高齢者のドライマウスの実態調査及び標準的ケア指針の策定に関する研究

文献情報

文献番号
201217005A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者のドライマウスの実態調査及び標準的ケア指針の策定に関する研究
課題番号
H22-長寿-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 保明(公立大学法人九州歯科大学 歯学部・摂食嚥下支援学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 西原 達次(公立大学法人九州歯科大学 歯学部・感染分子生物学分野)
  • 柏崎 晴彦(北海道大学大学院歯学研究科 口腔健康科学講座 高齢者歯科学講座)
  • 小関 健由(東北大学大学院歯学研究科・口腔保健発育学予防歯科学分野)
  • 佐藤 裕二(昭和大学歯学部・高齢者歯科学講座)
  • 里村 一人(鶴見大学歯学部口腔外科学第二(口腔内科学)講座)
  • 伊藤 加代子(新潟大学医歯学総合病院・加齢歯科学診療室)
  • 小笠原 正(松本歯科大学・障害者歯科学講座)
  • 岸本 悦央(岡山大学大学院・長寿社会医学講座・予防歯科学講座)
  • 中村 誠司(九州大学大学院歯学研究院・口腔外科学講座)
  • 内山 公男(国立病院機構栃木病院・歯科口腔外科)
  • 山下 喜久(九州大学大学院歯学研究院・予防歯科学分野)
  • 清原 裕(九州大学大学院医学研究院・環境医学分野)
  • 村松 宰(松本大学大学院・健康科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
15,284,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者におけるドライマウスは、誤嚥性肺炎、低栄養などと関連しているが、高齢者におけるドライマウスは多要因が複雑に絡まり合って成立していることもあり、その実態については把握されておらず、効果的なケア方法が確立されていない。
本研究は、ドライマウスのリスク因子について、横断的ならびに縦断的に調査することで実態を明らかにし、客観的評価指標案と標準的ケア指針案を策定し、さらに介入研究による検証を通じて、ドライマウスの客観的評価指標と標準的ケア指針を作成することを目的として研究を進めた。
研究方法
(1)高齢者のドライマウスのリスクファクターに関する研究については、独自に作成した質問票調査を使用して全国の病院歯科6施設にて調査を行い、平成22年および平成24年の両方でデータを得られた対象者に関して分析を行なった。
(2)要介護高齢者のドライマウスリスク因子に関する追跡調査は、平成22年度調査で対象とした入所要介護高齢者のうち本年度調査可能だった501人とし、再調査を実施した。
(3)要介護高齢者に対する機能的口腔ケアの中期的な継続と血漿中活性型グレリン値の関連については、非経口摂取の入院中要介護高齢者6名(男性2名、女性4名、平均年齢82歳)に対し、機能的口腔ケアを3カ月間継続実施し、実施前、実施1カ月後ならびに実施3カ月後の時点において、独自に作成したアセスメント票を用いて対象者の口腔状態を評価し、グレリン濃度を測定した。
(4)要介護高齢者におけるドライマウスのリスク因子の解明に関する横断的およびコホート調査的研究については、平成22年調査で対象とした全国7大学関連12施設の入所要介護高齢者のうち、平成24年度に調査可能であった要介護高齢者を対象に、本研究班で独自に作成した質問票を使用して調査を行った。
結果と考察
(1)高齢者のドライマウスのリスクファクターに関する研究-歯科外来受診高齢者における検討-では、調査票有効回収数は111名で、そのうち平成24年度調査時に死亡していた者は9人であった。生存者の平均年齢は76.0±6.5歳で、性別は男性33.3%(37人)、女性66.7%(74人)であった。口腔粘膜の保湿状態について、唾液湿潤度検査10秒法の舌背粘膜部で平均2.8±2.2mmおよび舌下小丘部の平均5.9±5.1mmで、舌背粘膜部計測値が3mm未満のドライマウス群が測定可能者の53.6% (53人)であった。ドライマウスに対し回帰係数の有意確率がp<0.05で有意であった変数は、口腔ケアの必要性あり、口腔清掃に用いる道具が歯間ブラシ、歯磨剤などの項目であった。
(2)要介護高齢者のドライマウスリスク因子に関する追跡調査-質問票作成および調査の問題点では、平成22年と大きな変化を認めず本調査票は有用であった。特に舌背部と舌下部の唾液湿潤度検査結果を組み合わせることで口腔機能を推測できる可能性を見出すことができた。
(3)要介護高齢者に対する機能的口腔ケアの中期的な継続と血漿中活性型グレリン値の関連は、機能的口腔ケア実施3カ月後におけるグレリン濃度は、朝食後、昼食直前、昼食後の順に12.7±8.9 fmol/ml、26.6±21.1 fmol/ml、12.2±5.9 fmol/mlで、有意な食前の上昇(p<0.05)、食後の下降(p<0.05)が認められ、グレリン分泌リズムが維持されていた。
(4)要介護高齢者におけるドライマウスのリスク因子の解明に関する横断的およびコホート調査的研究では、平成22年度に調査を実施した対象者に対し、リスク因子の検討および死因リスクについての解析をおこなったところ、生命予後に関するリスク因子として、血清アルブミン値が低いこと、脳梗塞後遺症あり、食事の全介助、現存する歯が少ない、服薬数が多いことが統計学的に有意であることがわかった。
