がん特異的細胞性免疫の活性化を基盤とする新たな治療の開発

文献情報

文献番号
201220028A
報告書区分
総括
研究課題名
がん特異的細胞性免疫の活性化を基盤とする新たな治療の開発
課題番号
H22-3次がん-一般-029
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
藤田 貢(愛知県がんセンター研究所 腫瘍免疫学部)
研究分担者(所属機関)
  • 赤塚 美樹(藤田保健衛生大学血液内科)
  • 神田  輝(愛知県がんセンター研究所 腫瘍ウイルス学部)
  • 岡村 文子(愛知県がんセンター研究所 腫瘍免疫学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
12,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)活性型変異K-rasによって提示が誘導されるCTLエピトープの解析研究、2)マイナー組織適合抗原特異的CTLの解析と臨床応用、3)WT1発現リンパ芽球様細胞株(LCL)の抗原提示細胞としての有用性の検証および4)HLA-A24拘束性に卵巣がん細胞を傷害するCTLの樹立とその認識抗原の同定について実施した。1)膵がん細胞においてオートファジー依存的に提示されるCTLエピトープの生成に必要な条件を検討することを目的とした。2)HLA-A2/HA-1Hマイナー抗原複合体を認識する抗体をもとに、これにCD38-CD3ζ鎖を結合した構造物をT細胞に導入して解析を行い、臨床応用の可能性と問題点を検討した。3)WT1などのがん抗原を提示するLCLを効率よく樹立する目的で、ウイルス産生能の高い組換EBウイルスを産生できるBACクローンの樹立を目的とした。4)卵巣がん細胞株TOV21G細胞をHLA-A24拘束性に傷害するCTLクローンG3の認識する抗原遺伝子を同定することを目的とした。
研究方法
1)HLA-A24を導入した正常上皮細胞株MCF10Aを飢餓培養、ラパマイシン添加、活性型変異K-ras遺伝子導入の3通りの方法で処理しオートファジーを誘導した。CTLエピトープの提示は、上記の細胞とオートファジー依存的エピトープを認識するCTLクローン16F3を混合培養し上清中のIFNγを指標にした。2)HLA-A2/HA1-テトラマーで免疫したB6マウスの脾細胞のmRNAを用いて、pharge displayシステムを作製した。このシステムを用いてHLA-A2/HA1複合体に特異的な単鎖抗体遺伝子を単離した。単鎖抗体のcDNAにCD28とCD3の細胞内ドメインの一部を結合し、レトロウイルスベクターを用いて末梢血T細胞に導入した。HA1ペプチドをパルスしたT2細胞への反応性をIFNγELISA法で測定した。3)B95-8株EBウイルス由来BACで欠失している約12キロベースのゲノム領域を、Akata株から大腸菌内相同組換え法により補填した。補填後BACから産生されたウイルスを末梢血Bリンパ球に感染させて感染能を調べた。4)HLAを改変したTOV21G細胞でHLA-A24陽性成人のT細胞を刺激してCTLクローンG3を樹立した。TOV21G細胞のmRNAからcDNAライブラリーを作製した。HLA-A24を発現するHEK293T細胞にcDNAライブラリーのプラスミッドを導入しG3と混合培養した。CTLから分泌された上清中のIFNγをELISA法で測定した。短縮遺伝子と合成ペプチドを用いてエピトープの同定を試みた。
結果と考察
1)飢餓培養法、mTOR阻害法および活性型K-ras導入法いずれの方法においてもオートファジーが誘導された。しかし16F3にエピトープを提示したのは活性型K-ras導入法を用いた場合のみであった。活性型K-rasによって細胞内に生じたオートファジー以外の変化が、本CTLエピトープ生成に必要であると考えられた。2)抗マイナー抗原HA1短鎖抗体-CD28-CD3コンストラクトを導入したT細胞は、同抗原特異的CTLよりも抗原認識能において劣っていた。理由として、CD8の補助結合を利用できないような立体構造が存在する可能性が考えられた。3)BACの修復により、ウイルスの産生能が増加した。補填した12キロベースの領域にコードされているマイクロRNAが関与している可能性が考えられた。4)クローンG3はRNA binding motif protein 4がコードする遺伝子産物を認識していた。エピトープペプチドをAVRTPYTMSYまで絞り込んだ。同定したエピトープに対するT細胞応答が卵巣がん患者において惹起されてうる可能性が示唆された。
結論
1)正常細胞に活性型変異K-rasを導入すると、オートファジー誘導に並行してユビキタス蛋白からHLA-A24拘束性のCTLエピトープが生成されることを示した。がん細胞増殖の維持に必要な代謝経路から、正常細胞表面には無いCTLエピトープが生成されていることは、がん特異的CTLの概念の幅を拡げるものであると考えられた。2)マウスへHLAテトラマーを免疫してHLA/ペプチド複合体を認識する抗体遺伝子を得た。この抗体の短鎖構造をT細胞に発現させて抗原特異的な細胞傷害性を付与した。今後はCTLと同等の機能を発揮できるよう構造の改良をする必要がある。3)効率良く組換えEBウイルスを産生する新規BACクローンを取得した。がん抗原等を発現するLCLの樹立がより迅速になると期待された。4)CTLクローンG3が認識する抗原遺伝子RNA binding motif protein 4を同定した。卵巣がんに対する免疫応答を考察する基盤となると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,500,000円
(2)補助金確定額
16,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,822,052円
人件費・謝金 2,283,375円
旅費 77,800円
その他 2,509,837円
間接経費 3,807,000円
合計 16,500,064円

備考

備考
自己資金から64円を支出したため

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-