働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究:患者/家族・人事労務担当者・産業保健担当者の3者の視点を生かした支援リソースの開発、評価、普及啓発法の検討

文献情報

文献番号
201221007A
報告書区分
総括
研究課題名
働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究:患者/家族・人事労務担当者・産業保健担当者の3者の視点を生かした支援リソースの開発、評価、普及啓発法の検討
課題番号
H22-がん臨床-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 都(獨協医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 武藤孝司(獨協医科大学 医学部・公衆衛生学)
  • 森 晃爾(産業生態科学研究所 産業保健経営学)
  • 和田耕治(北里大学 医学部公衆衛生学)
  • 甲斐一郎(東京大学)
  • 多賀谷信美(獨協医科大学 越谷病院第一外科学)
  • 丸 光惠(東京医科歯科大学大学院 保健衛生学)
  • 春名由一郎(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター)
  • 錦戸典子(東海大学 健康科学部看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,834,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトの目的は、1. わが国のがん患者の就業実態と情報ニーズの把握、2.産業保健スタッフ、会社関係者、治療スタッフの支援実態の把握、3.各関係者に向けた支援教材の開発・評価の3点である。
研究方法
平成24年度は、前年度までに実施した各種実態調査にもとづき、さまざまな関係者に向けた支援リソースを開発した。また、関係者のネットワーク形成を目的として、オープン参加の勉強会と平成24年度成果報告会シンポジウムを実施した。
結果と考察
1.「産業医向けがん就労支援マニュアル」の作成
23年度に実施した産業医アンケート調査の結果と、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を参考にして、産業医活動の実際の経験をもとにガイドブックβ版を作成した。第85回日本産業衛生学会で発表し、その際得たコメントを参考にして完成版を作成した。

2.乳がん「医療-職域連携ツール」(通称:乳がん連携手帳)の開発
乳がん患者が治療情報を職場関係者と共有する際に使用するためのツールとして、「乳がん連携手帳」パイロット版を作成した。今後、乳がん専門医の協力を得て、利用における課題や有効性の検討を行っていく予定である。

3.企業向け「がん就労者」支援マニュアル
「第1章 上司・同僚ができること」「第2章 人事労務にできること」「第3章事業主にできること」の3章からなる職場関係者向け支援マニュアルを作成した。まず関係者の議論に基づいてβ版マニュアルを作成し、研究班成果発表シンポジウム後に一定期間収集したパブリックコメントの内容も生かして、最終版とした。パブリックコメントの大半は、マニュアルの内容の妥当性を支援する内容であった。

4.「治療と就労の両立」支援のための産業看護職向けガイドブックの開発
産業看護職へのフォーカス・グループ・インタビューや質問紙調査の結果をもとに、産業看護職が産業保健チームの一員として、より良い支援を行うためのヒントや関連情報を掲載したガイドブックを作成した。

5.がんと就労に関する職場での支援に関する人事労務担当者への質問紙調査
日本産業衛生学会の登録産業看護師を通じて、人事労務担当者を対象とした質問紙調査を実施。87名から回答があり(回収率88.8%)、④のガイドブック作成に生かした。

6.がんに罹患した労働者復職後支援に関する産業保健師インタビュー調査
企業に所属する産業保健師9名を対象にインタビュー調査を実施し、④のガイドブック作成に生かした。

7.がん患者の就労生活支援に関する臨床看護師の支援実態インタビュー調査
がん診療連携拠点病院に勤務する臨床看護師11名を対象に、就労生活支援の実践の事例についてインタビュー調査を実施した。

8.医療従事者が行う働く世代のがん患者の治療と仕事の効率的な両立支援に関する分析

9.閉経前子宮頸がん患者のうつの実態と就労に関連する調査
26名の閉経前子宮頸がん患者(平均年齢39.6歳)を対象とした調査を実施し、うつの発症率や就労状況について分析した。

10.小児がんの子どもをもつ母親の就労の変化とその関連要因
小児がん治療終了後の母親を対象にアンケート調査を実施した。

11.がんの就労支援における労働分野との連携の局面とその課題に関する文献調査-精神障害と難病に対する就労支援との比較から-
精神障害や難病への医療と労働の連携による就労支援について国内、海外の動向を文献等で調査するとともに、がんとの比較考察を実施した。