結論
高齢者では、社会的な対応も、ドライマウスの予防的観点として重要であることが判明し、要介護高齢者では、ドライマウスが有意に生命予後に影響を与えることも判明した。
本年度も様々な分野からの検討を行ったが、本研究結果をふまえて、客観的評価指標の確立と効果的なケア指針の策定を行うことが急務であると考える。客観的評価指標と標準的ケア指針により、ドライマウスの早期発見に加え、効果的なケアや生活習慣指導が提供できるようになれば、ドライマウスの重症化を予防でき、さらに摂食嚥下機能障害の予防にもつながるなど、今後増加すると考えられる高齢者のQOLの向上に大いに貢献すると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201217005B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者のドライマウスの実態調査及び標準的ケア指針の策定に関する研究
課題番号
H22-長寿-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 保明(公立大学法人九州歯科大学 歯学部・摂食嚥下支援学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 西原 達次(公立大学法人九州歯科大学・健康増進学講座・感染分子生物学分野)
  • 角舘 直樹(Stanford University School of Medicine Stanford Prevention Research Center)
  • 柏崎 晴彦(北海道大学大学院歯学研究科・口腔健康科学講座・高齢者歯科学講座)
  • 小関 健由(東北大学大学院歯学研究科・口腔保健発育学予防歯科学分野)
  • 佐藤 裕二(昭和大学歯学部・高齢者歯科学講座)
  • 里村 一人(鶴見大学歯学部口腔外科学第二(口腔内科学)講座)
  • 伊藤 加代子(新潟大学医歯学総合病院・加齢歯科学診療室)
  • 小笠原 正(松本歯科大学・障害者歯科学講座)
  • 岸本 悦央(岡山大学大学院・長寿社会医学講座・予防歯科学講座)
  • 中村 誠司(九州大学大学院歯学研究院・口腔外科学講座)
  • 内山 公男(国立病院機構栃木病院・歯科口腔外科)
  • 山下 喜久(九州大学大学院歯学研究院・予防歯科学分野)
  • 清原 裕(九州大学大学院医学研究院・環境医学分野)
  • 村松 宰(松本大学大学院・健康科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者におけるドライマウスは、社会問題となっている誤嚥性肺炎、低栄養などと関連していることもあり、認知度が高まってきている。しかし、高齢者におけるドライマウスは多要因が複雑に絡まり合って成立していることもあり、その実態については把握されておらず、効果的なケア方法が確立されていない。そこで本研究では、ドライマウスのリスク因子について、横断的ならびに縦断的に調査することで実態を明らかにし、客観的評価指標案と標準的ケア指針案を策定し、さらに介入研究による検証を通じて、ドライマウスの客観的評価指標と標準的ケア指針を作成することを目的として研究を進めた。
研究方法
研究代表者1名と分担研究者14名の体制で、1)ドライマウスの診断基準の明確化、2)ドライマウスのリスク因子候補項目および標準的ケア指針案の検討、3)明確化した診断基準とリスク因子の妥当性の検証およびドライマウスとの因果関係を明らかにする、4)上記1)-3)の結果を踏まえ、患者ごとに適切な治療(ケア)を提供するためのドライマウスに対する標準的ケア指針の決定、5)ドライマウス患者に対する標準的ケア指針の効果の検証の順とした。
対象者は、要介護高齢者460人と歯科外来高齢者163人とし、ドライマウス評価のアウトカムとして、唾液湿潤度舌上値、唾液湿潤度舌下値、口腔水分計舌上値、口腔水分計頬粘膜値、臨床診断基準値の各項目とし、それぞれの項目間の関連性について統計学的解析を行なった。
介入研究としては、音波ブラシによる口腔ケアの有効性について要介護高齢者235人を対象に行った。ドライマウスのリスクファクターの解析として平成22年度調査で対象とした入所要介護高齢者のうち、本年度に調査可能であった501人を対象に新たな質問票による再調査を実施し、ドライマウスと死亡との関連についても解析した。
結果と考察
高齢者のドライマウスのリスク因子では、自立高齢者に比べて要介護および認知症高齢者では口腔機能及び口腔乾燥に問題を有する者が有意に多く、臨床診断基準、唾液湿潤度検査、自覚症状等の各項目間で高い関連性があることが示された。多重ロジスティック回帰分析では、①BMIが低い、②移乗動作が全介助、③口呼吸している、④睡眠時間が長い、⑤服薬数が多い、⑥パーキンソン病が挙げられた。また要介護高齢者では、85歳未満で①移乗動作が全介助、②口呼吸、③水分量が多いこと、④口腔清掃回数が少ないこと、⑤服薬数が多いこと、85歳以上で①移乗動作が全介助、②睡眠時間が長い、③パーキンソン病であること、がリスクファクターであることが考えられた。一方、薬剤に関しては、利尿剤と抗うつ剤が関連していた。認知症高齢者では、症状があっても口腔乾燥感を自覚しにくいことが認められた。
ドライマウスのリスク要因については、各分担研究者の研究結果から、唾液の曳糸性が口臭と関連していること、胃瘻造設の要介護高齢者の口腔細菌叢が専門的口腔ケアにより改善すること等が認められ、今後、ドライマウスと口腔内細菌との関連性についても検討すべきと思われた。また、舌乳頭萎縮がドライマウスと関連することから、舌粘膜スクリーニングも重要な判断材料になると思われた。
