漢方薬によるワクチンアジュバント効果の検討と臨床応用

文献情報

文献番号
201215010A
報告書区分
総括
研究課題名
漢方薬によるワクチンアジュバント効果の検討と臨床応用
課題番号
H22-臨研推-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
済木 育夫(富山大学 和漢医薬学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 清野 宏(東京大学 医科学研究所)
  • 後藤 博三(北聖病院)
  • 小暮 敏明(社会保険群馬中央総合病院)
  • 並木 隆雄(千葉大学大学院 医学研究院)
  • 齋藤 滋(富山大学大学院 医薬学研究部)
  • 川名 敬(東京大学附属病院 産婦人科学)
  • 小泉 桂一(富山大学 和漢医薬学総合研究所)
  • 折笠 秀樹(富山大学大学院 医学薬学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年度までに、基礎研究より探索されたアジュバント効果を有する漢方薬に関して、高齢者およびリウマチ患者のインフルエンザワクチンに対する漢方薬のアジュバント応用に向けた予備的検討を行った。その結果、十全大補湯は、統計的な有意差は得られなかったが、抗体価の低い高齢者のインフルエンザワクチン接種後の抗体価上昇に好影響を及ぼしている可能性が示唆された。さらに、リウマチ患者関しても、インフルエンザワクチン接種後の免疫応答の経過観察を行った結果、臨床的に有意なSeroconversionを認め、インフルエンザワクチン免疫応答にPositiveに作用する可能性明となった。本年度は、多数の高齢者に対して、十全大補湯のインフルエンザワクチンに対するアジュバントとしての有用性の評価を行った。また、基礎研究において、これら漢方薬の種々ワクチンに対するアジュバント効果の機序解明、および、漢方薬成分よりワクチンに対する新規アジュバントを開発するための探索研究を行った。
研究方法
1. 臨床研究①(高齢者およびリウマチ患者のインフルエンザワクチンに対する漢方薬のアジュバント応用に向けた予備的検討)の項を参照のこと。
2. 臨床研究②(子宮頸がんワクチン対する漢方薬のアジュバント応用に向けた予備的検討)の項を参照のこと。
3. 基礎研究(ワクチンアジュバント効果を有する漢方薬のその機序解析)の研究方法の項を参照のこと。 
結果と考察
1. 臨床研究①(高齢者およびリウマチ患者のインフルエンザワクチンに対する漢方薬のアジュバント応用に向けた検討)
本事業において、我々は高齢者などのインフルエンザのハイリスクグループに対する漢方薬のインフルエンザワクチンアジュバントとしての可能性を多面的に解析し、多施設において漢方薬非投与症例と比較検討してきた。今年度は、昨年度の短期効果の結果をもとに被検薬として十全大補湯を用い、6ヶ月の長期間にわたりインフルエンザワクチンの抗体産生に及ぼす影響を検討した。対象は長期療養型病床4施設に入院中の患者でインフルエンザワクチン接種予定者91名。参加者を無作為に十全大補湯投与群と漢方薬非投与群の2群に分け、28週間経過観察した。インフルエンザワクチン接種4週前、接種時、接種後4週、8週、12週、24週にHI価を測定した。その結果、HI価の推移は、4週から24週において十全大補湯投与群が漢方薬非投与群に比べて有意に上昇した(p <0.05)。このことから、十全大補湯はインフルエンザワクチン接種による高齢者のH3N2 に対する抗体産生を増強し、維持することが明らかとなった。

2. 臨床研究②(子宮頸がんワクチン対する漢方薬のアジュバント応用に向けた予備的検討)HPVワクチン接種時における十全大補湯の効果
HPVワクチン接種を行う女性を対象に、漢方薬が副作用軽減作用および抗体産生のアジュバント効果を持つかを検討中である。これまで38名を2群に分かれ投与を開始し、副作用の差につき解析を行った。両群ともに副作用発現に有意な差を認めなかった。また、重篤な副作用も一例も認めなかった。今後は、漢方薬による抗体産生へのアジュバンド効果の評価を行う予定である。

