睡眠呼吸障害による生活習慣病に関する医療情報提供とその効果の評価

文献情報

文献番号
201222010A
報告書区分
総括
研究課題名
睡眠呼吸障害による生活習慣病に関する医療情報提供とその効果の評価
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
谷川 武(国立大学法人愛媛大学? 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北村 明彦(大阪府保健医療財団大阪がん循環器病予防センター)
  • 陳 和夫(国立大学法人京都大学大学院医学研究科)
  • 木村 弘(奈良県立医科大学医学部・内科学第二講座)
  • 磯 博康(国立大学法人大阪大学大学院医学系っ研究科)
  • 中野 博(国立病院機構福岡病院・呼吸器内科学)
  • 斉藤 功(国立大学法人愛媛大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
2,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
睡眠呼吸障害は糖尿病や高血圧の危険因子であり、対策必要である。本研究は、平成13 ~15年度にかけて申請者らが先駆的に睡眠呼吸障害対策を実施してきた地域を中心に睡眠に関する新たな医療情報の提供が及ぼす生活習慣病予防に与える効果と、将来に向けたより効果的な情報提供のあり方を提言することを目的とした。
研究方法
.過去に睡眠呼吸障害対策を実施した地域住民約7500人に対する生活習慣病発症コホート研究と睡眠呼吸障害フォローアップ調査
秋田県I町、大阪Y市、茨城県C市の地域住民約7,500人を対象に、平成22年末までのフォローアップ調査を実施し、糖尿病、高血圧、脂質異常、メタボリックシンドローム等の新規の生活習慣病発症との関連を検討した。また、同地域において平成13 ~15年度に睡眠呼吸障害スクリーニングを受けた対象者に対し、睡眠呼吸障害の治療状況に対する意識調査、生活習慣の改善状況等に関するアンケート調査を実施した。
2.地域住民約2,000人を対象とする睡眠呼吸障害に関する詳細検査
愛媛県T市では、フローセンサとパルスオキシメータを用いた睡眠呼吸障害スクリーニングに加え、75gブドウ糖負荷試験等の検査項目、さらに、睡眠呼吸障害に関する知識・認識度の質問、睡眠に関連したピッツバーグ質問紙、ベルリン質問紙、JESS(日本語版Epworth Sleepiness Scale)、その他の生活習慣に関するアンケートを含んだ詳細健診を行った。

3.糖尿病患者約2,000人に対する睡眠呼吸障害スクリーニング検査
さらに、臨床研究として、愛媛県内における糖尿病専門病院に通院している糖尿病患者約2,000人に対し、睡眠呼吸障害スクリーニングを実施し、2.と同様のアンケート調査を含め、糖尿病患者における睡眠呼吸障害に関する知識・認識度、生活習慣の実態、睡眠呼吸障害の有病率やその重症度、ならびに糖尿病合併症との関連について分析した。また、睡眠呼吸障害の治療により糖代謝、高血圧、脂質異常等の改善、さらには糖尿病合併症に及ぼす効果等について検討した。
結果と考察
1.
(1)生活習慣病発症コホート研究
女性では、毎日いびきをかく者で、循環器疾患の発症が2.5倍高く、BMIにて調整するとその関連は減弱した。また、同様に、いびきのある者では男女とも高血圧発症リスクが1.4倍高かった。さらに、非過体重者であっても、いびきは男性で1.5倍、女性で1.4倍の高血圧発症リスク上昇と関連することが示された。

(2)睡眠呼吸症書きフォローアップ調査
睡眠呼吸障害スクリーニング検査が「役立った」、「とても役立った」と回答した者は、男性では、中等度の睡眠呼吸障害かつ病的な眠気がありの者の34.3%、重症の睡眠呼吸障害の疑いが有る者の54.6%を占め、スクリーニング検査とその後の情報提供は治療や日常の生活習慣改善に少なからず役立ったと考えられた。重症の睡眠呼吸障害の疑いがある者の医療期間受診へつなげる必要性があると考えられるE判定者の中にも、判定後一度も医療機関にかかっていない人が半数以上存在したことから、今後は、治療の必要性を十分に理解してもらう工夫と受診勧奨の強化が必要であると考えられた。

2.
愛媛県東温市の約1500人において、高血圧群はRDIが有意に高かった。また、高血圧群のみRDIと眠気に有意な正の相関を認めた。また、睡眠呼吸障害とインスリン感受性の低下および耐糖能異常との関連が明らかになった。
さらに、スマートフォン(SP)を用いてモニタリングする方法を開発したSPで求めたいびき時間、いびき強度、無呼吸低呼吸指数はそれぞれPSGでの結果と良い相関(r=0.92,r=0.88,r=0.94)があり、有力なモニタリング方法であることが示唆された。

