大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

文献情報

文献番号
201224071A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と対応ガイドラインの作成・評価に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
金 吉晴(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所成人精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加茂 登志子(東京女子医科大学付属女性生涯健康センター)
  • 中島 聡美(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所成人精神保健研究部)
  • 鈴木 友理子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所成人精神保健研究部)
  • 石郷岡 純(東京女子医科大学 医学部 精神医学教室)
  • 渡 路子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所成人精神保健研究部)
  • 富田 博秋(東北大学災害科学国際研究所 災害精神医学分野)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学)
  • 飯島 祥彦(名古屋大学大学院医学系研究科倫理委員会・法哲学、生命倫理、医事法学)
  • 山田 幸恵(岩手県立大学社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
21,098,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
災害、犯罪(犯罪被害者等基本法の定めるところによる)の被害者の苦痛に対する精神医療対応への社会的期待は近年、急速に高まっているが、とりわけ東日本大震災を受けて、その関心は急速に高まっている。自然災害の被災者に対しては、被災直後のプライマリケア対応から、住民との関係構築、高度医療へと至る幅広い対応が必要であるが、その効果的な活動についてのエビデンスは少ない。手順について、同震災の心のケアチームを対象とした実態調査を行い、活動内容の検討を行う。さらに災害直後の精神保健的な疫学調査の方法論を倫理指針を含めて整備するとともに、宮崎県口蹄疫被害による住民の精神健康への影響調査を行う。平常時においてはprimary care、から高度医療機関までのトラウマ医療ネットワークを構築し、そのfeasibilityと問題点を検討し、より効果的なネットワークモデルを形成するためのガイドラインを作成する。また早期の被害者の特性の研究は対象者確保の困難から世界的にもほとんど行われていないので、その実態を調査し、その後の受療行動、転帰との関連を検討する。慢性化したPTSD患者の治療として、認知行動療法(持続エクスポージャー療法)の効果的な研修、訓練方法システムの研究を行う。また薬物療法、精神療法を含めた、PTSDの治療ガイドラインを作成する。また犯罪、災害後の代表的な疾患であるPTSDについて有効な治療対応の指針を作成する。犯罪被害者を中心とする医療ネットワーク研究は、primary care医から、東京女子医科大学、国立精神・神経医療研究センターが連携し、徐々に高強度のケア、治療を提供する。特に後者では高度専門機関としての使命から、慢性PTSDへの治療法の開発、普及研究に取り組む。
研究方法
地域住民、行政職員の調査。自記式うつ病尺度の検証、倫理的課題の文献的整理。東京女子医科大学におけるDV被害、虐待被害の体制の検討と効果的治療のfeasibilityの検討。犯罪被害対応のエキスパートの意見集約と司法解剖遺族の調査指針の整備。PTSD薬物療法のエビデンスの検討。
結果と考察
DV被害母子、総合病院における虐待症例の発見と対応、診断治療の取り組みが示され、標準的な総合病院におけるfeasibilityが示された。犯罪被害に関する専門家の意見集約が行われ、今後の対応の向上が期待される。司法解剖を体験した遺族に対して、特に配慮した対応が必要である。岩手県の遺族支援調査では支援のために重要と思われる要因が抽出されつつある。
宮城県職員調査では、遺体関連業務や苦情相談対応といった震災下の特殊な業務や惨事ストレスで報告されている要因の影響は行政職員では見られなかった。休養をとれるような労務環境の整備、職場内コミュニケーションが良くないと感じている職員には、苦情相談対応、家族の喪失体験、避難所生活でのストレスなどへの一層の配慮が求められることが示唆された。七ヶ浜調査では単回の問診票調査でのスクリーニングによって健康状態に問題を抱える被災者を支援に結びつけることには一定の限界があるものの問診票を普及啓発活動の一環と位置付け、コミュニティーへの働きかけを継続して行うことで、被災者を支援に結びつけることが可能となると考えられた。
口蹄疫では、被災農家は全体として健康状態の改善傾向にあった。地域住民では;被災1年後までは、経済的影響を背景として、精神保健的にハイリスクな者の割合が有意に高いことが分かっていたが、今回の調査で、被災後2年の時点でほぼ平時のレベルに回復する経過が把握できた。これまで防疫従事者については、集団としての健康影響は認められておらず、全体として画一的な保健対策を行うことは現実的ではないと考えられる。
災害時の簡便なうつ病の診断のための自記式質問紙は、大人数の労働者に対しても比較的容易に施行できるという利点を有する。自記式質問紙によるスクリーニングにより、うつ病を早期発見・早期介入することが可能と考える。災害時の調査倫理の特殊な重要性が明らかとなった。
災害後に多発すると考えられるPTSD治療に向けて薬物を用いた効果的な治療の進展が期待される。
結論
被災地住民、遺族、県庁行政職員の精神健康とその関連要因が実態に即して明らかとなった。犯罪被害対応のコンセンサスが確認されたことを受け、今後の対応の向上が窺知される。総合病院におけるDV、虐待などのトラウマ事例への対応が促進される。災害時の調査の方法論、倫理的課題が明確となった。PTSDの薬物療法の普及が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224071Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
27,400,000円
(2)補助金確定額
27,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,410,015円
人件費・謝金 11,162,944円
旅費 3,494,137円
その他 3,030,904円
間接経費 6,302,000円
合計 27,400,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
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