小児心不全に対する細胞治療と単心室症由来人工多能性幹(iPS)細胞の樹立による次世代心筋再生医療法の開発

文献情報

文献番号
201219002A
報告書区分
総括
研究課題名
小児心不全に対する細胞治療と単心室症由来人工多能性幹(iPS)細胞の樹立による次世代心筋再生医療法の開発
課題番号
H22-次世代-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
王 英正(岡山大学病院 新医療研究開発センター再生医療部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐野俊二(岡山大学医歯薬学総合研究科 心臓血管外科)
  • 伊藤 浩(岡山大学医歯薬学総合研究科 循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
28,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業では、欧米では小児心臓移植適応例の50%以上を占める単心室症由来の小児心不全に対して、冠動脈内注入法による心臓内幹細胞自家移植療法を行うことで、世界初の小児心不全に対する細胞治療法を実用化することを目的とする。
平成24年度では、平成22年度から平成23年度にかけて実施してきた左心低形成症候群に対する心臓内幹細胞自家移植の連続全7症例の安全性確認と非移植群である7症例との心機能改善度に関する有効性の検証を細胞移植後1年目まで観察し、TICAP第1相臨床試験の研究成果の総括を行うことを目的とする。
研究方法
1. 小児心不全への細胞移植療法の第1相臨床試験のデータ解析
世界初となる小児心不全への細胞治療法の第I相臨床試験は、平成23年1月に「ヒト幹細胞を用いた臨床研究に関する指針」に則り、厚生科学審議会にて実施承認後、同年3月より岡山大学病院で2年間かけて登録実施してきた。プロトコルの主要エンドポイントに従い、心不全、致死性不整脈、蛋白漏出性腸症、感染症、造腫瘍作用などを含む重篤な有害事象の発生有無に最大限の注意と経過観察を行う。
2. 第2相臨床試験のプロトコル作成と承認申請
第1相臨床試験の安全性確認を踏まえ、有効性検証目的となる第2相臨床試験では、第1相臨床試験の成果を踏まえ、細胞治療の有効性を検出しうる必要最小限の症例数を算出する必要がある。7対7症例の第1相臨床試験において得られた細胞移植後の心機能改善度を解析し、同群間のみならず異群間での心機能改善度を統計学的に有意に検出できる実施症例数を算出する。
作成した第2相臨床試験プロトコルは学内の倫理委員会での審議承認を経て、厚生科学審議会に提出し、承認申請を行う。第2相臨床試験はより科学的な有効性の判定を行うため、試験設計は無作為割り付けによる比較対照試験とする。また、有害事象に関するデータモニタリングを実施するため、eClinical/Electronic Data Capture (EDC)による登録症例の適応基準の判定、コンピューターによる無作為の群別割り付けや細胞治療前後の臨床経過の追跡を行う内容にする。
結果と考察
1. 実施終了の第1相臨床試験のデータ解析(安全性検証)
平成24年度は平成23年度内に移植実施した全7症例の安全性検証について、移植直後から1年間にかけて長期にわたって観察し各種評価法により定量化した。移植後急性期より、冠動脈内注入法による細胞移植で虚血や不整脈の惹起を認めず、移植後1年間を通じて、死亡、心不全発症や感染症の併発などの事象は起こらなかった。もっとも重要なこととして、細胞移植した全7症例において、移植した心臓部位を含め腫瘍形成作用を認められなかった。
2. 第1相臨床試験の有効性検証
本臨床研究では、7症例の細胞移植群と7症例の標準治療群(非細胞移植群)の比較試験を行い、心臓内幹細胞自家移植の有効性について検証した。細胞移植後1週間前後にて、全7症例とも軽快退院となり、3か月目および1年目での心機能評価を各種パラメーター用いて解析した。
細胞治療の有効性について、細胞移植後3か月目より1年目にかけて、心エコー、心臓カテーテル、心臓MRI検査によって評価し、心室駆出率と心係数の継続的改善を示した。興味深いことに、細胞治療群は移植後心収縮能のみならず、拡張能の改善ならびに三尖弁の弁輪径の縮小を認めた。
結論
左心低形成症候群7症例を対象に、小児心不全における心臓内自己幹細胞を用いた冠動脈内注入による移植法の安全性を確認した。体重が3キロ以上で、年齢が生後6か月以降なら、カテーテル操作を伴う冠動脈造影や細胞注入は技術的に充分実施可能でかつ安全である。具体的には、細胞移植後1年目までの観察期間において、細胞注入による急性心筋虚血、催不整脈作用はなく、心不全や死亡事例も生じなかった。移植後1年以上経過した観察期間における細胞起因性の腫瘍形成や感染症の発症も認めなかった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201219002B
報告書区分
総合
研究課題名
小児心不全に対する細胞治療と単心室症由来人工多能性幹(iPS)細胞の樹立による次世代心筋再生医療法の開発
課題番号
H22-次世代-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
王 英正(岡山大学病院 新医療研究開発センター再生医療部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐野俊二(岡山大学医歯薬学総合研究科 心臓血管外科)
  • 伊藤 浩(岡山大学医歯薬学総合研究科 循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦における小児重度心不全に対する医療背景として、小児の海外渡航による心臓移植医療に大きく依存し、それに関わる費用は1億円を超えている。また、心臓移植を必要とする治療抵抗性の心不全の予後は、一年生存率が50%以下と不良であり、心不全治療に関連する入院費や薬物治療費は国民医療費の約20%以上を占める。このような社会背景のもと、心筋再生医療が実用化され、重篤な心不全を改善させることができれば、心臓移植適応となる小児症例を減少させ、切実な臓器提供者不足の問題を解消し、国民医療費においても大きな国家財政の負担軽減となる。
