文献情報
文献番号
201224057A
報告書区分
総括
研究課題名
睡眠障害患者のQOLを改善するための科学的根拠に基づいた診断治療技術の開発
課題番号
H22-精神-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
三島 和夫(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所精神生理研究部)
研究分担者(所属機関)
- 井上 雄一(公益財団法人神経研究所)
- 内村 直尚(久留米大学医学部)
- 本多 真(財団法人東京都医学総合研究所・東京都精神医学総合研究所)
- 肥田 昌子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
- 守口 善也(国立精神・神経センター精神保健研究所)
- 山寺 亘(東京慈恵会医科大学医学部)
- 渡辺 範雄(名古屋市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
11,935,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班では、睡眠障害患者の臨床転帰が向上しない主因であるQOL障害の実態調査を行い、難治性不眠症によるQOL障害群の臨床特徴と心理・社会・生物学的な背景要因を明らかにするとともに、現行の不眠症の薬物療法の問題点を検証することを通じて、QOL改善に資する効果的な不眠治療のあり方を明らかにすることを目的とした。
研究方法
本研究班では以下の研究事業を実施した。1)震災ストレスによる不眠症・QOL障害とレジリアンス(回復過程)に関する実態調査、2)睡眠障害患者のQOL障害の実態と背景要因に関する多施設共同調査、3)不眠症およびQOL障害の臨床転帰と悪化要因に関する縦断調査、4)非臨床不眠症者のQOL障害の実態と関連要因に関するインターネット調査、5)慢性不眠症に対する認知行動療法CBTの有効性に関する検証試験、6)睡眠障害に伴うQOL低下の病態生理学的研究。
結果と考察
1)震災ストレスによる不眠症・QOL障害とレジリアンス(回復過程)に関する実態調査:震災前の2009年11月に比較して、震災4ヶ月後の2011年7月時点では、国内全体で不眠症状の頻度が1.3~1.4倍に、HRQOLの障害を伴う不眠症の罹患率が1.79倍(11.8% vs. 21.1%)に増加していた。K6得点は不眠症者では非不眠症者に比較して有意に得点が高く、メンタルヘルスの悪化が強く示唆された。一方、震災1年6ヶ月後には、不眠症の罹患率は10.6%と震災前の水準にまで回復していた。ただし、久居中心部では未だ罹患率が高止まりしていた(10.3% vs.14.0%)。2)睡眠障害患者のQOL障害の実態と背景要因に関する多施設共同調査:睡眠障害の中でも、不眠症、睡眠関連運動障害および概日リズム睡眠障害患者においてQOLが強く障害されていた。全ての睡眠障害において抑うつの存在がQOL障害(精神的健康度)に強く関連していた。慢性不眠症患者におけるQOL障害に関連する症状群を抽出し、不眠症状項目と生活機能項目、メンタルヘルス項目からなるQOL障害評価尺度を作成した。3)不眠症およびQOL障害の臨床転帰と悪化要因に関する縦断調査:鳥取県大山町の住民5527名での2年間の追跡調査の結果、不眠群では非不眠群に比較して精神的健康度(MCS)、身体的健康度(PCS)ともに有意に低下していた。MCSの低下関連要因として女性、若年、抑うつ、不眠が強い、日中覚醒困難が、PCSの低下関連要因としては高齢、抑うつ、不眠が強い、日中覚醒困難、治療中の疾病を有する、睡眠薬を使用、が抽出された。5)慢性不眠症に対する認知行動療法(CBT)の有効性に関する5つ検証試験を行った。①CBT-Iを用いた薬物療法抵抗性不眠症の治療・減量プログラムに関する多施設共同試験: 18症例を割り付け、現在も継続中である(TAU30例、CBT-I 30例の計60例を予定)。②慢性不眠症に対するCBTi-BAの効果検証試験:CBTi-BA実施群ではTAU群に比較して有意に強い不眠改善効果が認められた。③慢性不眠症に対する集団認知行動療法の効果検証試験:施行1ヶ月後におけるDBASおよびSCL-90-Rに有意な改善を認めた。主観的睡眠パラメーターの改善および、活動計における客観的睡眠パラメーターの改善を認めた。④うつ病残遺不眠に対する短期睡眠行動療法(bBT-i)の効果検証試験:bBT-i群ではSF-8の8つの下位尺度全ての平均値において改善を認めた。⑤インターネット短期睡眠行動療法の開発:6名の患者から同意が得られ、エントリーし、睡眠日記を用いた治療へのアドヒアランスは平均93%程度であった。6)睡眠負債が情動認知に及ぼす影響と責任脳領域に関する研究:短時間睡眠によりFear表情刺激に対する左扁桃体の活動を増加し、睡眠負債度(徐波睡眠量比率およびδ波パワー)に比例して左扁桃体-腹側前帯状皮質間の機能的接続性が有意に低下していた。機能的接続性の低下は左扁桃体の活動亢進および主観的気分の悪化と有意に相関していた。慢性不眠症患者群では対照群に比較して、Fear表情呈示時に扁桃体および下前頭回(ミラーシステムの一部)が有意に強く賦活された。患者群では対照群に比較して、Happy表情呈示時における被殻および右島皮質前部の賦活が有意に減弱していた。これらの知見は、慢性不眠症の罹患が大うつ病リスクを高めることの生物学的基盤の一部を説明している。
結論
睡眠障害患者のQOL障害を正しく診断し適切に対処することが治療効果とアドヒアランスを向上させることを示唆する知見が集まりつつある。また、睡眠薬を主剤とする薬物療法のみならず、適宜、認知行動療法や睡眠衛生指導を併用することでリスク・ベネフィット比に優れた不眠治療プログラムを提供できることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2013-06-12
更新日
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