治癒切除後の再発リスクが高い進行胃がん(スキルス胃がんなど)に対する標準的治療の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201221022A
報告書区分
総括
研究課題名
治癒切除後の再発リスクが高い進行胃がん(スキルス胃がんなど)に対する標準的治療の確立に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-023
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
笹子 三津留(兵庫医科大学 医学部外科学上部消化管外科)
研究分担者(所属機関)
  • 高木 正和(静岡県立総合病院外科)
  • 山上 裕機(和歌山県立医科大学第2外科)
  • 福島 紀雅(山形県立中央病院外科)
  • 土岐 祐一郎(大阪大学大学院医学系研究科消化器外科学)
  • 加治 正英(富山県立中央病院外科)
  • 河内 保之(長岡中央綜合病院外科)
  • 畑 啓昭(独立行政法人国立病院機構京都医療センター外科)
  • 岩崎 善毅(東京都立駒込病院外科)
  • 円谷 彰(神奈川県立がんセンター 消化器外科)
  • 吉田 和弘(岐阜大学大学院腫瘍制御学講座腫瘍外科学分野)
  • 稲木 紀幸(石川県立中央病院消化器外科)
  • 稲田 高男(栃木県立がんセンター外科・臨床検査部)
  • 井上 健太郎(関西医科大学外科学講座)
  • 浅生 義人(天理よろづ相談所病院腹部一般外科)
  • 西岡 豊(高知県・高知市病院企業団立高知医療センター消化器外科・一般外科)
  • 二宮 基樹(広島市立広島市民病院外科)
  • 藤原 義之(大阪府立成人病センター消化器外科)
  • 衞藤 剛(大分大学医学部第一外科)
  • 寺島 雅典(静岡県立静岡がんセンター胃外科)
  • 肥田 圭介(岩手医科大学外科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
19,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全体では70%近い治癒率を達成した胃がんにおいて、依然10%程度の5年生存率にとどまっているスキルス胃がん、あるいはそれに準ずる大きな3型胃がんの予後改善が本研究の目的である。スキルス胃がんは20代の若年者にも多く発生し、数多くの悲劇を生んできた。就労期の患者が多数を占める同疾患の予後改善の必要性は高く、その社会的な意義も極めて大きい。今後ピロリ菌感染率の低下により、若年者における胃がんは未分化型のものが主流となり、スキルス胃がんの比率が上昇することも予想される。初版のがん対策基本法にうたわれた75才以下のがん生存率の改善にこの研究は極めて重要である。
研究方法
【研究形式】多施設共同の第Ⅲ相ランダム化比較試験主たるエンドポイントは全生存期間。【研究対象】腹腔鏡検査を含めた臨床的検索で遠隔転移を伴わない治癒切除可能な8cm以上の大型3型・4型胃がん症例。【症例登録とランダム割付】JCOGデータセンターで中央登録。 【治療内容】試験治療:術前TS-1(3週投与1週休薬)+CDDP(day8)による化学療法を2コース実施後、D2以上の郭清を伴う根治手術を行い、術後6週以内よりTS-1単独による化学療法を約1年実施する。対照群:試験群と同様の手術・術後治療を行う。【予定症例数】予定登録数は316例である。【実施施設】JCOG胃がん外科グループに所属する消化器がんの基幹施設52施設で実施。(倫理面への配慮)本人に口答及び文章による説明を行い、文章による同意を得る。説明内容には、試験参加の自由、同意後の撤回の自由、質問の自由、個人情報の扱いなどが含まれる。
結果と考察
