国内外科手術成績を基礎とした経口抗がん剤による治癒切除大腸癌術後補助療法の確立

文献情報

文献番号
201221026A
報告書区分
総括
研究課題名
国内外科手術成績を基礎とした経口抗がん剤による治癒切除大腸癌術後補助療法の確立
課題番号
H22-がん臨床-一般-027
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
島田 安博(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院消化管腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 益子 博幸(札幌厚生病院 外科)
  • 椎葉 健一(地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター 消化器外科)
  • 佐藤 敏彦(山形県立中央病院 外科)
  • 尾嶋 仁(群馬県立がんセンター 消化器外科)
  • 長谷 和生(防衛医科大学校 外科学)
  • 八岡 利昌(埼玉県立がんセンター 消化器外科および臨床遺伝学)
  • 河村 裕(自治医科大学附属さいたま医療センター 外科)
  • 辻仲 眞康(自治医科大学附属さいたま医療センター 外科)
  • 齋藤 典男(独立行政法人国立がんセンター東病院 大腸外科)
  • 滝口 伸浩(千葉県がんセンター 消化器外科)
  • 正木 忠彦(杏林大学医学部 消化器外科)
  • 杉原 健一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 腫瘍外科学消化器外科)
  • 斉田 芳久(東邦大学医療センター大橋病院 外科)
  • 赤池 信(神奈川県立がんセンター 消化器外科)
  • 工藤 進英(昭和大学横浜市北部病院消化器センター 消化器内視鏡学)
  • 藤井 正一(横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター 下部消化管外科)
  • 大田 貢由(横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター 大腸肛門病)
  • 瀧井 康公(新潟県立がんセンター新潟病院 大腸外科)
  • 伴登 宏行(石川県立中央病院 消化器外科)
  • 吉田 和弘(岐阜大学大学院腫瘍制御学講座腫瘍外科学 上部消化管外科(胃・食道)・腫瘍学)
  • 絹笠 祐介(静岡県立静岡がんセンター 大腸外科)
  • 金光 幸秀(国立がん研究センター 大腸外科)
  • 山口 高史(京都医療センター 大腸・骨盤外科)
  • 能浦 真吾(大阪府立成人病センター 消化器外科、大腸外科)
  • 池永 雅一(大阪医療センター 外科)
  • 関本 貢嗣(大阪医療センター 外科)
  • 田中 康博(大阪府立急性期・総合医療センター 消化器外科)
  • 福永 睦(市立堺病院 外科下部消化管)
  • 池田 公正(箕面市立病院 外科下部消化管)
  • 村田 幸平(市立吹田市民病院 外科大腸癌)
  • 加藤 健志(関西労災病院 下部消化器外科)
  • 冨田 尚裕(兵庫医科大学 下部消化管外科大腸外科専門)
  • 久保 義郎(四国がんセンター 消化器外科)
  • 白水 和雄(久留米大学病院)
  • 北野 正剛(大分大学 消化器外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
19,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
海外と比較して良好である国内外科手術成績を基礎とした経口抗がん剤による治癒切除大腸癌補助化学療法の確立を目指して、大規模ランダム化比較試験を実施する。
研究方法
多施設共同研究としてJCOG0205試験(5-FU+L-LV対UFT/LV:標準治療の静注療法と試験治療の経口剤療法の比較)および、JCOG0910試験(Capecitabine対S-1:海外標準経口剤療法と新規試験経口剤療法の比較)のランダム化比較試験を計画実施した。
結果と考察
JCOG0205試験は最終解析を2011年12月に実施し、無病生存期間でUFT/LVの非劣性が検証された。2012年ASCO Poster Discussionにおいて報告した。解析対象の全適格例1,092例の成績を示す。主評価項目の両群の無病生存割合(DFS)は3年78.6%、4年75.2%、5年73.9%、全生存割合は3年94.2%、4年90.3%、5年87.9%であった。試験群UFT/LVのDFSでの非劣性はHR 1.016、P=0.0236であり検証された。また、生存期間でのHR 1.055であり、非劣性と結論できた。これらの数字は既報の海外試験と比較しても優れた治療成績である。日本式のD3郭清による手術手技や系統的な切除検体の病理学的検索、再発早期発見を目指した緻密な術後経過観察、再発後の抗がん剤治療の影響が考えられる。毒性ではUFT/LVで肝障害が多く、血液毒性は少ない傾向があった。食欲低下、下痢などは両群で同程度であった。なお、下痢の頻度は先行するNSABP C-06試験成績より1/3程度と少ないことも判明した。以上より、経口剤UFT/LVが静注5-FU/l-LVに置き換えることが可能であると結論した。サブグループ解析ではTNM分類のStage3Cの予後は5年DFSで58.9%と不良であり、再発高リスク群と考えられ、FOLFOXなどの強力な術後補助療法の適応となる可能性がある。一方でStage 3Aの5年DFSは90.4%と極めて良好であり、再度手術単独との比較による術後補助化学療法の意義の検証が必要と考えられる。JCOG0910試験は2010年3月から症例登録を開始し、2013年3月末で1359/1550例が順調に登録されている。S-1の内服コンプライアンスも良好であり、治療成績の改善が期待される。
