より有効ながん医療政策の決定に資する、がん対策に対する医療経済評価に関する研究

文献情報

文献番号
201221059A
報告書区分
総括
研究課題名
より有効ながん医療政策の決定に資する、がん対策に対する医療経済評価に関する研究
課題番号
H23-がん臨床-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小松 恒彦(帝京大学 医学部第三内科)
研究分担者(所属機関)
  • 湯地 晃一郎(東京大学医科学研究所附属病院)
  • 眞鍋 文雄(医療法人桐友会 まなべクリニック)
  • 斉藤 秀之(医療法人社団 筑波記念病院)
  • 鞍馬 正江(医療法人社団 筑波記念病院 血液病センター)
  • 池澤 和人(医療法人社団 筑波記念病院)
  • 児玉 有子(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、がんに関わる予防、早期発見、治療における費用およびその効果と、がんによる経済的損失等の間接費用および精神 社会的な費用を、国民の誰にもわかりやすくかつ医療政策決定にも資すことができる指標で明示することである。さらに既にコンセンサスの得られているデータを活用することで、方法論に拘泥することなく、喫緊の課題に応える。本邦においては国民の約半数ががんに罹患し、およそ3人に1人ががんで亡くなり、がんに関わる直接的な医療費用のみならず、通院等に関わる非医療費用、がんに伴う減収・失職に伴う間接費用、がんに罹患したことによる生活の質の低下に伴う精神社会的費用も 大きな負担となる。今後日本においてはさらなる高齢者人口の増大と生産可能人口の減少が進行することから早急に「がんとお金」の全体像を明確にし、国民的な議論を経て、「望ましいがん医療」の形を示す必要がある。

研究方法
がん医療に要する費用区分を、(1)がん予防・禁煙の啓蒙、肝炎ウィルスの治療や子宮頸癌ワクチン等を対象。(2)早期発見・がん検診の有用性が示されている胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がん、前立腺がんが主たる対象。一例として、乳がん検診は受診率が50%を越えると死亡率が低下するとされており、欧米では既に受診率が80%を越え死亡率の減少も認められている。(3)根治的治療・がん検診で発見された早期がんに対する手術・放射線・抗がん剤治療(術前・術後の補助療法を含む)を主たる対象とし、診療報酬等から要する費用を調査。(4)非根治的治療・(3)の対象から外れたがんに対する延命目的の抗がん剤治療および在宅医療等に係る費用の費用対効果を検討。(5)間接費用および非医療費用・がん罹患による失職等に伴う収入損失を現す間接費用と、通院等に関わる非医療費用が含まれる。間接費用は、がん罹患後の平均生存期間と厚労省国民生活基礎調査の概況等から推計する。非医療費用は、われわれが行ってきた患者動態調査の手法を用いて推計する。(6)精神社会的費用・がんによる生活の質の低下による損失を定量的な数値指標で評価する。
 対象とするがんは日本人における罹患数を参考とし、A)肺がん、B)胃がん、C)大腸がん、D)肝がん、E)膵がん、F)乳がん、G)前立腺がん、H)子宮がん、I)悪性リンパ腫、J)多発性骨髄腫、の10種類のがんとした。
平成24年度
  (A)~(J)のがん腫における(1)~(6)の費用区分における指標を算出し、マトリックス毎の数値指標を提示する。また、費用対効果に基づく公的医療が実際に運用されている英国の英国立医療技術評価機構と、在宅抗がん剤治療で費用対効果を高めている仏国パリ市における在宅病院によるがん医療の聞き取り調査を行い、調査結果を研究成果に還元させた。
結果と考察
 本研究の目的は既存のコンセンサスの得られたデータを活用し、「がんとお金」の全体像を明確にし「費用対効果に優れた望ましいがん医療」の形を示すことである。
予防や検診でコンセンサスの得られた手法が存在しない部分は「評価不能」としたが、それ以外は一部の項目を除き、具体的な費用を提示することができた。英国と仏国のがん医療政策に関する実地調査を行い、英国の国立医療技術評価機構(NICE)等への調査から、NICEが推奨する医薬品は質調整生存年1年当り30,000ポンド未満の費用が基準であり、NICEが推奨しない薬剤は現実には英国では使用できない。仏国のパリ大学や訪問看護師等への聞き取り調査では、パリにおける在宅化学療法の試みは頓挫しつつあり、理念だけでは人は動かずインセンティブが欠けていると推察された。
結論
 本研究の成果から、がんに関わる費用区分毎の費用が明示されたことにより、がん医療政策決定に資すことができる。
従来、医療における費用対効果は医療費用の範疇で論じられることが多かったが、非医療費用、間接費用、精神社会的費用を示すことで、医療の範疇を越え国民実感に近い政策立案に貢献し得る。例えば、医療費用は通常数百万円であるが、収入損失である間接費用は数千万円、精神的負担に伴う社会的損失である精神社会的費用は数千万円から億の単位であり、国内総生産や税収、保険・年金等にも直結し得る指標である。「がん対策費」の範疇を越え「国民の福祉と利益」にも資することができる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201221059Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,000,000円
(2)補助金確定額
11,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,602,512円
人件費・謝金 5,022,362円
旅費 1,983,263円
その他 2,401,584円
間接経費 0円
合計 11,009,721円

備考

備考
自己資金 9,721円

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-