新生児聴覚スクリーニング導入以前と以後に育った先天性難聴児の診断・治療による中等教育までの成果と不都合な現実の対策のための研究

文献情報

文献番号
201224033A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児聴覚スクリーニング導入以前と以後に育った先天性難聴児の診断・治療による中等教育までの成果と不都合な現実の対策のための研究
課題番号
H22-感覚-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
加我 君孝(東京医療センター 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 福島 邦博(岡山大学 医学部)
  • 坂田 英明(目白大学 保健医療学部)
  • 神田 幸彦(神田ENT医院)
  • 城間 将江(国際医療福祉大学 保健学部)
  • 内山 勉(東京医療センター 臨床研究センター)
  • 松永 達雄(東京医療センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,946,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新生児聴覚スクリーニングの不都合な現実の一つとして、出産施設におけるスクリーニングの検査機器の有無、有料の任意の検査であることがスクリーニングの実施率にどの程度影響があるか否かを調査することを目的とした。
研究方法
対象は、東京医療センター耳鼻咽喉科の幼小児難聴・言語障害クリニックを受診した症例のうち、難聴あるいは言葉の遅れを主訴に受診し、平成24年度に5~7歳に達した177例である。出産施設で新生児聴覚スクリーニングを受けたが否かを調べることにした。同時に出産施設が個人医院か総合病院か、大学病院かも調べた。
結果と考察
平成24年度に5~7歳に達した症例は177例であった。そのうち新生児聴覚スクリーニングを経た例は56名(31.6%)であった。聴覚スクリーニングの機会のなかった33例のうち90%は検査機器を保有しない個人の医院で出産した場合であった。しかし残りの10%は個人の医院での出産であったが任意・有料であったため希望しなかった場合と総合病院や大学病院での出産であったが検査機器を保有していないことがわかった。平成18年~19年の日本耳鼻咽喉科学会の福祉医療・乳幼児委員会の全国調査では、全国の出生児のうち聴覚スクリーニングを受けた新生児65%であった。このうちreferとなり耳鼻咽喉科の精密聴力検査を受診したものが0.7%で、重度難聴は0.1%であった。本調査は平成24年度に5~7歳になった東京医療センターの幼小児難聴・言語障害クリニックを難聴あるいは言葉の遅れを訴え受診した177例を対象とした。新生児聴覚スクリーニングを受けた症例はわずか31.6%に過ぎなかった。どのような対策を立てるべきであろうか。台湾ではスクリーニングが有料なうちは実施率は約60%とわが国と同様であったが、無料にしてからは100%となった。米国では大統領命で実施されるため、ほとんど100%の実施率である。わが国も新生児聴覚スクリーニングを無料かつ義務化すれば100%の実施率になろう。施設についてはセンター化して実施する方法と個人の産科に補助を出して検査機器を保有させて実施する方法の2つが考えられる。
結論
新生児聴覚スクリーニングの実施率はわれわれの外来の患者を通して調べた結果では31.6%に過ぎない。これを克服するには無料化と任意から強制へと変える必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224033B
報告書区分
総合
研究課題名
新生児聴覚スクリーニング導入以前と以後に育った先天性難聴児の診断・治療による中等教育までの成果と不都合な現実の対策のための研究
課題番号
H22-感覚-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
加我 君孝(東京医療センター 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 福島 邦博(岡山大学 医学部)
  • 坂田 英明(目白大学 保険医療学部)
  • 神田 幸彦(神田ENT医院)
  • 城間 将江(国際医療福祉大学 保健学部)
  • 内山 勉(東京医療センター 臨床研究センター)
