高齢者地域住民コホート研究による加齢性筋肉減弱現象(サルコペニア)の実態把握および予防対策に関する研究

文献情報

文献番号
201217009A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者地域住民コホート研究による加齢性筋肉減弱現象(サルコペニア)の実態把握および予防対策に関する研究
課題番号
H22-長寿-若手-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村木 重之(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,146,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢による衰弱は、平成19年度国民生活基礎調査において要介護の原因の3位を占め、急速に超高齢化したわが国においてその予防は喫緊の課題であり、その主たる原因としてサルコペニアによる脆弱化が挙げられている。更に、申請者の研究によると、高齢者では腰痛と変形性腰椎症との相関は極めて弱く、痛みの要因としても運動器疾患以外にサルコペニアの関与が注目されている。しかし、サルコペニアに関するエビデンスレベルの高い疫学研究はこれまで皆無に近かった。本研究では、高齢地域住民コホート研究において、サルコペニアの実態の把握及びその危険因子の解明により、予防の為の介入プログラムを開発し、質の高いエビデンスに基づいた予防法を提言する事により、要介護者を低減することを最終目的としている。そのために、本研究では初年度に、地域住民コホートを構築し、サルコペニアの実態の解明を、二年目に、筋力および筋量と、転倒、運動器疾患、運動機能、QOL、要介護との関連を明らかにした。最終年度の本年度は、上記のエビデンスをもとにサルコペニア予防のための介入プログラムを開発し、対象者に実践することにより、その効果を検証した。
研究方法
本研究の対象は、東京都板橋区および和歌山県太地町のコホート対象者合計1,774名(平均年齢72.1歳)である。両コホートとも住民票よりランダムに抽出した男女を対象に行われていた住民検診を母体とし、サルコペニアをターゲットにしたコホート調査へと拡大させたものであり、地域代表性は確立されている。前年度までの成果より、片脚立ち時間、5回いす立ち上がり時間のいずれも筋力と強い関連がみられ、片脚立ち訓練、スクワット訓練が、筋力低下の予防に効果的であることが示唆されたため、片脚立ち訓練とスクワット訓練を組み合わせた介入プログラムを開発し、介入研究参加に同意した151名(平均年齢76.6歳)に指導した。スクワットは1セット5回から10回行い、1日3セットを目標とした。また、片足立ちは左右1分間ずつ1日3回行うこととした。測定項目は、握力、片足立ち時間、10m歩行時間、膝伸展筋力とし、介入開始時と2か月後に測定した。本研究計画における臨床研究は、東京大学倫理委員会の承認を得ている。臨床情報蒐集や血液検体の採取に際しては、文書を用いて説明し同意書を取得しているが、同意の撤回が対象者の自由意志でいつでも可能であり、同意の撤回により不利益を受けることはないことを説明している。同意取得には強制にならないよう十分に配慮し、また十分な判断力のないものは対象から除外している。サンプル、個人情報および解析結果は、鍵付保管庫で厳重に保管し秘密を厳守している。結果を学術論文や学会で報告する場合も参加者の人権及びプライバシーの保護を優先し、個人を識別しうる情報は公表しない。個人情報はコードナンバーとして暗号化され、患者が特定されることは決してない。
結果と考察
その結果、片足立ち時間は、開始時:右30.1±22.0秒、左32.4±21.1秒であったのが、2か月後:右42.5±20.0秒、左40.6±22.2秒(いずれもp<0.05)に、10m歩行時間は、開始時5.8±1.0秒が2か月後5.6±0.8秒と有意に改善した(p<0.05)。また、膝伸展筋力も、開始時:右84.7±24.6 N・m、左80.0±24.5 N・mが、2か月後:右87.8±23.2 N・m、左右85.4±24.6 N・mと有意に改善した(いずれもp<0.01)。これらのことより、片足立ちおよびスクワットは、高齢者においてきわめて簡便かつ有効なサルコペニア予防法であることが明らかとなった。
結論
本研究では、筋力はQOL、要介護と強い関連を認めており、筋力増強訓練によりQOL向上、要介護予防効果が期待できると考えられた。さらに、筋力は、6m歩行時間、片脚立ち時間、5回いす立ち上がり時間のいずれも筋力と強い関連がみられ、歩行、片脚立ち訓練、スクワット訓練が、筋力低下の予防に効果的であることが示唆されたため、これらの知見に基づき、片脚立ち訓練、スクワット訓練を組み合わせた介入プログラムを開発し、介入研究参加に同意した151名(平均年齢76.6歳)に指導した。スクワットは1セット5回から10回行い、1日3セットを目標とした。また、片足立ちは左右1分間ずつ1日3回行うこととした。測定項目は、握力、片足立ち時間、10m歩行時間、膝伸展筋力とし、介入開始時と2か月後に測定した。その結果、片足立ち時間、歩行速度、下肢筋力は有意に改善が見られ、片足立ちおよびスクワットは、高齢者においてきわめて簡便かつ有効なサルコペニア予防法であることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-07-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201217009B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者地域住民コホート研究による加齢性筋肉減弱現象(サルコペニア)の実態把握および予防対策に関する研究
