疾患モデル動物を用いた環境発がん初期過程の分子機構および感受性要因の解明とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
201220001A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患モデル動物を用いた環境発がん初期過程の分子機構および感受性要因の解明とその臨床応用に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
筆宝 義隆(国立がん研究センター研究所 発がんシステム研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 益谷 美都子(国立がん研究センター研究所 ゲノム安定性研究分野)
  • 竹下 文隆(国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野)
  • 木南 凌(新潟大学教育研究院医歯学系)
  • 中島 淳(横浜市立大学付属病院 消化器内科 )
  • 大島 正伸(金沢大学がん進展制御研究所腫瘍遺伝学研究分野)
  • 青木 正博(愛知県がんセンター研究所分子病態学部)
  • 庫本 高志(京都大学大学院医学研究科付属動物実験施設)
  • 續  輝久(九州大学大学院医学研究院生体制御学講座基礎放射線医学分野)
  • 山下 克美(金沢大学医薬保健研究域薬学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
46,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発がんには遺伝要因と環境要因の両者が関与する。環境要因は、遺伝子発現変動、DNA障害応答反応、アポトーシス、炎症、内臓肥満蓄積など様々な変化を引き起こし、遺伝子変異を誘導するとともにそれらと協調的に働いてがん化過程を促進する。発がん過程の最も初期をヒトで研究することは技術的・倫理的に困難なため、ラット・マウスなどの動物モデルを用いてその分子機構を詳細に解析し、最終的にヒトがんの早期診断やテーラーメイドながん予防・治療の確立を可能とするような知見の集積を目指す。また、発がん研究の迅速化・効率化のために新規の解析手法や実験系の開発も同時に進める。
研究方法
遺伝子改変や化学発がんによる、胃や大腸などの発がんモデル動物において、化学物質、感染、酸化ストレス、放射線、高脂肪食などの種々の環境因子の負荷による発がんの促進や、薬剤投与による発がんやがん進展などの抑制など、種々の修飾因子を再現・同定する。また、その分子機構の解析を通じて発がんにおいて重要な役割を果たす遺伝要因・環境要因の協調作用を明らかにする。さらに、動物モデルを用いた個体レベル、細胞レベルの新規解析手法を開発することで、迅速かつ簡便な発がん研究を実現する一方、動物で得られた知見をもとにヒトでの臨床応用の可能性を検討する。
結果と考察
ラットモデルでは、PhIP投与または APC変異による発がんを主に解析した。食餌由来変異原物質PhIPを含むヘテロサイクリックアミン類のラットへの投与により、正常大腸粘膜で発現誘導されるmiRNAのプロファイルが大腸発がん性と高い相関を示し、その内の数個の遺伝子の発現レベルをもとにしたスコアで逆に化合物の発がん性が高い確率で正しく予測できることを示した。また、従来初期前がん病変の指標として汎用されてきたaberrant crypt foci(ACF)の検出法を改変し、dysplasiaを簡便に検出可能とし、今後発がんや予防実験で標準的な指標となることが期待される。大腸上皮由来の初代培養細胞を新たに樹立し、低濃度のPhIP処理でDNA損傷応答(DDR)およびp53活性化が誘導されていることを確認した。APC変異ラットで欠損するC末端領域がDLG5タンパク質と結合することを見いだし、この相互作用の欠損がKADラットで観察された血管内皮細胞の接着異常、血管新生の遅延を伴う大腸炎症の持続を誘導することを示した。p53+/- ES細胞を受精卵に導入してキメララットを作製することでp53+/- およびp53-/-ラットを簡便に作製することに成功した。雌は神経管閉鎖障害で胎生致死であり、雄は主に肉腫を発症し、早期に死亡することを確認した。p53+/-ラットは9ヶ月で乳がん、精巣がん、骨肉腫等も発症し死に至った。マウスモデルでは大腸および胃の発がんモデルとin vitroの発がん再構成系で解析を行った。in vitro発がん再構成系を用いて特定の遺伝子変異を有する癌幹細胞を誘導し、PARP阻害剤を含む各種抗がん剤やDNA損傷応答に対する感受性の違いを明らかにした。Apc変異マウスの微小腺腫からの進展にはJNKの活性化によるRaptorのリン酸化を介したmTORC1の活性化が重要で、mTORキナーゼ阻害薬はmTORC1選択的阻害薬よりも腫瘍形成抑制効果が強いことを見いだし、mTORが新規の予防・治療標的となる可能性を示した。ヒトHNPCCの原因遺伝子であるミスマッチ修復遺伝子MSH2欠損マウスにおいてMSH2が酸化ストレスに起因する発がんの抑制に重要な役割を果たしていることを明らかにした。マウスの2つの発癌モデルにおいて、どちらもメトホルミン投与によりAMPKを活性化することによりポリープの増大が抑制されることを示し、ヒトにおいても大腸がんのハイリスク群にで、1カ月間の投与でACFが有意に減少することを示した。腫瘍組織で炎症反応依存的に発現誘導および発現抑制されるmiR-7を同定した。ヒト胃がん組織で発現が低く、胃がん細胞株の腫瘍原性を抑制するなどがん抑制性microRNAと考えられ、標的遺伝子として転写因子MafGを単離した。腸管Lgr5発現陽性細胞特異的にBcl11b片アレル消失を誘導すると、放射線照射後の細胞増殖停止の減弱と損傷からの早期回復が観察された。この減弱はDNA損傷の蓄積頻度の増加を示唆し、発がん修飾機構の一つと考えられた。
結論
遺伝的因子と環境因子を種々の組み合わせで検討することが実行しやすい、という動物モデルの利点を最大限に生かして、ヒト発がん機構の解析と予防・治療への展開という二方向について細胞レベル、個体レベルの両面からの成果が得られた。さらに、今回開発した新規手法の応用によりさらなる研究の加速・進展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220001Z