サル免疫不全ウイルス中和抗体の感染個体レベルにおける防御機序の解析

文献情報

文献番号
201210012A
報告書区分
総括
研究課題名
サル免疫不全ウイルス中和抗体の感染個体レベルにおける防御機序の解析
課題番号
H22-政策創薬-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山本 浩之(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、エイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス、HIV)の感染個体レベルにおける防御に極めて重要なウイルス中和抗体につき、その作用機序の全容をサルエイズモデルを用いて網羅的に明らかとし、それにより予防エイズワクチン開発への論理的基盤を見出すことを目的としている。
前年度までは中和抗体を介したSIV抗原提示亢進を司る樹状細胞受容体の検索および中和抗体-SIV複合体パルス樹状細胞により誘導される細胞性免疫の解析を行い、NAbによるSIV制御時の中和能の必要性評価を開始した。本年度はその詳細な解析を行った。
研究方法
SIV感染急性期の非・中和抗体(nNAb)受動免疫実験の病態解析:アカゲサル群にSIVを接種後7日目にnNAb 300mgを受動免疫し、以下について群間(受動免疫群5頭、対照群6頭)で比較しつつ経時的に解析を行った。これにより受動免疫抗体に中和能がなく、CD8陽性T細胞誘導に偏りうる抗原提示でSIV複製制御が得られるかを評価した。
1.受動免疫由来の抗SIV抗体価:ウェスタンブロッティング法を用いて解析した。
2.ADCVI(抗体依存性細胞性ウイルス複製抑制)能の評価:サル末梢血単核球(PBMC)をエフェクター細胞、サルCD4陽性T細胞株を標的細胞とする抗体依存性細胞性ウイルス複製抑制(ADCVI)アッセイを行った。
3.血中ウイルス量、血中CD4陽性T細胞数中のメモリー分画比率
4.CD8陽性T細胞応答
5.ウイルス塩基配列解析
結果と考察
受動免疫由来の抗SIV抗体価は接種0.5週後(感染後1.5週)では全頭で検出されたのに対し、対照群では検出を認めなかった。生理的範疇の濃度(0.1~1mg/ml)のnNAbによる高いADCVI能を確認し、受動免疫した抗体の体内濃度相当でADCVI活性が呈されうることが示唆された。受動免疫直後・セットポイント期・慢性期(とも、中和抗体受動免疫時とは異なり、当該群は対照群と比してウイルス量の差異を認めなかった。SIV抗原特異的IFN-γ産生はSIV蛋白の種類、および総レベルいずれとも群間での差異を認めなかった。感染後約1年時点のEnv領域塩基配列は、nNAb受動免疫群ではV1領域における非同義置換の数が僅かに多い傾向を示したものの、その差異は対照群と比べて有意ではなかった。
結論
SIVmac239結合性・非中和抗体(nNAb)の感染急性期の受動免疫実験を行った結果、nNAbによる持続感染の阻止能は認められず、背景研究と併せ、抗体によるnon-sterileなSIV制御における中和能の必要性が証明された。中和抗体受動免疫を行った先行研究においては1.抗原提示能と2.ウイルス中和能の制御への寄与が両方考えられたが、このうち2.に関する必要性が本段階で見出された。その理由としては、抗原取込みに続いて誘導される対象となりうる特異的CD4陽性T細胞の感染からの保護が不十分である可能性が考えられ、このことは感染急性期(data not shown)及びセットポイント期のセントラルメモリーCD4陽性T細胞数に対照群と差が認められなかったことにも部分的ながら反映されていると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201210012B