課題番号
H22-長寿-若手-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村木 重之(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢による衰弱は、平成19年度国民生活基礎調査において要介護の原因の3位を占め、急速に超高齢化したわが国においてその予防は喫緊の課題であり、その主たる原因としてサルコペニアによる脆弱化が挙げられている。しかし、サルコペニアに関するエビデンスレベルの高い疫学研究はこれまで皆無に近かった。本研究では、高齢地域住民コホート研究において、サルコペニアの実態の把握及びその危険因子の解明により、予防の為の介入プログラムを開発し、質の高いエビデンスに基づいた予防法を提言する事により、要介護者を低減することを最終目的としている。そのために、本研究では初年度に、地域住民コホートを構築し、サルコペニアの実態の解明を、二年目に、筋力および筋量と、転倒、運動器疾患、運動機能、QOL、要介護との関連を明らかにした。最終年度は、上記のエビデンスをもとにサルコペニア予防のための介入プログラムを開発し、対象者に実践することにより、その効果を検証した。
研究方法
本研究の対象は、東京都板橋区および和歌山県太地町のコホート対象者合計1,774名(平均年齢72.1歳)である。両コホートとも住民票よりランダムに抽出した男女を対象に行われていた住民検診を母体とし、サルコペニアをターゲットにしたコホート調査へと拡大させたものであり、地域代表性は確立されている。同調査では、筋力評価に関して、握力、下肢筋力測定、体組成計による筋量測定を行った。また、その他の調査項目としては、既往歴、生活習慣・運動習慣、転倒状況に関する詳細な問診票、栄養調査(BDHQ)、膝痛関連指標(WOMAC)、腰痛関連指標(Oswestry Disability Index)、QOL関連指標(EQ5D、SF8)、ADL・要介護度調査、整形外科専門医による診察所見、身体計測、歩行速度、立ちしゃがみ時間、片脚起立時間など運動機能テスト、単純X線撮影(腰椎・股関節・膝関節)、血液・尿検査など多数項目に及ぶ。さらに、二年目までの成果より、片脚立ち時間、5回いす立ち上がり時間のいずれも筋力と強い関連がみられ、片脚立ち訓練、スクワット訓練が、筋力低下の予防に効果的であることが示唆されたため、片脚立ち訓練とスクワット訓練を組み合わせた介入プログラムを開発し、介入研究参加に同意した151名(平均年齢76.6歳)に指導した。測定項目は、握力、片足立ち時間、10m歩行時間、膝伸展筋力とし、介入開始時と2か月後に測定した。
本研究計画における臨床研究は、東京大学倫理委員会の承認を得ている。
結果と考察
下肢筋力は男女とも60歳代より下肢筋力の急激な低下がみられたが、下肢筋量は、男女とも50歳代よりすでに低下してきており、筋力よりも筋量の低下の方がはやく起こっていた。しかし、筋量の低下率は、男性67.6%、女性76.9%であり、筋力と比較して低下の程度は小さかった。また、運動器疾患を有している対象者は、有しない対象者よりも有意に下肢筋力が低かった。さらに、WOMAC pain score,physical function scoreは、いずれも、女性において筋力および筋量の両方と関連がみられた。また、要介護を受けている対象者は、受けていない対象者と比較して筋力が著しく低く、筋力増強訓練が要介護者の低減に有効であることが示唆できた。一方、運動機能に関しては、6m歩行時間、片脚立ち時間、5回いす立ち上がり時間のいずれも筋力と強い関連がみられた。そこで、片足立ちおよびスクワットを組み合わせたサルコペニア予防のための介入プログラムを開発し、介入研究参加に同意した151名(平均年齢76.6歳)に実践したところ、片足立ち時間は、開始時:右30.1±22.0秒、左32.4±21.1秒であったのが、2か月後:右42.5±20.0秒、左40.6±22.2秒(いずれもp<0.05)に、10m歩行時間は、開始時5.8±1.0秒が2か月後5.6±0.8秒と有意に改善した(p<0.05)。また、膝伸展筋力も、開始時:右84.7±24.6 N・m、左80.0±24.5 N・mが、2か月後:右87.8±23.2 N・m、左右85.4±24.6 N・mと有意に改善した(いずれもp<0.01)。これらのことより、片足立ちおよびスクワットは、高齢者においてきわめて簡便かつ有効なサルコペニア予防法であることが明らかとなった。