【研究結果】本試験は2005年に手術単独と術前化学療法+手術を比較する試験として開始されたが、2006年に我が国の1000例を超す大規模試験で術後補助化学療法の有用性が証明され、我が国のステージ2以上の進行胃がんに対する標準治療はD2手術+術後TS-1の1年間投与に変更となった。この影響で試験の登録を一時中止して、両群ともに術後補助化学療法を加えた内容に治療を変更して2007年に再開した。2012年3月末で252例を登録し、24年度52例を追加し、平成25年3月4日現在304例が登録されている。おそらく2013年6月までには予定数登録が終了し、同時期の追跡データを用いた第2回の中間解析が実施される予定である。試験の継続に関しては、平成25年9月のJCOG効果・安全性評価委員会の判断による。手術合併症による死亡はなく、順調に試験は進行している。【考察】治癒切除可能進行胃がんに対する標準治療は3極化しており、米国では治癒切除後に術後放射線化学療法、欧州では術前術後補助化学療法、我が国は治癒切除後(D2)に術後化学療法単独となっている。術前化学療法は高いコンプライアンスが特徴で、微小転移のコントロールに期待が寄せられている。一方で無効症例での手術の遅れ、臨床的ステージングの間違いにより必ず一定頻度でその様な治療が不要な患者にまで負担をかけることなどの問題もある。また、我が国では術後補助化学療法単独でもかなり良好な治療成績を得ること、欧米に比して症例数が5倍以上多く、進行胃がんの全例に入院治療を要する術前化学療法を行う社会的な負担(医療経済)および入退院マネージメントの煩雑さから、現時点では広く進行胃がんを対象とするには時期尚早と考えられている。本試験でかかる治療の有効性が明確となれば、通常型のステージ3胃がんを対象に術前化学療法を適応しようとする流れが予想できる。一方で、最近進行再発胃がん症例を対象に、TS-1にOxaliplatin を併用する治療が従来の標準であるTS-1+CDDPに対する非劣勢を証明したことから、術後に用いた場合の完遂率が悪いS-1+CDDPでなく、TS-1 + Oxaliplatinを用いた術後補助化学療法もステージIII胃がんの有望な試験治療となることから、本レジメンによる術前化学療法と標準治療との3アームのRCTなどが考えられる。
結論
予後不良な大型3型・4型胃がんに対してTS-1+CDDPによる術前化学療法を2コース行う治療は安全に施行でき、今後の生存解析の結果が注目される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221022B
報告書区分
総合
研究課題名
治癒切除後の再発リスクが高い進行胃がん(スキルス胃がんなど)に対する標準的治療の確立に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-023
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
笹子 三津留(兵庫医科大学 医学部外科学上部消化管外科)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 暁(東京都立墨東病院外科)
  • 伊藤 誠二(愛知県がんセンター中央病院)
  • 岩崎 善毅(東京都立駒込病院外科)
  • 加治 正英(富山県立中央病院外科)
  • 高木 正和(静岡県立総合病院外科)
  • 円谷 彰(神奈川県立がんセンター 消化器外科)
  • 梨本 篤(新潟県立がんセンター新潟病院外科)
  • 福島 紀雅(山形県立中央病院外科)
  • 畑 啓昭(独立行政法人国立病院機構京都医療センター外科)
  • 川崎 健太郎(兵庫県立がんセンター 消化器外科)
  • 谷口 弘毅(京都第2赤十字病院外科)
  • 山上 裕機(和歌山県立医科大学第2外科)
  • 河内 保之(長岡中央綜合病院外科)
  • 土岐 祐一郞(大阪大学大学院医学系研究科消化器外科学)
  • 寺島 雅典(静岡県立静岡がんセンター胃外科)
  • 谷川 允彦(大阪医科大学一般・消化器外科)
  • 吉田 和弘(岐阜大学大学院腫瘍制御学講座腫瘍外科学分野)
  • 稲木 紀幸(石川県立中央病院消化器外科)
  • 稲田 高男(栃木県立がんセンター外科・臨床検査部)
  • 井上 健太郎(関西医科大学外科学講座)
  • 浅生 義人(天理よろづ相談所病院腹部一般外科)
  • 黒田 大介(神戸大学大学院医学研究科食道胃腸外科)
  • 西岡 豊(高知県・高知市病院企業団立高知医療センター消化器外科・一般外科)
  • 二宮 基樹(広島市立広島市民病院外科)
  • 藤原 義之(大分大学医学部第一外科)