  • 松永 達雄(東京医療センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2000年に始まった新生児聴覚スクリーニングは5年間のモデル事業を経て、その実施は地方に任され、最初の計画とは異なり、希望者に対して有料で行われている。そのための問題と、既に10年が過ぎ、何が問題かを不都合な問題として取り上げ、その対策を検討することにした。
研究方法
本研究班を構成する研究分担者、研究協力者の病院、施設の症例を研究対象とした。よりふさわしい病院、施設における調査研究をカルテのレビュー、患者両親へのインタビューなどを通して、何が不都合な現実か、現在の課題を整理し批判的にまとめ、対策を提案することにした。
結果と考察
平成24年度に5~7歳に達した症例で、初診時、聴覚・言語障害を主訴に受診した症例は177例中、新生児聴覚スクリーニングを受けていたのは31.6%に過ぎない。受けなかった約70%のほとんどが新生児聴覚スクリーニングの機器を持たない個人の産科で出生したことがわかった。機器を持つ個人の産科で出産したが、有料であるために希望しなかった症例もあった。
難聴発見年齢が0歳の6例、1歳の19例、2歳の13例について、難聴幼児通園施設で補聴器の指導下で教育を受け、就学時での言語性IQをWIPSSI検査を行い比較した。その結果、VIGは0歳で100、1歳は90、2歳は75で、より早い発見と早期教育の効果が大きいことがわかった。
人工内耳手術を受けた年齢の平均は、新生児聴覚スクリーニングでreferとなった23例で2.4歳±6ヶ月、スクリーニングの機会のなかった33例で3.3歳±4ヶ月、スクリーニングでpassとなったが後に難聴が判明した5例は3.7歳±0.5ヶ月であった。
人工内耳早期療育群(2歳)ではVIQ130、人工内耳の遅い症例群(3~4歳)ではVIQ90、補聴器群ではVIA90で、人工内耳早期療育群が著しく優れていた。
平成20年から24年の5年間の人工内耳手術77例のうち、成長とともに注意欠陥多動症候群(知的発達障害、自閉症)の症状がはっきりしてきたのは7例(約10%)であった。その主な基礎疾患はCMV感染2例、内耳奇形1例、その他原因不明は4例であった。
両側人工内耳手術を実施した29例について、片側だけの手術の時と両側の手術後の単語了解度について比較した。その結果、非雑音下では単語了解度は片側人工内耳の時は95.4%で両側人工内耳では97.5%とほとんど差を認めなかったが、ノイズ負荷時では、片側人工内耳は64%であったのに対して、両側人工内耳では86.7%と大幅に向上することが判明した。
東京都の聴覚口話法の公的施設は2施設で、2施設合わせて5年間の受け入れ可能数はわずかに82名で、これは約13%のキャパシティにすぎない。
本研究では新生児聴覚スクリーニングとその後の精密聴力検査、療育と教育にはスクリーニングが始まる時には予想できなかった多くの不都合な現実を明らかにした。新生児聴覚スクリーニングの価値は極めて高く、先天性難聴児の早期発見、早期教育によって就学時には補聴器および人工内耳装用のいずれでも健聴児と同じレベルの言語性IQを獲得できる。人工内耳は新しい医療で、聴覚言語を高いレベルで獲得できるようになったが、手術年齢が2~3歳のため、4~5歳になってADHDが合併する例が約10%に見出されることである。先天性難聴児についても発達障害児が含まれることを理解して、新しい療育を考えざるを得なくなった。
中等度難聴に対する早期補聴の重要性については本研究班の1年目の活動から強調して来たことであるが、現在でもこの障害者手帳の6級の対象にもならない。この現状に対し、われわれは市民公開講座や東京都医師会の学校保健会で講演するなどしてキャンペーンに取り組んできたが、引き続き努力することにしている。
医師向けに正しいABR検査ができるよう、診断と治療社より『幼小児の耳音響放射とABR』を発行した(2012年)。さらに社会及び患者の両親のために冊子、パンフレット、DVDなどを多数作成した。
結論
新生児聴覚スクリーニングは先天性難聴児の早期発見につながり、聴覚言語の獲得に効果的であるため、現在の不都合な問題の克服のためには全出生児に対して無料で行われるべきである。現在のように有料で行われ続ける限り進展は期待できない。同時に聴覚口話法の療育施設を2~3倍にしない限り、受け皿が圧倒的不足である。高等教育への影響は今後のフォローアップで明らかになろう。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224033C

収支報告書

文献番号
201224033Z