12.医療ソーシャルワーカーによるがん患者の就労支援相談に関する事例収集
がん患者への就労支援相談の実践内容を「事象」として収集し、就労支援におけるスタンス、知識やスキルなどをまとめた。

13.がん患者家族の治療と就労の両立に関するインターネット調査
23年度実施の「治療と就労の両立に関するインターネット調査」について、回収締切後の返信も含めた患者本人431名、家族91名の回答からなる最終的データセットの分析を実施した。

14.小冊子「診断されたらはじめに見る―がんと仕事のQ&A」の開発
23年度実施の「治療と就労の両立に関するインターネット調査」の自由記述欄に寄せられた患者本人と家族の体験談や質問をもとにして、「がんと仕事のQ&A」を開発した。

15.「がんと就労」勉強会とシンポジウムの開催
関係者のネットワーク形成を目的として、平成24年度も継続して勉強会と成果報告シンポジウムを1度ずつ開催した。
結論
 平成24年度は、がん患者・家族の就労に関する国内の各種実態調査を継続実施するとともに、関係者向けの支援リソースの開発を行い、支援リソースは研究班ホームページで公開した。関係者のネットワーク形成も継続して実施した。最終年度の目標をほぼ達成した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221007B
報告書区分
総合
研究課題名
働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究:患者/家族・人事労務担当者・産業保健担当者の3者の視点を生かした支援リソースの開発、評価、普及啓発法の検討
課題番号
H22-がん臨床-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 都(獨協医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 武藤孝司(獨協医科大学 医学部・公衆衛生学 )
  • 森 晃爾(産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
  • 和田耕治(北里大学 医学部公衆衛生学)
  • 甲斐一郎(東京大学)
  • 多賀谷信美(獨協医科大学 越谷病院第一外科学)
  • 丸 光惠(東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科)
  • 春名由一郎(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター)
  • 錦戸典子(東海大学 健康科学部看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトの目的は、1. わが国のがん患者と家族の就業実態と情報ニーズ、さらに就業の阻害要因を明らかにすること、2. 就業環境整備のキーパーソンである産業医、人事労務担当者、治療担当医療者の支援実態を明らかにし、支援力向上への課題を明らかにすること、3. 患者・家族、産業保健担当者、人事労務担当者、治療担当医療者のそれぞれに向けて、教材と教育カリキュラムを開発・評価するとともに、国民に向けた効果的啓発の方策を提言することである。
本プロジェクトは、多様な背景をもつ患者と家族の実情を把握する点、産業保健担当者・人事労務担当者・治療担当医・企業関係者の視点もとりこむ点、種々の立場の関係者に向けた就業支援リソースを開発・評価する点で独創的である。
研究方法
平成22年度は、前述した各関係者を対象とした実態調査を企画・実施し、その問題意識や情報ニーズを把握するとともに、海外支援団体が作成した支援教材や研修会カリキュラムの分析も行った。平成23年度は、前年度に引き続いて各関係者を対象とした実態調査を実施し、その問題意識や情報ニーズを分析した。平成24年度は、追加の実態調査を実施するとともに、23年度までに実施した調査の結果にもとづき、さまざまな関係者に向けた支援リソースを開発した。
さらに、関係者のネットワーク形成を目的として、オープン参加の勉強会を3年間で計9回、各年度の成果報告会シンポジウムも3度実施し、そのすべての報告書を作成して公開・配布した。
結果と考察
がん患者の就労の種々の関係者を対象とした実態調査と、その知見に基づいた支援リソースを開発した。

(1) さまざまな関係者を対象とした実態調査および関連論考
がん患者と家族を対象とした意識調査(インタビュー調査、質問紙調査、インターネット調査)を4件、職場関係者および産業保健スタッフ対象の支援実態および意識調査を4件(インタビュー調査、質問紙調査)、医療者対象の支援実態および意識調査(インタビュー調査、質問紙調査)を3件、一般市民対象の「がんイメージ」調査を1件実施した。さらに、医療従事者が行う働く世代のがん患者の治療と仕事の効率的な両立支援に関する分析、生活機能の観点からみた、がんの就労問題の構造の分析、がんの就労支援における労働分野との連携の局面とその課題に関する文献調査を行った。