報告書区分
総合
研究課題名
サル免疫不全ウイルス中和抗体の感染個体レベルにおける防御機序の解析
課題番号
H22-政策創薬-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山本 浩之(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス、HIV)の感染個体レベルにおける防御に極めて重要であることを筆者が近年見出したウイルス中和抗体につき、その作用機序の詳細をサルモデルを用い網羅的に明らかとし、予防エイズワクチン開発への論理的基盤を見出すことを本研究は目標とした。
研究代表者はSIV感染サルモデルを用い、感染初期の中和抗体受動免疫により特異的T細胞の誘導亢進が生じ、持続感染成立阻止効果が著明に呈される事を初めて証明した(Yamamoto H, PLoS ONE 2007)。本研究はその結果を踏まえ、中和抗体の個体レベル防御機構において、抗原提示亢進パターンの特徴、及び誘導される抗SIV細胞性免疫の保護がどの程度関わるかを中心的に評価した。
研究方法
次の2段階で研究を進めた。
1. 中和抗体を介したSIV抗原提示亢進を司る樹状細胞受容体の検索および中和抗体-SIV複合体パルス樹状細胞により誘導される細胞性免疫の解析を行った。
2. 樹状細胞においてNAbによるcross-priming亢進が成立するという途中結果を重視し、NAbによるSIV制御時の中和能の必要性評価を行うためにSIV結合・非中和抗体の感染サル受動免疫実験を行い、病態評価及び各種の宿主免疫応答の解析を行った。
結果と考察
1:中和抗体を介したSIV抗原提示亢進を司る樹状細胞受容体:FcγRI(CD64)の同定
2:中和抗体-SIV複合体パルス樹状細胞により誘導される細胞性免疫の解析:抗原特異的CD8陽性T細胞によるCCL4(MIP-1β)産生
3:SIV感染初期のNAb受動免疫時におけるCD64阻害抗体の共接種実験:後述する抗体の中和能の必要性評価を最重要と認め解析を保留した。
4:NAbによるSIV制御時の中和能の必要性評価:
SIV全粒子ELISA法ではSIV感染個体由来の試料抗体の結合性は陰性から高度陽性まで多様であった。評価した10頭由来から、背景研究で使用したNAbと同じ粒子結合能を有する3頭由来のnNAbを選抜した。
5:SIV感染急性期nNAb受動免疫実験:
選抜したnNAb(合計300mg)をSIV感染急性期(Day 7)において受動免疫した。
1.受動免疫由来の抗SIV抗体価:抗SIV抗体価は接種0.5週後ではnNAb受動免疫群のみ検出され、de novo抗体価は対照群では感染後5週前後で一様に検出を認め、群間の差は感染後12週時点で認められなくなった。
2.ADCVI(抗体依存性細胞性ウイルス複製抑制)能の評価:生理的範疇の濃度(0.1~1mg/ml)のnNAbによる高いADCVI能を確認し、受動免疫した抗体の体内濃度相当でADCVI活性が呈されうることが示唆された。
3.血中ウイルス量:受動免疫直後・セットポイント期、慢性期とも、中和抗体受動免疫時とは異なり、当該群は対照群と比してウイルス量の差異を認めなかった。
4.血中CD4陽性T細胞数中のメモリー分画比率:セントラルメモリー(CM)分画、全メモリー分画いずれにおいても差異を認めなかった。
5.CD8陽性T細胞応答:感染後約30週でのSIV抗原特異的IFN-γ産生はSIV蛋白の種類、総レベルいずれとも群間での差異を認めなかった。
6.ウイルス塩基配列解析: nNAb受動免疫群ではEnv V1領域における非同義置換の数が感染後1年で多い傾向を示したものの、差異は対照群と比べ有意ではなかった。

