文献情報
文献番号
201219008A
報告書区分
総括
研究課題名
母子コホート研究による成育疾患等の病態解明に関する研究
課題番号
H22-次世代-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
堀川 玲子(独立行政法人国立成育医療研究センター 生体防御系内科部内分泌代謝科)
研究分担者(所属機関)
- 久保田 雅也(独立行政法人国立成育医療研究センター 神経内科)
- 渡辺 典芳(独立行政法人国立成育医療研究センター 産科)
- 荒田 尚子(独立行政法人国立成育医療研究センター 母性医療診療部代謝内分泌内科)
- 伊藤 裕司(独立行政法人国立成育医療研究センター 新生児課)
- 藤原 武男(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所成育社会医学研究部)
- 橋本 圭司(独立行政法人国立成育医療研究センター リハビリテーション科)
- 松本 健治(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所免疫アレルギー研究部)
- 坂本 なほ子(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所成育社会医学研究部)
- 秦 健一郎(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所周産期病態研究部)
- 田中 守(聖マリアンナ医科大学産科)
- 田嶋 敦(徳島大学ヘルスバイオサイエンス研究部)
- 柳原 格(大阪府立母子保健総合医療センター免疫部門)
- 齋藤 滋(富山大学産科)
- 和氣 徳夫(九州大学環境発達医学研究センター)
- 小川 佳宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
- 檜山 英三(広島大学自然科学研究支援開発センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
27,812,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生活習慣病をはじめとする成人期慢性疾患の発症基盤が、受胎時から胎児期、出生後の環境と関連することが疫学研究や動物実験から推測されている。ハイリスク・合併症を有する妊娠により出生した児、超低出生体重児は、成長障害・性成熟・代謝、神経運動発達やアレルギー疾患など、様々な異常を有する率が高い。さらに成人期疾患や次世代への影響も懸念される。また、母児間の愛着形成など、心理的要因も成長発達に影響を及ぼすとされている。本研究では、児の胎生期及び生後の成長に関与する因子を明らかにし、母体の妊娠リスクの低減と産後の健康、児の健全な成長発育を維持するために必要な要素を解明することを目的とした。
研究方法
1)母子コホート研究:妊婦を対象として、妊娠期から(胎児期から)の母児の追跡調査(質問紙調査・身体測定・面接による発達調査・検体検査等)を実施。コホート内で、早産・SGAやハイリスク妊娠等の母と児をケースとしたネステッド・ケースコントロール・ケースコホート研究を実施。
2) 妊婦とその母親の養育歴・生活習慣・疾病背景等に関する後方視的調査研究:データを収集、関連解析を行った。
3) 環境(胎内・新生児期)によるDNAメチル化とエピゲノム因子に関する基礎研究:出生時のエピゲノム異常を解析する基盤を整備し、特異症例のエピゲノム異常検出を施行。胎盤収集と保存の基盤を確立し、胎盤からmRNA 抽出を行った。また、実験動物を用いて肝臓におけるエピゲノム異常との関連性を解明。
4)神経芽細胞腫スクリーニングについて、6ヶ月スクリーニング休止後の動向の解析と18ヶ月スクリーニングの有効性の検証、新たな検査法としてタンデムマスを用いた予後不良例特異的診断法を確立した。
2) 妊婦とその母親の養育歴・生活習慣・疾病背景等に関する後方視的調査研究:データを収集、関連解析を行った。
3) 環境(胎内・新生児期)によるDNAメチル化とエピゲノム因子に関する基礎研究:出生時のエピゲノム異常を解析する基盤を整備し、特異症例のエピゲノム異常検出を施行。胎盤収集と保存の基盤を確立し、胎盤からmRNA 抽出を行った。また、実験動物を用いて肝臓におけるエピゲノム異常との関連性を解明。
4)神経芽細胞腫スクリーニングについて、6ヶ月スクリーニング休止後の動向の解析と18ヶ月スクリーニングの有効性の検証、新たな検査法としてタンデムマスを用いた予後不良例特異的診断法を確立した。
結果と考察
