がんの医療経済的な解析を踏まえた患者負担の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201220039A
報告書区分
総括
研究課題名
がんの医療経済的な解析を踏まえた患者負担の在り方に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-041
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
濃沼 信夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石岡 千加史(東北大学 加齢医学研究所)
  • 武井 寛幸(埼玉県立がんセンター)
  • 江崎 泰斗(九州がんセンター)
  • 大辻 英吾(京都府立医科大学)
  • 岡本 直幸(神奈川県立がんセンター 臨床研究所)
  • 金倉 譲(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 佐々木 康綱(昭和大学 医学部)
  • 執印 太郎(高知大学 医学部)
  • 西岡 安彦(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
  • 直江 知樹(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 古瀬 純司(杏林大学 医学部)
  • 植田 健(千葉県立がんセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
17,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策基本法にはがん医療の均てん化と患者の意向の尊重が掲げられ、患者の身体的、精神的な負担に加え、経済的な負担にも適切に対応することが要請されている。また、新しい「がん対策推進基本計画」では、療養する患者が安心して働き暮らせる社会の構築が謳われる。本研究では、高額で長期にわたる治療が必要な場合の患者負担の実態を把握し、負担のあり方とその軽減に向けた合理的な対策を検討する。
研究方法
全国の大学病院、がんセンター等39施設で、倫理委員会の承認の下、がん患者に家計簿や領収書を見ながら支出額等を記入してもらう調査を実施した。また、患者の同意を得て、担当医から診療情報の提供を受け、患者調査と医師調査のデータリンケージにより解析を行った。
結果と考察
研究結果 
調査で得られた回答3,028件のうち、データリンケージを行った1,933件を解析した。患者の内訳は、男43%、女57%、平均年齢63.8歳、再発12%、平均経過期間は30.7ヵ月である。部位は乳房37%、肺14%、前立腺12%、大腸6%、造血器5%など、病期はstageⅠ 31%、Ⅱ 27%、Ⅲ 15%、Ⅳ 23%などである。過去一年間に行った治療は、手術60%、化学療法48%、放射線療法28%、分子標的治療15%などである(複数回答)。医療保険は国保50%、組合健保21%、後期高齢者医療制度17%、協会けんぽ10%など、自己負担割合は3割74%、1割25%などである。過去一年間の世帯税込み収入は100~300万円未満が32%、300~500万円未満が26%などである。
回答者の62%は経済的な困りごとがあるとし、その内容は医療費、貯蓄の目減り、収入の減少などである。30%はがん罹患によって収入が減少しており、減少割合は2割20%、3割19%、1割14%などである。経済的理由による治療への影響があったのは6%である。
自己負担額(年間)は平均92万円で、内訳は入院28万円(該当者76%)、外来24万円(同98%)、健康食品等20万円(同36%)、民間保険料36万円(同62%)などである。償還・給付額は平均61万円で、内訳は民間保険給付金105万円(該当者49%)、高額療養費29万円(同25%)、医療費還付9万円(同33%)である。自己負担額から償還・給付額を差し引いた、患者の実質的な経済的負担は平均21万円である。高額療養費制度の利用内容は、受療委任払い63%、高額医療・高額介護合算59%、多数回該当30%(複数回答)などである。
病期別にみると、平均自己負担額、償還・給付額は、stageⅠでは各69万円、55万円、Ⅳでは114万円、64万円である。経済的な困りごとがあるとする割合は、stageⅠが48%であるのに対し、Ⅳでは78%に増加し、経済的理由による治療への影響があった割合もstageⅠの3.3%に対し、Ⅳでは7.3%に増加する。部位別にみると、自己負担額と償還・給付額は、大腸がん(n=256)で各126万円、98万円、肺がん(n=469)で各108万円、75万円、乳がん(n=772)で各66万円、44万円、胃がん(n=175)で各102万円、65万円、前立腺がん(n=414)で各97万円、40万円などである。医療保険の自己負担割合別にみると、自己負担額と償還・給付額は3割負担(平均年齢59.1歳)で各104万円、73万円、1割負担(同75.5歳)で各59万円、28万円である。がんに関する困りごとがあるとした割合は、1割負担では52%であるのに対し、3割負担では63%に増加する。