申請者らが報告した小児心臓における自己幹細胞の存在量と増殖能力が成人症例より高いという結果から、本細胞移植技術の小児心不全への臨床的有用性は充分に期待できる(Biochem Biophys Res Commun 352:635; 2007)。さらに、先天性心疾患患者からのiPS細胞の樹立に関する報告も皆無であることから、本研究内容は極めて独創的で、最先端の開発研究といえる。
本研究では患者本人の心臓内幹細胞を用いた心筋再生医療として、小児心不全を対象とする第I相臨床試験(TICAP試験)の実施により、本治療法の安全性を検証し、将来の標準治療化に向けた基盤技術の確立を目指す。
研究方法
1. 右心負荷モデルへの細胞治療の前臨床試験
小児心不全の主たる病態である右心室負荷はラットの肺動脈を絞扼せることで動物実験モデルとして作成し、大量培養した心臓内幹細胞を冠動脈内に直接注入する。自家細胞移植に必要な細胞数として、30万個/kgと60万個/kgの2つの細胞数を2群に分けて注入し、無移植群に比べ心機能の改善度を検証し、移植に必要な最小細胞数を決定する。
2. 小児心不全への心臓内幹細胞自家移植療法
世界初となる小児心不全への細胞治療法の第1相臨床試験は、平成23年1月に「ヒト幹細胞を用いた臨床研究に関する指針」に則り、厚生科学審議会にて実施承認後、同年3月より岡山大学病院で2年間かけて合計7症例に対し細胞移植の登録実施を行う。
対象は0から6歳までの機能的単心室性の心不全症例とし、目標症例数は7例とする。通常の外科的修復術時に右心耳または右流出路から心臓組織(100mgから250mg)を採取し、自家心臓幹細胞株を樹立する。約2-3週間で移植に必要な細胞数(3x105/kg)まで幹細胞を増殖させ、心臓手術後評価のための心臓カテーテル検査時に、冠動脈内に直接注入することで移植する。細胞移植後1年まで追跡調査し、安全性の評価を行う。
プロトコルの主要エンドポイントに従い、心不全、致死性不整脈、蛋白漏出性腸症、感染症、造腫瘍作用などを含む重篤な有害事象の発生有無に最大限の注意と経過観察を行う。
有効性の評価項目は術後3ヶ月、1年目における心不全の臨床症状、BNP値ならびに心エコー法、心MRI、心室造影による心駆出率の改善度とする。
結果と考察
1.   前臨床試験の解析結果より、冠動脈注入時に虚血性変化や有害不整脈の発生は認められず、移植後6か月目までの長期観察で腫瘍形成作用も観察されなかった。また、右室内血管周囲及び心内膜側にドナー細胞の生着を認め、約3~5%が心筋細胞に分化した。
2.   平成23年度から平成24年度にかけて移植実施した全7症例の安全性検証について、移植直後から1年間にかけて長期にわたって観察し各種評価法により定量化した。移植後急性期より、冠動脈内注入法による細胞移植で虚血や不整脈の惹起を認めず、移植後1年間を通じて、死亡、心不全発症や感染症の併発などの事象は起こらなかった。細胞移植した全7症例において、移植した心臓部位を含め腫瘍形成作用を認められなかった。
本第1相臨床試験で実施した全7症例において冠動脈内注入法による細胞治療法の安全性を確認した。治療有効性に関しては、今後34人から構成される無作為割り付けした第2相臨床試験において平成25年度より検証していく。   
結論
左心低形成症候群7症例を対象に、小児心不全における心臓内自己幹細胞を用いた冠動脈内注入による移植法の安全性を確認した。体重が3キロ以上で、年齢が生後6か月以降なら、カテーテル操作を伴う冠動脈造影や細胞注入は技術的に充分実施可能でかつ安全である。具体的には、細胞移植後1年目までの観察期間において、細胞注入による急性心筋虚血、催不整脈作用はなく、心不全や死亡事例も生じなかった。移植後1年以上経過した観察期間における細胞起因性の腫瘍形成や感染症の発症も認めなかった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201219002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
致死性心不全を伴う先天性心疾患に特異的なiPS細胞を用いた研究はこれまでに報告がない。左心低形成症候群由来のiPS細胞の樹立により、心臓発生初期段階における複合的な転写活性異常を包括的に解析しえた。
本研究で樹立した各種疾患特異的iPS細胞を駆使することで、難治性疾患の長期的臨床疫学調査研究に応用する革新的予後診断法の開発に向けた研究を今後継続的に行うことが必要である。
臨床的観点からの成果
左心低形成症候群7症例を対象に、小児心不全における心臓内自己幹細胞を用いた冠動脈内注入による移植法の安全性を確認した。カテーテル操作を伴う冠動脈造影や細胞注入は技術的に充分実施可能でかつ安全である。具体的には、細胞移植後1年目までの観察期間において、細胞注入による急性心筋虚血、催不整脈作用はなく、心不全や死亡事例も生じなかった。細胞移植後1年目以上経過した長期的観察期間における細胞起因性の腫瘍形成や感染症の発症も認めなかった。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
本研究は、先天性・難治性心疾患に対する細胞治療法の臨床実施と次世代心筋再生医療法の開発を目的とし、心臓移植しか治療法のない小児心不全患者さんにおける生命予後の改善ならびにご両親を含む家庭生活におけるQOLの向上に大きな希望を与えることができる。
その他のインパクト
本研究開発の初期成果は、各種新聞やテレビを通じて、社会に十分に伝達されてきた。また、年に2~3回、子供を守る会などを通じて、公開シンポジウムで講演討論を行い、一般市民への本新規医療技術の紹介を行った。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
2件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

