切除不能進行・再発胃がんに対する個別化治療に関する研究

文献情報

文献番号
201221018A
報告書区分
総括
研究課題名
切除不能進行・再発胃がんに対する個別化治療に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-019
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 康秀(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院消化管内科)
研究分担者(所属機関)
  • 朴 成和(聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学)
  • 小泉 和三郎(北里大学医学部 消化器内科)
  • 樋口 勝彦(北里大学医学部 消化器内科)
  • 高金 明典(函館厚生院五稜郭病院 外科)
  • 肥田 圭介(岩手医科大学 消化器外科・胃外科)
  • 福島 紀雅(山形県立中央病院 消化器外科)
  • 辻本 広紀(防衛医科大学校 上部消化管外科)
  • 山口 研成(埼玉県立がんセンター 消化器内科)
  • 布施 望(国立がん研究センター東病院 消化管腫瘍科)
  • 前田 義治(がん・感染症センター東京都立駒込病院 化学療法科)
  • 陳 勁松(がん研究会有明病院 消化器内科)
  • 高野 利実(虎の門病院 臨床腫瘍科)
  • 中山 昇典(神奈川県立がんセンター 消化器内科)
  • 梨本 篤(新潟県立がんセンター新潟病院 外科)
  • 河内 保之(長岡中央綜合病院 外科)
  • 堀田 洋介(富山県立中央病院 外来化学療法科)
  • 土山 寿志(石川県立中央病院 消化器内科)
  • 吉田 和弘(岐阜大学 上部消化管外科)
  • 多久 佳成(静岡県立総合病院 腫瘍内科)
  • 安井 博史(静岡県立静岡がんセンター 消化器内科)
  • 高張 大亮(愛知県がんセンター中央病院 薬物療法科)
  • 小寺 泰弘(名古屋大学 消化器外科)
  • 安井 久晃(京都医療センター 腫瘍内科)
  • 杉本 直俊(大阪府立成人病センター 臨床腫瘍科)
  • 後藤 昌弘(大阪医科大学附属病院 臨床治験センター)
  • 奥野 達哉(神戸大学医学部附属病院 消化器内科)
  • 津田 政広(兵庫県立がんセンター 消化器内科)
  • 中森 幹人(和歌山県立医科大学 外科学第2講座)
  • 仁科 智裕(四国がんセンター 消化器内科)
  • 平島 詳典(大分大学医学部 腫瘍内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胃癌(HER2陰性)を対象に、ドセタキセル+シスプラチン+S-1(DCS)療法を試験治療とし、標準治療であるシスプラチン+S-1(CS)療法に対する優越性を第Ⅲ相試験で検証することを目的とする。
1)クレアチニンクリアランス値に従って抗癌剤投与量を変更することにより、重篤な副作用を回避するための腎機能による治療の個別化、2)組織型による治療法の個別化の有用性を確認する。得られた抗癌剤効果予測因子候補である分子マーカー(excision repair cross-
complementing group 1 (ERCC1)など)や組織型(未分化型/分化型腺癌)別に、その有用性および妥当性を検証する
JCOG9912付随研究から予後因子、効果予測因子としての可能性が考えられたERCC1、チミジル酸合成酵素(TS)、ジヒドロピリミジン脱水素酵素 (DPD)、などと抗腫瘍効果の関係も確認することとし分子マーカーによる個別化治療の確立を目指す。また本試験内でDCS療法およびCS療法の効果、および薬物有害反応の予測因子、予後因子を同定し検証する。
研究方法
HER2陰性切除不能進行・再発胃癌患者を対象に、ドセタキセル+シスプラチン+S-1併用療法(DCS療法)を試験治療とし、標準治療であるシスプラチン+ S-1(CS)療法に対する優越性をランダム化比較にて検証する。主要評価項目は全生存期間、筆頭副次的評価項目は分化型腺癌/未分化型腺癌のサブグループ毎の全生存期間(組織型別にDCS群、CS群の治療効果が異なる場合、結果の解釈を事前に定めている)、副次的評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、用量強度、有害事象発生割合、Grade 4の非血液毒性発生割合、早期死亡割合、治療関連死亡発生割合、分化型腺癌/未分化型腺癌のサブグループ毎の無増悪生存期間、分化型腺癌/未分化型腺癌のサブグループ毎の奏効割合とする。
