新規バイオマーカー開発による胃がんのハイリスクグループ同定のための研究

文献情報

文献番号
201220060A
報告書区分
総括
研究課題名
新規バイオマーカー開発による胃がんのハイリスクグループ同定のための研究
課題番号
H24-3次がん-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
津金 昌一郎(独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 笹月 静(独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究部 )
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター(研究所))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
I. 血漿中の糖尿病関連マーカーと胃がんとの関連-JPHC Study-:糖尿病を軸として、胃がん予防に資する新たな血漿バイオマーカーを開発することを目的に、血漿中のLeptin, Glucagon, GLP-1, Insulin, C-peptideと胃がんとの関連について検討する。II. DNAを保有するサンプルを用いた胃がんハイリスクグループ同定の候補遺伝子多型の分析-JPHC Study-:IGF-1関連、GWASで胃がんとの関連が複数報告されているPSCA関連、その他ABO, MUC1, TEKT3, ADH1B, ADH1C, ALDH2などの遺伝子多型について分析し、胃がんのハイリスクグループを同定する。III. 胃がんの発生予測モデルの構築-JPHC Study-:胃がんの個別化予防に向けて多目的コホート研究(JPHC Study)の中で胃がん発生の予測モデルを構築する。IV. 胃がんにおける飲酒とアセトアルデヒド代謝酵素であるALDH2のrs671遺伝子多型の遺伝子環境要因交互作用の検討- HERPACC Study-:ALDH2 rs671遺伝子多型と飲酒行動の間の遺伝子環境要因交互作用を検討する。
研究方法
I. コホート内症例・対照研究デザイン(477:477)に基づき、マルチプレックスサスペンションアレイシステムにより、糖尿病・肥満関連マーカー(C-peptide, insulin, glucagon, GLP-1, leptin)を同時測定した。条件付ロジステックモデルに基づき、交絡要因を調整した上で、胃がん発生のオッズ比を算出した。III.JPHC Studyの中で、胃がんのハイリスク地域の住民1368名を対象にステップワイズ法及び過去の知見より、Coxの比例ハザードモデルを用いて胃がん発生の相対危険度を算出した。IV. 愛知県がんセンター病院を受診した大規模病院疫学研究 (HERPACC)参加者でDNA検体提供のある胃がん症例697名および非がん対照者1392名を抽出した。Rs671遺伝子多型はTaqMan法により測定し、Glu/Glu, Glu/Lys, Lys/Lysの遺伝子型を決定した。ロジスティック回帰分析を行った。
結果と考察
I. 交絡要因補正後、C-peptideの第2,3,4群のオッズ比は1.26 (0.80-1.98), 1.66 (0.99-2.78), 1.87 (1.03-3.39) であった(トレンドp=0.03)。糖尿病の既往や服薬歴でさらに補正しても関連は有意なままであった。インスリンも同様の傾向であったが有意ではなかった。自己申告による糖尿病歴では要因を正確に把握できていない可能性がある。バイオマーカーを用いた本研究から高インスリン状態が胃がん発生に関与していることが示された。III. 喫煙,胃がんの家族歴、萎縮性胃炎で有意な関連を示した一方で、年齢、H.pylori感染など既知の要因はそれぞれ相対危険度が1.06, 2.16 であったが有意には至らなかった。結果は過去の知見と同様の傾向であるが、95%信頼区間は広く、また、既知の要因である年齢、H.pylori感染は有意に至らなかった。これはサンプルサイズ不足が原因と考えられる。IV. アセトアルデヒド活性が高いALDH2 Glu/Glu群に比べ、Glu/Lys群、Lys/Lys群の調整オッズ比は、1.40 (1.11-1.76)、1.73 (1.12-2.68)であった。飲酒状況と組み合せた解析では、ALDH2 Lys+群での高飲酒群のオッズ比は、3.03 (1.59-5.79)であった一方、Glu/Glu群では1.28 (0.77-2.12)であった。遺伝子環境要因交互作用は有意であった。これまで疫学研究において胃がんは飲酒関連がんとは考えられてこなかったが、本研究の結果は、アセトアルデヒドが胃がん発生に影響することを示したものであり、予防を考える上で意義が大きい。
結論
I. 本研究により、血中C-peptideおよびinsulinレベルと胃がんとの間に正の関連が見いだされ、胃がん発生において高インスリン状態が関与していることが示唆された。今後、バイオマーカーにおける検討はより精度の高い研究との位置づけからメカニズム解明にも貢献することが期待される。III. 安定したモデルの構築のためにはより多くのサンプルの分析が必要であることが明らかとなった。IV. 本研究により、アセトアルデヒド代謝能の低いALDH2 Lysアリル保持者において、飲酒が用量依存的に胃がんリスクを挙げていることを示した。アセトアルデヒドは、萎縮性胃炎を発生する段階から影響を与えている可能性を示したことは、胃がん発癌メカニズムを考える上で新たな視点をもたらした。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220060Z