診断時に就業している割合は51%(n=2,737)で、がんで仕事をやめたと思われる者の割合は32%で、これを病期別にみるとstageⅠ 24%、Ⅱ 26%、Ⅲ 34%、Ⅳ 41%と、重症化するにつれて高くなる。がん罹患による仕事の変化については(n=907)、「やむをえない」36%、「継続したかった」27%などである。
考察
患者調査(負担状況)と医師調査(診療情報)のデータを突合することで、病態ごとの経済的負担の実態をより正確に把握することが可能となった。重症化するにつれ、入院、外来の自己負担額に加え、健康食品や民間療法の支出も大きくなる傾向にある。がんで、仕事をやめたと思われる者の割合も増大する。
結論
がん分野の技術進歩は今後ますます加速され、患者の大きな福音となると期待されるが、技術進歩をあまねく患者に届けるには、高額化するがん医療の経済的負担を最小化することが欠かせない。患者の経済的負担は、がんの部位、病期などで大きく異なっており、それぞれの状況に応じた負担の軽減策、就労支援策を講じることが重要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201220039B
報告書区分
総合
研究課題名
がんの医療経済的な解析を踏まえた患者負担の在り方に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-041
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
濃沼 信夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石岡 千加史(東北大学 加齢医学研究所)
  • 植田 健(千葉県がんセンター)
  • 江崎 泰斗(九州がんセンター)
  • 大辻 英吾(京都府立医科大学)
  • 岡本 直幸(神奈川県立がんセンター 臨床研究所)
  • 金倉 譲(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 佐々木 康綱(昭和大学 医学部)
  • 執印 太郎(高知大学 医学部)
  • 曽根 三郎(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
  • 武井 寛幸(埼玉県立がんセンター)
  • 直江 知樹(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 西岡 安彦(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
  • 古瀬 純司(杏林大学 医学部)
  • 堀田 知光(名古屋医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策基本法には、がん医療の均てん化と患者の意向の尊重が掲げられ、患者の身体的、精神的な負担に加え、経済的な負担にも適切に対応することが要請されている。本研究では、高額で長期にわたる治療が必要な場合の患者負担の実態を把握し、負担のあり方とその軽減に向けた合理的な対策を検討する。
研究方法
大学病院、がんセンターなど全国の中核的がん診療施設において、各施設の倫理委員会の承認のもと、がん患者およびがん診療医を対象に自記式調査を実施した。
結果と考察
研究結果
初年度の調査(n=3,277)では、固形腫瘍患者の自己負担額をみると、分子標的治療を受ける患者は122万円、それ以外の薬物治療を受ける患者は66万円であり、分子標的治療を受ける患者で負担(特に外来分)が大きかった。経済的理由で治療を変更・中止した患者は、医師1人当たり1ヵ月に、入院では1.5人、外来では1.6人である。経済的な理由による治療変更の内訳は、固形がんでは、予定した薬剤の変更が56%、無投薬が16%などであり、変更した事例は分子標的治療が半数を占める。
平成23年度の調査(n= 3,204)では、患者の自己負担年額は平均86万円である。その内訳は、直接費用として入院が平均29万円(該当者68%)、外来が26万円、交通費が6万円、間接費用として健康食品・民間療法が21万円(同32%)、民間保険料が38万円(同55%)などである。一方、償還・給付額は平均62万円である。その内訳は、民間保険給付金が平均114万円(該当者43%)、高額療養費が24 万円(同48%)、医療費還付が6万円(同22%)である。自己負担額から償還・給付額を差し引いた、患者の実質的な経済的負担は平均24万円である。年間の入院期間を病期別にみると、stage I 21日、Ⅱ 23日、Ⅲ 37日、Ⅳ 44日であり、通院回数はstage I 14回、Ⅱ 19回、Ⅲ 22回、Ⅳ 25回であり、入院日数、通院回数は重症化とともに増加する。