3. 基礎研究(ワクチンアジュバント効果を有する漢方薬のその機序解析)
樹状細胞の抗原特異的な提示能を亢進させる生薬27種類の中に、十全大補湯構成10生薬の5種類も含まれていた。また、経口ワクチン投与時における漢方薬の全身免疫系への作用を検討したところ、腸管IgA産生を増強する補中益気湯は血清中IgG産生も増強することが判明した。さらに、補中益気湯とalpha-GalCerを粘膜アジュバントとして用い、同様の検討を行った結果、粘膜リンパ球におけるGLBL101c+補中益気湯+ alpha-GalCer によるE7-CMI誘導能は、GLBL101c+補中益気湯+LTBによる誘導能よりも高いことがわかった。
結論
平成24年度の本事業において、当初計画通り、高齢者に対するインフルエンザワクチンに対する漢方薬のアジュバント効果に関する無作為化比較臨床研究も終了した。その結果、長期療養型病床群に入院中の高齢者に対して、インフルエンザワクチンに対する十全大補湯のアジュバント効果を検討した。その結果、十全大補湯はインフルエンザワクチン接種による高齢者のH3N2 に対する抗体産生を増強し、維持することが明らかとなった。さらに、基礎研究結果から、十全大補湯および補中益気湯のワクチンアジュバント効果の免疫学的機序も明らかにすることができた。将来的に種々ワクチンと漢方薬の併用療法構築の際における有用な情報を提供できると思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201215010B
報告書区分
総合
研究課題名
漢方薬によるワクチンアジュバント効果の検討と臨床応用
課題番号
H22-臨研推-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
済木 育夫(富山大学 和漢医薬学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 清野 宏(東京大学 医科学研究所)
  • 後藤 博三(北聖病院)
  • 小暮 敏明(社会保険群馬中央総合病院)
  • 並木 隆雄(千葉大学大学院 医学研究院)
  • 齋藤 滋(富山大学大学院 医薬学研究部)
  • 川名 敬(東京大学附属病院 産婦人科学)
  • 小泉 桂一(富山大学 和漢医薬学総合研究所)
  • 折笠 秀樹(富山大学大学院 医学薬学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化が進む中、高騰する医療費の削減や、感染症の罹患率低減、さらには近年のがん研究の進展を背景としてがんの発症抑制を目的とした、種々のワクチンが医療現場で利用されている。海外では、効率的にワクチンの効果を得るために、アジュバントを用いた製剤が広く用いられているが、安全性を懸念する声もあり、国内では、アジュバントの使用はごく一部の製剤に限られている。このような中、新型インフルエンザ等の新興感染症に対するワクチンや、がん治療ワクチンの効果増強等のため、安全かつ効果的なワクチンアジュバントが強く求められている。一方、漢方薬の免疫に対する影響について、これまで我々は、免疫の活性化を介して薬効が発揮されることを数多く報告してきた。そこで本研究では、現在医療現場で接種可能なワクチンを用いて、併用した際にそのワクチンの効果を増強する漢方薬を網羅的に探索する基礎研究を行うと共に、その有用性を臨床研究により評価する。これにより、既存のワクチンによる予防医療をより効果的・効率的に行うための漢方薬併用療法を、薬都・富山より提言するとともに、新規ワクチン開発時の未承認アジュバントの安全性リスクの回避による開発促進、抗原使用量減少による製造量の増加に資することを目的とする。
研究方法
1. 臨床研究①(高齢者およびリウマチ患者のインフルエンザワクチンに対する漢方薬のアジュバント応用に向けた予備的検討)
済木、後藤、小暮、並木、小泉、折笠の分担報告の研究方法の項を参照のこと。
2. 臨床研究②(子宮頸がんワクチン対する漢方薬のアジュバント応用に向けた予備的検討)
川名、齋藤、折笠の分担報告の研究方法の項を参照のこと。
3. 基礎研究(ワクチンアジュバント効果を有する漢方薬のその機序解析)
済木、清野、川名、小泉の分担報告の研究方法の項を参照のこと。 
結果と考察
本事業において、長期療養型病床群に入院中の高齢者に対して、インフルエンザワクチンに対する十全大補湯のアジュバント効果を検討した。その結果、十全大補湯はインフルエンザワクチン接種による高齢者のH3N2 に対する抗体産生を増強し、維持することが明らかとなった。今後、インフルエンザワクチンの抗体産生に関して、基礎研究では十全大補湯の有効成分と作用機序の解明や、臨床研究では適切な投与期間や適応病態の検討を実施していく必要があると考えられる。さらに、Bio治療下で漢方薬を投与されたRA患者におけるインフルエンザワクチン接種後の免疫応答の経過観察を本院和漢診療科で加療中のRA患者を対象に実施した。その結果、A strainにおいては臨床的に有意なSeroconversionを認め、インフルエンザワクチン免疫応答にPositiveに作用する可能性が示唆された。しかしながらB strainでは有意義な免疫応答が観察されず、この臨床的な問題に関してはさらに多数例での臨床研究を継続する必要があると考えられる。子宮頸がんワクチンに関しては、HPVワクチン接種を行う健常人女性への漢方内服は、ワクチン接種による副作用悪化効果はなく、今後はワクチン効果の増強・効果の持続を検討していく予定である。また、HPVE7発現型乳酸菌GLBL101cの経口投与は、粘膜免疫を介した世界初の癌ワクチンである。ヒトの子宮頸部におけるE7特異的細胞性免疫誘導を伴い、病理学的有効性が得られていることから、薬理効果に伴った臨床効果と考えられた。GLBL101cの4 cap/日投与における奏効率80%は、明らかな臨床効果を考えられた。漢方や粘膜アジュバントの併用によってGLBL101cの投与量を減らすことができる可能性があり低コスト化や臨床的効果の増強が期待される。さらに、基礎研究結果から、十全大補湯および補中益気湯のワクチンアジュバント効果の免疫学的機序も明らかにすることができた。将来的に種々ワクチンと漢方薬の併用療法構築の際における有用な情報を提供できると思われる。
結論
基礎研究結果から、補剤に分類される漢方薬、特に、十全大補湯および補中益気湯にワクチンアジュバントの効果があることが明らかとなった。さらに、長期療養型病床群に入院中の高齢者に対して、基礎研究より選択された漢方薬のインフルエンザワクチンに対するアジュバント効果を検討した。その結果、十全大補湯はインフルエンザワクチン接種による高齢者のH3N2 に対する抗体産生を増強し、維持することが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-12-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201215010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
各種ワクチンに対するアジュバント効果を有する漢方薬を探索し、その機序を解明した。その結果、漢方薬の漢方薬Aはワクチン抗原特異的な樹状細胞の抗原提示能力を亢進することにより、ワクチンに対するアジュバント効果を有するが明らかとなった。また、漢方薬Bは粘膜ワクチンに対するアジュバント活性を有していることも確認できた。
臨床的観点からの成果
平成24年度の本事業において、当初計画通り、高齢者に対するインフルエンザワクチンに対する漢方薬のアジュバント効果に関する無作為化比較臨床研究も終了した。その結果、補剤に分類される漢方薬の一種はインフルエンザワクチン接種による高齢者のH3N2 に対する抗体産生を増強し、維持することが明らかとなった。従って、現在医療現場で用いられている漢方薬を、種々ワクチンに対する安全性の高い経口可能なワクチンアジュバントとして速やかに応用することで、福祉に貢献できると考えられる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
本年度(平成25年)に成果報告会を開催予定

