治療抵抗性統合失調症に対する治療戦略のためのデータベース構築に関する研究

文献情報

文献番号
201224060A
報告書区分
総括
研究課題名
治療抵抗性統合失調症に対する治療戦略のためのデータベース構築に関する研究
課題番号
H22-精神-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
三國 雅彦(国立大学法人群馬大学 大学院医学系研究科神経精神医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 神庭 重信(九州大学大学院医学研究院精神病態医学精神医学)
  • 寺尾 岳(大分大学医学部精神神経医学)
  • 大森 哲郎(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部精神医学分野)
  • 伊藤 千裕(東北大学大学院医学系研究科精神神経学)
  • 伊豫 雅臣(千葉大学大学院医学院精神医学)
  • 武田 雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学)
  • 古郡 規雄(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学)
  • 石郷岡 純(東京女子医科大学医学部精神医学)
  • 車地 暁生(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学)
  • 野中 俊宏(東京都立松沢病院臨床精神医学)
  • 三辺 義雄(金沢大学医薬保健研究域医学系脳情報病態)
  • 染矢 俊幸(新潟大学教育研究院医歯学系)
  • 久住 一郎(北海道大学大学院医学研究科精神医学分野)
  • 清水 徹男(秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座)
  • 岩田 泰秀(浜松医科大学医学部付属病院精神科神経科)
  • 岸本 年史(奈良県立医科大学精神医学講座)
  • 伊藤 寿彦(独立行政法人国立国際医療研究センター国府台病院精神科)
  • 黒木 俊秀(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部)
  • 功刀 浩(国立精神・神経医療研究センター精神神経科学)
  • 米田 博(大阪医科大学医学部総合医学講座神経精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非定型抗精神病薬の導入により、錐体外路性副作用の少ない統合失調症の薬物療法が確立しているが、抗精神病薬療法に抵抗性の統合失調症は約10~30%程度存在しており、精神科医療・福祉を推進するうえで、大きな障壁となっている。この治療抵抗性統合失調症に対する有効性が二重盲験試験で証明されている唯一の抗精神病薬であるクロザピン療法の有効性や副作用出現には人種差があると言われているが、わが国に導入されて、3年半以上が経過するも、日本人に対する臨床効果や副作用対策に関するまとまった報告はまだない。
本研究は各研究機関の臨床研究倫理委員会の承認を得た上で、書面で同意の得られた治療抵抗性統合失調症例について、クロザピンを使用する前と治療経過中に臨床精神病理学的評価や神経心理学的評価を実施し、これらの臨床データを基幹研究センターに移してデータベース化し、クロザピンの使用実態と治療成績を明らかにするとともに、基幹研究センターに集積された遺伝子サンプルを解析し、各研究参加施設での非侵襲的脳画像解析などとも併せて、治療反応性や副作用発現との関連を明らかにし、治療ガイドライン作成の資料とすることを目的としている。
研究方法
連結可能匿名化したクロザピン投与前後の臨床データをWEB登録するシステムは、平成23年8月から入力可能となったので、この時点から平成24年度末までの新規導入患者138名(男性60名、女性78名)の陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)による評価を解析した。また、このデータベース登録患者についての追加のアンケート調査として、平成24年12月現在、入院中、外来、在宅の状況、デイケア・作業所への参加の状況、CGI評価に関する調査を実施し、約93症例のデータを得た。
また、基幹研究センターに遺伝子サンプルを集積して解析し、治療抵抗性統合失調症でのクロザピン治療群125名と健常成人1100名について、薬物の中枢神経系への作用に影響する、P糖タンパク質(ABCB1)の遺伝子多型(C3435T)の対立遺伝子頻度、遺伝子型頻度について比較するとともに、ABCB1遺伝子多型(C3435T)とクロザピン治療反応性との関連の有無について検討した。一方、クロザピンの血中濃度測定は本邦では確立されていなかったが、本研究によって、HPLCを用いたクロザピンの血漿中濃度測定方法の確立を試みた。
結果と考察
WEB登録された新規導入患者の解析の結果、PANSSの評価で25%以上の改善を示す、クロザピン有効率は38%であることが日本人で明らかになり、諸外国と同程度であった。しかも、陽性症状だけでなく、陰性症状も有意に改善が認められた。また、効果不十分、あるいは副作用等により投与中止に至った症例の割合は8.0%であった。次に、追加アンケート調査の解析結果では新規登録患者の60%がすでに外来に移行しており、国のグランドデザインである「入院から地域へ」がクロザピン療法で、実現していることになる。また、副作用による中止は4%であったが、全数調査している市販後調査での副作用のみによる中止率(14%)よりはるかに低いことが明らかとなった。
薬物の中枢神経系への作用に影響するABCB1遺伝子多型(C3435T)のTアリルを持つ被験者群においてクロザピンの治療効果が悪い傾向が見られた(p < 0.1: マンホイットニーU検定)。一方、クロザピンの血中濃度測定についてはHPLCを用いたクロザピンおよびN-脱メチル体の血漿中濃度測定方法が開発され、十分な測定感度および再現性が確認でき、今後の活用が期待される。
結論
クロザピンの有効性や副作用出現には人種差の存在が知られているが、本研究によって日本人の治療抵抗性統合失調症でも同程度に有効であることが明らかにされた。副作用による中止率には国内の全数市販後調査との間に大きな差がみとめられ、本研究グループの臨床の実践をクロザピンの使用マニュアルとして出版して広く伝えていくことが重要であるといえる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224060B
報告書区分
総合
研究課題名