特許の名称
心臓組織由来の多能性幹細胞
詳細情報
分類:
特許番号: 4783909
発明者名: 王 英正
権利者名: 王 英正
出願年月日: 20060303
国内外の別: 日本、英国、独

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshida M, Oh H.
Stem Cell Engineering for Cardiac Tissue Regeneration.
Cardiology , 115 , 191-193  (2010)
原著論文2
Isodono K, Takahashi T, Imoto H. et al.
PARM-1 is an Endoplasmic Reticulum Molecule Involved in Endoplasmic Reticulum Stress-induced Apoptosis in Rat Cardiac Myocytes.
PLos ONE , 18 , 9746-9752  (2010)
原著論文3
Rodriguez G, Ueyama T, Ogata T, et al.
Molecular genetic and functional characterization implicate muscle-restricted coiled-coil gene (MURC) as a causal gene for familial dilated cardiomyopathy.
Circ Cardiovasc Genet. , 4 , 349-358  (2011)
原著論文4
Ogata T, Naito D, Nakanishi N et al.
MURC/Cavin-4 facilitates recruitment of ERK to caveolae and concentric cardiac hypertrophy induced by α1-adrenergic receptors.
Proc Natl Acad Sci U S A. , 111 , 3811-3816  (2014)
原著論文5
Tarui S., Sano S., Oh H.
Stem cell therapies in patients with single ventricle physiology.
Methodist Debakey Cardiovascular Journal. , 10 , 77-81  (2014)
原著論文6
Kobayashi J., Yoshida M., Tarui S. et al.
Directed Differentiation of Patient-Specific Induced Pluripotent Stem Cells Identifies the Transcriptional Repression and Epigenetic Modification of NKX2-5, HAND1, and NOTCH1 in Hypoplastic Left Heart Syndrome.
PLOS One , 9 , e102796-  (2014)
原著論文7
Ishigami S, Ohtsuki S, Tarui S et al.
Intracoronary Autologous Cardiac Progenitor Cell Transfer in Patients with Hypoplastic Left Heart Syndrome: The TICAP Prospective Phase 1 Controlled Trial.
Circ Res. , 116 , 653-664  (2015)
原著論文8
Kobayashi J., Sano S., Oh H.
Epigenetic modification in congenital heart diseases by using stem cell technologies .
Stem Cell Epigenet , 2 , e550-  (2015)
原著論文9
Ishigami S., Sano S., Oh H.
Cardiac stem cell therapies for congenital heart diseases
Stem Cell Transl Investig , 2 , e800-  (2015)
原著論文10
Tarui S.,Ishigami S.,Ousaka D. et al.
Transcoronary infusion of cardiac progenitor cells in hypoplastic left heart syndrome: 3-year follow-up of the TICAP trial.
The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery , 150 , 1198-1208  (2015)

公開日・更新日

公開日
2018-06-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201219002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
34,560,000円
(2)補助金確定額
34,560,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 21,328,354円
人件費・謝金 0円
旅費 2,254,340円
その他 5,217,306円
間接経費 5,760,000円
合計 34,560,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-05-23
更新日
-