  • 肥田 圭介(岩手医科大学外科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全体では70%近い治癒率を達成した胃がんにおいて、依然10%程度の5年生存率にとどまっているスキルス胃がん、あるいはそれに準ずる大きな3型胃がんの予後改善。
研究方法
【研究形式】多施設共同の第Ⅲ相ランダム化比較試験(優越性試験)で主たるエンドポイントは全生存期間。【研究対象】腹腔鏡検査を含めた臨床的検索で遠隔転移を伴わない(ただし洗浄細胞診陽性は可)、治癒切除可能な8cm以上の大型3型・4型胃がん症例。【症例登録とランダム割付】JCOGデータセンターで中央登録。 【治療内容】試験治療:術前TS-1(3週投与1週休薬)+CDDP(day8)による化学療法を2コースを実施後、D2以上の郭清を伴う根治手術を行い、術後6週以内よりTS-1単独による化学療法を手術後1年を目安に実施する。対照群:割付後早期に試験群と同様な内容の手術を行い、術後は試験治療と同じTS-1単剤による化学療法を約1年実施する。【予定症例数】予定登録数は316例。【実施施設】JCOG胃がん外科グループに所属する消化器がんの基幹施設53施設で実施。(倫理面への配慮)
本人に口答及び文章による説明を行い、文章による同意を得る。説明内容には、試験参加の自由、同意後の撤回の自由、質問の自由、個人情報の扱いなどが含まれる。
結果と考察
【研究結果】本試験は2005年に手術単独と術前化学療法+手術を比較する試験として開始されたが、2006年に我が国の1000例を超す大規模試験で術後補助化学療法の有用性が証明され、我が国のステージ2以上の進行胃がんに対する標準治療はD2手術+術後TS-1の1年間投与に変更となった。この影響で試験の登録を一時中止して、両群ともに術後補助化学療法を加えた内容に治療を変更して2007年に再開した。2013年3月15日までに305例を登録した。23年度は登録がのび前年度の倍以上の77例が登録されたが、24年度は若干登録速度が落ち、53例の登録となっている。いずれにしろ従来の速度では次回のJCOGの定期生存追跡が実施される2013年6月には全登録予定症例の登録が完了していると思われ、この時点の生存データを用いた第2回目の中間解析は2013年9月に実施されると考えられる。これまでに手術合併症による死亡はなく、順調に試験は進行している。【考察】治癒切除可能進行胃がんに対する標準治療は3極化しており、米国では治癒切除後に術後放射線化学療法、欧州では術前術後補助化学療法、我が国は治癒切除後(D2)に術後化学療法単独となっている。術前化学療法は高いコンプライアンスが特徴で、微小転移のコントロールに期待が寄せられている。一方で無効症例での手術の遅れ、臨床的ステージングの限界により必ず一定頻度で補助化学療法の適応が無い(その様な治療が不要な)患者にまでかなりアグレッシブな治療を行うこととなるなどの問題がある。また、我が国では術後補助化学療法単独でもかなり良好な治療成績を得ること、欧米に比して症例数が5倍以上多く、進行胃がんの全例に入院治療を要する術前化学療法を行う社会的な負担(医療経済)および入退院マネージメントの煩雑さから、広く進行胃がんを対象とするには時期尚早と考えられてきた。一方、高度リンパ節転移を有する進行胃がんに対する試験(JCOG0405)において、TS-1+CDDP術前化学療法は従来の治療成績を割るかに凌駕する5年生存率を示し、その顕著な効果が評価されている。同試験では術前治療のみで実施されたにも拘わらず、従来3年生存率が15%程度のがんで5年生存率が58%を示し、術後の補助化学療法の必要性に対する疑問も出ている状況である。本試験では対照群において術後補助化学療法が実施されており、術前化学療法の上乗せ効果を評価する試験となっている。今後この試験の結果が術前治療の上乗せ効果を証明した場合に、ステージ3胃がんでもより予後の良い対象にして、術前化学療法単独あるいは術前+術後治療を試験治療とした治療開発研究が予想される。前述したような術前診断精度に関しては、一定の術前診断基準を用いた場合にステージIの混入が最小限にできる可能性を評価する前向きの妥当性研究を準備中である。また、2013年1月に進行再発胃がん症例を対象としたSOX(TS-1とOxaliplatin を併用)治療が標準治療であるTS-1+CDDPに対して非劣性である事が報告され、今後は外来での実施が可能なSOXも術前化学療法の候補レジメンとなることも考えられ、この治療法を術前に用いた場合の第2相試験の結果が待たれる。
