文献情報
文献番号
201218016A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災被災者における認知機能と日常生活動作の前向きコホート研究
課題番号
H24-認知症-一般(復興)-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
古川 勝敏(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 小関 健由(東北大学大学院 歯学系研究科)
- 飯島 勝矢(東京大学 医学系研究科)
- 高橋 孝(北里大学大学院 感染制御科学府)
- 葛谷 雅文(名古屋大学大学院 医学系研究科)
- 永富 良一(東北大学大学院 医工学研究科)
- 森本 茂人(金沢医科大学 医学部)
- 川原 礼子(東北大学医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,660,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は宮城県沿岸部の住民を対象に、震災およびそれによって強いられる避難生活が、認知機能、日常生活動作に及ぼす影響を前向きコホートとして研究し、今後起こりうる災害に対するより良い対応のための認知症予防プログラムを策定することである。今回の震災で多くの尊い命が奪われ、それ以上の数の住民が住居を失い、現在仮設住宅での生活を強いられている。本研究では気仙沼市およびその周辺エリアにおいて、仮設住宅に居住する高齢被災者を対象に前向きコホート研究を行う。我々は既にアルツハイマー病患者でのパイロットスタディにおいて、非被災者より被災者において認知症の増悪が顕著で、さらに被災者の中でも、自宅に留まった患者に比し避難所に生活した患者において認知症症状がより増悪した事を報告した。本研究では住民の認知機能と日常生活動作について、現地でアンケート調査、認知機能の観察、血液分析を行い、それらの変化について前向き研究を遂行する。また認知症の発症率、さらには認知症患者の病気の進行について調査し、災害時における認知機能変化、認知症の発症および進行についてのエビデンスを構築する。
研究方法
①健康アンケート調査(年1回):仮設住宅に住む高齢者を個別訪問してアンケート調査を行う。アンケート用紙は「東日本大震災被災者の健康状態等に関する研究調査研究」(厚生労働省指定研究:代表者 辻一郎)にて使用されているものをベースに若干の改変を加えたものを利用する。このことにより共同研究とすることで地域差の分析にも耐えうるものとする。アンケートに高齢者の総合機能評価(CGA)を含み、また精神面の分析も充実している。同時に本研究に関する同意を得る。
②鳥取大学の浦上克哉先生が開発したタッチパネルコンピューターを用いた認知機能検査において、認知機能の変化、認知症の発症、認知症の進行について調査、検討する。
③集団検診:特定健康診査(65才以上)、後期高齢者健診を受診した仮設住宅/借り上げ住宅在住の高齢者を対象としてデータ収集を行う。健診項目は、神経心理検査、身長・体重、握力測定、呼吸・循環機能、血液検査、尿検査とする。
④医療機関での情報収集:対象高齢者の年間医療費とイベント発生について調査する。
⑤介護認定に関する情報収集:市が保管する支援・介護度に関する情報を得る。
②鳥取大学の浦上克哉先生が開発したタッチパネルコンピューターを用いた認知機能検査において、認知機能の変化、認知症の発症、認知症の進行について調査、検討する。
③集団検診:特定健康診査(65才以上)、後期高齢者健診を受診した仮設住宅/借り上げ住宅在住の高齢者を対象としてデータ収集を行う。健診項目は、神経心理検査、身長・体重、握力測定、呼吸・循環機能、血液検査、尿検査とする。
④医療機関での情報収集:対象高齢者の年間医療費とイベント発生について調査する。
⑤介護認定に関する情報収集:市が保管する支援・介護度に関する情報を得る。
結果と考察
2011年3月11日の時点に気仙沼市に在住しており、現在仮設住宅に暮らす65歳以上の高齢者:2,249名の対象者全員に、郵便で依頼文章とアンケート票を配布した。現時点で回収されたのは1,560票で、回収率は72.6%となった。その内訳は調査員による回収が1,518票、郵送による回収が42票であった。一方、回収不能数は589票であり、その内訳は拒否:114票、転居または住所不明:130票、入院や施設等への入居で長期不在:65票、調査期間中不在で本人に会えず:152票、その他(死亡や高齢等):128票という結果だった。
タッチパネルコンピューターを用いた物忘れプログラム調査については62の仮設住宅において700例の高齢者を対象に調査を施行した。全ての被験者の平均点は12.4であった(物忘れプログラムの満点は15点であり、13点以上が正常とされている)。また12点以下の認知症が疑われる高齢者数は252名(全体の36.0%)であり、予想より多い結果であった。
タッチパネルコンピューターを用いた物忘れプログラム調査については62の仮設住宅において700例の高齢者を対象に調査を施行した。全ての被験者の平均点は12.4であった(物忘れプログラムの満点は15点であり、13点以上が正常とされている)。また12点以下の認知症が疑われる高齢者数は252名(全体の36.0%)であり、予想より多い結果であった。
結論
気仙沼エリアの仮設住宅に居住する65歳以上の高齢者を対象にしたアンケート票調査と物忘れプログラム調査をおこなった。現在、アンケート票と物忘れの両調査のデータを慎重かつ詳細に入力、集計、解析を遂行している。仮設住宅居住の高齢者の多くは彼らの健康状態に不安を感じており、積極的に健康調査アンケートに応じることが確認された。また、多くの高齢者は個々の記憶力や判断力の低下を自覚したり、家族より指摘されたりすることを経験している。近年は、認知症に関するマスコミ報道も多く、本疾患に対する関心は高まっている。自分が「ボケるんではなかろうか」という恐怖感は殆どの高齢者が抱いている。我々はこれまで震災を境にアルツハイマー病患者の認知機能と精神症状が著明に増悪し、その増悪度は震災後自宅に留まった患者より避難所生活を強いられた患者において顕著だったことを報告した。さらにタッチパネルコンピューターを用いた本研究では700名のうち36.0%の高齢者が認知症の可能性を示唆されている。本研究の対象者は仮設住宅という非常に閉鎖された居住環境で生活をしている集団である。その意味では新たな認知症の発症の増加や認知症患者の更なる増悪が危惧される。これらの結果より、仮設住宅に暮らす高齢者において今後もより詳細な調査、支援が必要だと再確認した。
公開日・更新日
公開日
2013-07-01
更新日
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