を作らせることで症状の改善を目指すものである。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は未だ有効な治療法が確立していない重篤な遺伝性筋疾患であり,一刻も早い臨床応用の実現が喫緊の課題となっている。リードスルー誘起物質はナンセンス変異の種類とその周辺配列に対する特異性が異なるため,より多くの候補物質を特定し,個々の患者様に最適なリードスルー誘起物質を選択かつ併用できるようにすることが求められている。本研究の目的は,リードスルー誘起薬物候補を増やし,モデル動物や患者様由来ヒト筋細胞を用いた薬効薬理試験と安全性薬理試験を実施することで,薬開発コンセプトの実現性を確保し,その臨床応用基盤を固めることにある。
研究方法
 リードスルー薬効評価系として構築したβ-ガラクトシダーゼとルシフェラーゼの二重レポーター遺伝子導入マウス(READマウス)を用い,これまでに特定した薬物候補の誘導体と既に上市されている薬剤のリードスルー誘起物質としての薬効検証を行った。DMD疾患モデルとしてmdxマウスを用い,生化学的・免疫組織化学的な薬効評価と運動機能回復試験を行った。また患者様由来筋細胞を用いてそのジストロフィン発現回復を評価した。実験については所属大学の動物実験委員会や倫理委員会の承認を得て適正に実施した。
結果と考察
 有益なリードスルー作用をもつ薬物候補として,ネガマイシン類似低分子化合物#2,#3,#4,ネガマイシン誘導体TCP-112,TCP-126,N-3,既存の抗菌薬剤数種を特定することに成功した。また通常は皮膚を透過しないアミノグリコシドや抗がん剤の経皮投与法を開発した。アルベカシンについて,治療の科学的証拠を得るため医師主導治験を平成25年度に始める準備をした。
結論
 確立した安全性をもつ既承認薬からのリードスルー誘起薬物候補の特定は,用途変更することで迅速な実用化が見込まれる。また,リードスルー誘起物質は,ナンセンス変異の種類およびその周辺配列に対する特異性が異なる。したがって,より多くの治療薬候補物質を特定し,個々の患者様に最適な治療戦略を選択かつ併用できるようにすることが求められている。それ故,出来る限り薬物候補を増やし,その臨床応用基盤を固めることを目指している。また,既承認薬から特定したアルベカシン以外の治療薬候補の相乗(増強)効果や減毒効果を狙った併用療法の可能性を検討することで,アルベカシンのリードスルー治療薬としての承認可能性を追求すると共に,先行するアルベカシンと同様の手法で開発を進めることで,可及的速やかに臨床応用の実現と治療法の向上が得られると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224104C

成果

専門的・学術的観点からの成果
READマウス作出に成功したことにより,これを活用したタンパク質の生合成に関する新しい知の創出や研究効率の向上への貢献が見込まれる。さらに,カナマイシン類の構造活性相関と毒性結果やネガマイシンの誘導体合成研究から重要な知見を得て,薬効分離が進んだ毒性を回避する新規誘導体創製の可能性を開いたことは大きな意義がある。
臨床的観点からの成果
本研究で特定したリードスルー薬物候補は複数種存在することから,症例に応じて未熟終止コドンの種類とその周辺配列に対する特異性を考慮した活用が期待される。また,既承認薬から特定されたリードスルー薬物は,適応外使用の要件を満たすことで早期にヒト症例への実用化が見込まれ,アルベカシンについては平成25年度に医師主導治験を開始し,リードスルー治療薬としての承認可能性を追求する予定である。
ガイドライン等の開発
本研究では当該しないため,関連する指針や規範の策定は行っていない。
その他行政的観点からの成果
リードスルー誘起物質を見出したことにより創出された知的資産は,リードスルーの作用機構や生体反応の制御機構の解明に新たな展開が期待される。またこれらの薬物候補は,現在知られている2,400種を超えるナンセンス変異型遺伝性疾患に包括的に適用できる応用性があるため,難治性疾患対策の推進に貢献できる蓋然性が高く,その社会的価値は日本の希少疾患における医療の立場を世界の最先端に押し上げることとなる。
その他のインパクト
「筋ジストロフィーの臨床試験実施体制構築に関するワークショップ」,「アカデミックシーズ発表会 in BioJapan」,「日仏筋ジストロフィーシンポジウム」等々において,薬物を用いたナンセンス変異型筋ジストロフィーのためのリードスルー治療について講演し,筋ジストロフィー患児保護者や医師,創薬系企業から反響を得た。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
23件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
17件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
リードスルー誘導剤,及びナンセンス変異型遺伝性疾患治療薬
詳細情報
分類:
発明者名: 松田良一,塩塚政孝,我妻玲,西田篤史,松尾雅文,高橋良和,池田大四郎,野々村禎昭
特許の名称
リードスルー活性を有する化合物及び該化合物を含む医薬組成物
詳細情報
分類:
発明者名: 林良雄,田口晃弘,薬師寺文華,山崎有理,松田良一,塩塚政孝

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiozuka M, Wagatsuma A, Kawamoto T, et al.
Transdermal delivery of a readthrough-inducing drug: a new approach of gentamicin administration for the treatment of nonsense mutation-mediated disorders
J. Biochem. , 147  (2010)
原著論文2
Shiozuka M, MacKerell Jr AD, Zhong S, et al.
Novel chemotherapeutic agents for readthrough of nonsense mutations in muscular dystrophy
National Center of Neurology and Psychiatry  (2011)
原著論文3
Wada E, Kikkawa N, Yoshida M, et al.
Effects of dietary phosphate on ectopic calcification and muscle function in mdx mice
Tech d.o.o. Croatia  (2012)
原著論文4
Shiozuka M, Nonomura Y, and Matsuda R
Transdermal delivery of adriamycin to transplanted Ehrlich ascites tumor in mice
Pharmaceutics , 5 , 385-391  (2013)
原著論文5
Nagata Y et al.
Sphingosine-1-phosphate mediates epidermal growth factor-induced muscle satellite cell activation
Exp. Cell Res. , 326 , 112-124  (2014)
原著論文6
Taguchi A et al.
Discovery of natural products possessing selective eukaryotic readthrough activity:3-epi-deoxynegamycin and its leucine adduct
Chem. Med. Chem. , 9 , 2233-2237  (2014)
原著論文7
Wada E et al.
Dietary phosphorus overload aggravates the phenotype of the dystrophin-deficient mdx mouse
Am. J. Pathol. , 11 , 3094-3104  (2014)
原著論文8
Polikanov YS et al.
Negamycin interferes with decoding and translocation by simultaneous interaction with rRNA and tRNA
Mol. Cell , 50 , 1-10  (2014)
原著論文9
Ohashi K et al.
Zinc promotes proliferation and activation of myogenic cells via the PI3K/Akt and ERK signaling cascade
Exp. Cell Res.  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201224104Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,812,000円
(2)補助金確定額
10,812,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 650,865円
人件費・謝金 6,115,389円
旅費 362,870円
その他 1,187,876円
間接経費 2,495,000円
合計 10,812,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
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