結論
予後不良な大型3型・4型胃がんに対してTS-1+CDDPによる術前化学療法を2コース行う治療は安全に施行でき、今後の生存解析の結果が注目される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201221022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
治癒切除可能な進行胃癌の標準治療はD2郭清を伴う根治的胃切除と術後補助化学療法である。本研究では手術の適応が議論となるような予後不良の胃癌を対象に絞り込んで、1)全例に審査腹腔鏡を実施したこと、2)ランダム割り付けにより半数では入院治療を必要とする術前化学療法を2コース施行して対照群と比較できたことが大きな成果である。術前化学療法+根治手術+術後補助化学療法を試験治療として研究した大規模試験は手術単独を対象とした試験が欧州で2つあるのみで、手術+術後補助化学療法を対象とした試験は世界初である。
臨床的観点からの成果
2013年7月に登録終了し、2回目の中間解析が実施されたが、有効中止に至らず。さらにイベント数が2016年5月現在で予想よりも遙かに少ないので、追跡期間を2年延長し、2017年11月に最終解析を先送りすることとなった。予後不良のスキルス胃がんなどに対する審査腹腔鏡は日常臨床の一部として定着した。入院治療を要する術前化学療法を一般臨床で実施する素地を作った。現時点で両郡を併せた全登録患者の5年生存率が47.8%と極めて良好で、最終解析結果は2018年6月の米国臨床腫瘍学会で発表予定。
ガイドライン等の開発
手術+術後補助化学療法群を対象として、データを解析した結果審査腹腔鏡の腹膜播種に対する診断精度(感度、特異度)および肉眼的治癒切除可能性に対する診断精度が良好であることが判明し、審査腹腔鏡の実施に関する重要なエビデンスとして2017年の消化器シンポジウム(いわゆるASCO-GI)で発表した。2017年度中には成果を論文化する。今後のガイドラインにその位置づけが明記されると予想される。治療成績が出た時点で、その結果の如何に関わらず、本試験対象の大型3型・4型胃癌の治療法が明記されることになる。
その他行政的観点からの成果
従来局所麻酔下で実施されることが多かった腹腔鏡検査(主として肝臓内科医が実施)に外科医が関与することで、手術場にて全身麻酔下で行うことが標準的となり、患者にとってより安全で苦痛の少ない検査が保険適応となったことは大きな成果と言える。2015年に新たに複数の抗がん薬が胃がんの補助化学療法としての承認を受け、術後補助化学療法のみならず術前化学療法でも保険上承認されるようになり、この試験のような術前化学療法の一般臨床における使用の準備態勢が整えられつつある。
その他のインパクト
本研究の概要はすでに学会等で発表しており、海外からも注目を集めている。その理由は、海外では手術対象から外れているスキルス胃癌を対象としていること、術前治療の上乗せ効果を純粋に評価できる試験デザインであること、審査腹腔鏡を全例に義務づけた精度の高い試験であること、の3つである。また2015年のESMOでこの治療の安全性と両群を併せた300例における良好な治療席席は報告した。印環細胞癌やスキルス胃がんを手術適応と見なさない欧米に一石を投じた。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
326件
学会発表(国際学会等)
80件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Y. Kurokawa, M. Sasako, T. Sano, et al.
Functional outcomes after extended surgery for gastric cancer.
British Journal of Surgery , 98 (11) , 239-245  (2011)
10.1002/bjs.7297

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201221022Z