高齢者の健診のあり方に関する科学的エビデンスを構築するための研究

文献情報

文献番号
201222052A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の健診のあり方に関する科学的エビデンスを構築するための研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(独立行政法人国立長寿医療研究センター 予防開発部)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤 富士子(愛知淑徳大学 健康医療科学部)
  • 葛谷 雅文(名古屋大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では高齢者の割合が急増する中で、高齢者の健康増進、疾病の予防、早期発見・早期治療を目指すことが求められている。しかし現在行われている健診は中年層をターゲットにして、がんや生活習慣病に対する検査項目が設定され、判定基準が決められてきた。本研究ではふたつの長期にわたって追跡されている既存の大規模コホートを用いて、高齢者の健診のあり方を示すエビデンスを構築することを目的とした。
研究方法
本研究では(1)膨大な一般健診データを有するコホート、(2)高齢者に特有の疾患や病態に関しての詳細な検査データを有する地域住民コホートのふたつのコホートを用いて解析をおこなった。
(1)大規模健診疫学研究
 平成23年1月から12月までに名古屋市内の人間ドック機関を受診した男性14,898人、女性8,586人の合計23,484人を対象として検討を行った。平均年齢は49.3±9.9歳、年齢分布は18歳~89歳であった。生活習慣病を中心とした既存の健診対象疾患の中から高齢者健診でターゲットにすべき疾患を選定するため、性別に65歳未満群と65歳以上群に分けて有病率が高い疾患について洗い出しを行った。同様に、頻度の高い症状について性別に65歳未満群と65歳以上群に分けて検討した。
(2)地域住民疫学研究
 対象は1997年に開始された「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第7次調査参加者でMMSE検査が行われた60歳以上男女の中で認知症の現病歴・既往歴のある者を除いた1,247人(平均年齢71.6±7.5歳、男性639人、女性608人)である。平成22年国勢調査、国立社会保障・人口問題研究所が平成24年1月に公表した日本の詳細推計人口(中位出生、中位死亡)を用いて、潜在性有病者数の推計および2060年までの将来推計を行った。また、NILS-LSA第7次調査参加者のうち65歳以上の952人(男性480人、女性472人)を対象として高齢者の特有の病態について、有病率、全国推定有病者数、有病者数の将来推計を行った。
結果と考察
大規模人間ドックの平成23年検査結果23,793人分のデータを整理確認し、データベースの構築を行った。このデータを用いて生活習慣病を中心とした既存の健診対象疾患の中から高齢者健診でターゲットにすべき疾患を選定するため、65歳以上で有病率が高い疾患について洗い出しを行った。その結果、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、痛風、不整脈、緑内障、白内障、前立腺疾患(男性のみ)が多く、自覚症状としては腰の痛み、首筋・肩の凝り、目の疲れ・痛み、体がだるい、頭痛などの頻度が高かった。これらの結果から、血圧測定や血清脂質、血糖、HbA1c、尿酸、心電図等の一般検査は高齢者健診でも重要であり、これらに加え眼科検診や腰椎レントゲン撮影なども高齢者のスクリーニング検査に必要であると判断された。無作為抽出された地域住民コホート研究では、第7次調査を平成24年7月に2,330名の調査で終了し、データの整理確認を行った。平成9年からの15年間の調査で総計3,983名、延べ16,338件の調査を行い、そのデータ整備を行った。骨粗鬆症、認知症、ADL低下、鬱、低栄養など、高齢者に特徴的でありながら健診でのエビデンスの乏しい病態について、新たに健診の対象にすべき高齢者疾患や病態を決定する代表性のあるデータである特色を生かし、全国での65歳以上患者数推計を行った。その結果、鬱518万人、骨粗鬆症962万人、低栄養212万人、脆弱(ADL低下)896万人と推定された。これら高齢者に高頻度にみられる病態、疾患は将来推計でも今後急速に患者数が増加していくことが確認された。また、潜在性認知症は152万人(男性63万人、女性88万人)、潜在性MCIは1,021万人(男性498万人、女性524万人)であり、両者をあわせると1,173万人が認知機能に何らかの問題を持ちながらも医療機関を受診していない状態であると考えられた。潜在性認知症患者数は2020年には200万人、2040年には250万人に達し、その後も微増すると推定された。潜在性MCI患者数は2040年に約1,450万人となり、その後は高齢者人口の低下に伴い、やや低下すると推定された。また、調査で実施されている多数の老化・老年病関連の検査項目のデータから、これらの疾患のスクリーニングに必要な検査項目を抽出した。骨密度検査、腰椎レントゲン検査、鬱スクリーニング検査、FFQ等の簡易栄養調査、認知機能検査などが高齢者健診では重要であると判断された。
結論
今年度の研究から、高齢者にとって重要な疾患や病態が選定され、そのスクリーニングのための検査項目が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2016-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201222052Z