生活習慣病予防活動・疾病管理による健康指標に及ぼす影響と医療費適正化効果に関する研究

文献情報

文献番号
201222012A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病予防活動・疾病管理による健康指標に及ぼす影響と医療費適正化効果に関する研究
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
津下 一代(あいち健康の森健康科学総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 村本 あき子(あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 山本 直樹(トヨタ自動車安全健康推進部)
  • 玉腰 暁子(北海道大学公衆衛生学)
  • 川渕 孝一(東京医科歯科大学医療経済学)
  • 伊藤 由希子(東京学芸大学人文社会学系経済学分野)
  • 中村 正和(大阪がん循環器病予防センター)
  • 小池 城司(福岡市医師会成人病センター)
  • 沼田 健之(岡山県南部健康づくりセンター)
  • 小谷 和彦(自治医科大学公衆衛生学)
  • 織田 順(東京医科大学救急医学)
  • 宮地 元彦(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
21,749,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メタボリックシンドローム(MetS)に対する特定保健指導について、医学的・経済学的に評価することを目的とし、4つのテーマについて研究を進めた。1)特定保健指導が生活習慣病関連検査指標に及ぼす効果について検証する。2)健診・レセプト情報から医療費増大の要因を分析する。特定保健指導の医療費に及ぼす影響を検証する。3)運動指導の安全確保について検討する。4)特定健診データを活用した健康日本21推進支援のための資料パッケージ、ソフトを作成する。
研究方法
1)7府県の積極的支援該当48,379例、動機付け支援該当26,767例を登録。積極的支援を実施した14,705例のうち1年後の健診データがある8,032例について効果を評価した。対照群は積極的支援該当者のうち保健指導を実施せず翌年健診受診した5,370人とした。喫煙・属性別の効果やプログラム内容の影響を分析した。長期的効果として初年度積極的支援該当で4年連続してデータ登録がある6,450人を対象とし、1回以上積極的支援を実施した群と支援無群で検査値、服薬率を比較した。
2)Johns Hopkinsの ACG Systemを用いて医療経済面より保健事業のニーズとリスクについて検討した。保健指導の実施が医療費に及ぼす影響を、初回健診後から約4年後まで検証した。
3)保健指導中の運動関連傷病発生状況を調査し、事故発生率や症状等を集計した。
4)人口動態統計、国民健康・栄養調査等の既存データを用い、地方自治体の健康日本21関連結果をグラフ等で見える化し、資料パッケージを作成した。特定健診データの集計値を用い、性・年齢階級別平均値や有所見率をグラフ表示するソフトを開発した。
結果と考察
1)積極的支援実施群では1年後に体重が1.7kg減、血圧、脂質、血糖、肝機能に有意な改善を認め、MetS該当者は42.5%→21.9%、MetS+予備群該当者は92.3%→55.3%へと減少した。3-5%が減量目標として妥当と考えられた。1年後の効果が大きいのは、非喫煙者、初回支援時の6カ月後評価時血液検査告知、グループ支援、医師、健康運動指導士の関与、食事、運動実技、初回支援以降のプログラムでは獲得ポイント総数180ポイント以上、医師、健康運動指導士の関与であった。3年後、積極的支援実施群ではBMI・腹囲減少量が有意に大きく、FPG、HbA1cの悪化を有意に抑制、服薬率が有意に低かった。喫煙の影響は、1年後では有意であったが、2年後、3年後には有意ではなくった。
2)ACGにより健保60,461 人のデータを用いて、予防・外来・入院費用を含む医療費の構造をにより分析した。一人当たり医療費および薬剤費を被説明変数とし、ACG固有の指標に年齢、性別、職種、メタボリックシンドローム階層化判定といったわが国独自の変数を加えて、これらを説明変数として、都合4通りの回帰分析を行った。その結果、当該説明変数はどれも統計的に有意で、ACGの汎用性がわが国のデータからも検証された。健保データを用いた医療費分析では、保健指導の生活習慣病医療費低減効果は完了後1年間がもっとも高く、同一のリスク判定の未参加者と比較して2310円/年(±595円)低いが、2~3年後は効果が弱くなることがわかった。初回に積極的支援の判定となった者が2年目・3年目に1度以上再び積極的支援に該当する確率は58.9%と6割近いが、保健指導完了者では21.7%と低くなっている。医療費の構成要素として、保健指導後1年間は医療機関受診あるいは処方箋服薬の可能性が23.5%(±18.7%)有意に低減した。
