ヒトTRIM5αによるHIV-1産生阻害活性の誘導に必要な宿主因子の解析

文献情報

文献番号
201210011A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトTRIM5αによるHIV-1産生阻害活性の誘導に必要な宿主因子の解析
課題番号
H22-政策創薬-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐久間 龍太(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科ウイルス制御学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
旧世界ザルTRIM5αがHIV-1の感染を抑制することは良く知られていたが、研究代表者らは、アカゲザルTRIM5α(RhT5α)がHIV-1の感染だけでなく増殖も阻害することを、また、過剰発現させたヒトTRIM5α(HuT5α)はHIV-1粒子の成熟を遅らせる事を明らかにした。本研究では、RhT5αによるHIV-1産生阻害機序を理解し、HuT5αがHIV-1の複製を阻害できない理由を明らかにすることで、HuT5αによるHIV-1複製阻害活性の誘導を試みる。前年度までの研究成果によりウイルス粒子内に含まれRhT5αのHIV-1産生阻害活性に関与すると考えられる宿主因子のリストを作成することができた。また、そのリストより、因子の機能性状から特に興味深い因子の解析を先行していた。平成24年度は3年計画の3年目として、興味深い因子のHIV-1増殖における機能解析、及び得られた候補因子の更なる絞り込みと新規因子の同定を目的とした。
研究方法
前年度までに解析を始めていた宿主因子の機能解析は主としてノックダウンした細胞内でのHIV-1の産生がどのステップで止まるのかをRNAレベル・タンパク質レベルで解析した。またそれら因子とRhT5αの相互作用についても免疫沈降法などを用いて解析した。
ウイルス粒子内タンパク質の候補因子はプロテオミクス解析により同定された。これを別の方法論によって絞り込むためにRhT5αによるHIV-1産生阻害を支持する細胞と支持しない細胞のタンパク質発現パターンの差を利用した。HIV-1産生時の両細胞で発現しているmRNAをマイクロアレイで解析し、その差を求めた。差が認められた因子を含む細胞内パスウェイを解析し、そのパスウェイと関連をもつ宿主細胞因子をRhT5αの抗HIV-1活性と関与する可能性が高いものとして選択し、候補因子を絞り込んだ。絞り込まれた因子に関してはshRNAを用意し、それらの発現をコントロールすることによるHIV-1産生における効果とTRIM5αの抗ウイルス活性への影響を検討した。
結果と考察
先行して解析した因子は4つあったが、残念ながらそのうち2つの関与は否定された。残り2つのうち1つの因子はRhT5αによるHIV-1の産生阻害を支持しない細胞において高く発現していることが分かり、shRNA、siRNAを用いてこの因子の発現を低下させることでRhT5αによるHIV-1産生阻害を支持しない細胞でも、産生阻害を誘導することに成功した。当因子はRhT5αと結合しその分解を誘導することでHIV-1の産生に有利に働いていることが示唆された。したがって、この宿主因子の発現量・活性をコントロールすることでヒトTRIM5αの抗ウイルス活性を増強できる可能性が示された。もう一つの因子はRhT5αによる産生阻害との関与は認められなかったが、HIV-1の増殖に重要であり特にウイルスRNAレベルの維持に重要であることが示唆された。現在のところこの因子に関して宿主内の通常の働きも分かっていないため、新規の宿主因子の同定と考えられ、更にHIV-1 RNAを標的とした新規抗HIV-1戦略を開発する際のターゲットの一つとして有用だと考えられる。
前年度に同定した粒子内宿主因子は約100種類あったため詳細な解析を行うために更に絞り込む必要があった。そこで、アレイ解析のデータを用いて候補の選定を行った。まず、RhT5αによるHIV-1産生阻害を支持する細胞と支持しない細胞間で増減の認められた宿主因子は合計で約3000種類同定された。その中でウイルス粒子内より検出されていたものを可能性の高い候補とした。さらにこれら3000種の宿主因子のパスウェイ解析を行い、支持、非支持細胞間で活性に違いがあると強く予想される細胞内パスウェイを解析し、そのパスウェイに関与する因子かつ粒子内より検出されたものをRhT5αによるHIV-1産生阻害に関与する可能性が高いと考え、優先的に解析することとした。これらの結果約30種まで絞り込み、詳細な機能的スクリーニングを行ったところ、HIV-1の産生に重要な宿主因子を複数同定することができ、またノックダウンすることでヒトTRIM5αの抗HIV-1活性が増強する宿主因子の同定に成功した。
結論
研究計画最終年度は、既に解析を開始していた複数の因子のHIV-1産生における、またRhT5αのHIV-1産生阻害活性における機能の解析を進め、詳細が明らかになりつつある。また、今回同定した宿主因子は新規のものであり、新しい創薬ターゲットとしての可能性が考えられる。
本年度の絞り込みよって宿主因子群のリストに優先順位を与えることができ、また優先的に解析を進めた因子の中に今後の研究の標的として非常に有望なものが含まれていた。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201210011B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒトTRIM5αによるHIV-1産生阻害活性の誘導に必要な宿主因子の解析
課題番号
H22-政策創薬-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐久間 龍太(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科ウイルス制御学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
旧世界ザルTRIM5αがHIV-1の感染を抑制することは良く知られていたが、研究代表者らは、アカゲザルTRIM5α(RhT5α)がHIV-1の感染だけでなく増殖も阻害することを、また、過剰発現させたヒトTRIM5α(HuT5α)はHIV-1粒子の成熟を遅らせる事を明らかにした。本研究では、RhT5αによるHIV-1産生阻害機序を理解し、HuT5αがHIV-1の複製を阻害できない理由を明らかにすることで、HuT5αによるHIV-1複製阻害活性の誘導を試みることを目的とした。
研究方法
RhT5α存在下で産生されたHIV-1ウイルス粒子を2次元電気泳動システムにて展開し、各スポットを可視化した後、出現パターンに変化のみられたスポットを切り出し、タンパク質同定を複数回行った。再現性を持ち差の認められたスポットから同定されたタンパク質をリスト化し、粒子内候補タンパク質として以後の解析に用いた。
既知の機能・性状から特に興味深い因子に関しては先行して過剰発現実験、ノックダウン実験等をおこないHIV-1の産生がどのステップで影響を受けるのかをRNAレベル・タンパク質レベルで解析した。またそれら因子とRhT5αの相互作用についても免疫沈降法などを用いて解析した。
ウイルス粒子内タンパク質の候補因子群を別の方法論によって絞り込むためにRhT5αによるHIV-1産生阻害を支持する細胞と支持しない細胞の遺伝子発現パターンの差をmRNAのマイクロアレイで解析した。差が認められた因子を含む細胞内パスウェイを解析し、そのパスウェイと関連をもつ宿主細胞因子をRhT5αの抗HIV-1活性と関与する可能性が高いものとして候補因子を絞り込んだ。更にshRNAを用意し、それらの発現をコントロールすることによるHIV-1産生における効果とTRIM5αの抗ウイルス活性への影響を検討した。
結果と考察
ウイルス粒子のプロテオミスク解析より97種類の候補因子が挙げられた。その中にはウイルス粒子内に取り込まれる事が既知の宿主タンパク質が複数含まれており、粒子内タンパクの検出系として適切であると考えられた。また、45種に関してはHIV-1ウイルスタンパク質との相互作用が報告されていた。

