文献情報
文献番号
201221015A
報告書区分
総括
研究課題名
高度リンパ節転移を伴う進行胃癌の根治を目指した術前化学療法 +拡大手術法の確立
課題番号
H22-がん臨床-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐野 武(公益財団法人がん研究会有明病院 消化器外科)
研究分担者(所属機関)
- 梨本 篤(新潟県立がんセンター新潟病院 外科)
- 平林 直樹(広島市立安佐市民病院 外科)
- 伊藤 誠二(愛知県がんセンター中央病院 消化器外科)
- 田中 洋一(埼玉県立がんセンター 消化器外科)
- 今村 博司(市立豊中病院 外科)
- 山田 誠(岐阜市民病院 外科)
- 齋藤 俊博(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 外科)
- 藤谷 恒明(宮城県立がんセンター 外科)
- 平塚 正弘(市立伊丹病院 外科)
- 田村 茂行(独立行政法人労働者健康福祉機構関西労災病院 消化器外科)
- 浅海 信也(福山市民病院 消化器外科)
- 辻本 広紀(防衛医科大学校 外科)
- 掛地 吉弘(神戸大学大学院医学研究科 食道胃腸外科)
- 宇田川 晴司(虎の門病院 消化器外科)
- 平原 典幸(島根大学医学部附属病院 消化器・総合外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高度リンパ節転移を伴う胃癌では、たとえ肉眼的治癒切除が行えたとしても予後は極めて不良である。しかし、遠隔転移、腹膜播種などの切除不能因子を有する進行胃癌と異なり、強力な術前化学療法と拡大手術の組み合わせにより治癒できる可能性がある。本試験は、このような対象に対してこれまで積み重ねてきた第II相試験をさらに発展させ、術前化学療法と拡大手術の最良の組み合わせ治療を確立することを目的とする。
研究方法
日本臨床腫瘍グループ(JCOG)胃がんグループによる多施設共同第II相臨床試験としてスタートした。上腹部造影CTにて高度リンパ節転移陽性(第2群リンパ節転移が一塊となって腫瘤を形成するBulky N2と、第3群大動脈周囲リンパ節No.16a2/b1転移のどちらか、または両方)と診断された症例を対象とし、Docetaxel+CDDP+S-1(DCS)療法を2コース行った後、腫瘍縮小効果をRECISTで評価し、手術を行う。治癒切除を目指し、D3郭清を伴う胃切除を行う。術後はS-1補助化学療法を1年間行う。主評価項目は術前化学療法による奏効割合、副次評価項目は3年生存割合、5年生存割合、根治切除割合、治療完遂割合、組織学的奏効割合、有害事象発生割合とする。
結果と考察
平成24年度は、前年に引き続き症例登録を行った。平成24年度末までに45例が登録され、間もなく完了予定である。規定の治療が行われたが、特に重篤な有害事象は報告されていない。本治療計画においては、化学療法後に全例D3郭清を行うこととなっているが、本グループによる過去のRCT(JCOG 9501)で予防的D3郭清の意義が否定されて以来、日常臨床でD3郭清が行われることが少なくなっている。本研究ではD3郭清の経験豊富なメンバーによる教育チームを編成し、登録症例の手術時に手術支援が行えるよう準備しているが、これまで教育チームへの要請はなく、各施設で安全に施行されている。T1胃癌の予後は極めて良好で、T2、T3胃癌の手術成績も高く、S-1補助化学療法がこれをさらに改善している。一方、切除不能因子(腹膜播種や遠隔転移)を有する胃癌の予後は未だに極めて不良で、現在の化学療法にはこれを治癒せしめるパワーはない。この境界域にあると考えられるのが①スキルス型浸潤を示す腫瘍と②高度リンパ節転移を有する腫瘍である。これらは、肉眼的治癒切除が行えたとしても予後は不良(3年生存割合15-20%)であり、術後補助化学療法の効果も不十分である。①に対しては現在すでにS-1+CDDPによる術前化学療法の効果を検証する第III相試験(JCOG 0501)が進行中であるが、②は比較的頻度が低く、かつ侵襲を伴う高度なリンパ節郭清手技が要求されるため、慎重に第II相試験が行われつつあるのが現状である。ところが最新の試験(JCOG 0405)では予想をはるかに上回る治癒切除達成率と3年生存割合が示されており、②は実は高い治療効果の望める対象であることが明らかになってきた。化学療法レジメンと拡大手術の最良の組み合わせを確立するには、質の高い第II相試験とこれに続く多施設共同の第III相試験が必須である。JCOG胃がん外科グループでは、高度リンパ節転移を有する胃癌に対しまずCDDP + CPT-11とD3郭清手術による第II相試験(JCOG 0001)を行ったところ、54.5%の臨床奏効割合と期待閾値を上回る27%の3年生存割合を達成したものの、治療関連死が3例発生して試験が中止となった(Yoshikawa, Br J Surg, 2009)。同じ対象に対してS-1 + CDDPとD3郭清手術を行ったJCOG 0405では、臨床奏効割合64.7%、根治切除割合82.4%を達成し、かつ3年生存割合59%という成績が得られた。本研究では、DCSというわが国独自の強力な3剤併用療法を用いることで、さらに高い治癒をめざす。
結論
高度リンパ節転移を有する胃癌に対し、現時点では術前S-1 + CDDPとD3胃切除(JCOG 0405)で得られた成績が最良である。本研究では、さらに生存期間の改善を目指してDCSという強力な術前化学療法と拡大郭清手術を行い、これまで極めて予後不良と事実上諦められていた症例の多くに治癒をもたらすことが期待される。今日のわが国の胃癌は、確実に治る早期癌と、非治癒因子を持つ高度進行癌に2極化されつつあると言われるが、この境界領域にある本研究対象患者の予後が改善すれば、わが国のみならず世界の胃癌治療全般の底上げにつながる。また、このような毒性の強い化学療法と拡大手術の組み合わせ治療が、外科医を中心とするグループで安全に施行可能であることが示されれば、腫瘍内科医が絶対的に不足するわが国の胃癌患者にとって朗報となろう。
公開日・更新日
公開日
2013-05-28
更新日
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