文献情報
文献番号
201221038A
報告書区分
総括
研究課題名
抗がん剤効果予測による乳がん患者の再発リスク抑制と毒性軽減および医療経済負担低減に関する検証的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H22-がん臨床-一般-039
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
戸井 雅和(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 笹野 公伸(東北大学大学院医学系研究科)
- 山城 大泰(京都大学 医学研究科)
- 石黒 洋(京都大学医学部附属病院)
- 稲本 俊(天理医療大学)
- 内藤 泰宏(慶應義塾大学 環境情報学部)
- 杉本 昌弘(京都大学 医学研究科)
- 近藤 正英(筑波大学 人間総合科学研究科)
- 黒井 克昌(東京都立駒込病院 外科(乳腺)臨床試験科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
術前後の化学療法適応決定、治療の個別化は現在の乳がん治療における最も重要な課題のひとつである。本研究では、抗がん剤の効果予測によって乳がん患者の再発リスクを抑制すると同時に毒性軽減を図り、加えて医療経済的負担軽減を推進することを主たる目的とする。術前化学療法の病理組織学的抗腫瘍効果を予測する数理モデル研究では、ADTreeモデルを用い、システムの改良と前向きの性能評価を行い、同時に多重ロジスティック回帰モデルと比較、予測精度、データ欠損に対する耐性の比較を行うことした。
既存の効果予測バイオマーカーについて、検査法の最適化、複数の検査法を組み合わせ的確に抗悪性治療薬の効果、及び予後を予測、治療の個別化と治療成績の改善を図る、また、腫瘍進展、治療に伴うバイオマーカー発現の変化を検討することを目的とした。問診により聴取する患者情報を充分かつ的確に収集することを目的と、タッチパネル方式の問診入力システムの開発を行った。医療経済学的検討では、原発性乳がんにおける多遺伝アッセイ導入について、英国National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)の推奨を、わが国の保険診療体制下で考慮する際の、費用対効果を検討した。
既存の効果予測バイオマーカーについて、検査法の最適化、複数の検査法を組み合わせ的確に抗悪性治療薬の効果、及び予後を予測、治療の個別化と治療成績の改善を図る、また、腫瘍進展、治療に伴うバイオマーカー発現の変化を検討することを目的とした。問診により聴取する患者情報を充分かつ的確に収集することを目的と、タッチパネル方式の問診入力システムの開発を行った。医療経済学的検討では、原発性乳がんにおける多遺伝アッセイ導入について、英国National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)の推奨を、わが国の保険診療体制下で考慮する際の、費用対効果を検討した。
研究方法
治療効果予測数理モデルに関しては、アンスラサイクリン、タキサン併用術前化学療法臨床試験OOTR003症例を用いモデルを作成、モデルの精度はROC曲線以下の面積AUC (Area under ROC)を用い評価した。腫瘍サブタイプ別に検証、webシステムを用いた前向き検証を行った。タッチパネル式問診入力システムの作成はiPADを用いた。
結果と考察
数理モデル研究においては、腫瘍のサブタイプ別に病理組織学的抗腫瘍効果の予測精度が異なることが明らかになった。Luminalタイプでは高い精度の予測ができ、汎用化が可能と考えられた。多重ロジスティック回帰モデルに比し、精度、欠損値耐性で優れていた。TNタイプでは精度が劣化、新規バイオマーカーなどの導入が必要と考えられた。バイオマーカー検索法の最適化では、バーチャルマイクロスコピーと免疫染色自動解析装置の妥当性の検討を行ったが、従来の目視判定スコアと高い正相関を示すことが確認された。原発巣と再発巣間の比較で、ERの不一致率は21.7%,PgRの不一致率は30.0%,HER2の不一致率は 6.3%であった。サブタイプの変化は,23.8%の症例で認められた。不一致の有無による再発後生存の差は認められなかった。let-7、LIN28Bの乳がん細胞増殖における重要性が新たに見出された。新たなiPAD問診入力システムの開発に成功した。患者が容易に入力でき、入力はすべて数字またはカテゴリー化され、電子化医療情報のセキュリティーが守られ、修正や確認が容易にできるものである。毒性軽減支持療法についてantipsychotics, G-CSF製剤に関する検討を行い、発表した。
費用対効果の検討では、NICEの推奨に準じ21遺伝子シグナチャ導入を考慮すると、増分費用効果比はリンパ節転移陰性例で\305,414/QALY、リンパ節転移+/-例で\600,863/QALYであった。費用対効果に優れると考えられた。
費用対効果の検討では、NICEの推奨に準じ21遺伝子シグナチャ導入を考慮すると、増分費用効果比はリンパ節転移陰性例で\305,414/QALY、リンパ節転移+/-例で\600,863/QALYであった。費用対効果に優れると考えられた。
結論
1) 術前化学療法の反応性を予測するモデルを開発し、前向き試験を実施、Luminalタイプ乳がんでは治療効果を高精度に予測することを示した。既存のノモグラムモデルより、予測精度や欠損値への耐性が高いことが示された。ただし、HER2高発現タイプやTNタイプにはさらに新たなバイオマーカーの導入、特化したモデルの開発の必要性が示唆された。
2)原発巣と再発巣の間のサブタイプの変化は,23.8%の症例で認められた。
3)LIN28Bは細胞質において機能を発揮、がん細胞増殖に働くことが見出された。Let7とともに新しい効果予測因子になる可能性がある。
4)タッチパネル式問診入力システムを開発した。収集される患者の医療情報の量や質が大幅に改善できると考えられた。
5)毒性軽減支持療法に関する検討を行った。術前ホルモン療法、メトロノミック型の治療成績の検討から化学療法を必要としない患者群の同定に関する検討を行った。
6)多遺伝子アッセイ21遺伝子シグネチャ検査について、再発リスク中等度の症例への使用がNICEによって勧告されると、本邦保険診療への同様の形での導入の議論が始まると考えられるが、本研究結果からは、そのような形での導入を支持することができると考えられた。
2)原発巣と再発巣の間のサブタイプの変化は,23.8%の症例で認められた。
3)LIN28Bは細胞質において機能を発揮、がん細胞増殖に働くことが見出された。Let7とともに新しい効果予測因子になる可能性がある。
4)タッチパネル式問診入力システムを開発した。収集される患者の医療情報の量や質が大幅に改善できると考えられた。
5)毒性軽減支持療法に関する検討を行った。術前ホルモン療法、メトロノミック型の治療成績の検討から化学療法を必要としない患者群の同定に関する検討を行った。
6)多遺伝子アッセイ21遺伝子シグネチャ検査について、再発リスク中等度の症例への使用がNICEによって勧告されると、本邦保険診療への同様の形での導入の議論が始まると考えられるが、本研究結果からは、そのような形での導入を支持することができると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2013-05-28
更新日
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