がん性疼痛治療の施設成績を評価する指標の妥当性を検証する研究

文献情報

文献番号
201221035A
報告書区分
総括
研究課題名
がん性疼痛治療の施設成績を評価する指標の妥当性を検証する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-036
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
的場 元弘(独立行政法人国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 茂昭(青森県立中央病院)
  • 吉本 鉄介(社会保険中京病院 緩和支持治療科)
  • 東 尚弘(東京大学大学院 医学系研究科 健康医療政策学/公衆衛生学教室)
  • 武林 亨(慶應義塾大学 医学部衛生学 公衆衛生学教室)
  • 秋山 美紀(慶應義塾大学 環境情報学部)
  • 宮下 光令(東北大学大学院 医学系研究科 保健学専攻緩和ケア看護学分野)
  • 加藤 雅志(独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん医療支援研究部)
  • 岩瀬 哲(東京大学医科学研究所付属病院 緩和医療科)
  • 山口 拓洋(東北大学大学院 医学系研究科 医学統計学/医学情報管理学)
  • 冨安 志郎(長崎市立市民病院 麻酔科診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
緩和ケアの推進に関する成果を評価するための指標は存在せず、特に施設の痛みの治療に関する成績を評価する指標は確立していない。最終年度では、施設の緩和ケアの提供体制の指標として、施設単位での除痛率を定義し、教育介入による適正ながん疼痛治療の普及による医療用麻薬消費量の増加によって、施設単位での除痛率の指標の有用性を検討することを目的とした。
研究方法
青森県立中央病院に入院する全てのがん患者を対象に、研究期間をプレ連続測定期、連続測定期、教育啓発期に分けて痛みに関する質問を昨年度までに作成した「痛みの記録シート」にて聴取した。プレ連続測定期で得た結果をもとに、連続測定期では、質問の仕方を「痛みで困っていることや、できないことがありますか」と患者の日常生活に焦点を当てた質問に改訂することで、医師や看護師が患者の痛みを捉えやすくした。教育啓発期には、症例検討や痛みの評価方法の基本、麻薬の副作用と評価などの緩和ケアに関する教育介入を行った。
聴取した情報を基に、除痛率を算出した。除痛率については、各時点について「痛みがある」と答えた、あるいは「鎮痛薬を服用している」と答えた患者を分母として、その中で「痛みで困っていることや、できないことがありますか」に対して「ない」と答えた患者の割合とした。
また麻薬消費量は院内処方されたモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルを対象に月次集計し、除痛率と合わせて緩和ケアの提供体制の指標として検討した。
結果と考察
述べ937名の入院患者の情報が解析された。それぞれ①プレ連続測定期、②連続測定期、③教育啓発期では①84名、②340名、③513名であった。入院時に算定された除痛率はそれぞれ①45%、②52%、③60%であった。入院後の除痛の推移に関しても、ほとんどの日に於いて①→②→③にしたがって除痛率は高くなっており、全体としての傾向は有意な違いが見られた。
医療用麻薬処方量は、教育啓発期前にはほとんど変化せず、教育啓発期には過去の月次処方量に比べ施設単位として2倍程度までの増加が認められた。
本研究の結果から、教育啓発介入の実施など、経時的縦断的にも、除痛率の改善がみられている。このことからも、除痛率は施設の痛み治療の努力に反映することがわかり、施設の痛み治療の成績として妥当であると考えられる。適切な疼痛の評価や教育介入、除痛状況のフィードバックが行われれば、都道府県がん診療連携拠点病院の治療成績が改善するという可能性を示すことができた。
結論
痛みは知覚症状であり客観的評価が困難な領域にある。しかし、院内教育を徹底すれば、本研究手順書に従って、がん患者全体の除痛率を継続的に求めることは可能である。施設での入院患者への麻薬(強オピオイド)消費量は、標準的がん疼痛治療法の施設内教育・啓発活動により明らかに増加し、除痛率も改善することが明らかになった。
適切な疼痛の評価や教育介入、除痛状況が反映された都道府県がん診療連携拠点病院の治療成績が示されれば、患者が病院を選ぶ際にも役立つであろう。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221035B
報告書区分
総合
研究課題名
がん性疼痛治療の施設成績を評価する指標の妥当性を検証する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-036
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
的場 元弘(独立行政法人国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 茂昭(青森県立中央病院)
  • 吉本 鉄介(社会保険中京病院 緩和支持治療科)
  • 東 尚弘(東京大学大学院 医学系研究科 健康医療政策学 公衆衛生学教室)