結論
片足立ちおよびスクワットは、高齢者においてきわめて簡便かつ有効なサルコペニア予防法であることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-07-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201217009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
サルコペニアは要介護の大きな原因の一つであるが、サルコペニアに関するエビデンスレベルの高い疫学研究はこれまで皆無に近く、その予防対策は極めて困難であった。本研究では、地域代表制を有する高齢者コホートを用い、サルコペニアの実態を初めて解明したうえ、筋力と運動器疾患や運動機能、QOL、要介護との関連を明らかにした。また、同データをもとに介入プログラムを開発し、その有効性を検証し、予防対策開発の一助となりうる大きな成果を上げることができた。
臨床的観点からの成果
サルコペニアが高齢者に非常の多いこと、またサルコペニアが高齢者のQOLや運動機能の低下に大きな影響を持っており、要介護の原因の一つと考えられること、さらには予防介入プログラムの開発を、高齢者コホート研究というエビデンスレベルの高い方法を持って、解明できたことは大きな成果である。このことは、臨床的に、高齢者の運動器疾患の治療、予防の一助となる大きな成果である。
ガイドライン等の開発
ガイドラインを開発するためには、疫学データの裏付けが必須であるが、これまでにガイドライン開発のベースとなるような疫学データは存在しなかった。本研究により、サルコペニアの実態及びQOL、運動機能、要介護への影響等のデータは、まさにガイドライン開発のために必要な疫学データであり、ガイドライン開発の一助となる大きな成果を上げることができた。
その他行政的観点からの成果
本研究による、サルコペニアの実態の解明、運動機能、QOL、要介護への影響、さらにこれらのデータに基づいたエビデンスレベルの高い、予防の為の介入プログラムの開発は、質の高いエビデンスに基づいた予防法の提言へとつながり、地域社会にフィードバックすることにより、要介護者の低減を実現するための一助となる大きな成果であると考えられる。
その他のインパクト
現在、サルコペニアは各関連学会でも非常に大きなトピックとなっており、学会における本研究の成果は、大きな反響を呼んでいる。

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
41件
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
159件
学会発表(国際学会等)
58件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshimura N, Muraki S, Oka H et al.
Profiles of vitamin D insufficiency and deficiency in Japanese men and women: Association with biological, environmental, and nutritional factors and coexisting disorders: The ROAD study
Osteoporos Int , in press  (2013)
原著論文2
Ishimoto Y, Yoshimura N, Muraki S et al.
Associations between radiographic lumbar spinal stenosis and clinical symptoms in the general population: The Wakayama Spine Study
Osteoarthritis Cartilage , in press  (2013)
原著論文3
Muraki S, Akune T, En-yo Y et al.
Association of Dietary Intake with Joint Space Narrowing and Osteophytosis at the Knee in Japanese Men and Women: The ROAD Study
Modern Rheum , in press  (2013)
原著論文4
Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al.
Does mild cognitive impairment affect the occurrence of radiographic knee osteoarthritis? A 3-year follow-up in the ROAD study.
BMJ Open , in press  (2013)
原著論文5
Muraki S, Akune T, Ishimoto Y et al.
