肺がんの浸潤・転移を抑制可能な分子標的の同定に基づく革新的テーラーメイド治療法の開発

文献情報

文献番号
201220029A
報告書区分
総括
研究課題名
肺がんの浸潤・転移を抑制可能な分子標的の同定に基づく革新的テーラーメイド治療法の開発
課題番号
H22-3次がん-一般-030
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 隆(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 長田 啓隆(愛知県がんセンター 研究所)
  • 柳澤 聖(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、我々が同定した転移関連分子CLCP1及びCIMを中心に、がんの浸潤と転移の分子機構を解明するとともに、さらなる移関連分子のプロテオミクス解析を駆使した探索・同定を進め、もって革新的なテーラーメイド分子診断・治療法の開発に資することにある。
研究方法
I-i) CLCP1に関する検討:
 CLCP1の細胞外領域の各ドメイン及び細胞内領域の各種欠失変異体、及び、CLCP1 のチロシン残基をアラニンに置換したリン酸化部位変異体を作成し、免疫沈降法やウェスタンブロット法等により解析を行った。また、CLCP1強制発現細胞と対照細胞のマイクロアレイ法による遺伝子発現プロファイルデータの取得とそのバイオインフォマティクス解析を行った。
I-ii) CIMに関する検討:
 同定した候補CIM結合分子について、免疫沈降・ウェスタンブロット法等によりCIMとの結合を検証するとともに、臨床データの付随するマイクロアレイ解析データを用いて臨床病態との関連性についても検討を加えた。さらに、CIMとの結合及び臨床病態との関連性の双方が確認された2つの分子を対象に、がん細胞の運動・浸潤能への機能的な関与について細胞生物学的な検討を加えた。
II.新規転移関連分子の探索・同定:
 新規の転移関連分子の探索を、プロテオミクス解析によるLNM35株と低転移性親株N15株間、及び、新鮮凍結膵がん外科摘出組織試料と正常主膵管組織間の網羅的蛋白発現プロファイルの比較検討を通じて進めた。同定した新規転移制御候補分子OEP1(Overexpressed in pancreatic cancer)による運動・浸潤能の付与に関し細胞生物学的に検討するとともに、OEP1結合分子のプロテオミクス解析による探索・同定を進めてOEP1の機能に関する生化学的な検討を加えた。
結果と考察
I-i) CLCP1及びそのシグナリング分子を標的とした検討:
 CLCP1とEGFRとの複合体形成の制御機構を検討するために、CLCP1の各種欠失変異体を作成して解析を加え、CLCP1の細胞外領域のFA58C機能ドメインがEGFRとの結合に関わることを明らかとした。また、CLCP1 の非リン酸化変異体を作成して検討を加え、CLCP1とEGFRとの結合はCLCP1のリン酸化によって負に制御されることを示した。一方、内因性のCLCP1とEGFRとの相互作用は、EGF添加によるEGFRの活性化によって顕著に減弱した。CLCP1野生型或いはリン酸化部位変異体を導入した肺がん細胞株の発現プロファイルデータとそのバイオインフォマティクス解析は、CLCP1がEGFRシグナルの下流の遺伝子群の発現を正に制御していることを示唆した。また、非リン酸化型CLCP1変異体を用いた生化学的解析は、CLCP1のリン酸化がEGFRシグナルを正に制御していることを示唆した。
I-ii) CIM及びそのシグナリング分子を標的とした検討:
 CIMの機能解明を目指したCIM結合蛋白のプロテオミクス解析による網羅的探索を通じて得た11種類の候補CIM結合分子について詳細な検討を加えた結果、4種類の候補分子との結合が検証された。そのうちの2つの分子の高発現は、有意に不良な術後予後と関連していた。一方、これらの2分子のsiRNAを用いた発現抑制は、高転移性ヒト肺癌細胞亜株LNM35株が示す高い運動能と浸潤能を有意に抑制した。
II. LNM35株のプロテオミクス解析による新規分子標的の探索・同定と応用:
 新規転移関連分子の探索を進めて同定したOEP1の発現抑制は、LNM35株の細胞運動能と浸潤能の両者を減弱させた。逆に、OEP1低発現の膵がん細胞株Panc-1株にOEP1を導入したところ、細胞運動能と浸潤能のいずれも亢進した。また、OEP1結合蛋白候補分子の探索によって得られた9種類の分子について検証解析を進め、細胞膜とアクチンを結合するERM蛋白の一つであるEzrinを含む5分子について、OEP1との結合を確認した。また、OEP1のsiRNAによる発現抑制が、接着斑の形成不全と細胞接着性の減弱を惹起するとともに、c-SrcによるEzrinのリン酸化を減弱させることを明らかとした。
結論
 CLCP1及びCIMによるがん細胞の浸潤・転移能の付与に関わる機能解明及び、その治療法開発への応用を目指すうえで重要な示唆を与える知見を得た。また、新たな転移関連分子の探索を進め、OEP1を同定するとともにその運動・浸潤・転移能の付与に関わる分子機構を明らかとした。今後は、本研究の成果をさらに発展させることにより、がん細胞の浸潤・転移能を付与するこれらの分子の機能を解明し、難治癌の転移抑制法の開発へとつなげていきたい。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220029Z