3)積極的支援男性対象者の傷病発生率は3.6%であり、症状は腰痛53.4%、膝関節症状21.6%と整形外科傷病がほとんどであった。積極的支援経過中にクモ膜下出血1件、脳梗塞1件、動機づけ支援にて脳梗塞1件の報告があったが、運動時の発症ではなかった。運動関連の心肺停止例については、Bystander CPRが心拍再開と関連したことから、運動指導にあたっては、これらの発生リスクと対処法を理解しておくことは意義があると考えられた。
4)保健、医療、介護の領域のデータを概観できる冊子と簡単な操作で地域の健康状態が見える化できるソフトを開発した。多様な観点から健康格差が確認でき、健康日本21の推進に有用であると考えられた。
結論
特定保健指導により1年後、3年後の検査値の改善と服薬率、医療費の低減が観察されたが、保健指導効果は対象者特性や方法により影響を受けることがわかった。特定健診データを分析することにより地域の健康格差を把握することができ、健康政策を推進するうえで不可欠と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-04-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201222012B
報告書区分
総合
研究課題名
生活習慣病予防活動・疾病管理による健康指標に及ぼす影響と医療費適正化効果に関する研究
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
津下 一代(あいち健康の森健康科学総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 玉腰 暁子(北海道大学 公衆衛生学教室)
  • 中村 正和(大阪がん循環器病予防センター予防推進部長)
  • 小池 城司(福岡市医師会成人病センター 部長)
  • 山本 直樹(トヨタ自動車、安全健康推進部)
  • 小谷 和彦(自治医科大学・公衆衛生学)
  • 沼田 健之(岡山県南部健康づくりセンター)
  • 村本あき子(あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 川渕 孝一(東京医科歯科大学医療経済学)
  • 伊藤由希子(東京学芸大学経済学)
  • 織田 順(東京医科大学 救急医学)
  • 宮地 元彦(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メタボリックシンドローム(MetS)の概念を活用した特定健診・保健指導が健康指標や医療費に及ぼす効果、有害事象等を検討する目的で、健診・保健指導・医療費のデータベースを作成し、3年間の研究を進めてきた。最終年度には健康日本21推進支援の目的で特定健診都道府県別集計値や既存統計資料を活用した資料パッケージ、ソフト開発を追加研究として実施した。
研究方法
1)保健指導が健康指標に及ぼす効果についての検討:7府県保険者の協力を得て特定健診データベースを作成、保健指導の有無による検査値等の変化を比較した。積極的支援の6か月、1年、2-3年後の検査値の変化、動機づけ支援1年後の評価を行った。
2)保健指導が医療費に及ぼす効果に関する検討:2健保において医療費増大に関わる要因を20年間の長期的な分析ならびにAdjusted Clinical Group System(ACG)を用いた断面調査で検討した。積極的支援該当者において特定保健指導実施群と非実施群の医療費を4年間追跡、比較した。
3)特定保健指導の安全性に関する検討:救命救急における運動関連事故の調査を行い、マニュアルを作成した。特定保健指導経過中の運動関連事故調査を実施した。
4)地方自治体における健康日本21(第二次)推進資料パッケージ、ソフト開発:人口動態統計、国民生活基礎調査、国民健康・栄養調査等の既存データを用い、地方自治体の健康日本21関連結果をグラフ等で見える化、資料パッケージを作成した。
結果と考察
1)保健指導効果の検討:22年度は積極的支援6ヶ月後の評価を行い、体重 2.6㎏減、血圧、脂質、血糖、肝機能に有意な改善を認めた。23年度は対象者特性による保健指導効果の差の分析を行い、性・年代、保健指導前のリスク保有状態等による効果の差を明らかにした。24年度は短期的評価に加え、保健指導3年後の長期的効果を検証した。積極的支援3年後、実施群ではBMI・腹囲減少量が有意に大きく、空腹時血糖、HbA1cの悪化を有意に抑制、服薬率が有意に低く、特に受診勧奨判定値以上のリスクを持つ対象者で支援効果が高かった。初年度空腹時血糖100≦<110mg/dlの正常高値群において「3年後に糖尿病が強く疑われる例」の割合が実施群で有意に低かった。本研究班で得られた知見より、体重減少率と検査値改善の間に有意な関連がみられ、減量達成者割合を考慮すると3-5%の減量が1年後の減量目標として妥当であると学会、論文等で発表した。