  • 武林 亨(慶應義塾大学 医学部衛生学 公衆衛生学教室)
  • 秋山 美紀(慶應義塾大学 環境情報学部)
  • 宮下 光令(東北大学大学院 医学系研究科 保健学専攻緩和ケア看護学分野)
  • 加藤 雅志(独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん医療支援研究部)
  • 岩瀬 哲(東京大学医科学研究所付属病院 緩和医療科)
  • 山口 拓洋(東北大学大学院 医学系研究科 医学統計学 医学情報管理学)
  • 冨安 志郎(長崎市立市民病院 麻酔科診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
緩和ケアの推進に関する成果を評価するための指標は存在せず、特に施設の痛みの治療に関する成績を評価する指標は確立していない。本研究班の目的は、がん疼痛治療における施設成績を合理的に、かつ継続実施可能な形で評価し得る指標(除痛率等)を構築するとともに、その妥当性を検証することで、施設単位でのがん疼痛治療成績を明らかにすることにある。
研究方法
まずは除痛率の定義を構成する要件について、いくつかのコンセンサツを形成した。その上で、除痛率調査のための手順の検討とプロトコル作成、研究フィールドとの調整、がん総合データベースシステムの構築といった準備段階を経て、研究フィールドとした青森県立中央病院にて調査を開始した。
青森県立中央病院に入院する全てのがん患者を対象に、研究期間をプレ連続測定期、連続測定期、教育啓発期に分けて痛みに関する質問を昨年度までに作成した「痛みの記録シート」にて聴取した。プレ連続測定期で得た結果をもとに、連続測定期では、質問の仕方を「痛みで困っていることや、できないことがありますか」と患者の日常生活に焦点を当てた質問に改訂することで、医師や看護師が患者の痛みを捉えやすくした。教育啓発期には、症例検討や痛みの評価方法の基本、麻薬の副作用と評価などの緩和ケアに関する教育介入を行った。
聴取した情報を基に、除痛率を算出した。除痛率については、各時点について「痛みがある」と答えた、あるいは「鎮痛薬を服用している」と答えた患者を分母として、その中で「痛みで困っていることや、できないことがありますか」に対して「ない」と答えた患者の割合とした。
また麻薬消費量は院内処方されたモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルを対象に月次集計し、除痛率と合わせて緩和ケアの提供体制の指標として検討した。
結果と考察
述べ937名の入院患者の情報が解析された。それぞれ①プレ連続測定期、②連続測定期、③教育啓発期では①84名、②340名、③513名であった。入院時に算定された除痛率はそれぞれ①45%、②52%、③60%であった。入院後の除痛の推移に関しても、ほとんどの日に於いて①→②→③にしたがって除痛率は高くなっており、全体としての傾向は有意な違いが見られた。
医療用麻薬処方量は、教育啓発期前にはほとんど変化せず、教育啓発期には過去の月次処方量に比べ施設単位として2倍程度までの増加が認められた。
本研究の結果から、教育啓発介入の実施など、経時的縦断的にも、除痛率の改善がみられている。このことからも、除痛率は施設の痛み治療の努力に反映することがわかり、施設の痛み治療の成績として妥当であると考えられる。適切な疼痛の評価や教育介入、除痛状況のフィードバックが行われれば、都道府県がん診療連携拠点病院の治療成績が改善するという可能性を示すことができた。
結論
痛みは知覚症状であり客観的評価が困難な領域にある。しかし、院内教育を徹底すれば、本研究手順書に従って、がん患者全体の除痛率を継続的に求めることは可能である。施設での入院患者への麻薬(強オピオイド)消費量は、標準的がん疼痛治療法の施設内教育・啓発活動により明らかに増加し、除痛率も改善することが明らかになった。
適切な疼痛の評価や教育介入、除痛状況が反映された都道府県がん診療連携拠点病院の治療成績が示されれば、患者が病院を選ぶ際にも役立つであろう。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201221035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
疼痛の評価方法について患者の日常生活に焦点を当てた質問を加えることによって医師は患者の痛みをより具体的に把握でき、教育介入によって適正ながん疼痛治療の普及できれば医療用麻薬消費量の増加し、除痛率は改善することが明らかになった。また、除痛率の改善は、患者の身体面、心理面でのQOLも有意に向上させることも明らかになった。これまで、緩和ケアの推進に関する成果を評価するための指標は存在しない。本研究の成果は、緩和医療の質や提供体制を評価する指標となる可能性がある。
臨床的観点からの成果
除痛率測定の過程で、患者の痛みの程度ばかりでなく生活上の問題も明らかになる。この情報を担当医にフィードバックすることにより、個々の症例でのがん疼痛治療の目標が明確になり、鎮痛薬の開始や増量・変更、副作用対策などの具体的な行動が求められ、そのアウトカムが常に評価されることになる。担当医が意識した一部の症例に対して緩和ケアの導入を検討する従来の方法と異なり、すべてのがん患者の痛みのスクリーニングが実施され、痛みが問題になった患者への対応の結果が可視化され、医師の行動変化を得やすい臨床モデルとなる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
