文献情報
文献番号
201210006A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1エンベロープ蛋白(Env)の立体構造変化誘導剤(NBD誘導体)の臨床応用に向けた基礎研究
課題番号
H22-政策創薬-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 玉村啓和(国立大学法人東京医科歯科大学 創薬化学・生体材料工学研究所 )
- 五十嵐樹彦(京都大学・ウイルス研究所 )
- 吉村和久(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
24,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
優れた抗ウイルス薬の開発により、HIV-1感染症の長期間にわたる発症阻止が可能となった。しかし、残存する感染細胞の排除は困難なため、治療は一生継続される必要があり、その経過中に様々な合併症(comorbidity)を伴うことが明らかとなった。これらから、HIVの生活環の阻害ばかりでなく、HIV-1感染細胞や潜伏感染細胞を標的とする新規治療法の開発が望まれている。我々は、HIV-1、gp120のCD4結合部位に作用してエンベロープ蛋白(Env)の三量体構造を変化させ、中和抗体活性を増強する低分子化合物NBD-556を同定した。本研究の目的はNBD誘導体で中和抗体の臨床効果を増強させるという、これまでとは異なる戦略が、in vivoでも有効かどうか、動物モデルで検証することであり、さらに多くの誘導体を探索し、臨床応用可能なNBD誘導体を作出することである。
研究方法
NBD-556及びその誘導体は、種々のアニリンを出発原料として合成した。抗ウイルス効果はWST-8 assayで解析し、構造活性相関を検討した。NBD誘導体による中和増強効果は、中和単クローン抗体を用いて、TZM-blを標的としたpseudovirus中和試験で検討した。抗体の機能的Env三量体に対する結合活性は、FACS解析により行った。YYA-021の安全性試験には、アカゲザルを用いた。POC試験では、1×104 TCID50のSHIV KS661を6頭のアカゲザルに静脈内接種し24時間、8日および15日後に16 mg/kgのKD247および6.25 mg/kgのYYA-021を静脈内投与し、血漿中ウイルスRNA量および末梢血CD4陽性T細胞サブセット数の推移を非投与群サル4頭と比較した。
結果と考察
Subtype B標準パネルウイルス(SVPB)、初感染ウイルス(transmitted/founder virus: T/F virus)などの臨床分離株について、抗体パネルを用いYYA-021の効果を調べたところ、中和増強効果はSubtype Bウイルスの50~75%に認められた。NBD-556、YYA-021誘導体を用いて構造活性相関研究を行い、ピペリジン部位の窒素原子近傍の修飾や芳香環の置換基の変換が、抗HIV活性、細胞毒性およびgp120の構造変化に影響を与えることを見出した。NBD化合物を用いてin vitro耐性誘導を行い、耐性変異として、V255M、T375I、またはM426Iの関与を明らかとした。非ヒト霊長類を用いたPOC試験の基礎研究として、YYA-021の安全性試験や、経静脈投与後の薬物動態解析を行った結果、YYA-021の半減期は、98.4 minであった。これまでの研究データをもとに、霊長類モデルを用いたPOC試験を抗V3中和単クローン抗体KD-247とYYA-021の組み合わせを用いて行った。POC試験は、6頭の被験個体に安全に行うことができた。ウイルス動態に与える効果として、KD-247+YYA-021投与群6頭中5頭のアカゲザルの血漿中ウイルスRNA量が非投与対照群と比較して、およそ2Logのレベルで有意に抑制され、さらに末梢血CD4+T細胞の減少が阻止された。しかも、薬剤投与を終了した接種15日後以降もウイルスRNA量の抑制およびCD4+T細胞数が維持された。
今回のPOC試験では、時間と研究資金が限られていたため、KD-247単独群の結果が得られず、YYA-021の効果を純粋に評価することはできないが、これまでの研究では、SHIV感染後に抗体のみ投与しても有意な効果は得られていない。また、同じ量の抗体を人に投与した場合の有効率はおよそ50%であり、ウイルス量の抑制は最大でも約1Logである。一方、今回の、POC試験ではKD-247+YYA-021投与群の6頭中5頭で血中ウイルスRNA量を2Logのレベルで有意に抑制し、それに伴って末梢血CD4T細胞の減少を阻止したこと、さらに、投与を終了した攻撃接種15日後以降もウイルスRNA量の抑制およびCD4T細胞数が維持されたことは特筆すべき成果といえる。
今回のPOC試験では、時間と研究資金が限られていたため、KD-247単独群の結果が得られず、YYA-021の効果を純粋に評価することはできないが、これまでの研究では、SHIV感染後に抗体のみ投与しても有意な効果は得られていない。また、同じ量の抗体を人に投与した場合の有効率はおよそ50%であり、ウイルス量の抑制は最大でも約1Logである。一方、今回の、POC試験ではKD-247+YYA-021投与群の6頭中5頭で血中ウイルスRNA量を2Logのレベルで有意に抑制し、それに伴って末梢血CD4T細胞の減少を阻止したこと、さらに、投与を終了した攻撃接種15日後以降もウイルスRNA量の抑制およびCD4T細胞数が維持されたことは特筆すべき成果といえる。
結論
本戦略は「治癒に向けた治療法開発」の一つに位置付けることが可能である。霊長類を用いたPOC試験でも有望な結果が得られており、中和抗体を用いた治療法開発の意義は大きいと考えられる。少量で有効性が高く毒性の少ないNBD誘導体の検索の継続とともに、より効率の良い抗体との組み合わせの研究がさらに必要である。
公開日・更新日
公開日
2013-08-27
更新日
-