試験治療(DCS)群では、第1コース開始前のクレアチニンクリアランス値に応じて、シスプラチンおよびS-1の投与量を変更する。クレアチニンクリアランスはCockcroft-Gault式により推測値を求める。
ERCC1などmRNA定量のための薄切標本の作成は各々の参加施設で行う。原発巣切除標本(ホルマリン固定パラフィン包埋)からmRNA量を測定する患者では解析用として10枚(10μm厚)、原発巣内視鏡生検標本を用いて測定する患者では遺伝子発現解析用として15枚を測定施設に送付する。H-E(hematoxylin and eosin)染色用としての薄切標本は、1検体あたり5μm厚1枚のプレパラートを用意する。mRNA発現量の測定は、抗癌剤に対する腫瘍反応を規定する因子を解析することにより腫瘍に即した個別化化学療法が可能になるとの考えから、同因子の腫瘍内におけるmRNA発現量をRT-PCR法により北里大学消化器内科で行う。レーザー捕獲顕微鏡を用いて、マーキングしたH-E染色像を参照しながら10μm厚のプレパラート上の腫瘍細胞のみを正確に切り出す。切り出した腫瘍細胞からRNAを抽出し、高精度かつ高感度微量検出可能なReal time RT-PCR法を用いてmRNA発現量の解析を行う。
結果と考察
本研究の結果、HER2陰性胃癌に対する新たな標準治療を確立することができる。また、実臨床における高齢癌患者の増加に際し、体表面積に加え年齢、性を考慮した腎機能の指標であるクレアチニンクリアランス値を用い、より適正化した個々の患者の初回抗癌剤投与量を設定することの有用性、重篤な有害事象を回避することによる治療継続性を検証する。
本研究による先行研究の結果、ERCC1は切除不能進行・再発胃癌の独立した予後不良因子であり、ERCC1 mRNA量は分化型腺癌に比べ未分化型腺癌で高い傾向がみられた。本第Ⅲ相試験では試験対象全体の治療成績の解析に加え、組織型別の対象集団に対する治療効果を確認する。
平成24年4月より登録を開始、予定登録患者数、750名、登録期間は4.5年、追跡期間は登録終了後1.5年、総研究期間として6年を予定している。
結論
対照(CS)群の全生存期間中央値は13.5ヶ月と予想される。試験治療(DCS)群がこれを3ヶ月上回るか否かを検出する優越性臨床試験として計画した場合、症例集積期間4.5年、追跡期間1.5年、有意水準片側5%、検出力80%と仮定すると、この差に必要な症例数は732例となる。若干の不適格、除外症例を見込んで、1群375例、2群併せて750例の症例集積を目標とする。
平成25年3月5日現在、186名(参加施設は48施設)が登録された。試験開始後の症例集積速度(16.9人/月)は既に予定(13.8人/月)を上回っている。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221018B
報告書区分
総合
研究課題名
切除不能進行・再発胃がんに対する個別化治療に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-019
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 康秀(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院消化管内科)
研究分担者(所属機関)
  • 朴 成和(聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学)
  • 小泉 和三郎(北里大学医学部 消化器内科)
  • 樋口 勝彦(北里大学医学部 消化器内科)
  • 山口 研成(埼玉県立がんセンター 消化器内科)
  • 布施 望(独立行政法人国立がん研究センター東病院 消化管腫瘍科)
  • 前田 義治(がん・感染症センター東京都立駒込病院 化学療法科)
  • 陳 勁松(公益財団法人がん研究会有明病院 消化器内科)
  • 中山 昇典 (神奈川県立がんセンター 消化器内科)
