肺癌糖鎖標的マーカーの実用化に向けた定量的糖鎖構造変動解析システムの構築

文献情報

文献番号
201220056A
報告書区分
総括
研究課題名
肺癌糖鎖標的マーカーの実用化に向けた定量的糖鎖構造変動解析システムの構築
課題番号
H23-3次がん-若手-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
植田 幸嗣(独立行政法人理化学研究所 ゲノム医科学研究センターバイオマーカー探索・開発チーム)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦において肺癌は部位別がん死亡率で第一位を占めており、肺癌の罹患数、死亡者数を減少させることが急務となっている。そのためには喫煙対策などに加え、根治可能なより早い段階で肺癌、またはその前癌病変を発見できる診断技術の開発は重要な位置を占める。現状において肺癌の早期発見には胸部X線診断、CT診断など画像診断技術が主軸となっているが、これらよりも早期に、かつ検査技師の技量にかかわらず腫瘍を発見する技術は現時点では存在せず、本研究で開発する非侵襲的で安価に行える血清質量分析診断法にて初期肺癌の検出やリスク診断までもが可能になれば、それに伴って治療成績は劇的に改善されると期待できる。
研究方法
Erexim法のキーポイントはいかなる糖ペプチドの分析であっても、その糖鎖の構造決定、定量のためには、MS/MSでの衝突誘起解離(CID)の過程で産生される7種類の糖由来オキソニウムイオンをモニターすればよい点である(中性糖鎖の場合はさらに5種類に絞ることが可能)。オキソニウムイオンは分子内の酸素原子に原子価より1つ多いプロトンが結合した陽イオンであり、糖鎖、または糖ペプチドを質量分析計で測定する際、CIDによって糖鎖が崩壊し、様々な単糖や、二糖由来のオキソニウムイオンが生成される。この崩壊パターンとシグナル強度が、元の糖鎖構造の特徴と量をよく反映し、糖鎖変動定量化アルゴリズムの構築に最適な新しい基礎原理となることを見いだし、本研究計画二年目までの実験で実用可能技術としての開発に成功した。(特願 2012-197908、Analytical chemistry 2012, 84, (22), 9655)
結果と考察
本年度開発した糖鎖構造高速定量技術、Erexim法はすでに抗体医薬品をはじめとした各種糖タンパク質医薬品の開発と品質管理への応用が進んでいるが、現在は診断目的の上市に必要な専用解析ソフトウェアを作成中である。また、大規模な臨床検体の分析にはサンプル前処理のオートメーション化も必須であるので、自動分注装置を応用した全自動トリプシン消化、脱塩処理ロボット、およびそれに特化した前処理プロトコルの至適化も進めている。
今後は当分析システムを駆使し、研究代表者がこれまで同定してきた肺癌糖鎖標的腫瘍マーカー候補(Proteome Sci 2011, 9, 18、Mol Cell Proteomics 2010, 9, (9), 1819、Proteomics 2009, 9, (8), 2182、Journal of proteome research 2007, 6, (9), 3475)に対してバイオバンクジャパン保存血清などを用いたバイオマーカー検証試験を行う。従来の技術では血清から目的の糖タンパク質を単離し、糖鎖を酵素的に切断、最終的に多段階HPLCにて糖鎖構造の検証を行うしかなく、数百症例の分析は到底不可能であったが、本開発技術で初めて糖鎖マーカーの多検体検証試験が可能となると期待できる。
結論
ここまでの進捗により、本研究の最終目標である肺癌糖鎖標的腫瘍マーカー候補の大規模検証試験実施に必要な、①血清タンパク質上糖鎖付加部位ごとの糖鎖変動解析、②数百検体の分析に耐えうるスループット(1分析あたり10分)、③糖鎖の微細な癌性変化を捉えることの出来る高感度(付加頻度0.1%の糖鎖構造まで定量化可能)、といった技術的課題を全てクリアすることが出来た。
当初の研究計画と比して年度目標は予定通り到達できていると評価でき、なおかつ要素技術開発課程で多くの分野に派生的応用が可能であることが判明した点は予想以上に大きな成果が得られたと言える。実際に、糖鎖改変タンパク質医薬品の開発、品質評価、さらには細胞表面糖鎖分化マーカーの精密同定など、これまでの糖鎖解析技術では達成し得なかった感度、スピード、定量信頼性、簡便性で応用糖鎖解析が使用可能になった点で、糖鎖バイオマーカー実用化以外への波及効果も大いに期待できる成果となった。本研究では、計画最終年度にかけてErexim法を用いた肺癌バイオマーカーの実用化検証試験を進めていく。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220056Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,762,000円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 85,000円
間接経費 1,153,000円
合計 5,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
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