腹膜播種巣を標的とする抗がん剤担持ヒアルロン酸ナノゲルとその徐放システムの開発

文献情報

文献番号
201212005A
報告書区分
総括
研究課題名
腹膜播種巣を標的とする抗がん剤担持ヒアルロン酸ナノゲルとその徐放システムの開発
課題番号
H22-低侵襲-若手-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 大知(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北山 丈二(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 石神 浩徳(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 山口 博紀(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我国の死亡原因の上位を占める胃がんの死亡原因で最も多いのが腹膜播種である。腹腔中で播種巣が広範に分布することから、化学療法が期待されるが、抗がん剤の静脈・経口投与は薬剤の腹膜・腹腔移行性が低い。これに対して直接的に腹腔に抗がん剤を注入する腹腔投与ルートの有効性が研究分担者・北山らにより PhaseⅡ臨床試験で示された。しかし疎水性タキソールは有効であるのに対して、シスプラチン(CDDP)などの親水性抗がん剤は腹腔からのクリアランスが速く、動物実験レベルでも効果が十分でない。一方で研究代表者・伊藤らは、腹膜癒着防止材料として、腹腔鏡下投与可能なin situ架橋ハイドロゲルの開発を行ってきた。in situ架橋ハイドロゲルは腹膜癒着防止を行いながら、CDDPの腹腔停留性を改善できる可能性がある。
研究方法
 本研究ではヒアルロン酸に二座配位子を新たに修飾して、高濃度で長時間CDDPを担持しつつ、CDDP架橋により自己組織化的に組みあがるヒアルロン酸 (HA)ナノゲルを新たに開発する。さらにクリックケミストリーを架橋反応に利用した担体in situ架橋ゲルを新たに開発し、HAナノゲルの封入・徐放担体を新たに開発する。HAナノゲルを担体ゲルに封入したハイブリッドゲルのナノ構造と徐放挙 動、制がん効果の関係を明らかにして材料システム設計を行い、CDDP腹腔内1週間徐放を可能にする、最適な剤形を確立する。
結果と考察
本年度は、ナノゲル担体ポリマーとして、イミノ二酢酸を修飾したHA-IDAに加えて、マロン酸をリガンドにしたHA-MAを新たに開発した。さらに作製したナノゲルを腹膜播種細胞株と中皮細胞株に添加し、容量作用曲線を検討した。ナノゲルは腹膜播種細胞株に対してはフリーのCDDPと同様の効果を示す一方、中皮細胞株への殺細胞効果はフリーのCDDPと比較して劇的に減少した。さらにナノゲルをシッフ塩基架橋のin situ架橋ゲルHAXに封入してハイブリッドゲルとして、CDDP及びHA-IDAとHA-MAの徐放曲線を検討し、HAXにフリーのCDDPを封入した場合に比べて、徐放速度が顕著に遅延された。以上からin vitroで本研究の所定目標は完全に達成された。
 さらに担体ゲルとしてヒアルロン酸にアクリル酸をグラフトしたHA-g-PAAの開発にも成功した。このHA-g-PAAはカルシウムイオンで迅速架橋し、新たなin situ架橋ハイドロゲルとして期待される。
結論
本研究はナノゲル・in situ架橋ゲルのナノ構造制御によって目的を達成し、腹腔内で高い生体適合性を有するHAを利用することにより早い時期の臨床応用を可能にしながら、十分な新規性を有するシステムである。現在、ハイブリッドゲルの完成系を持って、動物実験でその有効性を実証しつつある。