結論
本研究では、抗体によるnon-sterileなSIV制御に重要な解析指標であることが認められた中和能の必要性評価のために「粒子結合(抗原提示)能を有し」、「中和能を有さない」SIV結合・非中和抗体(nNAb)の受動免疫を行った。nNAbの大量精製を行い、SIV粒子ELISA法の新規スクリーニング系に基づき背景研究で使用したNAbと同じ粒子結合能を有するnNAbを選抜し、サルにおけるnNAb受動免疫実験を行った。試験管レベルでは十分なウイルス複製抑制能を付与する量の接種にも関わらず、宿主適応免疫応答はnNAb受動免疫による修飾を認めず、SIV感染成立後のnNAb受動免疫は持続感染阻止能を呈し得ないことを見出した。本研究により、SIV感染初期の抗SIV抗体受動免疫によるウイルス複製制御時には直接的なウイルス中和能が必須であることが逆説的に初めて証明され、本結果は中長期的な中和抗体誘導型予防エイズワクチン開発への論理的基盤に寄与したと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、抗体によるnon-sterileなSIV制御に重要な解析指標であることが認められた中和能の必要性評価のために「粒子結合(抗原提示)能を有し」、「中和能を有さない」SIV結合・非中和抗体(nNAb)の受動免疫を行った。試験管レベルでは十分なウイルス複製抑制能を付与する量の接種にも関わらず、宿主適応免疫応答はnNAb受動免疫による修飾を認めず、SIV感染成立後のnNAb受動免疫は持続感染阻止能を呈し得ないことを見出した。
臨床的観点からの成果
本研究により、SIV感染初期の抗SIV抗体受動免疫によるウイルス複製制御時には直接的なウイルス中和能が必須であることが逆説的に初めて証明され、本結果は中長期的な中和抗体誘導型予防エイズワクチン開発への論理的基盤に寄与したと考えられる。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
ウイルス感染で、その排除がT細胞に専ら依存すると捉えられる持続感染症の制御の成否に中和抗体が関わり、中和能並びに樹状細胞への抗原提示がその中心的機序である可能性を見出したのは本研究が初めてであり、感染症基礎研究としての理学的観点、新規エイズ制御戦略という工学的観点のいずれにおいても重要な基礎情報を提供したと考えられる。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nomura T, Yamamoto H, Shiino T et al.
Association of Major Histocompatibility Complex Class I Haplotypes with Disease Progression after Simian Immunodeficiency Virus Challenge in Burmese Rhesus Macaques
Journal of Virology , 86 (12) , 6481-6490  (2012)
原著論文2
Ishii H, Kawada M, Tsukamoto T et al.
Impact of Vaccination on Cytotoxic T Lymphocyte Immunodominance and Cooperation against Simian Immunodeficiency Virus Replication in Rhesus Macaques
Journal of Virology , 86 (2) , 738-745  (2012)
原著論文3
Takahashi N, Nomura T, Takahara Y et al.
A novel protective MHC-I haplotype not associated with dominant Gag-specific CD8+ T- cell responses in SIVmac239 infection of Burmese rhesus macaques
PLoS ONE , 8 (e54300)  (2013)
原著論文4
Shi S, Seki S, Matano T et al.
IL-21-producer CD4+ T cell kinetics during primary simian immunodeficiency virus infection.
Microbes and Infection , 15 (10-11) , 697-707  (2013)
原著論文5
Nakane T, Nomura T, Shi S et al.
Limited impact of passive non-neutralizing antibody immunization in acute SIV infection on viremia control in rhesus macaques.
PLoS ONE , 8 (e73453)  (2013)
原著論文6
Iseda S, Takahashi N, Poplimont H et al.
Biphasic CD8+ T-cell defense in simian immunodeficiency virus control by acute-phase passive neutralizing antibody immunization
Journal of Virology , 90 (14) , 6276-6290  (2016)
原著論文7
Yamamoto H, Iseda S, Nakane T et al.
Augmentation of anti-simian immunodeficiency virus activity in CD8+ cells by neutralizing but not nonneutralizing antibodies in the acute phase
AIDS , 30 (15) , 2391-2394  (2016)
原著論文8
Yamamoto H, Matano T.
Patterns of HIV/SIV prevention and control by passive antibody immunization
Frontiers in Microbiology , 7 (1739)  (2016)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-01

収支報告書

文献番号
201210012Z