肝癌発症リスク予測システムに基づいた慢性C型肝炎に対する個別化医療の導入及びゲノム創薬への取り組み

文献情報

文献番号
201221056A
報告書区分
総括
研究課題名
肝癌発症リスク予測システムに基づいた慢性C型肝炎に対する個別化医療の導入及びゲノム創薬への取り組み
課題番号
H23-がん臨床-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松田 浩一(東京大学 医科学研究所、シークエンス技術開発分野)
研究分担者(所属機関)
  • 谷川 千津(東京大学 医科学研究所)
  • 加藤 直也(東京大学 医科学研究所)
  • 小池 和彦(東京大学医学部付属病院)
  • 溝上 雅史(国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター)
  • 徳永 勝士(東京大学大学院医学系研究科)
  • 高橋 篤(理化学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
14,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝癌は癌による死亡原因の第4位で、その内約70%がHCVの感染に起因している。最近我々はMICAの遺伝子多型がHCV陽性肝癌の発症リスクを2倍高める事、また高リスク群であるAAタイプではGGタイプより血中MICA濃度が低くなる事を明らかとした。NK細胞はNKG2D受容体を介してMICAを高発現する腫瘍細胞・ウイルス感染細胞を認識し、殺細胞効果を発揮する。我々のの研究成果より、血中MICAが肝癌発症リスクのバイオマーカーとなる事、さらにはNKG2D-MICA経路の活性化が発癌予防につながる可能性が示された。
本研究では、慢性C型肝炎患者における発癌リスク予測システムの構築と検証及びMICAの活性化による肝癌予防法・治療薬の開発(ゲノム創薬)を目的とする。
研究方法
本研究では、HCV関連疾患患者のDNA,血清及び臨床情報の収集を行った。また慢性C型肝炎患者の予後に関連する遺伝因子の検討を行った。
さらにMICAのHCV関連疾患における生理的意義について、HCV感染によるMICAの発現誘導機構の解明と遺伝子多型の影響を検討した。
結果と考察
個別化医療の実現へ向けた研究としては、これまで慢性C型肝炎患者7600名、HCV陽性肝癌患者2100名のサンプルを収集した。
MICA以外の新たな肝癌発症のバイオマーカーを探索する目的で、欧米人で肝疾患や様々な癌との関連が報告された遺伝子多型約300について日本人症例(肝癌約1500症例、健常人約20000人)で検討した。その結果有意な関連を示すSNPは存在しなかった。
さらに慢性C型肝炎から肝硬変への進展と関連する遺伝因子を探索する目的で、HCV陽性肝硬変患者682名、慢性C型肝炎患者943名を用いてGWASを行った結果、10箇所のSNPが肝硬変の発症リスクと強く関連することが明らかとなった。さらにこれらのSNPについて、肝硬変936症例、慢性C型肝炎3786症例で検討した結果、MHC領域上の5 SNPが強い関連を示した。またこれまで肝障害、肝組織の線維化との関連が報告されているHLA遺伝子についても検討を進めた所、複数のHLAアレルが肝硬変のリスクとなることが明らかとなった。多変量解析の結果、最終的に3つの遺伝子多型が肝硬変の発症リスクと独立して関連することを明らかとし、これらの遺伝子多型を用いた肝硬変発症リスク予測システムを構築した。
またHBV陽性肝癌における、MICAの意義についても同様の検討を行なった。HBV-陽性肝癌患者407名、慢性B型肝炎患者699名、健常者5657名についてMICAの遺伝子型を決定した。その結果、MICAの遺伝子多型が、HBV陽性肝癌の発症リスクにも関与することを明らかとした。またHCV陽性肝癌患者と同様、MICAの遺伝子型と血清MICA値とは相関を示した。さらに分泌型MICAが高値の肝癌症例では予後が不良となることも明らかとした。
一方ゲノム創薬へ向けた研究としては、遺伝子多型のMICAの発現調節機構の解明をまず進めた。MICAのプロモーターの解析の結果、アレル特異的に転写因子SP-1が結合し、MICAの転写を活性化する事が示された。またHeat shock等のストレス刺激によって、MICAの発現量が上昇することが明らかとなった。SP-1に対して親和性が高いアレルを持つ人では、血清MICA値が高く、肝癌の発症リスクが低くなることから、MICAが肝癌発症に対して予防的に働くことが示されれ、MICAの活性化が肝癌の治療に有用となりうることが示された。
結論
 今回の解析によって、MICAを含む複数の遺伝子多型がHCV陽性肝癌の発症と関連することが示された。今後はMHC慢性C型肝炎患者において分泌型MICAの測定を進め、肝癌発症との関係を検討する。また分泌型MICA値とMICA遺伝子型のどちらが有用な予後因子となるかについて、多変量解析を元に検討する。
さらにHBV陽性肝癌の発症リスクにもMICAの遺伝子多型が関与すること、また分泌型MICAが高値の症例では、予後不良であることが明らかとなり、MICAがHBV関連疾患の予測因子となる事が示された。
MICAはHCV陽性肝癌、HBV陽性肝癌共に高発現していることから、MICAに対する抗体を用いることによって、分泌型MICAの中和活性、及び膜型MICAに対するADCC活性を介して、抗腫瘍効果が期待できると考えられる。今後、monoclonal抗体の作成と抗腫瘍活性の検討を進めていく予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201221056Z