  • 堀田 洋介(富山県立中央病院 外来化学療法科)
  • 安井 博史(静岡県立静岡がんセンター 消化器内科)
  • 高張 大亮(愛知県がんセンター中央病院 薬物療法科)
  • 安井 久晃(京都医療センター 腫瘍内科)
  • 後藤 昌弘(大阪医科大学附属病院 臨床治験センター)
  • 奥野 達哉(神戸大学医学部附属病院 消化器内科・光学診療部)
  • 津田 政広(兵庫県立がんセンター 消化器内科)
  • 仁科 智裕(四国がんセンター 8階西病棟医師)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HER2陰性切除不能進行・再発胃癌患者を対象に、ドセタキセル+シスプラチン+S-1併用療法(DCS療法)を試験治療とし、標準治療であるシスプラチン+ S-1(CS)療法に対する優越性を検証するためのランダム化比較試験を核として ①HER2による治療の個別化、②クレアチニンクリアランスによる治療の個別化、③組織型による治療法の個別化、④予後予測分子マーカーによる治療法の個別化を目指す。
研究方法
HER2陰性切除不能進行・再発胃癌患者を対象に、ドセタキセル+シスプラチン+S-1併用療法(DCS療法)を試験治療とし、標準治療であるシスプラチン+ S-1(CS)療法に対する優越性をランダム化比較にて検証する。HER2陽性である場合はトラスツズマブを抗癌剤に併用することが推奨されるため、本試験の対象とはしない。
主要評価項目は全生存期間、筆頭副次的評価項目は分化型腺癌/未分化型腺癌のサブグループ毎の全生存期間(組織型別にDCS群、CS群の治療効果が異なる場合、結果の解釈を事前に定めている)、副次的評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、用量強度、有害事象発生割合、Grade 4の非血液毒性発生割合、早期死亡割合、治療関連死亡発生割合、分化型腺癌/未分化型腺癌のサブグループ毎の無増悪生存期間、分化型腺癌/未分化型腺癌のサブグループ毎の奏効割合とする。
試験治療(DCS)群では、第1コース開始前のクレアチニンクリアランス値に応じて、シスプラチンおよびS-1の投与量を変更する。クレアチニンクリアランスはCockcroft-Gault式※により推測値を求める。
※Cockcroft-Gault式を以下に示す:男性:Ccr={(140-年齢)×体重(kg)} / {72×血清Cr値(mg/dL)}、女性:Ccr=0.85×{(140-年齢)×体重(kg)} / {72×血清Cr値(mg/dL)}。
ERCC1などmRNA定量のための薄切標本の作成は各々の参加施設で行う。原発巣切除標本(ホルマリン固定パラフィン包埋)からmRNA量を測定する患者では解析用として10枚(10μm厚)、原発巣内視鏡生検標本を用いて測定する患者では遺伝子発現解析用として15枚を測定施設に送付する。H-E(hematoxylin and eosin)染色用としての薄切標本は、1検体あたり5μm厚1枚のプレパラートを用意する。mRNA発現量の測定は、抗癌剤に対する腫瘍反応を規定する因子を解析することにより腫瘍に即した個別化化学療法が可能になるとの考えから、同因子の腫瘍内におけるmRNA発現量をRT-PCR法により北里大学消化器内科で行う。レーザー捕獲顕微鏡を用いて、マーキングしたH-E染色像を参照しながら10μm厚のプレパラート上の腫瘍細胞のみを正確に切り出す。切り出した腫瘍細胞からRNAを抽出し、高精度かつ高感度微量検出可能なReal time RT-PCR法を用いてmRNA発現量の解析を行う。従来、このようなmRNA発現解析は新鮮凍結標本を用いることが必要とされてきたが、北里大学は、通常病理検査標本であるホルマリン固定パラフィン包埋薄切標本から解析に十分なRNAを抽出する技術を有している。
結果と考察
本研究の結果、HER2陰性胃癌に対する新たな標準治療を確立することができる。また、実臨床における高齢癌患者の増加に際し、体表面積に加え年齢、性を考慮した腎機能の指標であるクレアチニンクリアランス値を用い、より適正化した個々の患者の初回抗癌剤投与量を設定することの有用性、重篤な有害事象を回避することによる治療継続性を検証する。
