ヒトパピローマウイルスを標的とする発がん予防の研究

文献情報

文献番号
201220014A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトパピローマウイルスを標的とする発がん予防の研究
課題番号
H22-3次がん-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
清野 透(独立行政法人国立がん研究センター 研究所ウイルス発がん研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 川名 敬(東京大学医学部付属病院 産婦人科)
  • 酒井 博幸(京都大学ウイルス研究所 がんウイルス部門 がん遺伝子研究分野)
  • 森 清一郎(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 中川 俊介(帝京大学医学部 産婦人科)
  • 大和 建嗣(筑波大学 医学医療系 消化器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
35,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルスが原因となるがんは、ウイルス感染や持続感染を阻害すれば予防できる。HPVはほぼ全ての子宮頸がんの原因であり、全がんの5%, 女性のがんの11%の原因となっている。発がん性HPV群の感染予防、HPV潜伏感染の阻止、前がん病変の排除等による子宮頸がんの予防法を開発し子宮頸がんの罹患率・死亡率を減少させることが研究の目的である。
研究方法
全ての型の高リスク型HPVの感染予防を目指す第二世代HPVワクチン開発は2010年10月に武田薬品工業(株)による事業化が決定されている。大規模臨床試験に必要な交叉性中和抗体価をハイスループットで調べるための技術を開発を進めた。一方で、抗原呈示法の改良を進める。
HPV感染の正確な中和活性評価には、本物のHPV粒子を用いる必要がある。HPV粒子を大量に安定して供給する平皿培養細胞を用いた技術開発を進めた。
HPV16型E7が細胞表面に提示された乳酸菌Lactobacillus casei(乳酸菌E7ワクチン:GLBL101c)をGMP製造した製剤を作成し、第I/IIa相探索的臨床試験を計画に従って進め、計17例の登録を終了した。末梢血および病変部の生検組織より特異的細胞性免疫誘導能を解析し、組織診、細胞診による病理学的評価との関連を解析した。
HPV複製機構の解明と複製阻害剤開発のため異なる位置や方向でレポーター遺伝子を搭載した環状HPVゲノムを複製・維持する細胞株を樹立し、ゲノムコピー数とレポーター遺伝子の発現量を解析し、複製阻害剤の効果を評価できる系を作成した。
プロテオソーム阻害剤であるMG132内包化ナノミセルを共同開発し、腫瘍への薬剤集積性や抗腫瘍効果を種々の子宮頸がん細胞株を用いて解析した。また、E6,E7に標的としたDNA-RNAハイブリッド型siRNAの改良を進めた。
結果と考察
HPV型間で共通性の高いL2蛋白質を抗原としてもつ第二世代HPV感染予防ワクチンは、武田薬品工業による事業化を受け、大規模臨床試験に必要な簡便なHPV抗体価測定法としてVLP-ELISA法を開発した。
既感染者に対しては、HPV16 E7を抗原としCTL誘導によるCIN3病変の治療を目指した経治療ワクチン(GLB101c)の探索的第I/IIa相臨床試験を3年間にわたり実施し終了した。最大有効量(1g/日)におけるCIN3からCIN2への退縮と手術の回避例が80%(8/10)で得られ、退縮後のCIN3への増悪も観察されていない。これまでの病理学的解析と免疫学的解析によりCTLの誘導と病理組織像の改善との間には相関が見られた。経口HPV治療ワクチンは製造工程の容易さから低価格で製造が可能であり、HPVゲノム複製阻害剤とともに成功すれば医療経済効果は高く、発展途上国への医療援助も可能である。このような内科的治療法が確立すれば、患者は定期受診による肉体的および精神的負担から解放され、医療負担軽減も期待できるため、研究期間内に製剤の改良と大規模臨床試験への移行をめざす。
HPVゲノムを複製維持する細胞株を樹立し、ゲノム内にレポーター遺伝子を搭載することで複製阻害剤のハイスループットスクリーニングも可能な細胞株樹立法を開発した。HPV感染機構の解析や、正確な中和活性評価に必要な本物のHPV粒子を3次元培養法により少量調製し、中和抗体の活性を確認した。HPV粒子の簡便な大量産生のために、単層培養細胞を用いたHPV粒子産生法の開発にも目途が立った。

結論
本研究班では新たなシーズ開発を目指した基礎研究から臨床応用へ向けたTRまでを有機的に進めている。TRとしてはHPV型間で共通性の高いL2蛋白質を抗原とするワクチン抗原をもつ第二世代HPV感染予防ワクチンは、製薬会社により事業化され、製品化を目指した大規模臨床試験に必要な検査法などを開発整備している。また、HPV感染の正確な中和活性評価や感染中和機構の理解とその応用には必要な本物のHPV粒子を、簡便かつ大量に産生する技術開発は予定通り順調に進んでおり研究期間内の達成も期待できるところとなっている。一方、HPV16 E7を抗原としCTL誘導によるCIN3病変の治療を目指した経口治療ワクチンは探索的第I/IIa相臨床試験を終了し、CIN3からCIN2への退縮と外科的手術の回避を80% (8/10)で観察し有望な結果を得ている。今後は、ワクチンのさらなる改良と共に、研究期間内の大規模臨床試験への橋渡しを目指している。プロテオソーム阻害剤によるE6の機能抑制は子宮頸がんの治療に有効であることが動物実験で示されつつある。ミセル化など投与法の改善には時間がかかるが、ベルケードなど承認薬を用いた早期の臨床試験開始を目指している。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220014Z