Risk factors for falls in a longitudinal population-based cohort study of Japanese men and women: The ROAD Study
Bone , 52 , 516-523  (2013)
原著論文6
Muraki S, Akune T, Oka H et al.
Physical Performance, Bone and Joint Diseases, and Incidence of Falls in Japanese Men and Women: A Longitudinal Cohort Study.
Osteoporos Int , 24 , 459-466  (2013)
原著論文7
Ishimoto Y, Yoshimura N, Muraki S et al.
Prevalence of symptomatic lumbar spinal stenosis and its association with physical performance in a population-based cohort in Japan: The Wakayama Spine Study.
Osteoarthritis Cartilage , 20 , 1103-1108  (2012)
原著論文8
Yoshimura N, Muraki S, Oka H et al.
Accumulation of metabolic risk factors such as overweight, hypertension, dyslipidaemia, and impaired glucose tolerance raises the risk of occurrence and progression of knee osteoarthritis: A 3-year follow-up of the ROAD study.
Osteoarthritis Cartilage , 20 , 1217-1226  (2012)
原著論文9
Nagata K, Yoshimura N, Muraki S et al.
Prevalence of cervical cord compression and its association with physical performance in a population-based cohort in Japan: the Wakayama Spine Study
SPINE , 37 , 1892-1898  (2012)
原著論文10
Muraki S, Akune T, Oka H,et al.
Incidence and Risk Factors for Radiographic Lumbar Spondylosis and Lower Back Pain in Japanese Men and Women: The ROAD Study.
Osteoarthritis Cartilage , 20 , 712-718  (2012)
原著論文11
Muraki S, Akune T, Oka H, et al.
Incidence and Risk Factors for Radiographic Knee Osteoarthritis and Knee Pain in Japanese Men and Women: a Longitudinal Population-Based Cohort Study.
Arthritis Rheum , 64 , 1447-1456  (2012)
原著論文12
Yoshimura N, Oka H, Muraki S et al.
Reference values for hand grip strength, muscle mass, walking time, and one-leg standing time as indices for locomotive syndrome and associated disability: The second survey of the ROAD study
J Orthop Sci , 16 , 768-777  (2011)
原著論文13
Muraki S, Oka H, Akune T et al.
Independent Association of Joint Space Narrowing and Osteophyte Formation at the Knee with Health-related Quality of Life in Japan: A Cross-sectional Study
Arthritis Rheum , 63 , 3859-3864  (2011)
原著論文14
Muraki S, Akune T, Oka H et al.
Prevalence of falls and its association with knee osteoarthritis and lumbar spondylosis as well as knee and lower back pain in Japanese men and women.
Arthritis Care Res , 63 , 1425-1431  (2011)
原著論文15
Yoshimura N, Muraki S, Oka H et al.
Biochemical markers of bone turnover as predictors for occurrence of osteoporosis and osteoporotic fractures in men and women: Ten-year follow-up of the Taiji cohort study.
Modern Rheum , 21 , 608-620  (2011)
原著論文16
Muraki S, Oka H, Akune T,et al.
Association of Occupational Activity with Joint Space Narrowing and Osteophytosis in the Medial Compartment of the Knee: The ROAD study
Osteoarthritis Cartilage , 19 , 840-846  (2011)
原著論文17
Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al.
Changes in serum levels of biochemical markers of bone turnover over 10 years among Japanese men and women: associated factors and birth-cohort effect; The Taiji Study.
J Bone Miner Metab , 29 , 699-708  (2011)
原著論文18
Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al.
Association of knee osteoarthritis with the accumulation of metabolic risk factors such as overweight, hypertension, dyslipidaemia, and impaired glucose tolerance in Japanese men and women: The ROAD Study
J Rheum , 38 , 921-930  (2011)
原著論文19
Muraki S, Akune T, Oka H, et al.
Health-related Quality of Life in Subjects with Low Back Pain and Knee Pain in a Population-Based Cohort Study of Japanese men: The ROAD study.
SPINE , 36 , 1312-1319  (2011)
原著論文20
Yoshimura N, Muraki S, Oka H et al.
Capacity of endogenous sex steroids to predict bone loss in Japanese men: Ten-year follow-up of the Taiji Cohort Study
J Bone Miner Metab , 29 , 96-102  (2011)

公開日・更新日

公開日
2017-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201217009Z