治療抵抗性統合失調症に対する治療戦略のためのデータベース構築に関する研究
課題番号
H22-精神-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
三國 雅彦(国立大学法人群馬大学 大学院医学系研究科神経精神医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 神庭 重信(九州大学大学院医学研究院精神病態医学精神医学)
  • 寺尾 岳(大分大学医学部精神神経医学)
  • 大森 哲郎(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部精神医学分野)
  • 伊藤 千裕(東北大学大学院医学系研究科精神神経学)
  • 伊豫 雅臣(千葉大学大学院医学院精神医学)
  • 武田 雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学)
  • 古郡 規雄(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学)
  • 石郷岡 純(東京女子医科大学医学部精神医学)
  • 車地 暁生(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学)
  • 野中 俊宏(東京都立松沢病院臨床精神医学)
  • 三辺 義雄(金沢大学医薬保健研究域医学系脳情報病態)
  • 染矢 俊幸(新潟大学教育研究院医歯学系)
  • 久住 一郎(北海道大学大学院医学研究科精神医学分野)
  • 清水 徹男(秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座)
  • 岩田 泰秀(浜松医科大学医学部付属病院精神科神経科)
  • 岸本 年史(奈良県立医科大学精神医学講座)
  • 伊藤 寿彦(独立行政法人国立国際医療研究センター国府台病院精神科)
  • 黒木 俊秀(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部)
  • 功刀 浩(国立精神・神経医療研究センター精神神経科学)
  • 米田 博(大阪医科大学医学部総合医学講座神経精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非定型抗精神病薬の導入により、錐体外路性副作用の少ない統合失調症の薬物療法が確立しているが、抗精神病薬療法に抵抗性の統合失調症は約10~30%程度存在しており、精神科医療・福祉を推進するうえで、大きな障壁となっている。この治療抵抗性統合失調症に対する有効性が二重盲験試験で証明されている唯一の抗精神病薬であるクロザピン療法の有効性や副作用出現には人種差があると言われているが、わが国に導入されて、3年半以上が経過するも、日本人に対する臨床効果や副作用対策に関するまとまった報告はまだない。
本研究は各研究機関の臨床研究倫理委員会の承認を得た上で、書面で同意の得られた治療抵抗性統合失調症例について、クロザピンを使用する前と治療経過中に臨床精神病理学的評価や神経心理学的評価を実施し、これらの臨床データを基幹研究センターに移してデータベース化し、クロザピンの使用実態と治療成績を明らかにするとともに、基幹研究センターに集積された遺伝子サンプルを解析し、各研究参加施設での非侵襲的脳画像解析などとも併せて、治療反応性や副作用発現との関連を明らかにし、治療ガイドライン作成の資料とすることを目的としている。
研究方法
連結可能匿名化したクロザピン投与前後の臨床データをWEB登録するシステムは、平成23年8月から入力可能となったので、この時点から平成24年度末までの新規導入患者138名(男性60名、女性78名)の陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)による評価を解析した。一方、治験からの継続症例や上市後の症例のWEB登録が遅れたため、平成23年11月に臨床実態アンケート調査を実施し、202症例を解析した。また、この新規登録患者についての追加のアンケート調査として、平成24年12月現在、入院中、外来、在宅の状況、デイケア・作業所への参加の状況、CGI評価に関する調査を実施し、約93症例のデータを得た。
また、基幹研究センターに遺伝子サンプルを集積して解析し、治療抵抗性統合失調症でのクロザピン治療群125名と健常成人1100名について、薬物の中枢神経系への作用に影響する、P糖タンパク質(ABCB1)の遺伝子多型(C3435T)とクロザピン治療反応性との関連の有無について検討した。一方、クロザピンの血中濃度測定は本邦では確立されていなかったが、HPLCを用いたクロザピンの血漿中濃度測定方法の確立を試みた。
結果と考察
新規登録患者のうち、PANSSの評価で25%以上の改善を示す、クロザピン有効率は38%であることが日本人で明らかになり、諸外国と同程度であった。しかも、陰性症状にも有意に改善が認められた。また、効果不十分、あるいは副作用等により投与中止に至った症例の割合は8.0%であった。また、治験時の症例も含めたアンケート調査による202症例の解析の結果では、中等度改善以上は46%であり、副作用での中止が13%を占め、白血球減少症がその約40%、循環器系と神経系副作用もその約35%を占めた。次に、新規登録患者の60%がすでに外来に移行しており、「入院から地域へ」が少数例ながら、実現していることになる。また、副作用による中止は4%であった。全数調査している市販後調査での副作用による中止率(14%)より低いことが明らかとなった。
ABCB1遺伝子多型(C3435T)のTアリルを持つ被験者群においてクロザピンの治療効果が悪い傾向が見られた(p < 0.1)。一方、HPLCを用いたクロザピンおよびN-脱メチル体の血漿中濃度測定方法が開発され、十分な測定感度および再現性が確認でき、今後の活用が期待される。


結論
クロザピンの有効性や副作用出現には人種差の存在が知られているが、本研究によって日本人の治療抵抗性統合失調症でも同程度に有効であることが明らかにされた。副作用による中止率には国内の全数市販後調査との間に大きな差がみとめられ、本研究グループの臨床の実践をクロザピンの使用マニュアルとして出版して広く伝えていくことが重要であるといえる。平成23年度に明らかになった循環器系や脳波異常・けいれんなどの副作用モニタリング推奨基準の再検討を専門学会と連携して実施することが重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224060C

収支報告書

文献番号
201224060Z