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
粘膜免疫賦活化剤及びHPV 感染症治 療用経口医薬組成物
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-138943
発明者名: 川名敬ら
権利者名: 国立大学法人東京大学
出願年月日: 20120620

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Toshiaki Kogure, Naoyuki Harada, Yuko Oku et al.
The Observation of Humoral Responses after Influenza Vaccination in Patients with Rheumatoid Arthritits Treated with Japanese Oriental(Kampo)Medicine:An Observational Study
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine ,  (2012) , 320542-320547  (2012)
10.1155/2012/320542
原著論文2
Ayumi Taguchi, Kei Kawana, Terufumi Yokoyama et al.
Adjuvant effect of Japanese herbal medicines on the mucosal type 1 immuneresponses to human papillomavirus(HPV)E7 inmice immunized orally with Lactobacillus-based therapeutic HPV vaccine in a synergistic manner
Vaccine , 30 , 5368-5372  (2012)
原著論文3
Kazuhiro Yamamoto,Hideki Origasa,Masatsugu Hori et al.
Effects of carvedilol on heart failure with preserved ejection fraction:the Japanese Diastolic Heart Failure Study (J-DHF)
European Jounal of Heart Failure , 15 , 110-118  (2013)
10.1093/eurjhf/hfs141
原著論文4
II Gyu Kong,Ayuko Sato,Yoshikazu Yuki et al.
Nanogel-Based PapA Intranasal Vaccine Prevents Invasive Disease and Nasal Colonization by Streptococcus pneumoniae
Inrection and Immunity , 81 (5) , 1625-  (2013)
10.1128/IAI.00240-13
原著論文5
I. Saiki and K. Koizumi et al.
The long-term effects of a Kampo medicine, Juze ntaihoto, on maintenanc e of antibody titer in eld erly people after influen za vaccination
Evid Based Complement Alternat Med  (2013)
原著論文6
JY. Kee et al.
Inhibitory effect of Moutan Cortex aqueous fract ion on mast cell-mediat ed allergic inflammation
J Nat Med.  (2015)
原著論文7
A. Inujima et al.
A herbal plant derived compound, 1,2,3,4,6-pent a-O-galloyl-β-D-glucos e (PGG), increases cross -presentation of antigen s to MHC class I molec ules in dendritic cells
Traditional & Kampo Medicine  (2015)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
2017-06-26

収支報告書

文献番号
201215010Z