海外におけるStage 2/3大腸癌に対する術後補助化学療法の標準治療はFOLFOX / CapeOXである。しかしながら、国内医療環境を考慮すると適切な治療選択であるかは検討の余地がある。良好な国内手術成績、FOLFOXなどの末梢神経障害、血液毒性、高額な医療費、通院治療センターの対応力、治療担当医が外科医主体であることなど有用性以外の因子を十分に検討した上で治療法選択を行う必要がある。今回のJCOG0205 試験ではDFSでの非劣性のみならず、5年全生存割合においても88%という極めて優れた治療成績を示すことができたことは、国内医療の優れた医療技術を最大限に生かすことにより治療成績が良好となることを示した点で意義がある。
結論
JCOG0205試験の結果、Stage 3大腸癌術後補助化学療法として、経口UFT/LVが標準治療のひとつであることが確認された。また、5年生存割合は極めて良好であった。海外での標準療法であるFOLFOXと比較して、有害事象の種類、頻回の通院、医療費の負担を考慮すると、国内においてはD2/D3リンパ節廓清を行う日本式大腸癌外科手術を基本として、術後経口抗がん剤による治療選択が推奨される。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221026B
報告書区分
総合
研究課題名
国内外科手術成績を基礎とした経口抗がん剤による治癒切除大腸癌術後補助療法の確立
課題番号
H22-がん臨床-一般-027
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
島田 安博(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院消化管腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 益子 博幸(札幌厚生病院 外科)
  • 椎葉 健一(地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター 消化器外科)
  • 佐藤 敏彦(山形県立中央病院 外科)
  • 尾嶋 仁(群馬県立がんセンター 消化器外科)
  • 長谷 和生(防衛医科大学校 外科学)
  • 八岡 利昌(埼玉県立がんセンター 消化器外科および臨床遺伝学)
  • 河村 裕(自治医科大学附属さいたま医療センター 外科)
  • 辻仲 眞康(自治医科大学附属さいたま医療センター 外科)
  • 齋藤 典男(独立行政法人国立がんセンター東病院 大腸外科)
  • 滝口 伸浩(千葉県がんセンター 消化器外科)
  • 正木 忠彦(杏林大学医学部 消化器外科)
  • 杉原 健一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 腫瘍外科学消化器外科)
  • 斉田 芳久(東邦大学医療センター大橋病院 外科)
  • 赤池 信(神奈川県立がんセンター 消化器外科)
  • 工藤 進英(昭和大学横浜市北部病院消化器センター 消化器内視鏡学)
  • 藤井 正一(横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター 下部消化管外科)
  • 大田 貢由(横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター 大腸肛門病)
  • 瀧井 康公(新潟県立がんセンター新潟病院 大腸外科)
  • 伴登 宏行(石川県立中央病院 消化器外科)
  • 吉田 和弘(岐阜大学大学院腫瘍制御学講座腫瘍外科学 上部消化管外科(胃・食道)・腫瘍学)
  • 絹笠 祐介(静岡県立静岡がんセンター 大腸外科)
  • 金光 幸秀(国立がん研究センター 大腸外科)
  • 山口 高史(京都医療センター 大腸・骨盤外科)
  • 能浦 真吾(大阪府立成人病センター 消化器外科、大腸外科)
  • 池永 雅一(大阪医療センター 外科)
  • 関本 貢嗣(大阪医療センター 外科)
  • 田中 康博(大阪府立急性期・総合医療センター 消化器外科)
  • 福永 睦(市立堺病院 外科下部消化管)
  • 池田 公正(箕面市立病院 外科下部消化管)
  • 村田 幸平(市立吹田市民病院 外科大腸癌)
  • 加藤 健志(関西労災病院 下部消化器外科)
  • 冨田 尚裕(兵庫医科大学 下部消化管外科大腸外科専門)
  • 久保 義郎(四国がんセンター 消化器外科)
  • 白水 和雄(久留米大学病院)
  • 北野 正剛(大分大学 消化器外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
海外と比較して良好である国内外科手術成績を基礎とした経口抗がん剤による治癒切除大腸癌補助化学療法の確立を目指して、大規模ランダム化比較試験を実施する。
研究方法
多施設共同研究としてJCOG0205試験(5-FU+L-LV対UFT/LV:標準治療の静注療法と試験治療の経口剤療法の比較)および、JCOG0910試験(Capecitabine対S-1:海外標準経口剤療法と新規試験経口剤療法の比較)のランダム化比較試験を計画実施した。症例登録数はそれぞれ、1,101例、1,550例という大規模試験である。
結果と考察