2)保健指導が医療費に及ぼす効果に関する検討:健保の健診データ、レセプトデータを用い、予防・外来・入院費用を含む医療費の構造をACGにより分析、一人当たり医療費および薬剤費に対して、メタボリックシンドローム階層化判定の有意な関連が示された。健保保健指導対象者について、体重の増減、保健指導参加の有無がその後の医療費に及ぼす影響について検討した。体重の1%の増減は医療費5%程度に反映すること、保健指導の生活習慣病医療費低減効果は完了後1年間がもっとも高く、同一のリスク判定の未参加者と比較して2310円/年(±595円)低いが、2~3年後は効果が弱くなること、保健指導該当のリピート率は保健指導完了者では21.7%で、全体の58.9%よりも低いことがわかった。
3)特定保健指導の安全性に関する検討:運動関連事故事例を収集。その結果をもとに「特定保健指導における運動指導の安全対策」マニュアルを作成し、安全な運動指導の実践、救命救急の体制について啓発した。特定保健指導経過中の運動関連事故調査をおこなった。積極的支援男性対象者の傷病発生率は3.6%で、その75%を腰痛、膝関節症状等で占めることがわかった。
4)ナショナルデータベースの集計値から年齢調整値を算出、マップ化できる機能等をもつソフトを開発した。多様な視点で健康格差の見える化から対策につなげる必要性がある。
結論
特定保健指導により1年後、3年後の検査値の改善と服薬率、医療費の低減が観察されたが、保健指導効果は対象者特性や方法により影響を受けることがわかった。特定健診データの分析により保健事業の効果を検証できるだけでなく、健康格差を多様な視点で可視化できることから健康政策を推進するうえで不可欠と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-04-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201222012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
特定保健指導の実施により、未実施群と比較して健診データの改善、3年後の生活習慣病薬剤使用の抑制につながることを明らかにした。体重減少率に依存して、血圧、血糖、脂質等の改善がみられること、3%以上の減量ですべての特定健診データの有意な改善を認めることを示した。特定健診ナショナルデータベースを活用し、健康日本21指標のモニタリング方法を提案した。
臨床的観点からの成果
メタボリックシンドロームや肥満症の保健指導において、まず3%の減量を目指す必要があること、体重減量の方法としては食生活の改善や身体活動量の増加など、本人の出来そうなことから始める特定保健指導の方法論の有用性を示すことができた。
ガイドライン等の開発
研究班で作成した「地方自治体による効果的な健康施策展開のための既存データ活用の手引き」は、厚生労働省の「地域における行政栄養士による健康づくり及び栄養・食生活の改善の基本指針」を実践するための資料集」の基礎資料となった。また国立保健医療科学院における「健康・栄養調査の企画・運営・評価に関する研修」(平成26年1月29日)で活用された。研究班で作成した「特定保健指導における運動指導の安全対策」は「健康づくりのための身体活動基準2013」(平成25年3月)に引用された。
その他行政的観点からの成果
保険者による健診・保健指導等に関する検討会(平成26年4月18日)、同WG会議において本研究班の知見に基づく分析方法を用いてNDBを分析、国としての保健指導の効果分析に役立てることができた。
その他のインパクト
第35回日本高血圧学会総会市民公開講座「メタボ時代の高血圧に気をつけて」、
第36回日本高血圧学会総会 市民公開講座「血圧はどこまで下げればいいのだろう」、
第14回国立健康・栄養研究所 一般公開セミナー「健康づくりは社会とともに」、
平成25年度保健師中央会議「第二期の特定健診・特定保健指導~健康日本21(第二次)と連動した展開に向けて~」等

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
42件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
5件
その他成果(普及・啓発活動)
75件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akiko Muramoto, Madoka Matsushita, Kazuyo Tsushita.et al
Three percent weight reduction is the minimum requirement to improve health hazards in obese and overweight people in Japan.