早産・低出生体重児、およびハイリスク妊娠児を対象とし、幅広くペアドコントロールをとって健常児も含めた母子コホート研究を、国立成育医療研究センターにて倫理委員会承認後開始し、妊娠期から(胎児期から)の母児の追跡調査体制を確立、継続してリクルートを行ってきた。24ヶ月間に1949名の妊婦の参加同意を得た。出産数1518例、一歳時追跡率86%。18歳までの追跡調査基盤整備中である。
母子の血液・尿・唾液検査、臍帯血・胎盤採取とそのバンク化を行い、質問紙や身体検査のデータと生化学データ、ゲノム・エピゲノム解析を総合した研究の基盤整備を行い、推進した。これまでに収集したデータより、低出生体重児にエピゲノム異常を認める症例を見いだした他、体外受精妊娠の妊娠高血圧発症リスクが有意に高値であること、妊娠時母体体格が児の出生体重と最も関連すること、成長因子・アディポサイトカイン・ビタミンD等の因子と胎児成長の関連が明らかとなった。さらに、今回の研究対象妊婦及び臍帯血中の25OHビタミンD濃度が、推奨値より低値であることを明らかにした。SGAの要因は、、母親の喫煙、PIH、妊娠中の体重増加、BMI、在胎週数であった。SGA児は生後早期のBMI上昇率が有意に高く、成長因子は低いことが示された。
以上より、母児の良好な短期的予後のために、妊娠中の栄養等環境に加え、妊娠成立時の条件を整えること、新生児期・乳児期の栄養を出生体重に応じ適正化する必要性が示された。さらにデータを集積し、中・長期予後と関連因子の検討を行っていく。児の簡便な神経学的検査法を開発し、発達予後と子宮内発育状態についても検討、生後早期の成長と甲状腺ホルモンの関連や、母体のヨード曝露の母児への影響にも準備データを得た。これらのデータの中には、健全な妊娠と出産、児の成長発達障害の予防につながるものがあると考える。動物実験では従来知見のなかった新生児期の肝臓におけるde novo脂肪合成のエピジェネティクス制御の分子機構の解明を行い、肝臓の中性脂肪合成の律速酵素GPAT1は新生仔期にDNAメチル化によるエピジェネティックな制御を受けることを明らかにした。神経芽腫スクリーニングではペプチドと酵素活性を組み合わせて測定することにより悪性度診断に極めて有用であることが示された。多発神経芽腫症例に共通したミスセンス変異を発見しゲノムスクリーニングへと展開する可能性が示唆された。
母子の血液・尿・唾液検査、臍帯血・胎盤採取とそのバンク化を行い、質問紙や身体検査のデータと生化学データ、ゲノム・エピゲノム解析を総合した研究の基盤整備を行い、推進した。これまでに収集したデータより、低出生体重児にエピゲノム異常を認める症例を見いだした他、体外受精妊娠の妊娠高血圧発症リスクが有意に高値であること、妊娠時母体体格が児の出生体重と最も関連すること、成長因子・アディポサイトカイン・ビタミンD等の因子と胎児成長の関連が明らかとなった。さらに、今回の研究対象妊婦及び臍帯血中の25OHビタミンD濃度が、推奨値より低値であることを明らかにした。SGAの要因は、、母親の喫煙、PIH、妊娠中の体重増加、BMI、在胎週数であった。SGA児は生後早期のBMI上昇率が有意に高く、成長因子は低いことが示された。
以上より、母児の良好な短期的予後のために、妊娠中の栄養等環境に加え、妊娠成立時の条件を整えること、新生児期・乳児期の栄養を出生体重に応じ適正化する必要性が示された。さらにデータを集積し、中・長期予後と関連因子の検討を行っていく。児の簡便な神経学的検査法を開発し、発達予後と子宮内発育状態についても検討、生後早期の成長と甲状腺ホルモンの関連や、母体のヨード曝露の母児への影響にも準備データを得た。これらのデータの中には、健全な妊娠と出産、児の成長発達障害の予防につながるものがあると考える。動物実験では従来知見のなかった新生児期の肝臓におけるde novo脂肪合成のエピジェネティクス制御の分子機構の解明を行い、肝臓の中性脂肪合成の律速酵素GPAT1は新生仔期にDNAメチル化によるエピジェネティックな制御を受けることを明らかにした。神経芽腫スクリーニングではペプチドと酵素活性を組み合わせて測定することにより悪性度診断に極めて有用であることが示された。多発神経芽腫症例に共通したミスセンス変異を発見しゲノムスクリーニングへと展開する可能性が示唆された。
結論
大規模母子コホート研究を、倫理委員会の承認を得て推進した。「正常新生児エピゲノム多様性」を指標にした解析研究の基盤を確立し、動物実験を含む基礎研究と連携したコホート研究基盤を確立した。本研究により、小児生活習慣病や成長・成熟の異常、疾病の世代間関連の、疾患形成メカニズムの解明が進むことが期待される。
公開日・更新日
公開日
2013-06-07
更新日
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