本研究による先行研究の結果、ERCC1は切除不能進行・再発胃癌の独立した予後不良因子であり、ERCC1 mRNA量は分化型腺癌に比べ未分化型腺癌で高い傾向がみられた。本第Ⅲ相試験では試験対象全体の治療成績の解析に加え、組織型別の対象集団に対する治療効果を確認する。
また本試験の付随研究として、抗癌剤の効果予測法を開発するために、癌部生検組織および血液検体を用いて網羅的遺伝子解析およびプロテオミクス解析などを国立がん研究センター研究所で行う。余剰検体はJCOGバイオバンクに保存し、検査法の進歩により新たな解析が必要な場合は再利用する。
結論
平成24年4月より症例登録を開始、予定登録患者数750名、登録期間4.5年、追跡期間は登録終了後1.5年、総研究期間として6年を予定している。
平成25年3月5日現在、186名(参加施設は48施設)が登録された。試験開始後の症例集積速度(16.9人/月)は既に予定(13.8人/月)を上回っている。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201221018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「HER2陰性切除不能進行・再発胃癌患者を対象に、ドセタキセル+シスプラチン+S-1併用療法(DCS療法)を試験治療とし、標準治療であるシスプラチン+ S-1(CS)療法に対する優越性を検証するためのランダム化比較試験」を核とした研究である。①HER2、②クレアチニンクリアランス、③組織型、④予後予測分子マーカーによる治療法の個別化を目的としている。腫瘍組織診断による治療戦略を確立するための前向き臨床試験である本研究を行う意義がある。
臨床的観点からの成果
実臨床における高齢癌患者の増加に際し、体表面積に加え年齢、性を考慮した腎機能の指標であるクレアチニンクリアランス値を用い、より適正化した個々の患者の初回抗癌剤投与量を設定することの有用性、重篤な有害事象を回避することによる治療継続性を検証する。予後不良な未分化型腺癌および比較的予後良好な分化型腺癌に対する治療効果を比較し、組織型による治療法選別の可能性を確認する。
ガイドライン等の開発
本研究を通じてHER2陰性切除不能進行・再発胃癌に対する新たな標準治療を確立することができる。多剤併用療法として現時点で最も有望とされているDCS療法と標準治療であるCS療法(逐次治療)のいずれがより有効か、あらかじめ選定した因子別にその集団に対する治療法を検証することにより治療法の個別化を確立することを本研究の目的とする。 
その他行政的観点からの成果
腎機能による「癌治療の個別化」を実現することにより、過剰な副作用を軽減し癌治療に関わる医療費の抑制に寄与する。また、標準治療、試験治療、各々の効果が得られ難い治療集団を特定できた場合には、この得られた予後不良集団に対する新たな治療開発、技術革新が必要となる。実臨床上、有効な治療効果予測因子を特定し、将来行われる第Ⅱ及び第Ⅲ相試験の対象患者の層別化因子あるいは新たな治療標的・戦略を得る可能性がある。
その他のインパクト
DNA修復酵素の一つであるERCC1は、切除不能進行・再発胃癌の独立した予後不良因子である。ERCC1mRNA量は分化型腺癌に比べ未分化型腺癌で高い傾向がみられた。本第Ⅲ相試験では試験対象全体の治療成績の解析に加え、組織型別の対象集団に対する治療効果を確認する。余剰検体はJCOGバイオバンクに保存し、検査法の進歩により新たな解析が必要な場合は再利用する。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
31件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada Y, Boku N, Nishina T, et al.
Impact of excision repair cross-complementing gene 1 (ERCC1) on the outcomes of patients with advanced gastric cancer: correlative study in Japan Clinical Oncology Group Trial JCOG9912
Ann Oncol , in print  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201221018Z