放射線障害と宿主要因からみた発がんの分子基盤とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
201220005A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線障害と宿主要因からみた発がんの分子基盤とその臨床応用に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 雄一((財)癌研究会癌研究所 病理部 )
  • 宮本 和明(東広島医療センター 共同実験室)
  • 臺野 和広(独立行政法人放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター)
  • 神谷 研二(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 宮川 清(東京大学 大学院医学系研究科疾患生命工学センター )
  • 林 奉権((財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 楠 洋一郎((財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線発がんの分子基盤を解明し,リスク評価や治療開発等の臨床応用に資することを目的とし,「放射線関連がんにおけるエピジェネティクス」,「放射線障害による発がんモデルにおける検証」,「原爆被爆者コホートを用いた宿主要因と発がん」について解析する。これらの研究成果を活用し,事故による放射線被曝,職業被曝や医療被曝による放射線障害に対する具体的な予防策および放射線障害に起因するがんの診断法・治療法を提示することが最終の目的である。
研究方法
被爆者胃がん、乳がんについてmicroRNAの発現および機能、メチル化異常について解析した。病院癌登録データベースから放射線二次がんの抽出を行ない、一部の大腸がんについてmicroRNAの発現を検討した。ラットの放射線誘発乳がん,自然発症した乳がん検体および正常乳腺組織について,CpGアイランドマイクロアレイにてメチル化を解析した。また、放射線誘発乳腺腫瘍と正常乳腺組織より抽出したゲノムDNAについて,ラットゲノムCGHアレイ(Agilent社)によりゲノムコピー数の変化を解析した。複製後修復機構の制御因子であるRAD18の放射線応答への寄与を細胞生物学的に解析した。減数分裂特異的コヒーシンでありがん精巣抗原でもあるSMC1βについて、その発現と治療感受性の分子機構を検討した。放射線影響研究所の成人健康調査対象者から収集した血液試料を用いて血漿中ROSと細胞内ROSを測定し、44種類の免疫・炎症関連遺伝子のSNPとの相関を解析した。末梢血造血幹細胞の BFU-Eを解析し,放射線被ばく線量およびGPA 突然変異頻度との関連を解析した。
結果と考察
「放射線関連がんにおけるエピジェネティクス」の解析では,5mGy以上の被曝群の胃がんで有意にmiR-145High症例が多く,被曝線量の増加と相関していた。多変量解析によって,miR-145Highは被曝関連胃がんの独立したマーカーであることが示された。乳がんにおけるゲノム網羅的解析を行い,メチル化異常が認められる遺伝子GLI3を同定した。被爆者乳がんにおいて,miR-155,miR-1290,miR-1224-5pが5倍以上に高発現していることを見いだした。放射線二次がん解析のため,がん研究会有明病院におけるデータベースから346症例の重複がんを抽出した。子宮頚がん放射線治療後の大腸がんと一般の大腸がんのパイロット検討から,放射線誘発がんに特有のmiRNA発現パターンのあることが示唆された。「放射線障害による発がんモデルにおける検証」においては,放射線誘発乳がんラットモデルの検討で,被曝時年齢の異なる乳がんに特徴的なDNAメチル化異常を同定し,放射線誘発乳がんに高頻度に欠失するゲノム領域を見いだした。思春期後の放射線曝露により誘発された乳がんでは,Id3遺伝子の高メチル化と発現抑制が特徴的であった。複製後修復機構と放射線発がんについては,RAD18が,G2期の細胞において放射線によるDNA損傷部位に集積し,損傷修復に寄与することが示された。減数分裂特異的コヒーシンであるSMC1βはがん精巣抗原であり,体細胞における発現は,Rad51を介した相同組換え修復によるDNA二本鎖切断修復を抑制し,放射線やシスプラチンに対する細胞の感受性を亢進させることが明らかとなった。「原爆被爆者コホートを用いた宿主要因と発がん」の研究では,血漿中ROSは体内に蓄積された活性酸素量を,細胞内活性酸素は主に細胞の活性化状態を反映することが示された。細胞内ROSレベルの個人差にはIL6R遺伝子多型が関与している可能性が示唆された。放射線による遺伝子障害感受性の個体差に基づく発がんメカニズムの研究では,末梢血造血幹細胞 BFU-E解析により,放射線被ばくによる線量依存性の造血機能低下が認められた。また,GPA 突然変異頻度とBFU-E に負の関連性が認められ,造血幹細胞の遺伝子損傷と機能低下の関係が示された。
結論
本研究から得られた成果を活用することにより,放射線障害に対する具体的な評価法や予防策および放射線障害に起因するがんの診断法・治療法を提示することが可能となる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-12-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
17,000,000円
(2)補助金確定額
17,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 12,403,564円
人件費・謝金 0円
旅費 219,785円
その他 453,798円
間接経費 3,923,000円
合計 17,000,147円

備考

備考
預金利息が生じたため。

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-