Obes Res Clin Pract  (2013)
http://dx.doi.org/10.1016/j.orcp.2013.10.003
原著論文2
中村誉、秋元悠里奈、津下一代.他
特定保健指導による運動量・エネルギー摂取量の変化と体重減少・検査値変化との関連
東海公衆衛生学会雑誌 , 1 (1) , 64-70  (2013)
原著論文3
畑中陽子、玉腰暁子、津下一代
20歳代男性のBMIならびにその後の体重原価が40歳代における高血圧・糖尿病の有病率および医療費に及ぼす影響
産業衛生雑誌 , 54 (4) , 141-149  (2012)
原著論文4
村本あき子、加藤綾子、津下一代
市町村国保におけるメタボリックシンドローム対策のための積極的支援型保健指導プログラムの1年後の効果評価
日本健康教育学会 , 18 (3) , 175-185  (2010)
原著論文5
村本あき子、山本直樹、津下一代
特定健診・特定保健指導における積極的支援の効果検証と減量目標の妥当性についての検討
肥満研究 , 16 (3) , 182-187  (2010)
原著論文6
玉腰暁子、中沢あけみ、津下一代
軽度尿酸値異常者に対するセルフケア型保健指導の効果
人間ドック , 25 (1) , 84-89  (2010)
原著論文7
A Muramoto, K Tsushita, A Kato,et al
Angiopoietin-like protein 2 sensitively responds to weight reduction induced by lifestyle intervention on overweight Japanese men.
Nutrition and Diabetes  (2011)
e20; doi:10.1038/nutd.2011.16
原著論文8
松永里香、小池城司
多理論行動モデルに基づく行動変容ステージ別特定保健指導プログラムの開発とその妥当性の検討
日循予防誌 , 45 , 169-179  (2010)
原著論文9
肘井千賀、江上薫、小池城司
百貨店での食事バランスガイドの啓発活動と認知の実態
栄養学雑誌 , 69 (6) , 335-342  (2011)
原著論文10
松原建史、柳川真美、小池城司
日本人成人における二重積屈曲点から評価した最大下有酸素作業能力
日本公衛誌 , 58 (3) , 168-175  (2011)
原著論文11
沼田健之、宮武伸行
メタボリックシンドロームおよびその予備群に対する人間ドックの効果
日本予防医学会雑誌 , 6 , 143-147  (2011)
原著論文12
Yumiko Nakashita, Masakazu Nakamura
Relationship of cigarette smoking status with other unhealthy lifestyle habits in Japanese employees
日健教誌 , 19 (3) , 204-216  (2011)
原著論文13
A Ozeki, A Muramoto, K Tsushita.
Does Maintenance of Body Shape Contribute to Health inMiddle-Aged Women? Relationship between Changes in Body Shape during OverThirty Years and Laboratory Find- ings.
Anti- Aging Medicine , 8 (5) , 53-59  (2011)
原著論文14
畑中陽子、玉腰暁子、津下一代
働き盛り世代の男性における8 年間の追跡からみた年代別 虚血性心疾患の発症リスク
産業衛生学雑誌 , 57 (3) , 67-76  (2015)
原著論文15
Okada R, Yasuda Y, Tsushita K, Wakai K, Hamajima N, Matsuo S.
Upper-normal waist circumference is a risk marker for metabolic syndrome in normal-weight subjects.
Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases. , 26 , 67-76  (2016)
原著論文16
豊田将之 村本あき子 津下一代
多量飲酒者に対する通常の特定保健指導の効果 -非飲酒者,少量飲酒者との比較-
人間ドック , 31  (2016)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2016-06-20

収支報告書

文献番号
201222012Z