3.
愛媛県内の各地域の糖尿病患者513人を対象とし、睡眠呼吸障害の有病率を算出したところ、45.5% で、睡眠呼吸障害の重症例は高度肥満例(BMI>30以上)で高率であったが、非肥満者(BMI<23)であっても、中等度以上のSDBの合併は35.4%であった。また、3%ODI値が高いほど、糖尿病に合併した高血圧、高脂血症、糖尿病性腎症の有病率が高かった。また、Mild以上の睡眠呼吸障害は糖尿病腎症と有意に関連した。さらに、脂質異常症のある群ではない群と比較して、重症OSAの罹患率とSpO2(経皮酸素飽和度)90%未満の%睡眠時間が高値を、睡眠時間と就寝中の平均SpO2が低値を示した。多変量回帰分析において、血清中性脂肪値とRDIとの関連が認められた。
結論
睡眠呼吸障害と循環器疾患の危険因子との関連、さらに糖尿病、糖尿病合併症との関連が明らかになり、睡眠呼吸障害の予防の重要性がさらに明確になった。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201222010B
報告書区分
総合
研究課題名
睡眠呼吸障害による生活習慣病に関する医療情報提供とその効果の評価
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
谷川 武(国立大学法人愛媛大学? 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北村明彦(大阪がん循環器病予防センター)
  • 陳和夫(京都大学大学院医学研究科)
  • 木村弘(奈良県立医科大学医学部・内科学第二講座)
  • 磯博康(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 中野博(国立病院機構福岡病院・呼吸器内科学)
  • 斉藤功(愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 櫻井進(天理医療大学臨床検査学科)
  • 岡靖哲(愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 古川真哉(愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 丸山広達(愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 江口依里(愛媛大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
睡眠呼吸障害は糖尿病や高血圧の危険因子であり、対策必要である。本研究は、平成13 ~15年度にかけて申請者らが先駆的に睡眠呼吸障害対策を実施してきた地域を中心に睡眠に関する新たな医療情報の提供が及ぼす生活習慣病予防に与える効果と、将来に向けたより効果的な情報提供のあり方を提言することを目的とした。
研究方法
1.過去に睡眠呼吸障害対策を実施した地域住民約7500人に対する生活習慣病発症コホート研究と睡眠呼吸障害フォローアップ調査
秋田県I町、大阪Y市、茨城県C市の地域住民約7,500人を対象に、平成22年末までのフォローアップ調査を実施し、糖尿病、高血圧、脂質異常、メタボリックシンドローム等の新規の生活習慣病発症との関連を検討した。また、同地域において平成13 ~15年度に睡眠呼吸障害スクリーニングを受けた対象者に対し、睡眠呼吸障害の治療状況に対する意識調査、生活習慣の改善状況等に関するアンケート調査を実施した。

2.地域住民約2,000人を対象とする睡眠呼吸障害に関する詳細検査
愛媛県T市では、フローセンサとパルスオキシメータを用いた睡眠呼吸障害スクリーニングに加え、75gブドウ糖負荷試験等の検査項目、さらに、睡眠呼吸障害に関する知識・認識度の質問、睡眠に関連したピッツバーグ質問紙、ベルリン質問紙、JESS(日本語版Epworth Sleepiness Scale)、その他の生活習慣に関するアンケートを含んだ詳細健診を行った。

3.糖尿病患者約2,000人に対する睡眠呼吸障害スクリーニング検査
さらに、臨床研究として、愛媛県内における糖尿病専門病院に通院している糖尿病患者約2,000人に対し、睡眠呼吸障害スクリーニングを実施し、2.と同様のアンケート調査を含め、糖尿病患者における睡眠呼吸障害に関する知識・認識度、生活習慣の実態、睡眠呼吸障害の有病率やその重症度、ならびに糖尿病合併症との関連について分析した。また、睡眠呼吸障害の治療により糖代謝、高血圧、脂質異常等の改善、さらには糖尿病合併症に及ぼす効果等について検討した。
結果と考察
1.
(1)生活習慣病発症コホート研究
女性では、毎日いびきをかく者で、循環器疾患の発症が2.5倍高く、BMIにて調整するとその関連は減弱した。また、同様に、いびきのある者では男女とも高血圧発症リスクが1.4倍高かった。さらに、非過体重者であっても、いびきは男性で1.5倍、女性で1.4倍の高血圧発症リスク上昇と関連することが示された。