胃瘻の要介護高齢者に対する機能的口腔ケアは、血漿中活性型グレリン値の分泌リズムを正常にすることが明らかになり、機能的口腔ケア実施3カ月後においても効果が継続していることが明らかになった。 
 音波ブラシによる1ヶ月の口腔ケア介入研究では、介入終了直後の唾液湿潤度検査値が対照群よりも、また介入群内では介入前と比べて有意に高く(p<0.05)、介入効果が示唆された。
 ドライマウスと死亡リスクに関する研究では、歯科外来受診高齢者111名のうち2年後に死亡していた者は9人で、ドライマウスに対し回帰係数の有意確率がp<0.05で有意であった変数は、口腔ケアの必要性あり、口腔清掃に用いる道具が歯間ブラシ、歯磨剤などの項目であった。要介護高齢者におけるドライマウスの死亡リスク因子については、血清アルブミン値が低いこと、脳梗塞後遺症あり、食事の全介助、現存する歯が少ない、服薬数が多いことが統計学的に有意であることがわかった。
結論
高齢者のドライマウスのリスク要因および効果的なケア方法が明らかになった。また、音波歯ブラシによる口腔ケアの介入でドライマウスの改善が認められた。要介護高齢者におけるドライマウスは死亡リスクにも関連していることが認められたことで、今後、高齢者のドライマウスの早期発見及び早期ケア提供が重要であり、標準的な口腔ケア指針を策定してドライマウス症状の軽減を図ることがドライマウス関連症状の重度化予防、低栄養化、咀嚼嚥下障害、誤嚥性肺炎の予防につながり、高齢者のQOL向上への貢献が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201217005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
高齢者のドライマウスは、85歳以上高齢者と85再未満高齢者と区分して評価することが重要であり、唾液にかかる全身状態の特性が異なると思われた。そのため、年齢区分を考慮して、85歳以上と未満の高齢者という2区分に分類した臨床疫学的な統計学的解析が有用であることが認められ、ドライマウスに関しては、85歳未満の高齢者で有意に口呼吸や口腔リハビリの状態がリスク因子となっていることが示された。
臨床的観点からの成果
高齢者におけるドライマウスは、口呼吸との関連および服用薬剤数との関連性が有意に強いことが明らかになり、とくに要介護高齢者では、唾液腺マッサージや健口体操などのリハビリテーションが予防につながっていることが明らかになった。また、口腔への適度な刺激がドライマウスを改善することも明らかになったことから、服用薬剤に関する管理方法や口腔ケアおよびリハビリテーション計画が重要であると思われた。
ガイドライン等の開発
これまで、日本障害者歯科学会において、高齢者の口腔乾燥症のガイドラインに関する検討がなされており、その検討結果が日本歯科医学会雑誌に掲載された。
その他行政的観点からの成果
高齢者のドライマウスは死亡リスクにも間接的に関連していることが明らかになり、施設入所の要介護高齢者では、舌上の湿潤度が1mm未満では約半数が2年後に死亡し、正常範囲の3-5mmの27%に比較して、高いことが示されたことから、QOL向上と死亡リスク改善の目的からも、今後の施策において、検討すべき課題の一つと考えられた。
その他のインパクト
北九州市を中心とした市民向けの広報誌においてもドライマウスが取り上げられ、日本老年歯科医学会の口腔湿潤剤フォーラムにおいても、ドライマウスが話題となった。公開シンポジウムを北九州市内で開催し、多くの一般市民の参加があり、知識の普及に努めた。そのほか、ホンマでっか!?TV(フジテレビ、平成26年6月)、たけしの家庭の医学(テレビ朝日系列、平成26年11月)、駆け込み!ドクター(TBS系列、平成26年11月9でも取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
公開シンポジウム実施

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Naoki Kakudate, Tsukasa Muramatsu, Mami Endoh, et al.
Factors associated with dry mouth in dependent Japanese elderly
Gerodontology  (2012)
10.1111/j.1741-2358.2012.00685.x
原著論文2
Kayoko Ito, Saori Funayama, Kouji Katsura, et al.
Moistened Techniques Considered for Patients' Comfort and Operators' Ease in Dental Treatment
International Journal of Oral-Medical Sciences , 11 (2) , 85-89  (2012)
原著論文3
木村貴之、遠藤眞美、永富絵美、他
要介護高齢者に対する機能的口腔ケアと血漿中活性型グレリン値の関連性
九州歯科学会雑誌 , 66 (2) , 29-38  (2012)

公開日・更新日

公開日
2017-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201217005Z