PTSD及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究

文献情報

文献番号
201224098A
報告書区分
総括
研究課題名
PTSD及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究
課題番号
H24-精神-指定(復興)-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究分担者(所属機関)
  • 功刀 浩(国立精神・神経医療研究センター)
  • 樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
  • 田子 久夫(福島県立医科大学 医学部)
  • 長谷川 聖修(筑波大学 体育系)
  • 田中 喜代次(筑波大学 体育系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災の被災者へ、中長期的な観点からこころのケア支援活動を行い被災地の成人において震災関連のうつ病やPTSDが予防可能か否かを検証する。また精神病院入院患者や認知症患者など精神科医療に関わる災害弱者の避難についてのマニュアル策定、そしてもっとも介入が困難な震災後のアルコール関連問題への対策方法の検討を目標にする。
研究方法
<震災後の避難マニュアルの策定>
総括/分担研究者の朝田は欧米で先行している災害精神医学の成果を日本の現状を踏まえて導入すること、さらに被災者と救援者の被災・救援体験から、将来の災害に備える具体的な課題を抽出して対応法を考案することを検討した。本年度は、欧米における災害精神医療の成果概要をまとめ、次にソーシャルワーキングや一般的な避難、東日本大震災での被災・救援体験を要約し、具体的には病院連携システムの構築についての試み、災害発生からの時間軸に沿って生じてくる問題とそれへの対応の概要を整理した。
田子は災害弱者である認知症患者や精神疾患患者の避難状況とその後について、診療現場での経験や臨時施設の運営者からの聞き取りを通じて情報をまとめた。
<予防介入としての健診、診療支援、予防介入、疫学的検討>
健診事業、診療支援、予防介入活動を実施することを主たる活動とした。具体的には1)震災関連の精神科外来の設置、2)一般健診に付随する形での「メンタル健診」「栄養健診」の実施、3)被災者を鼓舞し、心身の状態を向上させることを目的とした「元気塾」の定期的開催である。予防介入プログラムでは運動教室、パソコン教室、定期的講演会、レクリエーションなどを予定した。
次に健診事業の一環である栄養健診で得られたデータをもとに、CES-Dを用いて16点以上をうつ病群とし、被害の程度と食事摂取量を数量化した上で、うつにおける被害、食事摂取エネルギーとの関連性について解析を行った。
結果と考察
<震災後の避難マニュアルの策定>
急性期の混乱時における主に病院間の情報交換を容易にする連携システムの構築を試み、さらに時系列に沿った対応法を便宜的に急性期(3か月以内)、亜急性期(6か月以内)、慢性期(6か月以降)に分け、対象者を一般地域住民と災害弱者・障害者に分けて検討した。精神科医による活動内容では、初期には従来から精神科医療機関にかかっている患者への対応が必要であり、一般集団に対してはimpact phaseにおける不安や不眠への対応、ついで地域に密着した保健師とともに行う被災住民へのサポートが重要になることが明らかとなった。特に避難所などでは、精神疾患と認知症への理解、ストレスからくる飲酒行動へのアプローチが重要となる。後者は、いわゆる「アルコール中毒」とは性質の異なるとされ、集団生活の中だけに自重していただく柔らかなアプローチが求められると考えられた。
<健診、外来、予防介入の結果>
うつと関連のあった因子は、年齢の若さ、仕事を失った主観的辛さ、経済的損失の主観的辛さ、自宅損壊の主観的辛さで、特に自宅については客観的な損壊度も相関していた。震災後のうつと最も関連が強いのは仕事や家屋の損失だったと推測された。したがって「経済的保障」はメンタルヘルスに直接的には影響しない可能性が考えられた。一方でパソコン塾は39名の参加者がおり、簡単な入力作業は行えるレベルに達し、既に部分的な就労につながっている。
栄養面からの検討では、ストレスの影響によって油脂に対する嗜好性、ストレスと抑うつの影響によって甘味に対する嗜好性が上昇し、震災被害やうつ症状によって食生活が変化する可能性が示唆された。
運動塾については、基礎的体力が有意に改善し、GHQ-12は有意ではなかったものの得点は改善傾向で、精神状態は軽減する傾向がみられた。これまで被災地域では特に中高齢者の体力低下とそれに伴う精神的健康状態の悪化が問題視されてきた。本介入では、低下しやすいとされる脚力および柔軟性の改善が得られた。
結論
まず避難マニュアル策定に必要な総論と各論についての予備的検討を行った。精神科医療を従来の一般医療を中心とする災害医療にどのように組み込むかが大きな問題であると考えられた。健診事業については約1000名の北茨城市民に実施し、既にうつに関連する解析をお済ませたが、第1次健診のデータから震災後精神障害に関連する因子が抽出されている。運動塾、パソコン塾による介入は効果的と思われ、今後も内容を充実させつつ継続していく。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224098Z