(2)睡眠呼吸症書きフォローアップ調査
睡眠呼吸障害スクリーニング検査が「役立った」、「とても役立った」と回答した者は、男性では、中等度の睡眠呼吸障害かつ病的な眠気がありの者の34.3%、重症の睡眠呼吸障害の疑いが有る者の54.6%を占め、スクリーニング検査とその後の情報提供は治療や日常の生活習慣改善に少なからず役立ったと考えられた。重症の睡眠呼吸障害の疑いがある者の医療期間受診へつなげる必要性があると考えられるE判定者の中にも、判定後一度も医療機関にかかっていない人が半数以上存在したことから、今後は、治療の必要性を十分に理解してもらう工夫と受診勧奨の強化が必要であると考えられた。

2.
愛媛県東温市の約1500人において、高血圧群はRDIが有意に高かった。また、高血圧群のみRDIと眠気に有意な正の相関を認めた。また、睡眠呼吸障害とインスリン感受性の低下および耐糖能異常との関連が明らかになった。
さらに、スマートフォン(SP)を用いてモニタリングする方法を開発したSPで求めたいびき時間、いびき強度、無呼吸低呼吸指数はそれぞれPSGでの結果と良い相関(r=0.92,r=0.88,r=0.94)があり、有力なモニタリング方法であることが示唆された。

3.
愛媛県内の各地域の糖尿病患者513人を対象とし、睡眠呼吸障害の有病率を算出したところ、45.5% で、睡眠呼吸障害の重症例は高度肥満例(BMI>30以上)で高率であったが、非肥満者(BMI<23)であっても、中等度以上のSDBの合併は35.4%であった。また、3%ODI値が高いほど、糖尿病に合併した高血圧、高脂血症、糖尿病性腎症の有病率が高かった。また、Mild以上の睡眠呼吸障害は糖尿病腎症と有意に関連した。さらに、脂質異常症のある群ではない群と比較して、重症OSAの罹患率とSpO2(経皮酸素飽和度)90%未満の%睡眠時間が高値を、睡眠時間と就寝中の平均SpO2が低値を示した。多変量回帰分析において、血清中性脂肪値とRDIとの関連が認められた。
結論
睡眠呼吸障害と循環器疾患の危険因子との関連、さらに糖尿病、糖尿病合併症との関連が明らかになり、睡眠呼吸障害の予防の重要性がさらに明確になった。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201222010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は社会医学研究者と臨床医学研究者が連携して行った研究であり、国際的な学術専門誌にも4報の成果を報告している。これらの成果は、本研究の目的にある睡眠に関する新たな医療情報の提供に資するエビデンスとなる。
臨床的観点からの成果
本研究の臨床的観点からの成果として、睡眠障害が耐糖能異常や腎機能に影響を及ぼすことを、一般集団のみならず糖尿病患者においても見出した。さらには、昨今普及率が伸びているスマートフォンを活用したいびきのスクリーニング等の睡眠に関する普及啓発に関わるツールの開発に関する成果もある。
ガイドライン等の開発
本研究の直接的成果ではないが、研究代表者の谷川がは2014年春に公表された「健康づくりのための睡眠指針2014」の検討会委員として加わり、本研究で得られて知見等を基に指針策定に関わった。
その他行政的観点からの成果
下記に示す公開シンポジウムを開催した。本シンポジウムは愛媛県東温市と協力して運営しているコホート研究「東温スタディ」の成果還元を踏まえたものであり、施策への直接的な反映はないが、地域住民の健康づくりに関する情報を発信を行った。
その他のインパクト
平成26年5月19日に、研究代表者の前任地である愛媛県東温市において、本研究で得られたエビデンスや、「健康づくりのための睡眠指針2014」のことなどを含めた、健康に関する公開シンポジウムを開催した(参加約140名)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成26年5月19日

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakano H, Hirayama K, Sadamitsu Y, et al.
Monitoring sound to quantify snoring and sleep apnea severity using a smartphone: proof of concept.
J Clin Sleep Med. , 10 (1) , 73-78  (2014)
原著論文2
Furukawa S, Saito I, Yamamoto S, et al.
Nocturnal intermittent hypoxia as an associated risk factor for microalbuminuria in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus.
Eur J Endocrinol , 169 (2) , 239-246  (2013)
原著論文3
Tanno S, Tanigawa T, Saito I, et al.
Sleep-related intermittent hypoxemia and glucose intolerance: a community-based study.
Sleep Med. , 15 (10) , 1212-1218  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201222010Z