公開日・更新日

公開日
2013-12-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201212005B
報告書区分
総合
研究課題名
腹膜播種巣を標的とする抗がん剤担持ヒアルロン酸ナノゲルとその徐放システムの開発
課題番号
H22-低侵襲-若手-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 大知(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 北山 丈二(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 石神 浩徳(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 山口 博紀(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我国の死亡原因の上位を占める胃がんの死亡原因で最も多いのが腹膜播種である。腹腔中で播種巣が広範に分布することから、化学療法が期待されるが、抗がん剤の静脈・経口投与は薬剤の腹膜・腹腔移行性が低い。これに対して直接的に腹腔に抗がん剤を注入する腹腔投与ルートの有効性が研究分担者・北山らにより PhaseⅡ臨床試験で示された。しかし疎水性タキソールは有効であるのに対して、シスプラチン(CDDP)などの親水性抗がん剤は腹腔からのクリアランスが速く、動物実験レベルでも効果が十分でない。一方で研究代表者・伊藤らは、腹膜癒着防止材料として、腹腔鏡下投与可能なin situ架橋ハイドロゲル(HAX)の開発を行ってきた。in situ架橋ハイドロゲルは腹膜癒着防止を行いながら、CDDPの腹腔停留性を改善できる可能性がある。
研究方法
本研究ではヒアルロン酸に二座配位子を新たに修飾して、高濃度で長時間CDDPを担持しつつ、CDDP架橋により自己組織化的に組みあがるヒアルロン酸 (HA)ナノゲルを新たに開発する。さらにクリックケミストリーを架橋反応に利用した担体in situ架橋ゲルを新たに開発し、HAナノゲルの封入・徐放担体を新たに開発する。HAナノゲルを担体ゲルに封入したハイブリッドゲルのナノ構造と徐放挙動、制がん効果の関係を明らかにして材料システム設計を行い、CDDP腹腔内1週間徐放を可能にする、最適な剤形を確立する。
結果と考察
3年間の検討によって、ナノゲル担体であるイミノ二酢酸修飾ヒアルロン酸(HA-IDA)、マロン酸修飾ヒアルロン酸(HA-MA)の開発と、CDDPを担持したPBS中でサイズ20nm程度のナノゲルHA-IDA-CDDP及びHA-MA-CDDPの開発に成功した。播種細胞株に対しては殺細胞効果を示す一方、中皮細胞株に対しては著しく毒性を低減した。さらにナノゲルをHAXに封入することで、CDDPの徐放速度はin vitroで著しく低下し、目標の1週間徐放を達成した。さらにナノゲル封入ゲルとしての、新たなin situ架橋ハイドロゲルとしてカッパーフリークリック反応で架橋するヒアルロン酸ゲルcHA、カルシウムイオンで架橋するゲルHA-g-PAA/Caゲルを開発し、動物実験により腹腔内生体適合性を実証した。
結論
本研究はナノゲル・in situ架橋ゲルのナノ構造制御によって目的を達成し、腹腔内で高い生体適合性を有するHAを利用することにより早い時期の臨床応用を可能にしながら、十分な新規性を有するシステムである。現在、ハイブリッドゲルの完成系を持って、動物実験でその有効性を実証しつつある。

公開日・更新日

公開日
2013-12-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201212005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒアルロン酸にシスプラチン担持部位であるイミノ二酢酸またはマロン酸を導入し、がん細胞標的性と徐放性を持つヒアルロン酸ナノゲルの開発に成功した。さらにナノゲルを封入可能で、腹腔内生体適合性に優れるインジェクタブルな、カッパーフリークリック反応を用いるゲル、カルシウムイオン架橋するアクリル酸グラフト多糖類ゲルを開発した。またシッフ塩基架橋ゲルにナノゲルを封入し、インジェクタブルなハイドロゲルからのシスプラチンの徐放に成功した。これらハイドロゲルは、その他医療用途への波及効果も見込まれる。
臨床的観点からの成果
我国の死亡原因の上位を占める胃がんの死亡原因で最も多いのが腹膜播種である。腹腔中で播種巣が広範に分布することから、化学療法が期待されるが、抗がん剤の静脈・経口投与は薬剤の腹膜・腹腔移行性が低い。これに対して近年、直接的に腹腔に抗がん剤を注入する腹腔投与ルートの有効性が国内外の臨床試験で示されている。シスプラチンの腹腔投与はクリアランスが速いことが課題であったが、本研究により前進した。さらにヒアルロン酸ベースの材料は腹腔内で多数用いられており、本研究の成果は将来臨床応用される可能性が極めて高い。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
公開シンポジウムである下記シンポジウムにて発表を行う予定

疾患生命工学センター 発足10周年記念シンポジウム
-東京大学が推進する医工連携研究-
日時 平成25年9月24日(火)~9月25日(水)
会場 伊藤国際学術研究センター
 講演会 伊藤謝恩ホール、9月24日(火) 9:00~18:00、9月25日(水) 9:00~12:00
 ポスター会場及び懇親会 多目的スペース 9月24日(火)


  

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
医薬組成物
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-107019
発明者名: 伊藤大知、太田誠一、鈴木幸光、平本翔大、江本成伸、山口博紀、石神浩徳、北山丈二
権利者名: 伊藤大知、北山丈二
出願年月日: 20140523
国内外の別: 国内
特許の名称
ハイドロゲル及びその製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: WO2012/165462
発明者名: 伊藤 大知、鈴木幸光、高橋彬、清水篤
権利者名: 伊藤 大知、鈴木幸光、高橋彬、清水篤
出願年月日: 20120530
国内外の別: PCT

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Seiichi Ohta, Joji Kitayama, Taichi Ito et al.
Cisplatin-Incorporated Hyaluronan Nanogels Produced via Chelating Ligand-Metal Coordination
Bioconjugate Chemistry  (2016)
DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.5b00674
原著論文2
Akira Takahash, Yukimitsu Suzuki, Taichi Ito et al.
An in situ cross-linkable hydrogel of hyaluronan produced via copper-free click chemistry
Biomacromolecules , 10 , 3581-3588  (2013)
DOI:10.1021/bm4009606
原著論文3
Shigenobu Emoto, Joji Kitayama, Taichi Ito et al.
Intraperitoneal administration of cisplatin via an in situ cross-linkable hyaluronic acid-based hydrogel for peritoneal dissemination of gastric cancer
Sugery Today , 44 , 919-926  (2014)
DOI:10.1007/s00595-013-0674-6

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
2017-06-26

収支報告書

文献番号
201212005Z