施設での入院患者への麻薬(強オピオイド)消費量は、施設内での教育・啓発活動により明らかに増加し、除痛率も改善することが明らかになった。本研究は、発展性としてがん診療連携拠点病院等でのがん疼痛治療成績等の具体的な緩和ケアの状況が確認することが可能になる。がん疼痛治療成績等の具体的な緩和ケアの提供成果が可視化されれば、施設ごとの改善点が明確になり、数値目標の設定が可能になる。また、がん患者や家族が医療機関を選択する際に、適切な痛みの治療や緩和ケアを受けることができるかどうか判断することが可能になる。
その他のインパクト
研究フィールドとなった青森県立中央病院にて報告会を実施し、新聞や地方局のニュースに大きく研究内容と成果を取り上げられた。医師や看護師の問診内容を統一して患者の痛みの程度を正確に把握し、適量な医療用麻薬の使用目安になること、「除痛率」を示して、患者が病院を選ぶ際の参考となる指標を構築する研究が進められていることを公表できた。また、日本対がん協会の共催にて、本研究成果を一般市民向けにも発表した。痛みを我慢せずに伝えることの重要性および除痛率の意義についても理解を広める機会となった。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
34件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Higashi T, Machii R, Aoki A, et al
Evaluation and revision of checklists for screening facilities and municipal governmental programs for gastric cancer and colorectal cancer screening in Japan
Jpn J Clin Oncol , 40 (11) , 1021-1030  (2010)
原著論文2
Higashi T, Nakayama T, Fukuhara S, et al
Opinions of Japanese Rheumatology Physicians Regarding Clinical Practice Guidelines
Int J Qual Healthc , 22 (2) , 78-85  (2010)
原著論文3
杉浦 宗敏、宮下 光令、的場 元弘、他
がん診療連携拠点病院における緩和ケア提供体制と薬剤業務の困難感
日本緩和医療薬学雑誌 , 4 (4) , 103-109  (2011)
原著論文4
村上敏史、岩瀬哲、的場元弘、他
在宅医療におけるがん疼痛治療の評価と治療の実態について
日本緩和医療学会誌 , 8 (1) , 158-167  (2013)
原著論文5
Higashi T, Nakamura F, Shibata A, et al
The National Database of Hospital-Based Cancer Registries: A Nationwide Infrastructure to Support Evidence-based Cancer Care and Cancer Control Policy in Japan
Jpn J Clin Oncol , 44 (1) , 2-8  (2014)
原著論文6
Higashi T, Nakamura F, Saruki N, et al
Establishing a Quality Measurement System for Cancer Care in Japan
Jpn J Clin Oncol , 43 (3) , 225-232  (2013)
原著論文7
Kojima KY, Kitahara M, Matoba M, et al
Survey on recognition of post-mastectomy pain syndrome by breast specialist physician and present status of treatment in Japan
Breast Cancer , 21 (2) , 191-197  (2014)
原著論文8
Nakamura F, Higashi T
Pattern of prophylaxis administration for chemotherapy-induced nausea and vomiting: an analysis of city-based health insurance data
Int J Clin Oncol , 18 (6) , 971-976  (2013)
原著論文9
Higashi T, Yoshimoto T, Matoba M
Prevalence of Analgesic Prescriptions among Patients with Cancer in Japan: An Analysis of Health Insurance Claims Data
Glob J Health Sci , 4 (6) , 197-203  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2015-09-02

収支報告書

文献番号
201221035Z