先行して解析した因子は4つあったが、残念ながらそのうち2つの関与は否定された。残り2つのうち1つの因子はRhT5αによるHIV-1の産生阻害を支持しない細胞において高く発現していることが分かり、shRNA、siRNAを用いてこの因子の発現を低下させることでRhT5αによるHIV-1産生阻害を支持しない細胞でも、産生阻害を誘導することに成功した。当因子はRhT5αと結合しその分解を誘導することでHIV-1の産生に有利に働いていることが示唆された。したがって、この宿主因子の発現量・活性をコントロールすることでヒトTRIM5αの抗ウイルス活性を増強できる可能性が示された。もう一つの因子はRhT5αによる産生阻害との関与は認められなかったが、HIV-1の増殖に重要であり特にウイルスRNAレベルの維持に重要であることが示唆されたため、HIV-1 RNAを標的とした新規抗HIV-1戦略を開発する際のターゲットの一つとして有用だと考えられる。
同定した粒子内宿主因子は約100種類あったため詳細な解析を行うために更に絞り込む必要があった。そこで、アレイ解析のデータを用いて候補の選定を行った。まず、RhT5aによるHIV-1産生阻害を支持する細胞と支持しない細胞間で増減の認められた宿主因子のパスウェイ解析を行い、支持、非支持細胞間で活性に違いがあると予想される細胞内パスウェイを解析し、そのパスウェイに関与する因子かつ粒子内より検出されたものをRhT5αによるHIV-1産生阻害に関与する可能性が高いと考え、優先的に解析することとした。約30種まで絞り込み、詳細な機能的スクリーニングを行ったところ、HIV-1の産生に重要な宿主因子を複数同定することができ、またノックダウンすることでヒトTRIM5αの抗HIV-1活性が増強する宿主因子の同定に成功した。
結論
プロテオミクス解析を利用した本スクリーニング系は研究目的を達成する上で有効な系であったと考えられ、更にアレイ解析を用いて絞り込むことで宿主因子群のリストに優先順位を与えることができ、また優先的に解析を進めた因子の中に今後の研究の標的として非常に有望なものが含まれていた。また、今回同定した宿主因子は新規のものであり、新しい創薬ターゲットとしての可能性が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV-1の粒子内宿主タンパク質の組成を解析することで宿主の持つ抗ウイルス活性を誘起する方法を探るための研究を行い、ウイルス粒子内に含まれる宿主因子を100種程度同定した。複数の方法による絞り込みを経て候補となった宿主因子に関してHIV-1増殖における役割を解析した結果、ヒトの持つ抗ウイルス活性から逃れるためにHIV-1が利用していると考えられるタンパク質、ウイルスRNAの安定性に重要と考えられるタンパク質を得た。また、未解析の因子の中にも有望なものが複数あり、今後も解析を続けていく。
臨床的観点からの成果
本研究では創薬のターゲットとなり得る新規宿主因子の同定を目的としたため、その成果が直接臨床に繋がるものではないが、HIV-1が抗ウイルス宿主因子から逃れるために利用していると考えられるタンパク質の同定は、その活性をコントロールすることで新規抗ウイルス戦略に繋がる可能性がる。また、ウイルスRNAの安定性に重要な新規因子の特異性や宿主細胞内での重要性に関する研究を継続することで、将来的に新規治療標的として応用可能であろうと考えている。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
該当無し
その他のインパクト
該当無し

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
学術書(英文)のチャプター執筆

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201210011Z