平成24年度の調査(n=3,028)では、患者(負担状況)と医師(診療情報)のデータリンケージにより解析を行った。自己負担額(年間)は平均92万円で、病期別に平均自己負担(間接費用を含む)年額をみると、stageⅠ 69万円、Ⅱ 67万円、Ⅲ 91万円、Ⅳ 114万円である。回答者の62%は経済的な困りごとがあるとし、その内容は医療費、貯蓄の目減り、収入の減少などである。30%はがん罹患によって収入が減少しており、減少割合は2割が20%、3割が19%、1割が14%などである。診断時に就業している割合は51%で、がんで仕事をやめたと思われる者の割合は32%で、これを病期別にみるとstageⅠ 24%、Ⅱ 26%、Ⅲ 34%、Ⅳ 41%と、重症化するにつれて高くなる。
考察
固形腫瘍患者の自己負担額をみると、分子標的治療を受ける患者は122万円、それ以外の薬物治療を受ける患者は66万円である。償還・給付に関し、分子標的治療を受ける患者は、高額療養費の戻りが大きいが、負担額と償還額との差は57万円と、分子標的以外の21万円に比べて大きい。医療費の支払いは、分子標的治療を受ける固形腫瘍患者の67%、造血系腫瘍患者の60%が預貯金の取り崩しによっている。
分子標的治療の経済的負担について、「十分な説明を受けた」とする患者は、固形腫瘍で36%、造血系腫瘍で47%にとどまる。医師調査では、経済的負担の軽減に向け、「治療の費用や負担軽減について正確な情報を提供する」を挙げる者が最も多かった。ASCOは費用を検討することは質の高いがん医療の重要な要素であるとし、がん臨床医が適切な臨床判断が行えるよう、費用についての患者・家族との対話を促している。
患者調査と医師調査のデータを突合することで、病態ごとの経済的負担の実態をより正確に把握することが可能となった。重症化するにつれ入院日数、通院回数が増加し、入院、外来の自己負担額に加え、健康食品や民間療法の支出も大きくなる傾向にある。年間の入院日数、通院回数は、例えば、乳がん患者では、各14.1日、20.4回である。経済的負担の軽減策は病態(がんの部位や病期等)に応じて検討される必要があると考えられる。
結論
薬物治療を受ける造血系腫瘍の患者、分子標的治療を受ける固形腫瘍、造血系腫瘍の患者の自己負担額は相当に重いことが明らかになった。技術進歩をあまねく患者に届けるには、その経済的負担を最小化することが欠かせない。患者の経済的負担は、がんの部位、病期、などで大きく異なっており、それぞれの状況に応じた負担の軽減策、就労支援策を講じることが重要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201220039C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国の中核的がん診療施設において、がん患者とその担当医師を対象に調査を実施した(回答数:初年度3,277名、23年度3,204名、24年度 3,028名)。薬物治療を受ける造血系腫瘍、分子標的治療を受ける固形腫瘍患者の自己負担額は相当に重いことが判明した。患者の経済的負担は、がんの部位、病期などで大きく異なり、それぞれの状況に応じた負担の軽減策、就労支援策を講じることが重要と考えられる。
臨床的観点からの成果
自己負担(間接費用を含む)年額は平均92万円で、stageⅠ 69万円、Ⅱ 67万円、Ⅲ 91万円、Ⅳ 114万円である。患者の62%は経済的な困りごとがあるとし、30%はがん罹患で収入が減少した。経済的理由で治療を変更・中止したがん患者は、医師1人当たり1ヵ月で入院・外来で各1人強である。診断時に就業している割合は51%で、がんで仕事をやめた者の割合は32%である。これらの情報は、臨床現場におけるコスト情報を含むインフォームドコンセントの確保と患者負担を考慮した合理的な臨床判断に役立つ。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
がん患者の経済的な負担の実態が、年齢階級別、部位別、病期別、支出項目別、保険別、所得階級別、就業有無等で明らかになり、がん対策基本法に謳われる全ての患者に適切ながん医療を提供するための政策の展開に寄与しうる。分子標的治療や造血系腫瘍の長期治療における患者負担に係る仔細な基礎的データは、高額な新規医療技術を提供するためのコストの適正水準の検討に活用できる。また、技術進歩に見合うがんの医療資源を確保する社会の合意形成に寄与しうる。
その他のインパクト
①北海道新聞2011.11.11「技術革新進むがん治療 医療費高額化 重い患者負担」、②河北新報 2011.11.16「高額化する抗がん剤 患者に経済的負担」、③NHK総合テレビニュース 2012.06.30「がん治療費」、④NHK総合テレビ特報首都圏2012.07.06「命の薬が使えない~がん患者の苦悩~」⑤朝日新聞 2012.07.17「お金の悩みに直面」⑥読売新聞 2014.08.29「がんで離職3割」

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
14件
その他論文(英文等)
17件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2016-06-17

収支報告書

文献番号
201220039Z