文献情報
文献番号
201222016A
報告書区分
総括
研究課題名
肥満残存高血圧合併睡眠時無呼吸患者に対する防風通聖散及び大柴胡湯の治療効果の比較と病態生理の解明
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
陳 和夫(京都大学 大学院医学研究科呼吸器管理睡眠制御学講座)
研究分担者(所属機関)
- 櫻井 滋(岩手医科大学医学部睡眠医療学科)
- 赤柴 恒人(日本大学医学部睡眠学・呼吸器内科分野)
- 佐藤 誠(筑波大学大学院人間総合科学研究科睡眠医学講座)
- 井上 雄一(公益財団法人神経研究所附属睡眠学センター)
- 木村 弘(奈良県立医科大学内科学第二講座)
- 巽 浩一郎(千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学)
- 榊原 博樹(藤田保健衛生大学医学部呼吸器内科学1)
- 塩見 利明(愛知医科大学医学部睡眠科)
- 宮崎 総一郎(滋賀医科大学睡眠学講座)
- 赤水 尚史(和歌山県立医科大学内科学第一講座)
- 上嶋 健治(京都大学大学院医学研究科EBM研究センター)
- 別所 和久(京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座口腔外科学)
- 吉田 和也(国立病院機構京都医療センター歯科口腔外科)
- 星野 勇馬(京都大学医学部附属病院呼吸器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
治療対象の閉塞型睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)は、現状では成人男子の約20%、女性の10%に達しようとしている。OSA患者の約7割以上は肥満を呈している。また、高血圧や糖尿患者においては治療対象OSAの頻度はさらに増す。OSAの標準的な治療は持続気道陽圧(continuous positive airway pressure:CPAP)であるが、対象治療法であり、根本治療法ではない。健康保険下でCPAP使用患者は20万人を超え、この数年、毎年3万人以上増加している。肥満が原因のOSA患者にとっては肥満解消が原因治療にもなるので、有効な減量薬物の出現が待たれる。健康保険下で使用されている漢方製剤の一部には肥満患者の減量が効用となっている薬剤が存在する。また、本薬剤の一部は抗肥満薬として市販されている。漢方製剤は本邦において健康保険下で広く使用されているが、その効用を科学的根拠で示す資料は少ない。本研究の目的は、既存治療(栄養運動療法にCPAPまたは口腔内装置治療)後の肥満OSA患者に健康保険下で使用されている漢方製剤が減量薬及び降圧薬として有効であるか否かを検証することである。
研究方法
既存治療(栄養運動療法にCPAPまたは口腔内装置治療)が6カ月以上行われている肥満残存(高血圧合併)、治療対象OSA患者に、肥満・高血圧の改善を目指して、肥満・高血圧に薬効を持つ防風通聖散、大柴胡湯の2剤を使用するrandomized control trail(RCT)法にて臨床研究を行う。また、無投薬群との比較も行う。主任および各分担研究施設において、本研究課題に関連して各個研究も行っている。
結果と考察
持続気道陽圧(continuous positive airway pressure:CPAP)治療128症例のうち63例が大柴胡湯群に65例が防風通聖散群に割り付けされた。そのうち大柴胡湯群54例・防風通聖散群52例が半年間の内服期間を終了し解析対象となった。半年間の服薬内服後において、大柴胡湯群ではBMIに変化がなかった(内服前:33.5±7.6kg/m2, 6か月後: 33.6±7.5 kg/m2, p=0.70)のに対し防風通聖散群では有意な減少(内服前:33.6±5.8kg/m2, 6か月後: 32.8±7.5 kg/m2, p<0.01)が見られた。半年間の変化を2群間で比較すると、防風通聖散群の方でBMIが有意に減少していた(p=0.01)。家庭血圧の変化については、起床時拡張期血圧で大柴胡湯群において有意な低下が見られたが、両薬剤の差について有意差は認めなかった。両群106症例中83例(大柴胡湯群 41例 防風通聖散群 42例)で患者の同意を得て、半年間の内服前後にて腹部CTで内臓脂肪量の変化が評価された。内臓脂肪量は防風通聖散群で半年間の経過で有意な減少が見られ(内服前:209.3±76.0 cm2, 6か月後:192.0±80.4 cm2, p=0.02)、大柴胡湯群(内服前:193.6±102.0 cm2, 6か月後:198.0±102.3 cm2, p=0.38)と比較しても有意な差を認めた(p=0.02)。口腔内装置症例には20例が登録され19例が半年間の内服期間を終了した。防風通聖散の半年間の内服においてBMIは28.5±3.0 kg/m2 から 27.7±3.0 kg/m2へと有意に減少していた。(p<0.01)。各個研究からは、大都市の平均年齢44歳の男性サラリーマンの約300名のコホート資料で、血清中性脂肪値には睡眠呼吸障害指数が、総コレステロール値には睡眠時間が有意に関与することを明らかにした (Chest 2013; 143:720-728)。
結論
OSA治療中の高血圧・肥満が残存する患者において、防風通聖散は半年間の内服において有意な減量効果をもたらし効果的な抗肥満薬となる可能性が示された。本研究により、健康保険下で使用され、漢方製剤中最も多く使用されている漢方製剤の一つである防風通聖散に軽度ながらも有意な減量効果と内臓脂肪減少効果があることが、科学的に示された。また、各個研究からは血清中性脂肪値には睡眠呼吸障害指数が、総コレステロール値には睡眠時間が有意に関与していることが明らかになるとともに、睡眠時無呼吸の多方面からの研究の必要性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2013-05-28
更新日
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