文献情報
文献番号
201212008A
報告書区分
総括
研究課題名
循環腫瘍細胞観察可能なナノ粒子質量顕微鏡開発に関する研究
課題番号
H23-医療機器-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
瀬藤 光利(浜松医科大学 医学部解剖学講座細胞生物学分野)
研究分担者(所属機関)
- 池上 浩司(浜松医科大学 医学部解剖学講座細胞生物学分野 )
- 早坂 孝宏(浜松医科大学 医学部解剖学講座細胞生物学分野 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生労働行政において癌対策及び癌研究の推進は重要な位置を占める。癌の早期診断、予後判定、治療効果判定はいずれも重要な課題であり、その方法が種々議論され開発されてきた。転移に関する分子メカニズムの解明は、これらいずれの課題にも極めて重要な解決の糸口となりうるテーマである。転移に関して提唱され注目を集めている新規モデルは、従来考えられてきたよりもごく早い病期のうちから、癌細胞が血液中に流れ出し、やがて多臓器に生着し転移巣を形成するというものである。この血液中に存在する腫瘍細胞は循環腫瘍細胞と呼ばれ、検出個数と予後の悪さには正の相関関係があることが知られている。一方で循環腫瘍細胞の質的な評価に関しては細胞表面マーカーや遺伝子発現に着目した報告が行われているのみであり、評価方法は未だ十分に確立されていない。本研究はこの評価方法を提唱するために循環腫瘍細胞の収集と解析を行うことを目的とする。
本研究では、質量顕微鏡法による腫瘍組織および循環腫瘍細胞の解析を行い、その生物学的特性を明らかにして腫瘍細胞機能イメージング新評価システムを確立し、病理検査に応用する。本研究では、新たな循環腫瘍細胞の質的評価方法の確立を目指すために、担癌患者検体から循環腫瘍細胞を回収しナノ粒子質量顕微鏡法による統合的解析を行うことを目的とする。
本研究では、質量顕微鏡法による腫瘍組織および循環腫瘍細胞の解析を行い、その生物学的特性を明らかにして腫瘍細胞機能イメージング新評価システムを確立し、病理検査に応用する。本研究では、新たな循環腫瘍細胞の質的評価方法の確立を目指すために、担癌患者検体から循環腫瘍細胞を回収しナノ粒子質量顕微鏡法による統合的解析を行うことを目的とする。
研究方法
臨床検体の取得にあたっては、浜松医科大学乳腺外科で診断もしくは治療を目的として組織採取を行う乳癌患者を対象とした。十分なインフォームドコンセントの後、同意の得られた患者から、生検組織採取とともに循環腫瘍細胞採取のため末梢血の採血を行った。収集検体の背景情報は、研究協力者の所属施設において連結可能匿名化の上管理した。循環腫瘍細胞の選択の基本手法としては、全体計画の通り磁気細胞分離法とフローサイトメトリー法を利用した。遠沈管による処理、及び細胞選別のための抗体クローンにつき最適化を行った。細胞及び組織の回収・質量顕微鏡解析条件を、接着状態と質量顕微鏡解析におけるシグナル強度に基づき比較検討した。銀、金、インジウム酸化スズ粒子を付与したスライドグラスを用いた。質量顕微鏡解析の条件としてレーザーエネルギー、空間解像度、測定領域範囲、測定質量範囲等を最適化した。原発巣の単一細胞化には、研究全体計画時に考案した通り、検体組織をメスで小断片化した後に酵素処理する方法を用いた。フローサイトメトリー法により細胞を回収し、一細胞質量顕微鏡解析した。
結果と考察
初年度に引き続き平成24年度も継続して検体の収集を行うとした全体研究計画の通り、乳癌臨床検体につき末梢血・原発巣組織の収集と循環腫瘍細胞・原発巣腫瘍細胞の精製・解析を行った。症例の収集に際し臨床医と連携することで、予定を上回るペースで検体の収集を行うことができた。検体番号20から50までの31回の測定において、患者末梢血12.5 ml中に循環腫瘍細胞が1個検出される事例を5例得た。
銀、金、インジウム酸化スズ粒子の付与によりシグナル強度上昇が見られるかどうかを、一細胞質量顕微鏡解析により調べた。金薄膜付与基盤あるいはインジウム酸化スズ付与スライドグラスを比較対照とした実験において、有意差を持ってシグナル強度の向上を示す分子は見いだされなかった。一方、インジウム酸化スズ付与スライドグラスに特殊コーティングを施すことにより、シグナル強度は保持したまま試料接着性を向上できることが判明した。
一部の検体を用いCD326陽性、CD45陰性細胞(循環腫瘍細胞に相当)の質量顕微鏡解析を行った。新規解析ソフトウェアを導入し、原発巣検体試料に由来する細胞の質量顕微鏡法解析結果との比較を行ったところ、循環腫瘍細胞相当の細胞集団が原発巣由来の細胞集団に比べ低いシグナル強度を示す分子を複数見出すことができた。また、測定領域内でのシグナル強度のばらつきを標準偏差で評価することにも成功した。本測定実施後に循環腫瘍細胞の定義領域を、バックグラウンドノイズのより少ないものへと変更したため、本結果の妥当性につき検体数を増やし確認中である。
循環腫瘍細胞の性状解析に関する研究として本年度は他研究機関より膵癌の循環腫瘍細胞のマイクロアレイ解析の研究結果が報告されたが、脂質解析については未だ報告は寄せられていない。我々は独自の基軸による循環腫瘍細胞の性状評価を実現しつつある。
銀、金、インジウム酸化スズ粒子の付与によりシグナル強度上昇が見られるかどうかを、一細胞質量顕微鏡解析により調べた。金薄膜付与基盤あるいはインジウム酸化スズ付与スライドグラスを比較対照とした実験において、有意差を持ってシグナル強度の向上を示す分子は見いだされなかった。一方、インジウム酸化スズ付与スライドグラスに特殊コーティングを施すことにより、シグナル強度は保持したまま試料接着性を向上できることが判明した。
一部の検体を用いCD326陽性、CD45陰性細胞(循環腫瘍細胞に相当)の質量顕微鏡解析を行った。新規解析ソフトウェアを導入し、原発巣検体試料に由来する細胞の質量顕微鏡法解析結果との比較を行ったところ、循環腫瘍細胞相当の細胞集団が原発巣由来の細胞集団に比べ低いシグナル強度を示す分子を複数見出すことができた。また、測定領域内でのシグナル強度のばらつきを標準偏差で評価することにも成功した。本測定実施後に循環腫瘍細胞の定義領域を、バックグラウンドノイズのより少ないものへと変更したため、本結果の妥当性につき検体数を増やし確認中である。
循環腫瘍細胞の性状解析に関する研究として本年度は他研究機関より膵癌の循環腫瘍細胞のマイクロアレイ解析の研究結果が報告されたが、脂質解析については未だ報告は寄せられていない。我々は独自の基軸による循環腫瘍細胞の性状評価を実現しつつある。
結論
乳癌患者臨床検体を用いた循環腫瘍細胞の精製・回収を施行し、質量顕微鏡法解析を行った。ソフトウェア解析により低分子代謝物を網羅解析することを可能とし、本手法を一部の臨床検体試料に適用することで、原発巣由来細胞と循環腫瘍細胞の間で異なる検出傾向を示す分子群を見出した。ナノ粒子を利用した一細胞質量顕微鏡法解析の手法確立の過程から新規素材を創出することができた。
公開日・更新日
公開日
2013-09-03
更新日
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