(2) さまざまな関係者に向けた支援リソースの開発
患者・家族向けとして「がんと仕事のQ&A」、職場関係者向けとして「企業向け「がん就労者」支援マニュアル」、治療スタッフ向けとして「がん治療を行う臨床医向け“実例に学ぶ:5つのポイント”」、産業保健スタッフ向けとして「産業看護職向けガイドブック」「嘱託産業医向けガイドブック」、相談員向けとして「医療ソーシャルワーカー向け事例集」をそれぞれ作成した。

今年度公開した各種支援リソースはすべて、平成25年2月15日付で研究班ホームページ内で公開している。今後の課題として、これらリソースの普及啓発方法のさらなる検討と、リソースの効果評価が挙げられる。その課題に向けて、これまでの勉強会やシンポジウムで形成した患者団体関係者・企業関係者・多職種の医療者などのネットワークを活用していく予定である。

結論
本プロジェクトは平成22-24年度にかけて実施された3年プロジェクトである。がん患者の就労や関係者の支援状況に関する実態の把握と、各種支援リソースの開発を行い、当初の目的をほぼ達成した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201221007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
働くがん患者および家族、臨床医、産業保健スタッフ、職場関係者などを対象とした多角的な調査を実施し、我が国の患者や家族が直面する就労問題を詳細に把握するとともに、支援実態と課題を明らかにした。調査結果は原著論文、解説論文として発表しており、今後もデータ分析を進めて論文を発表する予定である。
臨床的観点からの成果
本研究班主催の勉強会やシンポには多くの臨床医・看護師が参加し、医療機関における講演会に結び付いた。また、「就労支援」のテーマが、がんプロフェッショナル養成プランのE-learningや認定看護師教育カリキュラムにもとりあげられた。
ガイドライン等の開発
関係者向けの支援ガイドラインとして、患者・家族向け「がんと仕事のQ&A」、職場関係者向け「企業向け「がん就労者」支援マニュアル」、治療スタッフ向け「がん治療を行う臨床医向け“実例に学ぶ:5つのポイント”」、産業保健スタッフ向けとして「産業看護職向けガイドブック」「嘱託産業医向けガイドブック」、相談員向けとして「医療ソーシャルワーカー向け事例集」をそれぞれ作成した。
その他行政的観点からの成果
H23年11月に開催されたがん対策推進協議会において、働くがん患者への支援に関する参考人として招致された。第2期がん対策推進基本計画の重点項目として、「働く世代や小児へのがん対策の充実」が明記された。
その他のインパクト
3年の研究期間内に、公開勉強会を9度、公開シンポジウムを3度開催し、いずれも報告書として研究班ホームページで公開された。研究班の活動について、NHK、全国紙・地方紙、一般向け雑誌・職能関係者向け雑誌などのメディアで合計20回報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
33件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
40件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
第2期がん対策推進基本計画の重点項目として、「働く世代や小児へのがん対策の充実」が明記された。
その他成果(普及・啓発活動)
12件
公開勉強会9回、成果報告シンポジウム3回

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Wada K, Ohtsu M, Aizawa Y, et al.
Awareness and Behavior of Oncologists and Support Measures in Medical Institutions Related to Ongoing Employment of Cancer Patients in Japan
Jpn J Clin Oncol , 42 (4) , 295-301  (2012)
原著論文2
Takahashi M, Ichiro K, Muto T
Discrepancies Between Public Perceptions and Epidemiological Facts Regarding Cancer Prognosis and Incidence in Japan: An Internet Survey.
Jpn J Clin Oncol , 42 , 919-926  (2012)
原著論文3
丸 光惠、富岡晶子、中尾秀子他
小児がん長期フォローアップに関する看護の現状と看護に困難を感じた事例の実際ー外来・病棟看護管理者を対象として
日本小児血液・がん学会誌 , 50 , 203-211  (2013)
原著論文4
富田眞紀子、高橋 都、多賀谷信美、角田美也子、青木美紀子、甲斐一郎、武藤孝司
乳がん患者の夫の心身不調と相談行動
緩和ケア , 24 , 394-400  (2014)
原著論文5
Okada H. Okada H, Maru M, Maeda R, Iwasaki F, Nagasawa M, Takahashi M
Impact of childhood cancer on maternal employment in Japan
Cancer Nursing , 38 , 23-30  (2015)
原著論文6
Saito N, Takahashi M, Sairenchi T, Muto T
The impact of breast cancer on employment among Japanese women
Journal of Occupational Health , 56 , 49-55  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201221007Z