震災後精神症状の脆弱性因子・獲得因子・回復過程の心理・神経基盤を解明し、早期発見・予防・治療のターゲットを特定するための研究

文献情報

文献番号
201224095A
報告書区分
総括
研究課題名
震災後精神症状の脆弱性因子・獲得因子・回復過程の心理・神経基盤を解明し、早期発見・予防・治療のターゲットを特定するための研究
課題番号
H24-精神-若手-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
関口 敦(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
研究分担者(所属機関)
  • 事崎 由佳(東北大学 加齢医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,617,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災では,内陸部の被災程度は比較的軽度とはいえ,被災者は多大なストレスに晒されている.過去の研究ではストレス暴露後の脳画像評価が主であり,精神症状(不安,うつなど)の脆弱性/獲得因子の弁別および,精神症状からの回復を予測する諸因子は未解明であった.
 我々の研究室では,宮城県在住の学生・小児を対象とした脳画像研究を行っており,震災前の脳画像データを多数保有しており,これらデータベース内の被験者を再募集し,縦断的に震災前後の脳形態画像および震災後の精神症状を評価することで,震災後に発現した精神症状の脆弱性/獲得因子および回復過程の心理・神経基盤を解明することができた.
 本研究の目的は,震災前後の脳画像を用いて震災後に発現した精神症状の脆弱性/獲得因子および回復過程の心理・神経基盤を解明することである.
研究方法
 平成24年度は,震災前,震災3~4か月後の脳画像データのある大学生38名の震災1年後の追跡調査,および震災前の脳画像データがある小児234名の震災約2年後までの脳画像および震災後ストレス反応を調査した.脳画像データは3次元収集T1強調像および拡散テンソル画像を収集した.心理検査として,小児被験者に対しては,改訂版出来事インパクト尺度(IES-R)にて震災ストレス反応を評価した.大学生被験者に対しては構造化面接によるPTSD症状の評価,自己記入質問紙による不安・うつ症状をはじめとする各種心理計測を行った.
結果と考察
 宮城県在住の小児を対象に震災ストレス反応をIES-Rで評価した結果,7.49±9.18であり, 234名中14名(6%)がカットオフ値である25点を超えていた.脳画像データと合わせた解析及び結果報告は次年度に行う予定である.
 大学生被験者のデータ解析の結果,前帯状皮質の灰白質量の減少,前帯状束の白質統合性の低下が震災直後の精神症状の脆弱性医因子であることが明らかになった.また,眼窩前頭皮質の灰白質量減少,左帯状束,鉤状束の白質統合性の上昇が,震災後精神症状の獲得因子であることが明らかになった.更に,震災1年後の追跡調査の結果,眼窩前頭皮質の灰白質量増加が,左海馬支脚の白質統合性の上昇が震災ストレスからの回復因子であることが示唆された.
 
結論
 今回の脳画像研究は,大規模災害前後の脳灰白質量,白質統合性の形態変化を報告した世界で初めての研究である.災害ストレスへの適応過程に対する理解を深め,災害後精神症状の早期発見,予防に資する基礎研究として意義深いものと考える.一方で,これらは比較的軽度な被災をした健常レベルの大学生の結果であり,より強烈なトラウマ体験をした被災者への応用は慎重を期する必要がある.今後,より広い世代に渡る,様々なレベルのトラウマ体験をした被災者を対象とした検証が待たれるところである.

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224095Z