JCOG0205試験は最終解析を2011年12月に実施し、無病生存期間でUFT/LVの非劣性が検証された。従来から国内で汎用されている経口抗がん剤による術後補助療法が国際標準治療のひとつである静注療法と同等であることが確認された。最終成績を2012年ASCO Poster Discussionにおいて報告した。解析対象の全適格例1,092例の成績を示す。主評価項目の両群の無病生存割合(DFS)は3年78.6%、4年75.2%、5年73.9%、全生存割合は3年94.2%、4年90.3%、5年87.9%であった。試験群UFT/LVのDFSでの非劣性はHR 1.016、P=0.0236であり検証された。また、生存期間でのHR 1.055であり、非劣性と結論できた。これらの数字は既報の海外試験と比較しても優れた治療成績である。日本式のD3郭清による手術手技や系統的な切除検体の病理学的検索、再発早期発見を目指した緻密な術後経過観察、再発後の抗がん剤治療の影響が考えられる。毒性ではUFT/LVで肝障害が多く、血液毒性は少ない傾向があった。食欲低下、下痢などは両群で同程度であった。なお、下痢の頻度は先行する海外NSABP C-06試験成績より1/3程度と少ないことも判明した。以上より、経口剤UFT/LVが静注5-FU/l-LVに置き換えることが可能であると結論した。サブグループ解析ではTNM分類のStage 3Cの予後は5年DFSで58.9%と不良であり、再発高リスク群と考えられ、FOLFOXなどの強力な術後補助療法の適応となる可能性がある。一方でStage 3Aの5年DFSは90.4%と極めて良好であり、再度手術単独との比較による術後補助化学療法の意義の検証が必要と考えられる。継続試験であるJCOG0910試験は経口剤のうちより優れた治療薬を選択することを目指して、2010年3月から症例登録を開始し、2013年3月末で1359/1550例が順調に登録されている。S-1の内服コンプライアンスも良好であり、治療成績の改善が期待される。
海外におけるStage 2/3大腸癌に対する術後補助化学療法の標準治療はFOLFOX / CapeOXである。しかしながら、国内医療環境を考慮すると適切な治療選択であるかは十分に検討を行う必要がある。良好な国内手術成績、FOLFOXなどの末梢神経障害、血液毒性、高額な医療費、通院治療センターの対応力、治療担当医が外科医主体であることなどDFSなどの有用性以外の因子を十分に検討した上で治療法選択を行う必要がある。今回のJCOG0205 試験ではDFSでの非劣性のみならず、5年全生存割合においても88%という極めて優れた治療成績を示すことができたことは、国内医療の優れた医療技術を最大限に生かすことにより治療成績が良好となることを示した点で意義がある。
結論
JCOG0205試験の結果、Stage 3大腸癌術後補助化学療法として、経口UFT/LVが標準治療のひとつであることが確認された。また、5年生存割合は極めて良好であった。海外での標準療法であるFOLFOXと比較して、有害事象の種類、頻回の通院、医療費の負担を考慮すると、国内においてはD2/D3リンパ節廓清を行う日本式大腸癌外科手術を基本として、術後経口抗がん剤による治療選択が推奨される。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201221026C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内の優れた大腸癌外科治療成績を基礎として最適な術後補助化学療法を確立することを目指した大規模比較試験により、Stage3大腸癌に対して経口抗がん剤UFT/LVが無病生存割合で静注群に非劣性であることが検証された。海外試験成績のみならず、国内臨床試験成績により、一般臨床に還元可能な臨床知見である。
臨床的観点からの成果
大腸癌に対する国内外科治療成績が良好であることは既知であるが、術後補助化学療法において基本治療成績がどのような影響を示すかは不明であった。今回のJCOG0205試験において無病生存割合のみならず、全生存割合も従来の報告より優れている結果が得られたことから国内における治療戦略を組み立てる上で重要な情報が得られた。
ガイドライン等の開発
大腸癌治療ガイドラインには、すでに海外NSABP C-06試験の成績を基にUFT/LVが推奨されている。今回の成績により、国内試験成績を基にさらに推奨根拠が確実となった。また、JCOG0910 により、CapecitabineとS-1に関する治療成績を得ることができ、経口抗がん剤での優先順位を比較検討することが可能となり、ガイドラインへの反映が期待できる。
その他行政的観点からの成果
国民医療費の急増は、喫緊の課題である。海外試験成績を根拠に高価なFOLFOXなどの導入は良好な国内外科成績を基礎とした治療戦略とは必ずしも相容れない。外科医が診療の中心的役割を果たす国内医療環境も考慮して、経口抗がん剤を評価し、治療対象を絞り込む臨床研究は、最終的に医療費を減少させることになる。Stage 3aにおける術後補助療法の再検討により、術後補助化学療法が不要な対象を抽出することが可能である。
その他のインパクト
大腸癌患者は急増し、さらに高齢化が著しい。このような対象に対する標準治療の確立と医療経済的解析は重要である。また、新規治療法の評価には大規模臨床試験を実施できる臨床試験グループが必須である。12年間蓄積した経験により、科学的な大規模臨床試験を短期間に完遂し、適切な経過観察ができるJCOGグループを育成できたことは大きなインパクトを有する。

発表件数

原著論文(和文)
124件
原著論文(英文等)
151件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
686件
臨床病期III期大腸癌に対する術後補助化学療法の第III相試験(JCOG0205). 第50回日本癌治療学会: PD13-05, 2012 10月横浜 ほか
学会発表(国際学会等)
87件
Final results of Japan Clinical Oncology Group study (JCOG0205). ASCO: #3524, 2012.6 Chicago ほか
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201221026Z